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城人編
絶望
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「アシス」
「なに? 」
「サウザン氏の家ってこの近くか? 」
「うん。いつも国民局来る途中に通ってるよ。門が馬鹿でかい大きい家」
その家にシズは覚えがあった。四局だと言えば入れて貰えないだろう。シズはジャケットを脱ぐ。ベストは今日も着ていない。ジャケットをアシスに渡す。
「ちょっと預かってて」
「え、ちょっとシズ! 」
シズは拘束室を飛び出し走り出した。身体が熱い。それに反して頭は冷たい。
(死にたくないか?)
ミトスはシズにそう聞いた。そして自分も死にたくないと言った。あのまま行けば十八歳で死んでいた。
(君はもうこの世界じゃないと生きられない)
カーネスはそうしつこく言った。あれは事実だ。事実だ。シズは頭の中で繰り返す。
サウザン邸の門の呼び鈴を鳴らす。何度も何度も鳴らす。すると使用人らしき男が出て来た。怪しんだ目つきでシズを見る。
「どちら様でしょう? 」
「コーネス・カーネスの使いの物です」
そう言えば使用人は慌てて、シズを門の中に入れた。そして主人の所まで通した。サウザン氏はシズから見て、いかにも金と人にいやらしい顔をしていた。
「本人が来ないとは珍しい。金をさらにせびりにきたかね? 」
「……トビー・ハートフィールドが死にました」
そう言えば、と呟きながらサウザン氏はカレンダーを見た。そしてあっと声を上げた。
「今日はあの娘の誕生日だったんだな。まあもう死んだならどうでもいいが」
「どうでもいい? 」
シズの声は冷たかった。サウザン氏が不思議そうな顔をした。
「カーネスさんが先に言ったんじゃないですか。コインを裏返した人間は十八歳までしか生きられないと」
(生まれた場所でしか育たないって事かね)
「まあマイカは失敗作だからな。それなのに悪さばかりして四局に目を付けられて。だからちょうどいい話だったよ。顔が同じのあの子が罪をかぶってくれて。まあマイカの遺体がないのをどう理由付けしようか考えどころだな。蒸発した事にしてなんとか凌ぐよ。この間窃盗の件で四局は私に深く踏め込めなくなっているからな。本当はマイカがリーダーで正解なんだがな。可哀想な奴らよ」
サウザン氏は高笑いをする。
「ペラペラよく喋る親父だな」
サウザン氏は笑うのをやめると、シズを睨んだ。
「お前、いくらカーネスさんの使いだからって生意気だぞ」
「カーネスの名前を出しただけで味方だって判断するのはちょっと甘かったと思うぜ」
シズは腰に隠していた警棒を出す。それを見てサウザン氏は後ろに下がった。
「お前、まさか」
「ヨンキョクだよ」
シズは警棒を投げつける。サウザン氏は顔を腕で守った。けれどシズはわざとはずした。警棒は窓ガラスを割った。サウザン氏が腕を顔から上げると同時に、シズは顔面を蹴り上げた。サウザン氏は床に倒れ込む。
「だ、誰か、たす」
助けを求める前に、シズはもう一度顔を蹴った。腹を蹴り上げた。呻いている。汚い親父が呻いている。汚い親父の首元をシズは掴む。
「お前、人の命なんだと思ってんだよ」
シズは顔を殴る。殴る。殴る。手が血で汚れる。そのうち動かなくなった。手を離せばサウザン氏は腫れあがった顔を床にくっつけた。シズは叫んだ。ただ叫んだ。そして膝を付く。血に濡れた手に涙が落ちた。嗚咽が止まらない。理不尽と怒りとやるせなさと悲しみが涙になった。涙は落ち続けた。どうしようもない思いは涙にするしかできない。
(死にたくないか?)
死にたくない。だから帰るなんて無理だったんだ。生きて帰るなんて最初から無理だったんだ。
(静、あんたはね生まれた時股にアレが付いていたんだよ。お医者さんが最初男の子ですって言ってあれ、なくなったって。お医者さんだけじゃない周りの看護師さんもびっくりして)
冗談にしてはシズの母の話は具体的過ぎた。冗談なんかじゃなかったんだ。
(そういや一回だけ冗談言った事あったなって)
ステアが話したモルダの冗談も冗談ではなかった。
(ミトスの事。ミトスは生まれた時は女だったって)
シズがこっちで生まれた。ミトスがあっちで生まれた。
シズはここに、帰って来た。
「なに? 」
「サウザン氏の家ってこの近くか? 」
「うん。いつも国民局来る途中に通ってるよ。門が馬鹿でかい大きい家」
その家にシズは覚えがあった。四局だと言えば入れて貰えないだろう。シズはジャケットを脱ぐ。ベストは今日も着ていない。ジャケットをアシスに渡す。
「ちょっと預かってて」
「え、ちょっとシズ! 」
シズは拘束室を飛び出し走り出した。身体が熱い。それに反して頭は冷たい。
(死にたくないか?)
