【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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逃亡編

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 (十月二十六日午前)

アベンチュレ国民局・八局フロア。
「四局から機密手配の依頼がきた」
 シプリン七局長は書類をシラーに渡す。シラーはコーヒーカップをデスクに置くと手配人を確認すると呟いた。
「オーピメンって確か、」
「この間のカルセドニー工場の件だ。顔は不明だが、特徴がわかったらしい」
「何ですか? 」
 シプリンが自らの右の二の腕を叩く。
「右の二の腕に十字の傷があるそうだ」
「二の腕に、十字の傷ですか……」
「今日は寒いですね。十月の寒さじゃないですよ」
 寒さに嘆きならラリマが八局フロアに入って来た。
「もう十一月になるからな。それでも今日は確かに寒い」
「ですよね、シプリン局長」
「そうかなー。俺は平気ですけど」
 シラーは腕まくりをしていた。
「シラーは北の方の生まれだからな」
「へぇ、そうなんですか。じゃあインデッセに近くですか? 」
「近いって言ったら近いかな。けどそれより月海の近くに住んでいたからそのおかげで寒さに強くなったのかもしれないな」
「寒さの話より、シラーあれから、カーネスは何か喋ったか? 」
 シラーは困った顔した。カーネスの尋問はあれからシプリンとシラーと当番制で務めていた。
「喋るには喋るんですが、やっぱり現実味のない事を言いますからね」
(ここ以外に三つの世界がある。ここは一番人が少ない。文明の発展は三番目ぐらいかな。世界は四つあるんだよ。そのどこかに誰もが自分のコインを持っている。絶対にな。)
「その話は私も聞いたよ。カンダの事があるから、カーネスを捕獲した事を伏せているがそろそろインデッセに報告しないとな。カーネスはインデッセが手配書を出した機密手配人だからな」
「引っ張ってあと一週間か半月か、ですね。サウザン氏の証言と、カーネスの言っている事は辻褄が合っているで窃盗グループの件ではもう尋問の必要はないです。あとはカンダの事を聞くだけです。それは、九局が力入れてますからね。うち的にはもうインデッセに引き渡してもいいんでけど、九局がもう少しと」
 そうだな、とシプリンは頷く。
「ハクエン達もまだ話を聞きたそうだしな。ラリマ、九局は何か聞き出せてそうか?」
「僕は同席させてもらえないんで。けど八局室から出て来るバライト局長の苛立ちを見るとうちと同じ状況ぽいですよ」
「だろうね」
 シラーが言う。シプリンは黙ったままだった。

「あのへんな前髪ちょんぎってやろうか! あの四局のブロンドおかっぱみたいにオン・ザ・眉毛にしてやろうか! アザムは!? ホイップにキャラメルソースかけてナッツをちりばめたカフェラテ買って来て! 」
「アザムは違う事調べていて留守です」
 カルカはカフェラテをバライトのデスクに置く。
「これで我慢してください。吐く程甘くしています。寧ろ吐かないとおかしい甘さです」
「人に飲ませるものに吐くとか汚い事言わないで! 」
 文句を言いながらバライトはカフェラテをごくごく飲んだ。それにカルカは軽蔑な眼差しをやる。
「コインの能力についてはペラペラ喋るのに、ミトス・スイドの事はちっとも喋りませんね」
 カルカが肩をすくめる。
「そうだな。久々にムカつく相手だな」
 バライトが片目ををすがめる。
「カーネスはインデッセの機密手配人です。報告しないと。うちが手を回しても隠せるのは一か月弱と言ったところでしょうか」
「一週間でいいよ」
 えっ、とカルカはバライトを見る。すると他の九局員がバライトに何かを渡した。
「局長、これ頼まれていた運行日程表です」
「ありがとさん」
 バライトは運行日程表を確かめる。
「今日の日付は……? 」
「十月二十六日です」
「おお、ちょうど明日の夕方発の便がある」
 バライトは十月二十七日の所をまるで囲むとカルカに渡した。それでカルカはバライトの指示が分かった。バライトは掌を広げると親指から薬指までおろし、にんまりと笑った。
「間に合うね」
「本人同士を会わせる気ですか? 」
「カーネスは知らないが、向こうはそれを望むんじゃないか? 」
「……そうでしょうね。じゃあ今日中にライターに伝えておきましょう。急いだ方がいいですね」
「頼んだよ」
 バライトがカフェラテを飲み干すと底に砂糖が固まっていた。
「けどあれどういう意味でしょうね」
「あれ? 」
「カーネスが言っていたじゃないですか。カンダは唯一の脅威だと」
「意味深な事だけ言って詳しくは教えてくれない、うっわ嫌な奴。あいつ絶対友達いないね」
「局長もいないじゃないですか。仲間ですね」
 バライトがカルカを睨む。カルカは目を逸らした。
「けどまあ、世界で唯一の脅威がうちにあってよかったんじゃないか」
 バライトが言った。
「え? 」
「他国にあるよりマシでしょ?」

「セッシサン! 」
 サンスは四局フロアから出てきたセッシサンを捕まえた。
「サンス。どうした? 」
「ちょっと耳に入れたいことが。というより頼みかな? 」
 二人は一番近い四局のいつもの別室に入った。
「それで、なんだ? 」
「昨日三局に行ったんだよ。そしたら、鍵がなくなったってちょっと慌てて」
「鍵がなくなった? 」
「結局あったんだけど。そのなくなったのが地下倉庫の鍵なんだ」
 セッシサンが眉を動かす。
「たまたまだとは思うんだけどさ、地下倉庫にはアレがあるから」
 アレとは言わずもがな、カルセドニー工場で回収した銃の部品の事だ。
「もしかしたらこっそり持ち出して、こっそり戻したのかもしれない」
「誰が? 」
「誰かが」
 セッシサンとサンスは無言で見合う。
「鍵を貸出する時は貸出名簿に名前を書く。それもなかった。ただ単に、前の誰かが鍵を戻す場所を間違えただけかもしれない。けど、」
「心配だな」
 サンスが頷く。
「僕がこの話を三局から直接聞いたから、悪いけど用心にセッシサンが確認してきてくれないか? 」
「そういうことね。了解」
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