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城人編
密かな夜
しおりを挟むその日の夜、アザムはバライトとカルカに連れられ個室のあるレストランに連れて来られていた。
「ここは俺の知り合いがやっていてな、信用が置ける店だ。味も上手い」
バライトが自慢げに言った。アザムはスープを飲んだ。
「それで、研修どうだった ?」
カルカがアザムに尋ねる。
「研修というより遊んだ感じでしたね」
「まあ、それは言えてるな」
バライトも他国研修の経験があるのか、頷いた。そしてパンをスープにつけて頬張る。
「カンダが襲われたって報告が来たけど」
カルカが本題に移す。
「はい」
アザムはカンダが襲われた概要を報告した。
「たぶん、晩餐会でカンダの飲み物に何か薬が入っていたんだと思います。その後急激に体調を崩して。あれはちょっと異常でした」
「じゃあアザムはカンダ襲撃を計画的なものだって言いたいのね」
「おそらく」
アザムはバライトに頷いた。
「その理由はなんだろうな」
カルカか顎を触る。
「それは、分かりません。カンダに聞きましたが、思い当たる事はないと」
アザムが言った。
「隠しているかもしれないしね。他の九局がちょっと四局の動きが怪しいって」
「怪しいって、何かあったんですか、カルカさん」
「カルセドニーの事件知ってる? 」
カルカがアザムに聞く。
「少し聞きました」
アザムは頷いた。
「あれに何か裏がありそうなんだよね」
カルカがシャンパンで喉を潤す。
「一局と二局、そして八局も若干噛んでいるな。今度ハクエンにさぐりいれてみるか」
「バライト局長がハクエン局長にどこまでやれますかね」
カルカは頼りないと思った。
「お前って本当に意地悪いよな。それでアザム、言いたい事はなんだ」
「え? 」
アザムにとっては藪から棒に、バライトから話を振られたようなものだった。カルセドニーの事件についてはあまり知らない。言いたい事どころか言える事もなかった。
「その件に関しては何も知らないので……」
「カルセドニーのことじゃないよ、アザム。カンダ襲撃の方だよ。さっき頷いた時微妙な顔しただろう? 」
バライトは気が付いていた。アザムは思わず自分の顔を触った。その様子にバライトはゲラゲラ笑った。アザムは気まずい顔をした。
「けど、証拠がありません。私の勘で、憶測です」
「憶測でいいから話してみな」
カルカも促す。アザムは少し覚悟を決めて口を開いた。
「カンダ襲撃の黒幕はヨール王だと思います」
バライトとカルカは動きを止めて、アザムを凝視した。アザムはここまで言ったならと、二人の視線に負けじと持論を述べた。
「まず他国研修で研修に来る城人を指定してくるのはやはりちょっとおかしいと思います。それにヨール王が黒幕であれば晩餐会でカンダに薬を飲ませるのはたやすいです。会場を一回りしましたが結構な警備態勢でした。外部からといより内部に犯人がいるという方が納得がいきます。それに、」
「それに? 」
バライトが続きを急かす。
「カンダは学生の時から、周りをやけに気にしています」
「気にしている? 」
カルカが聞き返す。
「はい、急に後ろを振り向いたかと思うと走り出したというのを青少年学校の時に見たことがあります。その時は変な奴としか思いませんでしたけど、今回研修を共にしていると結構気を張っているんです。そしてほっとしたような顔をするんです」
「それは誰かに見張られているってことか? それか何かから逃げているか? 」
アザムはバライトに首を振った。
「そこまでは分かりません。あと、カルカさんに言われて子どもの頃話とか引き出そうとしましたが、ごまかされました」
「そうか。けどアザムの話を無理矢理繋げると、カンダはヨール王から狙われていて、それから逃げているってなるな」
カルカが話をまとめるとあまりの壮大さにアザムは顔を苦くした。
「そう聞くとやっぱりありえませんね」
「いや、ありえないからと切り離すのはまだ早いよ、アザム君。それに」
バライトはスプーンでアザムを指した。
「やっぱり、シズ・カンダには何かがあるって事は間違いなさそうだな」
カラミンは路地裏で身なりの汚い男から紙を受け取った。そして札を数枚男に渡すと路地裏を出た。
「危なそうな情報屋だな」
カラミンが振り向くと、眉間に皺を寄せたオドーが立っていた。
「オドー! 何、残業? こんな時間にこんな所で会うなんてさ」
「おお、残業だ。お前は定時退社で三局の女とデートじゃなかったのか? 」
「ああ! 忘れてた! 」
カラミンが頭を抱える。その指の間にあった紙をオドーは引っこ抜いた。
「ちょっと!」
「アルガーの事か」
オドーがカラミンを睨めば、カラミンは眉を下げて、紙を取り返した。そして壊れた腕時計を一瞥する。
「トイサキレウさんは九十七期生の悲劇の前に、熱心にアルガー塾について調べていた。だから調べれば何かに繋がると思う」
「四年経って何か掴めたか」
「アルガーって奴はなかなかのやり手だよ。この俺に証拠を掴ませないとはね」
負け惜しみもいい所の冗談だった。
「セッシサン副局長が見て見ぬふりしてんの分かってんだろ? 九局にばれる前にやめろ。局長に迷惑かけるぞ」
カラミンは頷かなかった。オドーはカラミンの襟元を掴むと乱暴に引き寄せた。
「お前まさか、自分の部下にこの事手伝わせてないよな? 」
低いドスを効かせた声でオドーは問いただした。カラミンは目を丸くする。
「部下って、カンダとカザン? そんなことする訳ないよ」
オドーはカラミンの目を三秒睨み、手を離した。
「じゃあやめさせろ」
「え? 」
「あの二人も九十七期生とアルガーについて調べてる」
「え! 」
「たまたま聞いた。階段で話していた。少しだけだがな。カンダは前ベリニが言っていたように、双子の片割れを捜しているのかもしれねぇ」
「カザンはお兄さんが九十七期生だからね。そしてアルガー塾生」
カラミンが夜空を見上げた。
「釘を刺しておくよ。教えてくれてありがとう。オドー」
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