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城人編
シズの休暇(生まれた場所)
しおりを挟むお土産はこれにしようシズは決める。遠慮なくクッキーをバグバグ食べた。
「そういえばさっきの狩人の話で思い出したんだけど、私達が生まれる前ぐらいに狩人みたいな恰好した旅人がスイド家に居候していたみたい。名前はアタカマと言うんだけど」
シズはむせた。
「大丈夫? 」
シズは紅茶を飲んで頷いた。不意打ち過ぎた。
「大丈夫。それで? 」
「苗字はないって。もしかしたら遊び人かもしれなかったって、お母さん言っていた」
「遊び人」が何か、シズは分からなかった。だが、聞けば話の腰を折りそうだったのでやめた。それよりアタカマの話が大事だった。
「ミトスが生まれる前日に来て、すぐに出て行ったって」
「なんで、スイド家に?」
「聞いた話じゃ、ミトスのおじいちゃんの知り合いだとか。インデッセから来たらしいとか。けどその人、は死んだらいしいわよ」
「死んだ? 」
「そう。なんか病気でね。生きているうちにミトスのおじいちゃんに挨拶に来たんじゃないのかな? なんかスイド家を出る時、来た時よりも身軽だったってステアのお父さんが話していたから」
「身軽? 」
「馬鹿でかいトランクを持って来たのに、帰りはそれを持っていなかったって。物を譲ったのかもしれないね」
アタカマは実在したがもうこの世にいない。そのアタカマの遺品がシズは気になった。
「どんな物を譲ったんだろうな」
「さあ。ミトス、青少年学校に行く時に家のほとんどの物を処分したのよ」
「え? 」
シズは驚く。
「全部よ全部。私達の知らない間に。ミトスが死んでから家の整理しようとしたらコイン一枚、ボタン一つなかったんだから。家具とかどうやって処分したのかしら、あいつ」
「何もなかったのか? 」
レアーメは大きく、頷く
「何も。何も残ってないなんて寂しいから屋根裏から隅々捜したけどただ埃が舞っただけ。あの家ひっくり返しても何もないわよ」
なぜそこまでしてミトスは家を空にしたのだろうと、シズは考える。
「何もない家ってとっても寂しいの。特に一度人が住んだ家はね。けどあれだけ片付けるってまるで自分の存在を消したいみたいだったわ」
夜になり、シズは明日発つ事をレアーメに伝えれば残念そうにした。そして朝バス停まで送ってくれると言ってくれた。夜ごはんは豪華だった。大きなピザのようなものが出た。根菜から菜っ葉、チキンがふんだんにのりトマトソースがかかっていた凄くおいしかった。
次の日らとステアがバス停まで見送ってくれた。
「来てくれてありがとう、シズちゃん」
そう言って、レアーメはお土産をシズに渡した。
「俺は寂しいよ。戻って来たミトスがいなくなるみたいで」
ステアは大泣きしながら、シズに抱き付いた。
「また来いよ! そしたらうちの畑見せてやるからよ」
「……来れたら来るよ」
そう言うのが、シズは精一杯だった。バスが来た。シズはバスに乗る。バスが走り出す。振り返れば二人はずっと、ずっと手を振った。窓を開けて身を乗り出し、シズも振り返す。見えなくなるまで振り返した。それで許して欲しかった。
フェナの街に戻って、行く時に親切にしてくれたおばちゃんがいた店に入った。
「ああ、あんた」
おばちゃんはシズの事を覚えていた。
「無事、ミモル村に行って帰ってきました。助かりました」
シズは礼を言った。
「そりゃよかった。もしかしてうちでお土産買ってくれるのかい? 」
店を見渡すとルルの入ったお菓子が沢山あった。
「そうさせて貰います」
ルルの入ったパウンドケーキ、チョコレート、クッキーをシズは棚からとる。
「ルルってここでしか育たないんですよね?」
「そうだよ。なぜかルル村でしか育たないんだ。ペタでも駄目だし、他の国でも試したらしいがすぐに枯れてしまうそうだよ」
「へえ。何でですかね」
素のままのルルもあった。ジャモンが料理に使うかもしれないと、シズは買った。
「何でだろうね。生まれた場所でしか育たないって事かね」
その言葉を聞いた瞬間ひとつの憶測がぬかるみのように、シズの目の前に広がった。広く深いぬかるみが。そのぬかるみに一歩踏み出す。ぬかるみにとられそうになる。
「あんた、そんなに買ってくれるならおまけしてあげるよ」
おばちゃんの声で、シズはぬかるみから足をひいた。そしてすぐその泥濘の憶測に背を向けた。
「じゃあチョコレートのがいい」
そんな訳ない。そんな事ありえない。シズはそう、信じた。
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