【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
120 / 241
逃亡編

平和的不平等世界

しおりを挟む
「それは、そうだな」
 ペリド国王は短く笑った。馬鹿にした笑いだった。メトは表情を崩さずテーブルの下で手を握った。アメシ王妃は横に座るヘンサ王子をあやす。けれどそれはこの張りつめた空気を幼子に悟らせないようにしている行動のようだった。
「二度と起こさないようにと我々は四ヵ国条約が制定された。けれどまたいつか起きてしまうと私は思っている」
 ペリド国王は自分でグラスに葡萄酒を注いだ。メトは言葉を冷静に瞬時に探す。ここでの失態がアベンチュレの失態にもなる。
「その理由を伺ってもよろしいでしょうか? 」
 メトは質問で返した。教えを乞う立場になることにした。
「人間には意思があるからだ」
 ペリド国王は力強い即答をした。
「意思? 」
「戦争は意思があるから起こる。戦争とは暴力によって自分の意思を押し付け従わせることが目的なのだ。自分と相手の意思を共有し続けるなんてことは無謀なのだよ、アベンチュレの姫」
 肉を頬張り酒で流し込むとペリド国王は続けた。
「意思を放棄しない限り、『自分』と『相手』は対等だ。意思をなくせば、戦争に負ける。そしてそれが永遠の傷となる」
「永遠の傷ですか……」
「傷を得たものは不平等を受け入れなければならない」
「しかしペリド国王、今は四ヵ国条約で平等が保たれているのでは? 」
「平等が保たれている? 」
 ペリド国王はちゃんちゃら可笑しいと笑い声を上げた。
「父上」
 しびれを切らしたトーレンが父を咎めた。
「そのような笑い方は大変失礼です。もうそれ以上戦争の話はこの場にふさわしくないと」
「お前は黙っていろ」
 低い声で国王は息子を一蹴した。トーレン王子は唇を噛み締める。
「我々王族がいる時点で、国というものがある時点で不平等は必ず生まれる。国がある。秩序がある。それが奪い合うようにこの世を組み立ててしまっている」
「では、不平等とは経済的にということですか? 」
「それもある。けれど一番は精神的な不平等だ」
「精神的不平等? 」
「それを一番感じているのはベグテクタとインデッセだと思うが。なぜだか聞くな。それはちゃんと勉強していれば馬鹿でも分かる」
 メトは黙った。十二年戦争の火ぶたのきっかけはインデッセの神がオードのパズートを火の海にしたからだ。そうするように促したのは、ベグテクタ。潜在的な罪の意識が両国に不平等を受け入れさせているということが言いたいのだろう。戦争でインデッセは神を奪われ、ペグテクタはプライドを奪われた。簡単に言えばそういうことだ。
「国ができれば法と秩序ができる。それだけで人々は己の財産の安全、他者との取引の安全をも保障され、営みができる。奪い合いを柔らかくしたのが営みだ。国の王として私はこの営みを守りたい。そのためにオードの王族の血にアベンチュレの血を混ぜたいのだ」
「え? 」
 メトは咄嗟にきちんとした言葉が出せなかった。けれど一瞬で理解したのはオードの国王は、自分を人間としては見ていないのではということだった。
「もし戦争になったらアベンチュレを強く味方にしたい。十二年戦争の時と同じように」
 メトは口を開かなかった。
「それと、付け加えるが、この世が不平等ではないと仮定しても平等の中にも隠れた階級がある」
「……その平等の階級の上にオードはあるのですか」
 ベグテクタとインデッセが精神的不平等を抱えているとオードの国王の口か出たのであれば、この答えは簡単に出せた。ペリド国王は笑うだけだった。
「金も命も等しくない。感情が生物というものに対して等しくないからだ。感情はシ組み立てができない。そもそも人間が望む物を平等に分配できるわけがない。人の欲の底はそれぞれだ。それと、ああ、話を戻そう。永遠の傷の話だ。さっき話した」
「戦争に負けた方が得る傷のこと、ですよね」
「おお、きちんと私の話を聞いているな。賢い姫だ」
 メトは微笑んだ。勿論、褒められたとは微塵も思っていない。
「私は次に戦争を起こすのは、インデッセだと思う。これで、アベンチュレを味方にしておきたい理由が分かったかい?」
「アベンチュレがインデッセの隣国だからです」
「正解だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...