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逃亡編
一芝居の準備
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遡ること十月十一日の午後。カザンとカラミンは国民局四階の非常階段にいた。そこでカザンはカラミンに九十七期生の悲劇の真実について話した。けれどカザンは、ルバがアルガーに明確な殺意を抱いている事は濁した。カラミンは話を聞き終えると笑った。
「すごいね。俺なんか四年近く調べていたのに真実に辿オドーけなかったよ」
カザンは驚いた。
「カラミンさんも九十七期生について調べていたんですか? 」
「まあね。トイサキレウさんがなんで死んだか知りたかっただけ。俺超慕ってたの」
カラミンは左腕にはめた狂った腕時計をカザンに見せた。
「トイサキレウさんが身につけていた時計だ。トイサキレウさんの奥さんが譲ってくれた。トイサキレウさんがアルガー塾について調べていたのは知っていた。国が不自然に九十七期生の悲劇を隠そうとしているのも気が付いた。けどまさか生徒殺したのがクレヘミモルんだったとはね」
カラミンは苦笑いをする。
「洗脳された九十七期生を危惧していたようです。それと同時にスパイを作りたかった」
「けど、なんのためのスパイ?」
「そこまでは分かっていません。ルバはスパイにならなかったので。唯一なったのは、」
「カンダにそっくりな男。九十七期生の生き残り」
カザンは黙る。
「そのミトス・スイドとカンダとコーネス・カーネスが過去に何かしらあったのは確かだね。それについてなにか聞いてないの?」
カザンは悔しそうに息を溜めると「いえ」と返した。
「まあ、機密手配人と知り合いなんて四局なら特に口にはできないよな」
カザンは不服だった。自分には打ち明けてくれてもよかったんじゃないか。秘密を共有してくれてもよかったんじゃないか。カザンはカンダとの間にそれぐらいの信頼を持ち合わせているつもりだった。
「機密手配人と関わりがあるなんて罪になりかねないからね。きっとカザンを巻き込みたくなかったんだろうね」
カザンの心中を察したのか、カラミンが言った。
「それかまた違う理由があるのか。まあとりあえずルバ・ソーの事は黙っといてあげる」
その言葉にカザンは罪悪感を持ち、顔を顰めた。ルバとの約束を破った。約束を守るという約束で打ち明けて貰った真実だったのだ。カザンは情けなかった。カラミンは慰めるようにカザンに微笑みかけた。
「黙っておく。ハクエン局長にも言わない。先輩を信じなさいって」
カザンは黙って頷いた。
「けど、アルガー塾長はどうにかして引っ張り出したいな。勘だけど、死んでなさそうだ」
「それは僕も同感です」
ルバに人殺しヘミモルせない。それがカラミンに真実を打ち明けたカザンの一番の理由だった。ルバの殺意が殺意のままで終わるように。
「けど九十七期生の悲劇の事を報告せずにそれは厳しいと思います」
「そうだねー」
「……やっぱりルバの事を報告すべきですか? 」
「そうだね。ハクエン局長に報告すればすぐにルバ・ソーを保護しようとするかもしれない。けどそれはアルガー塾長にルバ・ソーが生きていると知らせる事になるかもしれない。先にルバ・ソーを見つけられて口封じされるのもあり得る。それに死んでいると思わせていた方がこっちは動きやすいかもしれない」
「そうなんですか? 」
「さあね。けど敵に正しい事なんて教えない方がいいんだよ」
カラミンは微笑んだ。
「とりあえずカザンが九十七期生について調べていた事は内緒だ。カンダもあの性格だと、お前と調べていた事は口を割らないだろう。そしてたぶんきっと一人で調べていた事にする」
「え? 」
「カンダもずっとは黙っていられない。何かしら話すさ。カザン、俺と一芝居だ。カンダも裏切るぞ」
(十月十二日)
リョークがアシスの方へ椅子を滑らすと耳打ちした。
「なんか今日のハクエン局長、超怖くね」
「それ多分触れちゃいけない事よ」
二人はこっそりとハクエンを見る。ハクエンは黙々と書類にハンコを押していた。そのハンコの音がどことなく怖さを感じた。ハクエンの背後からまがまがしいオーラが四局員全員に見えた。八局棟から帰って来てからあの様子だからカンダの事で何かあったのは誰もが分かっていた。
