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逃亡編
火を付ける
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「シズ・カンダが逃亡したぞ」
カルカがそっぽを向いたまま言った。
「知っている」
セドニは素っ気なく返した。三階を過ぎる。
「お前長期休暇いつからだ? 」
壁を見たままカルカが尋ねる。
「明後日からだ」
二階を過ぎる。
「予定は? 」
セドニは返事をしなかった。エレベーターが開くとセドニが先に出た。カルカも後を追いかけるとセドニの隣に並んだ。
「お前の事、七局長にバラすからな」
セドニは立ち止まるとカルカを見た。
「だから覚悟しておけ」
カルカはしっかりと付け加えた。
「勝手にしろ」
セドニそう言い置くと足早にカルカから去って行く。カルカはその背中を見送ると呟いた。
「カプチーノでホイップ乗せ。それにキャラメルソースにナッツかけてください。え、チョコレートチップも無料?じゃあそれもかけてください。あ、シロップも。ヘーゼルナッツ、はやっぱりやめてメープルシロップ。大きさは二番目に大きいカップにして」
バライトは満足げにカップを持つとテラスのテーブルに座った。肌寒くなってきたがバライトは平気だった。一口飲むと口の周りにホイップを付けて幸せそうに甘味を噛み締めた。
「ここ、よろしいですか?」
バライトは顔を上げた。そこには小さいカップのコーヒーを持ったアンブリ第一局長が立っていた。
「……どうぞ」
バライトは歯を見せて座るように手でどうぞとした。
「失礼」
アンブリはハットを脱ぐと膝の上に置いた。そしてコーヒーを一口飲む。
「ブラックですか?」
「ええ。甘いのは苦手で」
甘さの乱雑カプチーノからアンブリは目をそらした。バライトは嫌がらせのようにごくごくとカプチーノを飲み干した。
「もう一杯飲んでもいいですね」
「そうですか。口の周り付いていますよ」
バライトは口元を指で拭う。手にはホイップが付いていた。アンブリはナプキンを差し出した。
「どうも」
バライトは受け取ったナプキンで口元を拭うと丸めてポケットにしまった。
「今日お仕事は?」
「ありますよ。休憩中です」
「アンブリさんもこういう所でコーヒーをお飲みになられるんですね」
「カフェは好きだよ。こういう所で飲むコーヒーは格別だ」
湯気がたつコーヒーを頬に滑らしながらアンブリは味わうようにコーヒーを飲む。バライトは飲み終えたカップを手に持つと空になった中身を見た。
「何か俺に? 」
アンブリはカップから唇を話すとバライトを見つめカップを置いた。
「ここの所動いていると耳に入ってね」
「毎日動いていますよ。汗水流して働いています」
飄々と話すバライトにアンブリはしばし黙った。
「蝋燭についてだ」
少し眉を動かしてバライトはにやついた。
「蝋燭? 」
「茶化すのはやめたまえ。マッチもライターの言葉も分かっている。こっちも早く話を終えたい」
バライトは両手を上げて降参のポーズをした。
「これはうちもとちりましたね。今日にでも言葉を変えなければ」
「その必要はない」
「なぜ? 」
「こそこそとするのはもうここらでやめたらどうだという提案だ」
「こそこそしなければ真実が分からないんでね。人間のややこしさ、人生の先輩でもあるあなたにも分かるでしょう? 」
バライトの遠回しの挑発にもアンブリは落ち着いていた。
「蝋燭も人間だ」
「知っていますよ」
「あのお方も確かにややこしい。だがしかし、」
アンブリは漆黒の眼でバライトを射抜く。
「愚かではない。上に立つ資格があるお方だ」
「上に立つ資格がある人間は何をしてもいいと? 」
アンブリは黙る。冬が紛れた冷たい風が吹く。その風の先を見るようにアンブリは目線を空にやった。
「まだ十一月も来ていないのに。秋というのはあっという間だね」
「それで、アンブリさんは俺に何が言いたいんですか? 」
