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逃亡編
めちゃくちゃ
しおりを挟むリョークとアシスはカーネスの背中を追っていた。
「あいつ、ガリガリのクセに足めちゃんこ速いな! 」
リョークが驚く。
「リョーク! この方向はまずい。もう少し東の方に追い詰めないと! 」
「分かってるけど、あいつ早いから!」
「……リョーク追いかけてて。私もすぐ行くから」
アシスが長い木の前で立ち止まる。リョークはアシスを振り返ったが余裕はなくそのまま拳をぶつけた。
「はっ! 」
そこから三発幹に打ち込み蹴り倒す。木はギシギシいいながら倒れ、運よく気の先端がカーネスの頭上へいった。カーネスはそれをギリギリよけた。アシス達の思惑通りカーネスは東の方へと逃げ道を変えた。
「あいつマジかよ……」
リョークは倒れた木を飛び越えながら顔を引き攣らした。アシスはいい大きさにするため木をまた殴り折るとスケボーのように助走を付けて斜面をカーネスに向かって滑り出した。
「そんなのありかよ!」
リョークが叫んでいる間にアシスはリョークを抜き、カーネスに追いつくと背後からラリアットをお見舞いした。カーネスは斜面を転げ落ちる。アシスは木を掴むと、滑るのを止めた。追いついたリョークは斜面に落ちているナイフを見つけた。刃に触れればねっとりと濡れている。オドーの血だ。
「お前すげぇな」
リョークが引き気味にアシスを褒めた。
「田舎でよくこうやって遊んでたの」
「アクティブ過ぎるだろ。ってか、あいつこのまま麓まで転がるんじゃねぇの? 」
「ちょうどいいじゃない。素手と警棒ならカザンは勝てるわよ」
麓付近でカーネスはやっと止まる事ができ、なんとか起き上がって頭を押さえた。
「ええ……。ここまで来たんですか? 上の四人は何してるんですか」
カザンは眉間に皺を寄せながら月光を背中にカーネスの前に現れた。そして腰から警棒を抜く。カーネスは頭から手を離す。
「君のお仲間、なんなのあれ。下品過ぎない? 」
「仲間なのを否定したくなる事はありますね」
カーネス高い声で笑った。そして立ち上がる。
「君とはもう少し気が合うやり方ができそうだよ」
「それは光栄ですね」
カザンが警棒を上に構えた瞬間、カーネスの手から何かが飛んだ。それがカザンの手に当たり、警棒が地面に落ちる。
「……っ」
痛みにカザンが手を押さえ隙に、カーネスはカザンに掴みかかる。カザンも遅れをとったが掴み返した。
「石を投げるって、あなたもなかなかな下品ですよ」
「悪いねぇ。僕、棒とかナイフ振り回すの得意じゃないの。けど君だけ武器を持ってるのもフェアじゃないでしょう?」
「やっぱり気が合いそうにありませんね。僕は体術はあんまり得意じゃないんですよ」
「それは、僕がついていたね」
二人は睨み合い、お互いの吐息を温く吹きかかるのを感じていた。目を離せばやられる。カザンは二秒間、学生の時の授業を走馬灯のように思い返された。セッシサンが出てきた。
二人でカンダの組み手を見ていた。
(カンダの体術はめちゃくちゃだろう? )
そう笑うセッシサン。セッシサンに同意するカザン。
(けど強い。なんでか分かるか? )
カザンはむちゃくちゃだから、と言えばセッシサンは笑った。
(むちゃくちゃに見えて、カンダはむちゃくちゃじゃないんだよ)
その時カザンは首を傾げた。
(あいつはフェイントがすこぶる上手い。フェイントの仕方、入れるタイミング、全て完璧だ。だから相手に次の動きを悟らせない。計算してはないだろうが、最強のフェイント暗算だ、ありゃ)
この時の会話が二秒でカザンの頭を巡った。それからカザンはシズの組み手を見るようになった。あそこまで綺麗にできるかは分からない。
カザンはカーネスの肩と腕を掴み、肩と腰の角度をそれぞれ良い位置にする。上半身も動かさない。タイミングを逃さない。目線をカーネスの背後に一瞬やった。それにカーネスが反応し終える前に、右足を左足の方やり捻ると、右足大きく跳ね上げて相手の足にかけてカーネスを地面に投げた。カーネスが起き上がる前に手錠を掴むとうつ伏せに抑え込み、もう片方にも手錠をかけて拘束した。
「ついていたのは僕の方だったみたいですね」
カーネスはうつ伏せのまま大きく舌打ちをした。
「おお! 捕まえたか! 」
遅れてリョークとアシスがやって来た。カザンは不機嫌そうに言った。
「上に四人いてなんで麓の僕が一人で捕まえないといけないんですか? 」
「何言ってんだカザン! 上で色々やったからお前は一人でこいつを捕まえられたんだぞ。オドーさんは切られたし。アシスなんて、まあ、エグい事やったよ。スケボーでラリアットだよ。味方の俺もさすがに引いたね」
「カラミンさんは? 」
リョークは黙る。そしてアシスを振り返る。
「あの人はカッコよく登場したわ」
「それで」
「それだけ」
アシスが言った
「でしょうね」
「はいはーい。ご苦労様」
カラミンが優雅に現れた。
「あ! ちゃんと捕まえられたんだね!凄い凄い!しかも麓で捕まえるなんて、偉い! 山から連れて下りるのってすっごい大変で面倒だからね! 手間が省けたよ!」
「はじめから麓で捕まえる気だったって事ですか? だから墓地の所でカラミンさん参戦しなかったんですか? オドーさん切られたのに」
アシスの問いにカラミンは微笑んだまま首を傾けた。そして手を叩く。
「そうだ、オドー! たぶん怪我軽いから自力降りてくると思うからカーネス俺達で先に車に運ぼう! 」
「……俺教育係心底オドーさんで良かったと思うぜ」
リョークが呟く。
「私も」
アシスが頷く。
「その幸せちゃんと噛み締めるべきだと思います」
カザンが言った。
「何三人でぶつぶつ言ってるのー? 仕事は最後までやろーよ」
三人は額に青筋を浮かべて、深夜の仕事を終えようとしていた。
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