【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
85 / 241
城人編

歌を知っている人

しおりを挟む


 次の日、シズは四局でお土産の焼き菓子を配った。
「ええ、俺ナッツ?チョコがいい」
 カラミンがごねた。
「僕のと変えますか? 」
 カザンはチョコをカラミンに渡す。
「本当ありがとう! カザン」
 カラミンさんはチョコを食べる。見ているだけでシズはムカつく。
「カザンとカンダ。そろそろ見回りの時間だよ」
 カラミンは口の周りにいっぱい焼き菓子のカスをつけて言う。
「カンダさん行きましょう」
「……おう」
 カザンは見回りの時もフェナの事をシズに聞いて来る事はなかった。ただ黙って街を歩く。シズはカザンには本当の事を話すべきなんだと思った。話さなければいけないと。それだけの事をシズはして貰った。けれど「異世界から来ました」なんて言っても「馬鹿にしてるんですか」となる予想しかシズにはなかった。いつか帰るつもりで、この世界に残りたいと思っていない。それなのに人に拒絶される事をシズは恐れているようだ。ああ、しんどい。このままではしんどいとシズの気持ちは沈む。
「カザン」
「なんですか」
 話しかけるとカザンは普通に返事をしてくれる。シズはほっとした。
「チョコレート好きか? 」
「まあ。けどナッツも好きだから大丈夫ですよ」
 カザンはさっきのカラミンの事を話していると思ったらしい。
「間違ってさ、ルルの入ったチョコレート買ってきたんだよ。明日持ってくるから食べてくれないか」
「……頂けるなら食べます」
 拒絶されない。それだけでシズは凄く安心した。それでもシズは、真実を話す事はできない。

「俺はしてない。何も知らない」
 八局の尋問室通称、八局室で、トビー・ハートフィールドは力なく零した。目を擦る。ハートフィールドは眠たかった。
「何もしていないって、お前の仲間はお前がリーダーって言っている」
 腰までの青い髪。前髪は眉毛できっちりと切り揃えている。爪も青く塗り、瞳も青い。ハートフィールドと向かい合うのは唯一の女局長、ベス・シプリンだ。腕を組み、ハートフィールドから目を離さない。
「あいつら知らない。俺の仲間なんかじゃない」
 ハートフィールドはまた目を擦る。そして欠伸を噛み殺す。
「俺、眠いんだけど……」
 シプリンはため息を吐いた。さっきからハートフィールドはこの調子だった。
「シラー」
「はい」
 傍で成行きを見守っていたシラーが小さな声で返事をした。
「ラリマを呼んできて」
 シラーは少し驚く。
「同性で年齢が近い方が喋るかもしれない」
 シラーがラリマを呼んでくるとシプリンは一度尋問室を出た。
「ハートフィールドの尋問をお前に任せてみようと思う」
 ラリマは背筋を伸ばす。
「ラリマあまり緊張しなくていいからね。シプリン局長が厳しく尋問したから高圧的ではなくて優しくするのもありだと思うよ」
 シラーがラリマの緊張をほぐそうと優しくアドバイスをした。
「優しくするってどうしたらいいですか? 」
 ラリマは先輩に優しさを聞いた。シラーは助けを求めるようにシプリンを横目で見た。
「歌でも歌ってみたらどうだ」
「ちょっと局長! 」
 シラーが焦る。ラリマは自分の胸をばんっと叩いた。
「分かりました。私、小さい頃から歌は習わされていたのでレパートリーは沢山あります!絶対音感も持っているので!一回聞いた曲は忘れないというのが特技のひとつです。マーシー・ラリマやれるだけやります!」
 ラリマは八局室に入っていく。
「局長駄目ですよ。ラリマは融通が利かない真面目なんですからからかっちゃ駄目です」
「私がいつからかった? 」
「だって歌でも歌えって」
「……歌は駄目なのか? 」
 シプリンの顔は真顔だった。
「……あ、大丈夫です」

 ラリマに遅れ二人も八局室に入った。ラリマはすでに歌い始めていた。そのままずっと歌い続けた。ハートフィールドはその歌を子守唄に何度も寝ようとした。そのたびにラリマが起こした。そして歌い続けた。十五分経って、ラリマは歌うのをやめた。シラーは可哀想な子を見るようにラリマを見つめ肩を叩いた。
「戻っていいぞ」
「いや、あと一曲だけ……! 」
 ラリマは粘った。そしてどうしようかと考えていると、インデッセに行く特急列車の時、トイレの横でシズが歌っていた歌を思い出した。歌詞はめちゃくちゃな言葉にラリマには聞こえたがリズムは覚えていた。ラリマはやけくそにその鼻歌を歌った。するとずっと俯いていたハートフィールドが顔を上げた。ラリマは鼻歌をやめた。
「ビートルズ……」
「え? ビールズ? 」
 ラリマが聞き返す。
「違う! ビートルズ! お前なんでその歌知ってるんだ! 」
 ハートフィールドはラリマに掴みかかった。シラーがそれを止める。それでも構わないとハートフィールドは聞くのをやめなかった。
「その歌なんでお前知ってる!? 」
「え、あ、同期が歌っていたから……」
 ハートフィールドのあまりの勢いにラリマはたじろいだ。
「同期……? 」
 ハートフィールドは瞬きを何度もすると蹲った。
「おい! 」
 シラーが慌てる。
「眠い……」
 ハートフィールドはもう眠くて起き上がれなかった。
「ストレスのせいかもな。今日はもう終わりだ。続きは明日だ」
 シプリンが言うとハートフィールドは顔を上げた。
「そのビートルズを知っている人……」
 囁くような声で喋るハートフィールドにラリマとシプリンは近づいた。
「その人になら全てを話す。話せるかもしれない……」
「分かった。けどもう今日はお前喋る体力なさそうだから明日な」
 シプリンがそう言うと外から人を呼び、ハートフィールドを連れて行くよう指示した。八局室に三人は残った。
「ラリマ」
「はい! 」
 ラリマの声が裏返る。
「そのビートルズとやらを歌っていたお前の同僚は誰だ。話を聞きに行こう」
 ラリマは一呼吸置いて答えた。
「四局のカンダです」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...