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城人編
九十七期生の悲劇(洗脳)
しおりを挟むそれからずっと毎日アルガーは戦争の話をした。それらはすべて、ルバ達が戦争をする前提の話だった。アルガーは生徒達に優しくアドバイスをするような感じだった。スフェンをはじめとする生徒は皆、将来戦争をするために城人なるといつの間にかそれが最初からの「夢」だったかのようになっていた。そこでルバは気が付いた。これは洗脳だ。スフェン達はアルガーに洗脳されている。そのことにルバ以外気が付いている人間はいないが、周りをこっそり監察したり、話したりしたが駄目だった。ルバ以外もう「一心同体」になっていた。それはもう共依存だった。特にスフェンはリーダーになっていてアルガーに心酔していた。ルバは何度もスフェンにそれとなく皆が危ない方向にいっているんじゃないかと話した。そのたびにスフェンは笑った。
「本当に心配性だな、ルバは。大丈夫俺達がいるじゃないか。お前の心配は俺が補う。皆で補う。アルガー先生だっている。この世界のためにどうにかするのは俺達しかいないんだ。しっかりしろ」
違う。そうじゃない。ルバが真剣にそう言っても周りは笑うだけだ。もう元凶をどうにかするしかないとルバは思った。秋になった頃。アルガーはいつものように戦争の話をした。ルバは手を上げた。
「ルバ、どうしましたか? 」
「質問いいですか? 」
「どうぞ」
「アルガー先生は次の戦争で俺達が世界を変えられるって本当に思っていますか? 」
周りはまたルバの心配性が始まったと笑いだした。アルガーは優しい微笑みを浮かべたまま頷いた。
「あなた達全員がひとつになれば、国も世界も歴史も全て、正しい方へ持っていけると先生は思いますよ」
「国とか世界とか歴史なんてでかいものを本当に俺達がどうにかできると思いますか? 百年経っても難しいと俺は思います」
しんとなった。そしてスフェンが口を開いた。
「お前、俺達が信じられないのか? 」
ルバはスフェンを見た。その眼は異物を見る目だった。その空間でルバは異物だった。一心同体になれない異物。依存しあえない異物。
「私達にできないわけがないでしょ、ルバ」
同じ目で他の生徒にもルバは見られた。違う生徒がまたルバに言葉を投げつけた。
「僕達は正しい考えで世界を守ろうとしているんだよ」
「戦争するのが何が正しい考えだよ! 戦争が何かお前ら分かってんのかっ! 」
思わずルバが怒鳴る。
「ルバ、君は戦争を分かっているというのかい? 」
アルガーが微笑んだまま優しくルバに問いかけた。その微笑みはルバの心臓をえぐるようだった。
「君は戦争を知らないだろう? 見たこともないだろう?感じたこともないだろう? 戦争に恐怖したこともないだろう? ルバ、君は潜在意識で恐れているだけですよ。生まれてきて育った環境で戦争は悪い事だと刷り込まれているだけです。戦争について何も知らないのに」
正論だった。けどルバも引き下がるわけには行かなかった。
「俺は、戦争よりこのままの平和がいいです」
そう言えばアルガーは高笑いした。心からルバが滑稽だという笑いだった。そして言った。
「今の平和に価値はあるか? 」
あるとルバは叫ぼうとした。
「ないです」
そうしたらスフェンがきっぱりと言った。
「こんな中途半端な平和に価値はありません」
「何言ってるんだよ、スフェン! 戦争は人が無意味死ぬんだぞ! お前の家族だって、サルファーだって死ぬかもしれないだぞ! 」
スフェンは鼻で笑った。
「そんなヘマするかよ。死なせる無意味な人間ぐらい俺達ならちゃんと選別できる」
平然とつまらなそうにスフェンは言った。遅かった。アルガーの恐ろしさに気が付くのがルバは遅かった。ここにいてスフェンひとり引き戻すのも無理だという現実が、ルバを叩きつけた。それからルバは別室でアルガーに監禁された。
「君の事は最初から危険視していました。ルバ、君は孤児でしたね」
「……それがどうかしたかよ」
「父親は失踪。母親も他の男を追いかけていなくなった。人間を信じにくい環境ですね」
「そうかもしれないな。そのおかげで俺はお前に洗脳されずに済んだ」
ルバは喧嘩を売ったが軽くあしらわれた。
「君は迫害しなければいけませんかね」
「迫害? 」
「有害物質はここにはおけません」
「殺すのか? 」
「そんなことするものですか。普通に出て行って貰います」
「……俺が他の奴らに話すかもしれないぞ」
「話せばいい。私はやましいことなんて何もしていない。だからあなたも殺さない。ここの生徒達はあの難しい入塾の試験に受かった子達です。そんな優秀な子達です。私達と優秀な塾を追出された孤児。どっちが信用されるか難しい試験に通った君なら分かるでしょう」
ルバを殺して口封じをすれば怪しいことをしていることを認めることになる。死はどんなに隠しても綻びになる。だからアルガーはあえて、ルバを生かした。有害になれるほどルバは証拠を見つけておらず、力もなかった。
「出てくよ」
「……そうですか」
「けどこのまま引き下がると思うなよ」
ルバはアルガーを睨んだ。アルガーは痛くも痒くもなさそうだった。
「お前の化けの皮はがしてやる」
「化けているなんて、酷いですね。私はありのままですよ」
そうからかうアルガーの足元に、ルバは唾を吐き捨て、アルガー塾を出た。それからルバは考えてとりあえず城人にはならなくてはいけないと思った。アルガーから離れた青少年学校だったらスフェン達を取り戻せるチャンスがあると。それからは独学で勉強して試験を受けた。試験の時にスフェン達はルバに軽蔑の眼差しを送っていた。ルバはしんどかったけど、逃げるつもりはなかった。そして無事に試験は合格してアオクラスに入れた。寮でアルガー塾の奴と同室じゃなくて安心した。そのルームメイトがミトス・スイドだった。
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