【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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逃亡編

叱責

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(十月十二日)

 嫌だと思っても夜は明ける。朝になり扉がノックされた。シズは腹痛いとでも言おうか考える。シズの返事を待たずに扉は開いた。そこにいたのはハクエンでもカラミンでもなかった。
「二度目まして。シズ・カンダ」
 そう歯を見せて笑った。ジャケットは着ておらず、ベストだけ。
「九局長のハンス・バライトです。前にエレベーターで会ったの覚えているかい? 」
 シズは頷いた。
「今日は俺達九局が話を聞くからよろしく」
 九局。監察。 城人みうちが起こした犯罪だからだろう。けれどハクエン達よりマシだとシズは思った。気持ちが楽になる。部屋を出ると、もうひとりいた。
「そっちはカルカ副局長」
 バライトが紹介した。カルカは「よろしく」と呟いた。
「バライト、どういう事だ」
「ああ、おはよう。ハクエンにカラミン」
 バライトは二人に手を振った。ハクエンは眉間に皺を寄せる。ハクエン達には九局が尋問する事が伝わってなかった。
「今日は 九局うちが話を聞くから」
「 うちの部下の不始末だ。俺が始末を付ける。」
「部下だと意識してなくても情が沸くだろう? ハクエン。甘い尋問だからこの子何も話さないんじゃないの? 」
 ハクエンから苛ついたオーラが出る。シズはさすがに気まずくて、ハクエンから目をそらした。バライトは陽気に喋り続ける。
「それにせっかく助言してあげたのに。シズ・カンダには気を付けておけよって」
 シズは思わずバライトの顔を見上げた。シズは自分が九局に目を付けられていたことを知った。いや、九局が見張っていたのか。この間バライト局長がエレベーターで言ったのも挑発の意味があったのかもしれない、とシズは迷った。
「私を見張っていたのはあんただったのか? 」
 バライトは歯を見せて笑うと、シズに顔を近づけた。
「違うよ。君はいつから見張られている事に気が付いたんだい? 」
「学校に入ってからしばらくしてから……」
「相手に目星は? 」
セドニの顔が浮かんだ。けれどシズは、横に顔を振った。
「コーネス・カーネスが関係してるんじゃないの? 」
 割って入ってきたカラミンの言葉に、シズは目を見開いた。ゆっくりとカラミンの方を見る。カラミンは平静としていた。バライトはシズから顔を離す。
「サウザン氏の秘書が喋ったよ。カンダ、コーネス・カーネスの使いの者とか言って屋敷に入れてもらったんだってね。コーネス・カーネスの名前を出せば、サウザン氏に会えると分かっていたんだろう、君」
 どこまで知っているのだろう、とシズは考えた。「コイン」を裏返す事まで知って信じたのか? シズはそれまでは信じられないかった。へぇ、とアクラーがシズに声を落とした。
「君は、コーネスカーネスの仲間なのか? 」
「ふざけんじゃねぇよ! そんな訳ねぇだろっ! 」
 シズの声が荒ぶった。唇を噛み締めて、シズはまた俯いた。
「でもよく知っているみたいだね。そんだけ感情が高ぶるって事は」
 拳を握りしめた。
(君はもうこの世界じゃないといきられない)
 何でだよ。何でこんな事になった。シズの思考は飲まれる。何で生まれた時に入れ替えられたんだ。何で生まれた世界ではないと十八歳で死ぬんだ。何で戻した。何で。
(俺も死にたくないんだ)
 死にたくないからか。でも、何で自分がこんな思いをしなければいけない。なんで人生勝手にあっちこっちに動かされるんだ。自分の意思は生まれた時から殺されている現実にシズはもう、限界だった。シズはハートフィールドを思い出す。あんなに安らかに死ねるなら十八歳の誕生日で、
「死ねばよかった」
 口から転げ落ちた願望。
「こんな現実ならあの時死んだ方がずっとマシだった」
 怒りを巻いた絶望に身体が震えた。身体を震わせるその感情が口を勝手に動かした。
「城人なんかなりたくてなったんじゃねぇ! 」
 叫んだ。シズはここにいる人達は誰も悪くないと理性の片隅で理解していた。けれど我慢出来なかった。もう口が止まらない。
「もうクビにすればいい。もう四局やってても意味ねぇし。もう何でもいいよ。どうでもいい。どうでもいいよ」
 そこまで喚くとシズは吹き飛んだ。壁に身体辺り痛みが走る。一番痛みを感じたのは頬だった。頬を押さえて顔を上げる。怒りに満ちたハクエンが、シズを見下ろしていた。
「人が命をかけている仕事を軽く言うなっ! 」
 野太い怒声が八局棟の廊下に響く。
「クビにしろ、何でもいい、どうでもいい、死ねばよかった? そんな事は知らん。俺はお前をクビにするつもりもないし、どうでもいいとも思ってないし、死ねばいいとも思っておらん! 」
 ただただシズは、ハクエンを見上げた。もう言える事はなかった。ハクエンはシズには眩し過ぎた。カルカがシズの腕を掴み立たせる。
「やっぱり直の上司だと感情的になるな。ハクエン、今回は俺に譲りな」
「……分かった」
 ハクエンは渋々同意した。
「だが、俺達も同席させろ」
「駄目だね」
 バライトは即答した。
「ハクエンが」
 バライトは、シズの頭を掴んだ。
「この子の味方だとは限らないからね」
「どういう意味だ? 」
 ハクエンが睨む。
「言ったでしょ? シズ・カンダは誰かに見張られていたんだ。学校に入ってから気が付いたってさっき言っていたからきっと犯人は城内の者か関係者。君も関わっているかもしれない。直の上司なんて見張るには絶好のポジションだからね」
「本気で言っているのかバライト」
 ハクエンは怒りに震える笑みを浮かべた。
「疑うのが九局のお仕事です」
 バライトに背中を押され、シズは歩くように促された。カラミンとすれ違う。
「カザンが心配してるよ」
 シズは立ち止まりカラミンを振り向いた。シズが口を開けた途端、バライトがシズの口を塞いた。
「これ以上横やりいれないで、カラミン君」
 カラミンは面白くなさそうにそっぽを向いた。シズは再び歩き出す。
「局長、どうします? 」
「どうにかするんだよ、カラミン」
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