【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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逃亡編

命に無防備

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 ハクエンとセッシサンは八局棟の廊下を走った。そして使用中と書いてあるドアを乱暴に開けると中に飛び入った。そこにはバライトと向き合って座るジャモン。傍にはカルカとアザムもいた。
「ハクエン見えなかったか? ここは使用中だ」
「俺達も話を聞かせて貰う権利はあるはずだ」
「嫌だ。邪魔だ。帰れ」
「嫌だ」
 ハクエンとバライトは睨みあう。
「口を出さなければ居てもいいんじゃないですか」
 カルカがハクエン達に助け船を出した。
「カルカお前は上司の味方しろよ! 」
「時間が無駄だからです。一切口を出さない。それでよろしいですか?ハクエン局長」
「かまわん」
 ハクエンが頷く。
「カルカもあっという間に偉くなったね」
 セッシサンがからかうと煙草を咥える。
「どうも。あとここは禁煙です」
「そりゃ失敬」
 セッシサンは煙草を胸ポケットにしまった。バライト咳払いをすると空気を仕切り直した。
「はじめまして。ジャモン・サーペティンさん。私は九局長のヘビー・バライトと申します」
「どうも。はじめまして」
 頭を下げたジャモンの姿はとても頼りなかった。
「さっそくですが、シズ・カンダの事を色々教えて貰っても構いませんか?」
 ジャモンは自信がなさそうに頷いた。
「カンダはあなたの養子ですよね。一緒に暮らすようになったのはいつぐらいからですか? 」
「去年の六月です」
「どういった経由でカンダを養子に?」
 ジャモンは困った表情を浮かべ黙った。
「ジャモンさん。正直に」
 バライトは少し威圧感を込めた笑みを浮かべた。ジャモンは水に流したシズの伝言を思い出した。正直に。ジャモンはゆっくりと口を開いた。
「私には妻がいました。病気で亡くなりました。その時の治療費の借金が多額にありまして……。返せなくて生活も苦しくて死まで考えていました。するとある日養子を引き取る代わりに借金を肩代わりしてくれるという人が現れたんです」
「その人の名前は?」
「コーネス・カーネスという人です」
 ハクエンとセッシサンが目を丸くする。ハクエンが口を開き前に出ようとすると、カルカが腕を出してそれを制した。
「約束は守ってください」
 ハクエンはカルカを横目で見たまま、口を閉じて一歩下がった。バライトがその光景を嬉しそうに見ると話を続けた。
「そのコーネス・カーネスという人はどんな人でしたか?」
「派手な見た目です。あきらかに怪しかったですが、もうどうにでもなれと引き受けました。そうしたら終戦記念日にマッカのキミドリアパートに来いと。そして当日行ったら、」
「行ったら? 」
「カーネスさんとシズがいました」
「二人はどんな様子でしたか? 」
 ジャモンはシズと初めて会った時の事を思い出す。
「シズはベッドの上にいて」
 自分の顔を見て期待外れな顔をした。ジャモンではない違う誰かが来るのを期待しているようだった。それになんとなく申し訳なくなったのをジャモンは覚えていた。
「カーネスさんは時間がないとシズを私に紹介して世話をしろと言いました。養子が女の子だとは思わなくて……。しかも年頃の子だったので思わずさんに無理だって言ったんです。そしたら借金の事出されて、黙るしかなくて……。あと不思議な事を言ったんです」
「不思議な事? 」
 バライトは興味津々で聞いた。
「シズの事をこの世界で赤ん坊同然と言ったんです」
「赤ん坊……」
 ハクエンは無意識に零せばバライトはハクエンを力強く指さした。
「はーい、喋った。今喋った。次喋ったら追出すからな」
 ハクエンは苛立ちに顔を歪めたが、耐えた。
「ごめんなさい、サーペティンさん続けて」
「あ、はい。それで、カーネスさんは部屋を出ようとしてシズがそれを止めようとしましたが、」
「しましたが? 」
「軽くあしらわれて頭を踏みつけられました」
「あいつが? 」
 アザムが思わず驚きに声を出した。強気なシズがやられている様子を想像するにはアザムにはどこか抵抗があった。インデッセで襲われた時もあれだけ強気だった。シズと弱さはつなげにくいせいかもしれない。
「カーネスさんは容赦がなかったです。それでシズに君はここじゃないと生きられない。君が死んでもいい。その方が良かったと思う。シズが生きている事は奇跡だと」
 生まれた世界ではなければ十八歳で死んでしまう。バライトとカルカの頭にはそう語ったシズの言葉が浮かんだ。
「そして最後にコーネス・カーネスの名前を口にするな。ヨンキョクに捕まるぞ、と」
 もしかして、とアザムが零した。
「カンダはコーネス・カーネスがヨンキョクに追われていることを知って、ヨンキョクになったって事ですか? 」
「そうです。私が勧めた。シズは身体能力が高いし。それにまた死ぬ気ならないように、何かできる事をして欲しかった」
「また? 」
 アザムが聞けばジャモンは眉を下げた。
「私と初めて会った日に一回橋から飛び降りているんです。無傷だったんだけど」
「ああ、そういえば終戦記念日の日に橋からダイヴした奴がいたって報告あったな。あれはカンダだったのか」
 セッシサンが喋るとバライトが睨む。セッシサンはごまかすように笑った。
「すいません、今の独り言です」
「その時、城人さんがうちまでシズを送り届けてくれたんです。学校に行ったらその人が教官として居たと言ってました」
 バライトはセッシサンを睨む。セッシサンは首を振る。
「報告があったって言ったでしょ?俺は聞いただけ。サンスかセドニだろう」
「ああ、セドニという方です」
 カルカが舌打ちをした。その場にいた全員がカルカを見たがカルカは澄ました顔でいた。
「これも一応聞きますが、カンダの居場所に覚えは? 」
 ジャモンは首を振った。
「けど、いつか消えてしまうとはなんとなく思ってました」
「それはどうして?」
 バライトが聞く。
「シズは時々凄く儚い。それに命に対して無防備な所があった」
「それはどういう? 」
「うまく説明できません。口も悪くて強気で喧嘩早いけど、ふいに品があるなって思うんです。消えてなくなりそうなぐらい儚い。恐怖心もあまりない。なんか馬鹿みたいですけど飛んでいってしまいそうな……」
 ジャモンが笑う。
「親バカなんですかね。これ」
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