【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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城人編

インデッセ王都アルマ

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アベンチュレ城の王子執務室にアンドラの声がひとつ響いていた。アンドラは受話器を耳にあて困ったように笑った。
「シズ・カンダを指名してくるとはな。まあ俺がインデッセの王の立場でも同じ事をしたがな。他国研修はいいに理由できる。指名を断るとやましいですと正直に言っているようなものだからな」
 湯気が消えた珈琲をアンドラは一口含んだ。
「シズ・カンダはミトスとは血縁者ではなさそうだということだな? だということはあの顔は本当に偶然か。恐ろしいな」
 運命を嘲笑するようにアンドラは鼻を鳴らす。
「けれどまあ、インデッセの王が目を付けている今はシズ・カンダも危ない分子だ。どうにかしないとな。念押しに言っておくが、九十七期生の悲劇のようなことになるのはもう二度とごめんだ」

 三日半の列車生活を終えて、シズ達はインデッセ王都アルマのホームに降り立った。
「あー! 走りたい! 」
 シズは思わず声を上げた。
「おい、やめろよカンダ。叫ぶな、はしたない。アベンチュレの品格を落とすようなことはしないでおくれよ」
 ラリマがぐちぐち注意する。シズはラリマとアルマって似てなとどうでもいいことを考えて、ラリマを無視した。今日からインデッセの王都アルマで二泊三日の滞在となる。
「おい、さっさと行くぞ」
 セドニが眉間に皺を寄せてシズ達を急かすと先を歩く。シズはその背中を眺めた。この三日半の列車生活の間、いつもまとわりつく視線を感じなかった。監禁状態に近かった列車では監視する必要はなかったということかとシズは考える。
「ヨール王の謁見が終わったら君達は街散策だ。羨ましいよ」
 シラーがそう言ってラリマの肩を叩いた。他国研修の一番の目的は「次世代の育成」だ。一年目の新人城人は他国の日常生活に触れて、世界を学ぶ。
「あーあ。インデッセの王様も他国訪問前期組だったら謁見なかったのにな」
「カンダ! そういうこと言うな! 無礼だぞ! 」
 シズはまたラリマに怒られる。他国研修は一週間ずらし、前期組、後期組に分かれる。今年の前期組はアベンチュレとベグテクタ。後期組はインデッセとオードだ。(アベンチュレはインデッセ。ベグテクタはアベンチュレ。インデッセはオード。オードはベグテクタを訪問する)訪問してきた王は可能ならばその国の王子が城内案内をすることになっている。これも「次世代の育成」の一環だ。けれどインデッセにはまだ王子がいないため、ヨール王子が城内案内をするしかない。また、ベグテクタのドノ王子もまだ幼い。あの我儘王子も五年もしたらその役割が来るのだとシズはしみじみする。

 アルマの駅を出るとインデッセの城人が車で待っていた。やはり一国の王が来るとあってきちんとしている。アベンチュレの制服は濃いベージュのブレザーで、それに膝までのマントとはおっている。マントの裏地は深紅色でお洒落だ。けど暑そうだ。けれどインデッセは冬が長いそうだからそういうのがついているのかもしれない。制服のボタンとブーツは茶色だ。
 シズ達は車に乗り込み城まで運んで貰う。アザムは相変わらず冷静で、ラリマは明らかに緊張していた。
「お前緊張してんのか? 」
「あ、当たり前だろ! 」
「王様なんてカボチャって思えばいいんだよ」
 シズは小さい声で教えてやる。
「アホか! もう黙ってろよ! インデッセの城人に聞こえるだろうが! 」
 城へ付き、大間に案内され、横一列に並んで待つと、雪髪の王様が颯爽と現れた。傍らには去年もいたシメント色の髪を束ねた付き人がいた。ヨール王はエンス王の前で足を止めた。
「はるばる遠くからようこそお越し頂きました。大変お疲れでありましょう」
 丁寧な口調の歓迎と労い。エンス王へ握手を求める手を差し出す仕草まで洗練されている。エンス王が「重厚」なのと反し、ヨール王は「上品」だった。エンス王とヨール王がいくつか言葉を交わすとヨール王は横へずれて握手をしていく。この流れだと全員とするのかとシズは焦る。掌汗かいてるかもと、制服で拭いた。シラーはシズから見るととても緊張しているようで、恥ずかしそうに鼻をかくと照れ笑いをしながら握手をしていた。セドニとアザムは涼しい顔だった。。声が裏返った緊張マックスのラリマと握手を終えるとヨール王は、シズの前に立った。
「やあ、久しぶり。シズ・カンダ君」
 旧友に再会したかのような軽い口調だった。
「お久しぶりです」
 きちんとした場所はシズには胃が重たい。
「また会えて嬉しいよ」
「光栄です」
 本当は気まずさしかないシズの心なんて知らず、王は微笑む。
「今夜の晩餐会で会えるのを楽しみしているよ」
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