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逃亡編
秘密だけ言わない
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「ハクエン局長ー」
緊張感に包まれた四局フロアの空気をぶち壊す緊張感のない声が響いた。この時ばかりはカラミンの空気の読めなさに四局員は心の中で拍手した。カラミンはカザンの耳を引っ張って歩いて来た。
「なんだ」
ハクエンの声はいつもより低かった。それを気にもせずカラミンは微笑む。カザンは表情を固まらしていた。
「こいつ、俺らに黙っていた事があるそうで」
カラミンがカザンの耳を引っ張った。カザンが「痛っ! 」と叫んだが力を緩めることはなかった。ハクエンがカザンに目線をやる。いつにない鋭さにカザンは少し焦り、うまくいくか不安になる。
「なんだ」
ハクエンがまた同じように聞いた。カラミンは答えた。
「カンダの事で」
ハクエンはバンっとデスクを叩きつけた。四局フロアにいた全員の肩が跳ねた。
「……場所を変えよう」
「はい」
「私も」
アシスが手を上げて立ち上がった。
「私も話を聞いていいですか? 」
アシスを見上げリョークも慌てて立ち上がる。
「お、俺もいいですか? 」
ハクエンは黙って二人を見つめた。
「……オドーも来い」
別室に移動した六人は自然とカザンに目をやった。カザンは居心地の悪さがマックスだった。
「それで、隠し事とは? 」
ハクエンは前置きなしで聞いた。微笑んでいるが優しさは微塵も見えない。
「カンダはやっぱり九十七期生について調べていたようですよ」
カラミンが答える。
「カザンの兄は九十七期生ですからね。カザンは色々聞かれたそうです」
「本当か、カザン」
カザンはハクエンに頷いた。
「けど、僕にも九十七期生の事は分かりませんでしたので。カンダさんは一年ぐらい前に自分と同じ顔の城人を見たと」
「一年前に? 」
リョークは信じられないという顔をした。カザンは頷いた。
「もしかしたら九十七期生の悲劇から生き残ったのかもしれない、と」
一同が驚愕の声を漏らす。カザンは続けた。
「それからカンダさんはそのそっくりな九十七期生の名前と故郷を知ったそうです」
「なんていうの? 」
アシスが聞く。
「ミトス・スイドというそうです。そして故郷はフェナのヘミモル村。長期休暇でカンダさんはヘミモルに行くというので、ヘミモル行の切符は僕が取りました。カンダさんは別の行き先の切符をダミーとして自分で取りました」
「なんでそこまでして」
「見張られていた」
リョークの疑問に答えたのはハクエンだった。ハクエンはカラミンを見る。
「カンダは学校に入ってしばらくすると誰かに見張られていたようだ。まあ気が付いたのが遅かっただけで本当はずっと前から見張られていたのかもしれない」
「誰にすっか? 」
リョークが尋ねる。けれど誰も答えない。リョークがアシスを見る。
「国に、ですか? 」
アシスが言葉にすれば全員が顔を険しくした。
「僕もそう思います。だから、言えませんでした……」
「え、けど、なんで、カンダが? 」
リョークは混乱し始めた。
「国は九十七期生が全員死亡したと発表している。それなのに生き残りがいた。しかも城人になっている」
オドーが説明するが、リョークはいまいち理解できない。
「国が生きている人間を死んでいる事にしたって事よ。そしてそのそっくりな顔したシズが城人として現れた。放っておくと思う? 」
アシスが補足する。リョークは小さく零した。
「……思わない」
「え、だとしたらカンダってやばい事に関わっているって事っすか? 」
「相当やばいね」
カラミンがにやつきながら言った。そしてハクエンを振り返る。
「どうしますか、局長。九局の大好物な案件ですよ、これ」
鋭い目つきをハクエンはカラミンに向けた。カラミンは条件反射で両手を上げる。
「先を越されるわけにはいかない。カラミン、カザンお前ら朝一でヘミモルのヤナギ村でそのミトス・スイドについて調べてこい。二人して食あたり起こしたことで休暇をやる」
