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逃亡編
王女はひとりで
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十月十七日午前十一時前。
一般客を先に降ろしたアイオラ号は、少し時間を置いてメト王女にオードの王都マンシトの地を踏ませた。港には新聞記者や旗を振って出迎える民衆が集まっていた。メト微笑み手を振った。生まれつきの美しさ、秘書とメイドをひとりずつしか連れてこなかった質素さとたくましさは、オードの国民に好印象を与えた。その好印象の眼差しは未来のオード王女として相応しいという名誉なものであり、先走ったものであった。
メト達はオードの四局の護衛で、オード城へやってきた。
「アベンチュレの姫よ。遠くはるばるからよくやってきた」
褐色の肌に銀髪、逞しい体躯。オード国王ペリドが前に出ると、メト達を出迎えた。隣には王妃であるアメシがたたずんでいる。褐色の肌に大きな黒い瞳と長い黒髪を携えたその姿はエキゾチックな美しさがあった。長い黒髪は前髪もすべて三つ編みに束ね、横に垂らしていた。
「王妃のアメシよ。慣れない船旅で大変だったでしょう」
「いえ、アイオラ号は船に乗っているということを忘れてしまうほど快適でございました」
「あら、嬉しいわ」
アメシは優しく笑う。
「トーレン、何をしている。お前も早く挨拶を」
「はい」
ペリド国王が後ろに立っていた息子を呼んだ。バリミアは自然とトーレンの方に視線をやった。トーレン第一王子。ほぼ百パーセントメトの夫となる人である。褐色の肌に父と同じ銀髪に青い瞳。体躯の逞しさは父には届かず、かと言って弱々しい体つきでもない引き締まった身体だった。トーレンはメトの前に立つ。初めての顔合わせだ。今日この日はお見合いだと言ってもおかしくない。メトとアイドは二人を緊張しながら見守った。トーレンは言葉を発さない。不思議に思いバリミアがトーレンの顔を失礼にならない程度に見た。目を見開き、口を少し開いていた。見惚れている。バリミアは微笑みそうになるのを堪えた。
落ちたな。
これが一目惚れかと感心した。
「トーレン」
母であるアメシの声で我に返ったトーレンは慌てて取り繕う。
「初にお目にかかり光栄です。私、第一王子であるトーレン・ノーリッシュと申します」
「はじめまして。アベンチュレの第一王女のメト・リースマンと申します。私も光栄でございます」
メトが微笑めばトーレンは照れで目を逸らした。タヌキぽい親父に似ずにウブだとバリミアは心の中で呟いた。
「それと、後ろにいるのが弟のヘンサです」
トーレンが弟を呼ぶとアメシ王妃に似た男の子が兄の傍にきた。
「この間四歳になりました。ヘンサ、挨拶を」
「ヘンサと申します。メト王女、お会いできて光栄です」
何度も挨拶の練習をしたのだろう。ご遊戯会のような喋り方に周りは自然と表情が緩んだ。
「素敵な挨拶をありがとうございます。メト・リースマンと申します。私もお会いできて光栄です、ヘンサ王子」
ヘンサ王子は嬉しそうに微笑んだ。
「よくご挨拶ができました」
アメシ王妃がヘンサを抱きかかえる。
「昼食の準備をしている。ご案内しよう」
ペリド国王が背を向けて広間を出ていく。メトもアメシ王妃に促され後に続く。バリミアに一局の人間が声をかけた。
「お付の方は別室に準備していますので」
「ありがとうございます」
バリミアとアイドはメトの方に目をやった。メトは微笑んで頷いた。他国の王族の中に一人でいく。心細いだろうが、乗り越えるしかない。
「アイドさん参りましょう」
「ええ」
食事の席は人払いがされ、オードの王族とメト以外に人はいなかった。
「メト王女は明後日から学校へ通うのかしら」
メトの隣に座ったアメシ王妃が尋ねる。
「はい。歴史を専攻いたしました」
メトは一応留学の名目でオードにやってきている。そのため名門学校に三か月通うことになった。
「よい選択だ。大いにこのオードの歴史、世界の歴史を学ぶがよい」
アメシ王妃の向かいに座るペリド国王はグラスの葡萄酒をあおった。
「私もメト王女が学ばれる学校に通っておりました。いい学校です。私の母校を王女も気に入れば嬉しいです」
父の隣に座るトーレン王子が緊張の声で目の前のメト王女に言った。
「そうなのですか。それはとても楽しみでございます」
メトが王子に微笑みを向ければ、トーレンは目を逸らし、肉をナイフで切って食べた。
「歴史を学ぶ姫よ。君は戦争についてどう思う?」
