【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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城人編

異物の証明

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 シズはカザンと見回りから帰ってき、エレベーターを呼ぶ。エレベーターはすぐに来て、乗り込む。扉が閉まりかけようとするとそれを止める声が聞こえた。
「乗る乗る!待って!」
 乗り込んで来たのはジャケットを着ていないふし色の髪の男、バライト九局長だった。
「すいません。八階で」
 操作人がへい、と返事をしてエレベーターの扉を閉めた。
「おお、四局。見回り? 」
 バライトがシズに話しかけてきた。
「はい」
 シズは返事をする。
「今日も街は平和だったかい? 」
「はい。何事もありませんでした」
「それはよかった、カンダ君」
 シズは自分の名前を知られていることに、驚きバライトを思わず見た。
「初めまして。九局長のバライトだ」
「……どうも。なんで、私のこと」
「だってこの間アザムとインデッセに行ったでしょう?」
 それでか、とシズは納得する。
「アザムは元気ですか? 」
「元気でクールだよ」
 相変わらずらしい、とシズは笑った。エレベーターが六階に着く。扉が開いてエレベーターから降りる。
「カンダ」
 呼ばれて、シズは振り返る。
「最近ずっと誰かに付けられたりしてない? 」
 シズが何も言えないまま、扉が閉まった。
「その顔肯定しているようなものですよ」
 カザンがシズの顔を見て言った。
「バライト九局長。監察の曲者ですよ」
「私の事監視している奴らに気が付いたって事か。まあ、捕まえてくれるならそれはそれで助かるけどな」
 カザンはシズに何か言いたげだったが、何も言わずに四局フロアに戻った。ちょっと前なら言う事を我慢するなんてしなかっただろう。そう思いながらシズも黙って戻った。
 エンジジャケットを脱ぎ、シズが書類整理をしようとすると、四局に客が来た。その美人は青い髪を揺らすと仁王立ちした。そしてカラミンを睨むと指さした。
「有罪」
「なんでですか!? 」
 カラミンが叫ぶ。
「お、ついに八局室に連れて行かれるか。やっとだな」
「冗談でもやめて、オドー」
 カラミンが嘘泣きする。
「八局の人か? 」
「八局長のシプリン局長よ。唯一の女局長」
 アシスがシズに耳打ちする。
「部人から国民局に入ったど根性女局長」
 国民局は王都にある。それ以外地方は国民部と名前を変える。国民部で働く者を部人という。簡単に説明すると国民局は国家公務員、国民部は地方公務員だ。
「シプリン、カッコイイ登場だな」
 ハクエンが笑う。
「ちょっと邪魔しに来た。ちょっとあなたの部下借りて行くわね、ラリマ」
 シプリンの後ろにラリマがいた。ラリマはフロアを見渡すと、シズを見て口を開けた。
「あいつです。あいつがカンダです」
 シズは戸惑う。シプリンがシズに向かってかつかつ歩いてくる。そして目の前で止まった。シズは立ち上がる。
「あなたがカンダ? 」
「は、はい」
「シプリン局長、カンダに何の用事ですか?」
「黙っといて、有罪」
 シプリン局長がカラミンを鋭く睨む。シプリン局長は再び私を見る。
「歌って」
「は? 」
 シズは思わず言った。
「歌いなさい」
 シズが戸惑い続ける。
「おい、ここまで来て歌えってどういう事だ? 」
 ハクエンがシズを助けにくる。訳か分からずシズは、ラリマを見ると口パクで「この間の! 列車! トイレ!」と伝える。シズは、思い出し頷いた。
「ハクエン局長はちょっと黙って」
「黙ってって」
 局長同士が揉めそうだった。シズは歌って済むならと、。ビートルズを歌う。歌い出すと周りが静かになった。キリの良い所で歌うのをやめた。
「何それ、歌詞なに言ってるか分かんないんだけど」
 カラミンが言う。そりゃそうだ、英語だからな。
「ビートルズ」
 シプリンの口から出た言葉に、シズは耳を疑った。
「その歌はビートルズという歌? 」
「え、いや。歌っているのがビートルズです。なぜそれを? 」
 シプリンはシズの腕を掴む。
「ハクエン局長、この子ちょっと借りるから」
「ちょっと待て。状況が読めん」
「知りたいなら着いてきて」
 シズは引きずられるように四局を連れ出された。そして四人で別室に入る。
「どういう事だ、シプリン」
「昨日捕まえたハートフィールド。あの窃盗グループのリーダー」
 オドー班が捜査していた事件。
「ハートフィールドが全然口を割らなくて、ラリマに歌ってハートフィールドの心を和ませて貰ったの」
 シズはラリマを見る。ラリマは照れていた。
「それで、お前が歌った変な歌を試しに歌ったら、反応したんだよ。そしてビートルズって言ったんだ」
「え」
 ビートルズの歌を知っていた。昨日リョークはマイカとハートフィールドが似ていると言った。男と女。カーネスだ。コインをひっくり返した。シズの身体の血が沸き立つ。
「それでハートフィールドがカンダと話したいと言っている」
「はい。私も話したいです」
 シプリンに馬鹿正直に言ってしまった。
「カンダ、もしかしてハートフィールドと知り合いか? 」
「全然知りません。けどきっと故郷が同じです。私の故郷ではビートルズは超有名なんです」
 嘘ではない。
「話したいです、今すぐ」
シプリンにシズは詰め寄った。
「今日は駄目。体調崩していて。明日の朝、ラリマにあなたの事迎えに行かすから。故郷が同じ人になら心を開きたいってところかしらね」
 同じじゃないと話せない。シズ達はこの世界にとって異物だから。
「あ、あのひとつお願いがあるんですけど」
 本当の事話せる。同じ境遇の人間がもう一人いれば話に説得力ができると、シズは安心した。
「カザンも連れて行っていいですか? 同僚です」
「カザンも? 」
 ハクエンが眉をひそめた。
「かまわない。連れてくるといい。じゃあ明日」
 シプリンとラリマが部屋を出ようとする。
「待て。明日俺も行く」
 ハクエンが言えば、シプリンは微笑んだ。
「好きにすればいい」
 ドアが閉まる。
「カンダ」
 ハクエン局長を見る。その瞳はくすんでいた。
「説明できる事を説明してくれないか……? 」
「明日、全部話します。それまで待っていてください。今話しても頭がおかしいと思われると思うので」
 シズはそう言って部屋を出た。全部話せる。そんな日が来るなんて。こんなに突然来るなんて。シズはたまらなく嬉しかった。

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