バライトが話を戻す。アンブリはコーヒーをゆっくりと飲み干した。
「言っただろう? こそこそするのはもうやめたまえ」
「それは手をひけと? 」
「違う」
アンブリは立ち上がる。
「これ以上長引かせて君達の調べている案件があの方の父の耳に入って心労をかけたくない。それに耳に入れる必要があるとは私は思っていないのだよ」
アンブリは深くハットをかぶった。
「さっさと終わらしたまえ。とっくにそのつもりかもしれないが、念押しに来た」
バライトはにやつく。
「あなたの立場の人間が俺らの背中を押していいんですか? 」
一局は王族側の人間だ。
「どうであれ蝋燭の立場が変わることはない。彼は自分が蝋燭である事を分かっておられる。蝋燭は火が付いてからこそ存在意義がある。蝋燭自身が火を付けられない。火を付けてくれる者がいなければ蝋燭は存在していないのと同じだ」
「火を付けたら明かりは灯りますが、蝋は溶けてなくなります」
「そんなもの百も承知だ。言っただろう。あの方は愚かではない。身が溶けてもどうにかしなければならない事があるのだ。だから早く終わらせて満足したまえ」
アンブリはテラスを去った。バライトは残ったカップを見つめた。
「やっぱりここですか」
テラスの前の道にカルカがいた。そこからカルカはテラスまで来るとテーブルの上にカップが二つあるのが目に付いた。
「誰かとですか? 」
「ああ。善は急げだと」
「え? 」
バライトは立ち上がるとカルカが来た方から道に出た。そして振り返る。
「早く帰るぞ、カルカ」
バライトはカルカ置いて帰って行く。
「本当に勝手な人なんですから……」
カルカは小さく文句を垂らしながらバライトの後を呆れながら追いかけた。その二人の姿見ていた。その席はテラスの端で、ちょうどバライト達が座っていた所から死角になっていた。その日彼は非番でいつものような制服は来ておらず、ツバの広い帽子をかぶっていた。アンブリもバライトもカルカも彼の存在に気が付いてはいなかった。
「一局長と九局長。蝋燭……」
独り言を零すと、ラリマは冷めたコーヒーをすすった。
カルカがそっぽを向いたまま言った。
「知っている」
セドニは素っ気なく返した。三階を過ぎる。
「お前長期休暇いつからだ? 」
壁を見たままカルカが尋ねる。
「明後日からだ」
二階を過ぎる。
「予定は? 」
セドニは返事をしなかった。エレベーターが開くとセドニが先に出た。カルカも後を追いかけるとセドニの隣に並んだ。
「お前の事、七局長にバラすからな」
セドニは立ち止まるとカルカを見た。
「だから覚悟しておけ」
カルカはしっかりと付け加えた。
「勝手にしろ」
セドニそう言い置くと足早にカルカから去って行く。カルカはその背中を見送ると呟いた。
「カプチーノでホイップ乗せ。それにキャラメルソースにナッツかけてください。え、チョコレートチップも無料?じゃあそれもかけてください。あ、シロップも。ヘーゼルナッツ、はやっぱりやめてメープルシロップ。大きさは二番目に大きいカップにして」
バライトは満足げにカップを持つとテラスのテーブルに座った。肌寒くなってきたがバライトは平気だった。一口飲むと口の周りにホイップを付けて幸せそうに甘味を噛み締めた。
「ここ、よろしいですか?」
バライトは顔を上げた。そこには小さいカップのコーヒーを持ったアンブリ第一局長が立っていた。
「……どうぞ」
バライトは歯を見せて座るように手でどうぞとした。
「失礼」
アンブリはハットを脱ぐと膝の上に置いた。そしてコーヒーを一口飲む。
「ブラックですか?」
「ええ。甘いのは苦手で」
甘さの乱雑カプチーノからアンブリは目をそらした。バライトは嫌がらせのようにごくごくとカプチーノを飲み干した。
「もう一杯飲んでもいいですね」
「そうですか。口の周り付いていますよ」
バライトは口元を指で拭う。手にはホイップが付いていた。アンブリはナプキンを差し出した。
「どうも」
バライトは受け取ったナプキンで口元を拭うと丸めてポケットにしまった。
