【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
64 / 241
城人編

月夜の魔の手

しおりを挟む

 サファ王子がシズを見上げる。少し悩んで正直に言った。
「ありますよ。誰も信じてくれなさそうな大きな秘密が」
「それはお前だけの秘密か? 」
「いや、私の育ての親は知っています。あと二人ぐらい」
 ジャモン。それとカーネスとドッペルゲンガー。
「なぜそのことを秘密にしている?」
「誰も信じてくれなさそうだからですよ。下手すりゃ頭のおかしい人だと思われる」
「それを私に教えてくれないか? 」
 サファ王子の瞳は切に願っていた。秘密が欲しい。子どもじみた悩みだ。けれどこの子は切実だ。秘密があれば、この子は少し今の不自由に耐えられるのだろうか。シズは考える。
「本当にふざけた内容ですよ。王子は馬鹿にされているってきっと思う」
「思わん」
 サファ王子は言い切った。
「私を信用できないのか? 私は子どもだから信用できないか? 」
 この子は誰でもいいから信じて貰いたいのか。信じてもらえないことにふてて逃げているのか。
「……じゃあ信用します。誰にも言わないでくださいね」
 からかうなと怒られることを予想して、シズは言った。
「私、この世界の人間ではないんですよ」
 サファ王子の顔は見ないまま話を続けた。
「こことは違う世界で生まれ育ったんです。そしてある日理由も分からずこの世界に連れて来られました。それで、元の世界に戻るために今色々調べています」
 サファ王子は黙ったままだった。怒ったと思って、シズは王子の横顔を見る。怒っているよう様子はなかった。
「ほら、ふざけてるでしょう? 」
「でも、本当なのだろう」
 シズはぎょっとした。いくら子どもでも信じるとは思わなかった。
「信じるんですか? 」
 サファ王子は頷いた。
「王子、もう少し人を疑うことを覚えた方がいいですよ。こんな所に私を連れて来たりとか。私が悪い奴だったら王子攫われちゃいますよ」
「城には嘘つきが多い。本当のことを言っている者の見極めぐらいはできる」
 サファ王子はしっかりとシズを見つめ返した。反発していても少しずつ環境を受け入れようとしている。
「どうやってこの世界に連れて来られたんだ? 」
「私とそっくりな奴にキスされて気絶していたらいつの間に」
 サファ王子は顔を真っ赤にした。
「嫁入り前なのに接吻をしたのかっ! 」
「接吻っ! 」
 そんな言葉が子どもから出るのはおかしく,シズは我慢できずにゲラゲラ笑った。サファ王子は怒った。
「お前、笑い事ではないぞ! 心を通わせてもいない者同士が口づけを交わすとは、」
「いや、もう、いいです。ありがとうございます。それより私が女だって分かってたんですね。よく間違われるんですけど」
「ガサツそうに見えるが女だってことぐらい分かった」
 意外と子どもの方が人の本質を見抜くのかもしれないとシズは思った。男とか女とか。善とか悪とか。
「それで、話の続きは? 」
「ああ。それで私をこっちに連れてきた犯人は私のそっくりさんの他にもう一人いましてね。そのもう一人を捜すために城人になる勉強をしているんです」
「そうか……」
 サファ王子はどこか嬉しそうだった。
「そうか。心配するな、秘密は守るぞ。私は王子だ」
 そう屈託なく笑った。素直な可愛い子だとシズは笑みを零す。
「お前だけに秘密を言わせるのはよくないな。それこそずるい。よし、私もお前に秘密をあげよう」
 秘密の交換がしたいサファ王子が胸を張った。
「ぜひ」
「この国の者の誰にも言ったことがない秘密の話だ。絶対に秘密だからな」
「分かってますって」
 子どもの話だけれど、シズは少しワクワクした。サファ王子は周りを見渡し誰もいないことを確かめると私に顔を寄せた。
「私が七歳の時のパーティーでこの秘密を教えて貰った」
「王子は今おいくつで?」
「九歳だ」
 二年前の話。
「その時、インデッセの王が来国していた」
 インデッセの王。シズは嫌な記憶が蘇り頬を引きつる。
「インデッセの王の叔母も来られていて私に秘密のおとぎ話をしてくださった」
「秘密のおとぎ話?」
「リチという姫と銀の妖精の話だ。滞在中、何度もしてくれた」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...