【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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城人編

九十七期生の悲劇(不穏なアルガー塾長)

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 十四歳の三月にルバとスフェンは二人そろって入塾試験に合格し、アルガー塾に入った。
 ダイオ・アルガー。それが奴の名前だ。確かな年齢は誰も知らない。三十代後半に見えた。ブロンドの髪でいかにも紳士って男だった。元城人で早期退職して塾を開いたと自分では言っていたけれど、本当のところは分からない。
 アルガー塾には七十人ぐらい生徒が入った。アベンチュレ青少年学校の定員は毎年だいたい九十人前後で、全員合格すれば八割アルガー塾生だ。実際そうなった。
ルバも塾に入った頃はアルガーをいい先生だと思っていた。授業は凄く分かりやすかったし、怒ることがないとにかく優しい先生だった。アルガーも七十人という大人数の生徒ひとりひとりを名前で呼び、ちゃんと見てそれは細かく褒めた。当時ルバはそれがとても嬉しかったけど、今思い返せば気持ち悪かった。とにかく異常に大げさに褒めてくる。けれどそれがしらじらしくない。ちゃんと胸に落ちてきて自信になった。入塾して一か月経つ頃には皆、アルガーを素晴らしい先生として尊敬していた。

「皆さんはひとりひとり本当に素晴らしい人間です。それぞれの良さがあります。それでもこれだけの大人数での寮生活で寝食を共にしていると劣等感や競争心が働くこともあるでしょう。それが悪いことだとは思いません。自分の悪い所に気が付くこと、負けたくないと思うこと学習する人間としてはとても素晴らしいと思います。けれどこれだけ城人になるという同じ目的を持った仲間がいるのです。皆、同じ所を見ているのです。それならお互いの悪い所は補い合い、共に一歩一歩進んで行く方があなた達は今よりずっと賢く強くなれると先生は常に考えています」
 アルガーはこんなことを毎日話した。けれどルバは、アルガーがいい先生だと思っていたけれど、その言葉をいつも少し冷めた気持ちで聞いていた。みんな一緒に進むなんて気持ち悪い。みんな同じなんて無理だ。俺は競争したいし、負けたくない。生まれつきのひねくれと負けず嫌いのおかげで、ルバはまともを保てていた。
アルガーは生活用品をそれぞれに揃えることはしなかった。例えばタオルの枚数はいつもぎりぎりだったから考えて使わないといけなかった。食器も足りてなくて基本大皿を数人でつついた。ペンのインクも支給だった。二人でひとつ。足りなくなれば他の奴らが当然のように分けてくれた。アルガー塾での生活は多くもの共有していた。その生活がより一層俺たちの仲間意識を強くさせた。
 小さいけど変化が起きたのは、入塾して六か月経った残暑での授業だった。授業内容は十二年戦争についてだった。その日のアルガーはいつもと違った。教室の空気を張りつかせていた。
「……これが十二年戦争の概要です。さあ、スフェンこの戦争についてどう思いますか? 少しおかしいところはありませんか?」
 そのアルガーの質問は「十二年戦争は絶対におかしい」と言わんばかりのものだった。教室の空気が少し揺らいだ。
「おかしいところですか……? 」
 塾生トップのスフェンもこの質問の答えに困っていた。
「この戦争は無理矢理終結させた。そんな風に思いませんか? 」
 アルガーがそう言えば確かにそうかもなとルバも思った。周りの奴らも同じことを思ったようだった。ベグテクタがオードに全てを譲り、インデッセが神を手放した。あっさりし過ぎだといえばそうだった。
「ベグテクタがオードに銀山を譲ったことは百歩譲って納得しましょう。けれどインデッセがそう簡単に神を手放すでしょうか? 人は空からくるものをとても恐怖に思います。どうしようもないからです。そんな最強兵器をやすやすと殺すと思いますか? 」
 口調は穏やかだったが、過激内容にルバは怖さを感じた。周りにそれを感じている奴を捜したが、皆一心にアルガーを見ていた。それを見てルバは、またぞっとした。
「では、先生はインデッセにまだ神はいるとお考えなのでしょうか?」
 スフェンがアルガーに問う。アルガーは微笑んだ。
「もしかしたら、ですがね。私の個人的な考えです。そしてこの個人的な考えがもし当たっていたならば、この世界にはまだ戦争をする可能性が眠っているということになります」
 生徒達が息を飲む音が聞こえた。
「十二年戦争は無理矢理に終結させました。だから中途半端に終わっています。きちんと終わっていないのです。それなら正しく終わらせて正しい世界を創りなおすべきかもしれませんね」
 授業が終わった後、ルバはスフェンに話しかけた。
「スフェン、アルガー先生の言っていたことどう思う? 」
 スフェンは顔を歪めた。露骨な嫌な顔だった。その反応にルバは戸惑った。
「ルバ。お前何を言っているんだ。」
「何って」
「アルガー先生の考えだぞ?間違いなどない。神はまだいるんだろう」
 スフェンは迷いなく言い放った。ルバは絶句した。
「次の戦争がくるってことは、やられるまえにやれってことか? 」
「神を殺さなきゃいけないからな。いや、奪った方がいい」
「戦争ってどうやって起こすんだろう? 」
「四ヵ国条約があるからな。まずそれをどうにかしないと」
 アルガーの考えを信じ、この先戦争が絶対にあると信じて真剣に語り合っていた。迷いがある生徒はルバ以外いなかった。
「ルバ。お前もなんか考えを出せ。このままじゃアベンチュレももしかしたら神にやられるかもしれない。俺達は一心同体だ。みんなで考えよう」
 おかしい。ここはおかしい。スフェン達もおかしくなっている。それにルバは気が付いた。なぜ、こんなにアルガー事が信じられる? 生徒達のアルガーの気持ちはたった六か月で尊敬を越えて崇拝になっていた。
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