「今日お仕事は?」
「ありますよ。休憩中です」
「アンブリさんもこういう所でコーヒーをお飲みになられるんですね」
「カフェは好きだよ。こういう所で飲むコーヒーは格別だ」
湯気がたつコーヒーを頬に滑らしながらアンブリは味わうようにコーヒーを飲む。バライトは飲み終えたカップを手に持つと空になった中身を見た。
「何か俺に? 」
アンブリはカップから唇を話すとバライトを見つめカップを置いた。
「ここの所動いていると耳に入ってね」
「毎日動いていますよ。汗水流して働いています」
飄々と話すバライトにアンブリはしばし黙った。
「蝋燭についてだ」
少し眉を動かしてバライトはにやついた。
「蝋燭? 」
「茶化すのはやめたまえ。マッチもライターの言葉も分かっている。こっちも早く話を終えたい」
バライトは両手を上げて降参のポーズをした。
「これはうちもとちりましたね。今日にでも言葉を変えなければ」
「その必要はない」
「なぜ? 」
「こそこそとするのはもうここらでやめたらどうだという提案だ」
「こそこそしなければ真実が分からないんでね。人間のややこしさ、人生の先輩でもあるあなたにも分かるでしょう? 」
バライトの遠回しの挑発にもアンブリは落ち着いていた。
「蝋燭も人間だ」
「知っていますよ」
「あのお方も確かにややこしい。だがしかし、」
アンブリは漆黒の眼でバライトを射抜く。
「愚かではない。上に立つ資格があるお方だ」
「上に立つ資格がある人間は何をしてもいいと? 」
アンブリは黙る。冬が紛れた冷たい風が吹く。その風の先を見るようにアンブリは目線を空にやった。
「まだ十一月も来ていないのに。秋というのはあっという間だね」
「それで、アンブリさんは俺に何が言いたいんですか? 」
バライトが話を戻す。アンブリはコーヒーをゆっくりと飲み干した。
「言っただろう? こそこそするのはもうやめたまえ」
「それは手をひけと? 」
「違う」
アンブリは立ち上がる。
「これ以上長引かせて君達の調べている案件があの方の父の耳に入って心労をかけたくない。それに耳に入れる必要があるとは私は思っていないのだよ」
アンブリは深くハットをかぶった。
「さっさと終わらしたまえ。とっくにそのつもりかもしれないが、念押しに来た」
バライトはにやつく。
「あなたの立場の人間が俺らの背中を押していいんですか? 」
一局は王族側の人間だ。
「どうであれ蝋燭の立場が変わることはない。彼は自分が蝋燭である事を分かっておられる。蝋燭は火が付いてからこそ存在意義がある。蝋燭自身が火を付けられない。火を付けてくれる者がいなければ蝋燭は存在していないのと同じだ」
「火を付けたら明かりは灯りますが、蝋は溶けてなくなります」
「そんなもの百も承知だ。言っただろう。あの方は愚かではない。身が溶けてもどうにかしなければならない事があるのだ。だから早く終わらせて満足したまえ」
アンブリはテラスを去った。バライトは残ったカップを見つめた。
「やっぱりここですか」
テラスの前の道にカルカがいた。そこからカルカはテラスまで来るとテーブルの上にカップが二つあるのが目に付いた。
「誰かとですか? 」
「ああ。善は急げだと」
「え? 」
バライトは立ち上がるとカルカが来た方から道に出た。そして振り返る。
「早く帰るぞ、カルカ」
バライトはカルカ置いて帰って行く。
「本当に勝手な人なんですから……」
カルカは小さく文句を垂らしながらバライトの後を呆れながら追いかけた。その二人の姿見ていた。その席はテラスの端で、ちょうどバライト達が座っていた所から死角になっていた。その日彼は非番でいつものような制服は来ておらず、ツバの広い帽子をかぶっていた。アンブリもバライトもカルカも彼の存在に気が付いてはいなかった。
「一局長と九局長。蝋燭……」
独り言を零すと、ラリマは冷めたコーヒーをすすった。
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