ペリド国王は唐突にメトに質問を投げた。メトはナイフとフォークを皿に置いた。
「二度と起こしてはならないものだと」
一般客を先に降ろしたアイオラ号は、少し時間を置いてメト王女にオードの王都マンシトの地を踏ませた。港には新聞記者や旗を振って出迎える民衆が集まっていた。メト微笑み手を振った。生まれつきの美しさ、秘書とメイドをひとりずつしか連れてこなかった質素さとたくましさは、オードの国民に好印象を与えた。その好印象の眼差しは未来のオード王女として相応しいという名誉なものであり、先走ったものであった。
メト達はオードの四局の護衛で、オード城へやってきた。
「アベンチュレの姫よ。遠くはるばるからよくやってきた」
褐色の肌に銀髪、逞しい体躯。オード国王ペリドが前に出ると、メト達を出迎えた。隣には王妃であるアメシがたたずんでいる。褐色の肌に大きな黒い瞳と長い黒髪を携えたその姿はエキゾチックな美しさがあった。長い黒髪は前髪もすべて三つ編みに束ね、横に垂らしていた。
「王妃のアメシよ。慣れない船旅で大変だったでしょう」
「いえ、アイオラ号は船に乗っているということを忘れてしまうほど快適でございました」
「あら、嬉しいわ」
アメシは優しく笑う。
「トーレン、何をしている。お前も早く挨拶を」
「はい」
ペリド国王が後ろに立っていた息子を呼んだ。バリミアは自然とトーレンの方に視線をやった。トーレン第一王子。ほぼ百パーセントメトの夫となる人である。褐色の肌に父と同じ銀髪に青い瞳。体躯の逞しさは父には届かず、かと言って弱々しい体つきでもない引き締まった身体だった。トーレンはメトの前に立つ。初めての顔合わせだ。今日この日はお見合いだと言ってもおかしくない。メトとアイドは二人を緊張しながら見守った。トーレンは言葉を発さない。不思議に思いバリミアがトーレンの顔を失礼にならない程度に見た。目を見開き、口を少し開いていた。見惚れている。バリミアは微笑みそうになるのを堪えた。
落ちたな。
これが一目惚れかと感心した。
「トーレン」
母であるアメシの声で我に返ったトーレンは慌てて取り繕う。
「初にお目にかかり光栄です。私、第一王子であるトーレン・ノーリッシュと申します」
「はじめまして。アベンチュレの第一王女のメト・リースマンと申します。私も光栄でございます」
メトが微笑めばトーレンは照れで目を逸らした。タヌキぽい親父に似ずにウブだとバリミアは心の中で呟いた。
「それと、後ろにいるのが弟のヘンサです」
トーレンが弟を呼ぶとアメシ王妃に似た男の子が兄の傍にきた。
「この間四歳になりました。ヘンサ、挨拶を」
「ヘンサと申します。メト王女、お会いできて光栄です」
何度も挨拶の練習をしたのだろう。ご遊戯会のような喋り方に周りは自然と表情が緩んだ。
「素敵な挨拶をありがとうございます。メト・リースマンと申します。私もお会いできて光栄です、ヘンサ王子」
ヘンサ王子は嬉しそうに微笑んだ。
「よくご挨拶ができました」
アメシ王妃がヘンサを抱きかかえる。
「昼食の準備をしている。ご案内しよう」
ペリド国王が背を向けて広間を出ていく。メトもアメシ王妃に促され後に続く。バリミアに一局の人間が声をかけた。
「お付の方は別室に準備していますので」
「ありがとうございます」
バリミアとアイドはメトの方に目をやった。メトは微笑んで頷いた。他国の王族の中に一人でいく。心細いだろうが、乗り越えるしかない。
「アイドさん参りましょう」
「ええ」
食事の席は人払いがされ、オードの王族とメト以外に人はいなかった。
「メト王女は明後日から学校へ通うのかしら」
メトの隣に座ったアメシ王妃が尋ねる。
「はい。歴史を専攻いたしました」
メトは一応留学の名目でオードにやってきている。そのため名門学校に三か月通うことになった。
「よい選択だ。大いにこのオードの歴史、世界の歴史を学ぶがよい」
アメシ王妃の向かいに座るペリド国王はグラスの葡萄酒をあおった。
「私もメト王女が学ばれる学校に通っておりました。いい学校です。私の母校を王女も気に入れば嬉しいです」
父の隣に座るトーレン王子が緊張の声で目の前のメト王女に言った。
「そうなのですか。それはとても楽しみでございます」
メトが王子に微笑みを向ければ、トーレンは目を逸らし、肉をナイフで切って食べた。
「歴史を学ぶ姫よ。君は戦争についてどう思う?」
ペリド国王は唐突にメトに質問を投げた。メトはナイフとフォークを皿に置いた。
「二度と起こしてはならないものだと」
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