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城人編

インデッセで療養

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「大丈夫だよ。なんだお前挙動不審だな。なんか気持ち悪いぞ」
「気持ち悪い!? 」
 ラリマがショックを受けた。
「何が気持ち悪いだよ! 普通心配するだろう?! 君は襲われたんだよ」
「覚えてるよ! だからムカついてんだろうが! 」
突然、シズの身体が少し浮いた。すぐに首根っこを誰かに掴まれたのが分かった。
「セドニ副局長! 」
「ラリマ、ご飯食べろ。このアホは俺が部屋に戻しておく」
「アホ!? 」
 アホ呼ばわりに叫んだシズをセドニは食堂から引きずり出し、階段を無理矢理上らしてベッドに放り投げた。
「おい! 」
「今日は部屋で大人しくしとけ。朝飯はあとで運んで来てやる」
「ああ?なんでだよ」
「ラリマの心配を分かってやれと言っているんだ」
「だから大丈夫だって」
「お前を見つけた時、お前のシャツは破れていたんだ」
 セドニが若干躊躇いが入った口調で鋭く言った。ああ、そういうことかとシズは納得した。男に襲われた女。
「シャツをひきさかれただけです。別に平気ですよ」
「周りが平気じゃないんだ。今日は部屋から出るな。大人しくしておけ。走りに行ったりするんじゃないぞ! 」
 きつく言い放って、セドニはドアをバタンと閉めて出て行った。しばらくすると、食事を持ってシラーがシズの部屋に来た。
「このお花、ヨール王からのお見舞いだよ」
 そう言って、ベッド脇の棚に置かれた花を指さした。昨日はここに花はなかった。ガラスの花瓶にピンクと白の花が生けてある。
「はい、ご飯」
「ありがとうございます」
 シラーが持ってきた朝ご飯は雑炊だった。鶏肉も入っている。
「昨日やっぱり一緒に帰ればよかったね」
 シラーがお茶をつぎながら申し訳なさそうに言った。
「いや、私が一人で帰れるって言ったんで。それにあれは、事故みたいなもんですよ」
「ははっ。君は強いな」
 シラーが淹れてくれたお茶をシズはすする。一つ気になることがあった。
「そういえばなんでセドニ副局長は来てくれたんですか?」
 あの頃まだ晩餐会が終わってなかった。
「ああ、私がセドニさんにカンダが体調崩して帰ったと伝えたら、一応見て来るって。君は問題を起こしようがない所で問題を起こすからって。他国だから余計に気が抜けないとね」
 シラーは少し笑った。心配ってそっちの心配か、とシズは苦笑いした。けれどおかげでたすかった。
「けど、結果良かったよ。それよりカンダ。相手について何か一つでも覚えている事はないかい? 」
 覚えている事。仮面。全身黒だ。あと、十字の傷。相手は右手にナイフを持っていた。そのナイフを持っている方の腕の袖を、シズは引きちぎった。十字の傷は右腕にあった。カルセドニー工場の事件時に出てきたユオ・オーピメン。
「カンダ? 」
「あ、いや。色々思い出そうとしたんですけど、仮面以外、ちょっと……」
「無理することないよ。ゆっくり休みなよ」
 シラーが部屋を出て行った。あの仮面の男がカルセドニーの工場の事件と関わっているのなら、襲われた理由はそれかとシズは考える。あの事件は銃の事が絡んでいるからごく一部しか知らない。いくらシラーでも言わない方がいいとシズは判断した。ここにいる人間全員にも言えない。けど他国で襲うか? しかも自分みたいな下っ端を。けど、脅しにはなるか。もしかしてユオ・オーピメンはインデッセの人間なのか? じゃあ、インデッセの人間がアベンチュレの人間に銃を製造させようとしたって事か。それってかなりなんか、メンドクサイなとシズは使い過ぎた頭を抱えた。
「考えるの面倒だから二度寝しよ」
 昼はラリマが玉子サンドイッチと野菜ジュースを持って来た。そして朝の事をシズに怒った。そして夜はアザムが来た。夜は白身魚に何かよく分からない美味しいソースがかかっていたものだった。
「ありがとう、アザム」
 アザムからシズは食事を受け取り食べる。アザムは椅子を持ってくるとベッドの横に座った。すぐ帰ると思っていたシズは少し驚いた。
「どうかしたか、アザム」
「カンダが気持ち悪くなったのは食べ過ぎが理由じゃないと思う」
「え? 」
「カンダが気持ち悪くなったのって飲み物飲んでからじゃない? 」
「飲み物? 」
「給士人が君にだけくれたでしょ。ラリマには渡さなかった。普通ああいうちゃんとした所での給士人がそんな気がきかない訳がない」
「お前その時近くにいなかったよな? 」
「バルコニーから見てた」
確かに気持ち悪くなったのは、シズがあれを飲んだ後だ。
「じゃあ、あの飲み物に薬かなんか入っていたってことか?」
「かもな」
「けど、なんで」
「ヨール王と同じ物好きとか」
「おい」
 アザムがじっとシズの顔を何か言いたげに見た。
「なんだよ」
「いや。君は何か思い当たることないの? 」
「何かって」
 やっぱり、カルセドニーの事件の事か。他にあるとしたら、カーネスかもしれないとシズは考える。カーネスが自分を捜しているシズに気が付いて痛い目に合わせようとした。けれどあの仮面の男とカーネスの動きは全然違った。背丈も違う。カーネスの方がもう少し高い。
「分からん」
 シズはアザムにそう言うしかなかった。



「あの薬飲まされてそれだけ動けるって凄いね」
 ヨールは楽しそうに笑った。
「申し訳ありません」
「いいよ。今回はあわよくばだったから。本当の目的はあれをあいつに渡す事だったからね。それであっちで完成させれば、目的にまた近づく。焦る事はないよ。焦るのはよくないからね」
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