ミトスはシズにそう聞いた。そして自分も死にたくないと言った。あのまま行けば十八歳で死んでいた。
(君はもうこの世界じゃないと生きられない)
カーネスはそうしつこく言った。あれは事実だ。事実だ。シズは頭の中で繰り返す。
サウザン邸の門の呼び鈴を鳴らす。何度も何度も鳴らす。すると使用人らしき男が出て来た。怪しんだ目つきでシズを見る。
「どちら様でしょう? 」
「コーネス・カーネスの使いの物です」
そう言えば使用人は慌てて、シズを門の中に入れた。そして主人の所まで通した。サウザン氏はシズから見て、いかにも金と人にいやらしい顔をしていた。
「本人が来ないとは珍しい。金をさらにせびりにきたかね? 」
「……トビー・ハートフィールドが死にました」
そう言えば、と呟きながらサウザン氏はカレンダーを見た。そしてあっと声を上げた。
「今日はあの娘の誕生日だったんだな。まあもう死んだならどうでもいいが」
「どうでもいい? 」
シズの声は冷たかった。サウザン氏が不思議そうな顔をした。
「カーネスさんが先に言ったんじゃないですか。コインを裏返した人間は十八歳までしか生きられないと」
(生まれた場所でしか育たないって事かね)
「まあマイカは失敗作だからな。それなのに悪さばかりして四局に目を付けられて。だからちょうどいい話だったよ。顔が同じのあの子が罪をかぶってくれて。まあマイカの遺体がないのをどう理由付けしようか考えどころだな。蒸発した事にしてなんとか凌ぐよ。この間窃盗の件で四局は私に深く踏め込めなくなっているからな。本当はマイカがリーダーで正解なんだがな。可哀想な奴らよ」
サウザン氏は高笑いをする。
「ペラペラよく喋る親父だな」
サウザン氏は笑うのをやめると、シズを睨んだ。
「お前、いくらカーネスさんの使いだからって生意気だぞ」
「カーネスの名前を出しただけで味方だって判断するのはちょっと甘かったと思うぜ」
シズは腰に隠していた警棒を出す。それを見てサウザン氏は後ろに下がった。
「お前、まさか」
「ヨンキョクだよ」
シズは警棒を投げつける。サウザン氏は顔を腕で守った。けれどシズはわざとはずした。警棒は窓ガラスを割った。サウザン氏が腕を顔から上げると同時に、シズは顔面を蹴り上げた。サウザン氏は床に倒れ込む。
「だ、誰か、たす」
助けを求める前に、シズはもう一度顔を蹴った。腹を蹴り上げた。呻いている。汚い親父が呻いている。汚い親父の首元をシズは掴む。
「お前、人の命なんだと思ってんだよ」
シズは顔を殴る。殴る。殴る。手が血で汚れる。そのうち動かなくなった。手を離せばサウザン氏は腫れあがった顔を床にくっつけた。シズは叫んだ。ただ叫んだ。そして膝を付く。血に濡れた手に涙が落ちた。嗚咽が止まらない。理不尽と怒りとやるせなさと悲しみが涙になった。涙は落ち続けた。どうしようもない思いは涙にするしかできない。
(死にたくないか?)
死にたくない。だから帰るなんて無理だったんだ。生きて帰るなんて最初から無理だったんだ。
(静、あんたはね生まれた時股にアレが付いていたんだよ。お医者さんが最初男の子ですって言ってあれ、なくなったって。お医者さんだけじゃない周りの看護師さんもびっくりして)
冗談にしてはシズの母の話は具体的過ぎた。冗談なんかじゃなかったんだ。
(そういや一回だけ冗談言った事あったなって)
ステアが話したモルダの冗談も冗談ではなかった。
(ミトスの事。ミトスは生まれた時は女だったって)
シズがこっちで生まれた。ミトスがあっちで生まれた。
シズはここに、帰って来た。
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