【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
114 / 241
逃亡編

めちゃくちゃ

しおりを挟む

 リョークとアシスはカーネスの背中を追っていた。
「あいつ、ガリガリのクセに足めちゃんこ速いな! 」
 リョークが驚く。
「リョーク! この方向はまずい。もう少し東の方に追い詰めないと! 」
「分かってるけど、あいつ早いから!」
「……リョーク追いかけてて。私もすぐ行くから」
 アシスが長い木の前で立ち止まる。リョークはアシスを振り返ったが余裕はなくそのまま拳をぶつけた。
「はっ! 」
 そこから三発幹に打ち込み蹴り倒す。木はギシギシいいながら倒れ、運よく気の先端がカーネスの頭上へいった。カーネスはそれをギリギリよけた。アシス達の思惑通りカーネスは東の方へと逃げ道を変えた。
「あいつマジかよ……」
 リョークは倒れた木を飛び越えながら顔を引き攣らした。アシスはいい大きさにするため木をまた殴り折るとスケボーのように助走を付けて斜面をカーネスに向かって滑り出した。
「そんなのありかよ!」
 リョークが叫んでいる間にアシスはリョークを抜き、カーネスに追いつくと背後からラリアットをお見舞いした。カーネスは斜面を転げ落ちる。アシスは木を掴むと、滑るのを止めた。追いついたリョークは斜面に落ちているナイフを見つけた。刃に触れればねっとりと濡れている。オドーの血だ。
「お前すげぇな」
 リョークが引き気味にアシスを褒めた。
「田舎でよくこうやって遊んでたの」
「アクティブ過ぎるだろ。ってか、あいつこのまま麓まで転がるんじゃねぇの? 」
「ちょうどいいじゃない。素手と警棒ならカザンは勝てるわよ」
 麓付近でカーネスはやっと止まる事ができ、なんとか起き上がって頭を押さえた。
「ええ……。ここまで来たんですか? 上の四人は何してるんですか」
 カザンは眉間に皺を寄せながら月光を背中にカーネスの前に現れた。そして腰から警棒を抜く。カーネスは頭から手を離す。
「君のお仲間、なんなのあれ。下品過ぎない? 」
「仲間なのを否定したくなる事はありますね」
 カーネス高い声で笑った。そして立ち上がる。
「君とはもう少し気が合うやり方ができそうだよ」
「それは光栄ですね」
 カザンが警棒を上に構えた瞬間、カーネスの手から何かが飛んだ。それがカザンの手に当たり、警棒が地面に落ちる。
「……っ」
 痛みにカザンが手を押さえ隙に、カーネスはカザンに掴みかかる。カザンも遅れをとったが掴み返した。
「石を投げるって、あなたもなかなかな下品ですよ」
「悪いねぇ。僕、棒とかナイフ振り回すの得意じゃないの。けど君だけ武器を持ってるのもフェアじゃないでしょう?」
「やっぱり気が合いそうにありませんね。僕は体術はあんまり得意じゃないんですよ」
「それは、僕がついていたね」
 二人は睨み合い、お互いの吐息を温く吹きかかるのを感じていた。目を離せばやられる。カザンは二秒間、学生の時の授業を走馬灯のように思い返された。セッシサンが出てきた。

二人でカンダの組み手を見ていた。
(カンダの体術はめちゃくちゃだろう? )
 そう笑うセッシサン。セッシサンに同意するカザン。
(けど強い。なんでか分かるか? )
 カザンはむちゃくちゃだから、と言えばセッシサンは笑った。
(むちゃくちゃに見えて、カンダはむちゃくちゃじゃないんだよ)
 その時カザンは首を傾げた。
(あいつはフェイントがすこぶる上手い。フェイントの仕方、入れるタイミング、全て完璧だ。だから相手に次の動きを悟らせない。計算してはないだろうが、最強のフェイント暗算だ、ありゃ)

 この時の会話が二秒でカザンの頭を巡った。それからカザンはシズの組み手を見るようになった。あそこまで綺麗にできるかは分からない。
 カザンはカーネスの肩と腕を掴み、肩と腰の角度をそれぞれ良い位置にする。上半身も動かさない。タイミングを逃さない。目線をカーネスの背後に一瞬やった。それにカーネスが反応し終える前に、右足を左足の方やり捻ると、右足大きく跳ね上げて相手の足にかけてカーネスを地面に投げた。カーネスが起き上がる前に手錠を掴むとうつ伏せに抑え込み、もう片方にも手錠をかけて拘束した。
「ついていたのは僕の方だったみたいですね」
 カーネスはうつ伏せのまま大きく舌打ちをした。
「おお! 捕まえたか! 」
 遅れてリョークとアシスがやって来た。カザンは不機嫌そうに言った。
「上に四人いてなんで麓の僕が一人で捕まえないといけないんですか? 」
「何言ってんだカザン! 上で色々やったからお前は一人でこいつを捕まえられたんだぞ。オドーさんは切られたし。アシスなんて、まあ、エグい事やったよ。スケボーでラリアットだよ。味方の俺もさすがに引いたね」
「カラミンさんは? 」
 リョークは黙る。そしてアシスを振り返る。
「あの人はカッコよく登場したわ」
「それで」
「それだけ」
 アシスが言った
「でしょうね」
「はいはーい。ご苦労様」
 カラミンが優雅に現れた。
「あ! ちゃんと捕まえられたんだね!凄い凄い!しかも麓で捕まえるなんて、偉い! 山から連れて下りるのってすっごい大変で面倒だからね! 手間が省けたよ!」
「はじめから麓で捕まえる気だったって事ですか? だから墓地の所でカラミンさん参戦しなかったんですか? オドーさん切られたのに」
 アシスの問いにカラミンは微笑んだまま首を傾けた。そして手を叩く。
「そうだ、オドー! たぶん怪我軽いから自力降りてくると思うからカーネス俺達で先に車に運ぼう! 」
「……俺教育係心底オドーさんで良かったと思うぜ」
 リョークが呟く。
「私も」
 アシスが頷く。
「その幸せちゃんと噛み締めるべきだと思います」
 カザンが言った。
「何三人でぶつぶつ言ってるのー? 仕事は最後までやろーよ」
 三人は額に青筋を浮かべて、深夜の仕事を終えようとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...