「カンダ、どうしたんだろうな」
「分かんないわよ、そんな事」
アシスはどこか寂しそうに冷たく呟いた。
「すごいね。俺なんか四年近く調べていたのに真実に辿オドーけなかったよ」
カザンは驚いた。
「カラミンさんも九十七期生について調べていたんですか? 」
「まあね。トイサキレウさんがなんで死んだか知りたかっただけ。俺超慕ってたの」
カラミンは左腕にはめた狂った腕時計をカザンに見せた。
「トイサキレウさんが身につけていた時計だ。トイサキレウさんの奥さんが譲ってくれた。トイサキレウさんがアルガー塾について調べていたのは知っていた。国が不自然に九十七期生の悲劇を隠そうとしているのも気が付いた。けどまさか生徒殺したのがクレヘミモルんだったとはね」
カラミンは苦笑いをする。
「洗脳された九十七期生を危惧していたようです。それと同時にスパイを作りたかった」
「けど、なんのためのスパイ?」
「そこまでは分かっていません。ルバはスパイにならなかったので。唯一なったのは、」
「カンダにそっくりな男。九十七期生の生き残り」
カザンは黙る。
「そのミトス・スイドとカンダとコーネス・カーネスが過去に何かしらあったのは確かだね。それについてなにか聞いてないの?」
カザンは悔しそうに息を溜めると「いえ」と返した。
「まあ、機密手配人と知り合いなんて四局なら特に口にはできないよな」
カザンは不服だった。自分には打ち明けてくれてもよかったんじゃないか。秘密を共有してくれてもよかったんじゃないか。カザンはカンダとの間にそれぐらいの信頼を持ち合わせているつもりだった。
「機密手配人と関わりがあるなんて罪になりかねないからね。きっとカザンを巻き込みたくなかったんだろうね」
カザンの心中を察したのか、カラミンが言った。
「それかまた違う理由があるのか。まあとりあえずルバ・ソーの事は黙っといてあげる」
その言葉にカザンは罪悪感を持ち、顔を顰めた。ルバとの約束を破った。約束を守るという約束で打ち明けて貰った真実だったのだ。カザンは情けなかった。カラミンは慰めるようにカザンに微笑みかけた。
「黙っておく。ハクエン局長にも言わない。先輩を信じなさいって」
カザンは黙って頷いた。
「けど、アルガー塾長はどうにかして引っ張り出したいな。勘だけど、死んでなさそうだ」
「それは僕も同感です」
ルバに人殺しヘミモルせない。それがカラミンに真実を打ち明けたカザンの一番の理由だった。ルバの殺意が殺意のままで終わるように。
「けど九十七期生の悲劇の事を報告せずにそれは厳しいと思います」
「そうだねー」
「……やっぱりルバの事を報告すべきですか? 」
「そうだね。ハクエン局長に報告すればすぐにルバ・ソーを保護しようとするかもしれない。けどそれはアルガー塾長にルバ・ソーが生きていると知らせる事になるかもしれない。先にルバ・ソーを見つけられて口封じされるのもあり得る。それに死んでいると思わせていた方がこっちは動きやすいかもしれない」
「そうなんですか? 」
「さあね。けど敵に正しい事なんて教えない方がいいんだよ」
カラミンは微笑んだ。
「とりあえずカザンが九十七期生について調べていた事は内緒だ。カンダもあの性格だと、お前と調べていた事は口を割らないだろう。そしてたぶんきっと一人で調べていた事にする」
「え? 」
「カンダもずっとは黙っていられない。何かしら話すさ。カザン、俺と一芝居だ。カンダも裏切るぞ」
(十月十二日)
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「なんか今日のハクエン局長、超怖くね」
「それ多分触れちゃいけない事よ」
二人はこっそりとハクエンを見る。ハクエンは黙々と書類にハンコを押していた。そのハンコの音がどことなく怖さを感じた。ハクエンの背後からまがまがしいオーラが四局員全員に見えた。八局棟から帰って来てからあの様子だからカンダの事で何かあったのは誰もが分かっていた。
「カンダ、どうしたんだろうな」
「分かんないわよ、そんな事」
アシスはどこか寂しそうに冷たく呟いた。
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