「了解です」
カラミンはこっそりとカザンを見る。とりあえず、上手くいった。
緊張感に包まれた四局フロアの空気をぶち壊す緊張感のない声が響いた。この時ばかりはカラミンの空気の読めなさに四局員は心の中で拍手した。カラミンはカザンの耳を引っ張って歩いて来た。
「なんだ」
ハクエンの声はいつもより低かった。それを気にもせずカラミンは微笑む。カザンは表情を固まらしていた。
「こいつ、俺らに黙っていた事があるそうで」
カラミンがカザンの耳を引っ張った。カザンが「痛っ! 」と叫んだが力を緩めることはなかった。ハクエンがカザンに目線をやる。いつにない鋭さにカザンは少し焦り、うまくいくか不安になる。
「なんだ」
ハクエンがまた同じように聞いた。カラミンは答えた。
「カンダの事で」
ハクエンはバンっとデスクを叩きつけた。四局フロアにいた全員の肩が跳ねた。
「……場所を変えよう」
「はい」
「私も」
アシスが手を上げて立ち上がった。
「私も話を聞いていいですか? 」
アシスを見上げリョークも慌てて立ち上がる。
「お、俺もいいですか? 」
ハクエンは黙って二人を見つめた。
「……オドーも来い」
別室に移動した六人は自然とカザンに目をやった。カザンは居心地の悪さがマックスだった。
「それで、隠し事とは? 」
ハクエンは前置きなしで聞いた。微笑んでいるが優しさは微塵も見えない。
「カンダはやっぱり九十七期生について調べていたようですよ」
カラミンが答える。
「カザンの兄は九十七期生ですからね。カザンは色々聞かれたそうです」
「本当か、カザン」
カザンはハクエンに頷いた。
「けど、僕にも九十七期生の事は分かりませんでしたので。カンダさんは一年ぐらい前に自分と同じ顔の城人を見たと」
「一年前に? 」
リョークは信じられないという顔をした。カザンは頷いた。
「もしかしたら九十七期生の悲劇から生き残ったのかもしれない、と」
一同が驚愕の声を漏らす。カザンは続けた。
「それからカンダさんはそのそっくりな九十七期生の名前と故郷を知ったそうです」
「なんていうの? 」
アシスが聞く。
「ミトス・スイドというそうです。そして故郷はフェナのヘミモル村。長期休暇でカンダさんはヘミモルに行くというので、ヘミモル行の切符は僕が取りました。カンダさんは別の行き先の切符をダミーとして自分で取りました」
「なんでそこまでして」
「見張られていた」
リョークの疑問に答えたのはハクエンだった。ハクエンはカラミンを見る。
「カンダは学校に入ってしばらくすると誰かに見張られていたようだ。まあ気が付いたのが遅かっただけで本当はずっと前から見張られていたのかもしれない」
「誰にすっか? 」
リョークが尋ねる。けれど誰も答えない。リョークがアシスを見る。
「国に、ですか? 」
アシスが言葉にすれば全員が顔を険しくした。
「僕もそう思います。だから、言えませんでした……」
「え、けど、なんで、カンダが? 」
リョークは混乱し始めた。
「国は九十七期生が全員死亡したと発表している。それなのに生き残りがいた。しかも城人になっている」
オドーが説明するが、リョークはいまいち理解できない。
「国が生きている人間を死んでいる事にしたって事よ。そしてそのそっくりな顔したシズが城人として現れた。放っておくと思う? 」
アシスが補足する。リョークは小さく零した。
「……思わない」
「え、だとしたらカンダってやばい事に関わっているって事っすか? 」
「相当やばいね」
カラミンがにやつきながら言った。そしてハクエンを振り返る。
「どうしますか、局長。九局の大好物な案件ですよ、これ」
鋭い目つきをハクエンはカラミンに向けた。カラミンは条件反射で両手を上げる。
「先を越されるわけにはいかない。カラミン、カザンお前ら朝一でヘミモルのヤナギ村でそのミトス・スイドについて調べてこい。二人して食あたり起こしたことで休暇をやる」
「了解です」
カラミンはこっそりとカザンを見る。とりあえず、上手くいった。
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