【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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城人編

月夜のパーティー

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エンス王と一局長のアンブリはインデッセ城の客間に宿泊する。シズ達城人五人はインデッセ城の近くの宿に泊まる。城に近くあるせいか広く清潔感のある綺麗な宿だった。
「前髪伸びたな」
 シズは部屋の鏡の前で髪を整える。前髪切りたいが鋏がない。仕方ないから横へ押さえつけるように流していると部屋の扉がノックされた。
「カンダ、もう時間だ。みんな待ってる」
 アザムが呼びに来た。
「すぐ行く」
 椅子にかけていたジャケットに袖を通しながら部屋を出る。
「お前、ベストは? 」
「あ」
 本来ジャケットの下にベストを着なければならない。けれど,シズは邪魔くさくて仕事中も着ていない。(リョークも。それ以外の同期はみんなだいたい着ている)持ってきてはいたがいつものクセで、シズは着るのを忘れた。晩餐会のようなフォーマルな場所でベストを着ていないのはマナー違反だ。
「もういいや。ジャケット脱がなきゃばれねぇだろ」
「暑くなったらどうするの? 会場暑いと思うよ」
 アザムに言われ部屋に戻ろうか考えたが階段下からセドニの声が聞こえた。
「お前ら、早くしろ」
「はい! もう我慢する」
 シズはジャケットのボタンを首まで留める。
「君のそういういい加減なところ、羨ましいよ。俺にはできないからね」
 アザムは呆れる。
「そりゃどーも」
シズとアザムがセドニ達と合流し、城へと向かう。
「おい、カンダ」
 セドニが顔だけ振り向いて、シズを呼んだ。
「なんっすか? 」
「あまりヨール王と話すなよ。いくらヨール王の器が大きいと言っても下手をすれば国際問題だ。粗相がないようにと注意をしたいところだが、お前には難しそうだ。だからもう近寄るな」
「わかりましたぁ」
 シズは言い返すのもめんどくさい。
「アザムとラリマよく見張っとけ」
「任せてください! 」
 ラリマが胸を張る。
 晩餐会は大広間で行われ、立食パーティー形式だった。それはもう煌びやかで明らかで、シズはじぶんが場違いだと思った。見えていないのにベストを着てこなかったのが、心苦しい。アザムの言うこと聞いておけばよかったと、後悔する。シズが周りを見渡すとヨール王とエンス王が話していた。ヨール王は黒い服で身を包んでいた。付き人もだ。よく見れば周りの客のほとんどが黒服だった。
「晩餐会って晴れやかな場所ってイメージだけど皆ドレスとか黒いな」
「それはヨール王の叔母が三か月前にお亡くなりになったからだ」
 シズは隣のラリマに言ったつもりだったが答えてくれたのはシラーだった。
「インデッセでは王族の方が亡くなられると十ヶ月は公の場では黒を身につける風習なんだ」
「十ヶ月も? 」
「長いよね。私達も制服が黒くて良かったよ!変に目立たないしね。ほら、君達せっかくの豪華な料理だ。沢山食べて帰ろう」
 シラーに続き皿を持って、美味しそうな物は全て皿に盛って、シズは壁際に移動した。王の叔母。ベグテクタのサファ王子にあのおとぎ話を教えたのもヨール王の叔母だったことをシズは思い出した。そうか、あの人が亡くなったのか、としみじみする。
「盛りすぎだろう。君、ちょっと上品さが足りないよ」
 セドニにシズの見張りを任されたせいか、ラリマがシズにひっつきまわってくる。アザムの姿はない。
「アザムは? 」
「さっきバルコニーの方へ行っていた。料理食べないのかって声はかけたけど食欲ないって」
「へぇ」
 シズはがつがつと肉を頬張った。シズが会場を見渡していると、ヨール王を見つけた。雪髪は目に付きやすい。挨拶をしているようだった。紳士らしき男は掌を口元に持っていき、その手でヨール王と握手をしていた。次に挨拶をした婦人も同じ所作をしていた。
「あれ、なんだ? 」
「あれ? 」
 シズの視線の先が分かるとラリマはああ、と言ってトマトを飲み込んだ。
「インデッセの人間が王に対する挨拶だよ。インデッセの人間は口から少しずつ魂を出して生きているという考えを持っている。だから掌を口元に持っていく動作で『私の命はあなたのために』っていう尊敬というより忠誠を表しているんだ。インデッセは他国に比べて王に対する敬拝が強いからね」
「さすがだな」
「まあ、インデッセには留学していたからね。ちょっと詳しいんだよ」
 シズが少し褒めるとラリマは鼻高々な様子だった。こいつすぐ調子乗るなと、シズは煮込まれた鶏肉を頬張る。うまいけれど、シズは食べてばかりで喉が渇いた。
「マッシュ、飲み物ってどこに、」
「こちらに」
 声のした方をシズが見ると給士人らしき男がいた。そしてグラスを差し出された。
「さっぱりした飲み物です」
 給士人の男は微笑みを浮かべる。
「あ、ありがとう」
 グラスを受け取り、シズは一口飲む。柑橘系で少し炭酸が効いていた。
「うまい」
「あいつ僕にはくれなかった」
 ラリマが唇を尖らす。
「一口飲むか? 」
「いらないよ! 」
 マッシュは顔少し赤らめてどすどすと自分で飲み物を取りにいった。ウブだなと、シズははグラスの中身を一気に飲み干した。
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