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城人編
特急列車アルマ行き
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「九十四、九十五、九十六」
ベッドにシズは両足を置き、腕立て伏せをしている。ここは特急列車の二等車の一室で、インデッセの王都アルマへ向けて走っている。
「九十七、九十八、九十九、百!」
ベッドから足をおろして仰向けに寝っ転がった。
「ヒマダ」
ペタからアルマまで特急でも三日半かかる。ただいま二日目でまだ一日半残っている。じっとしているのはシズにとって拷問だった。走り回りたかった。
「トイレいこ」
シズは起き上がり部屋を出る。女だからと一人部屋が貰えた。二等車ってこともあって綺麗で、快適だった。トイレに行くと扉に使用中の札がかかっていた。部屋に戻るのもな、と思い壁にもたれかかり走る景色を眺めながら、シズはトイレが空くのを待った。バンドで歌ったビートルズの歌を無意識のうちに口ずさんでいた。気持ちがのってきた時に乱暴にトイレの扉が開いた。
「トイレの前で歌うなよ! 」
出て来たのはラリマだった。
「あ、悪い。気が散ってふんぎり悪かったか? 」
「お前そういうこと言うなよ! 人間としてデリカシーがないぞ! 」
が顔を真っ赤にして怒る。
「はははっ!元気いいなぁ、君達」
「シラーさん!」
ラリマが背筋を伸ばす。七局員のラブラド・シラーが片手を上げた。ラリマの直属の上司だ。鈍色の髪で前髪は少し長め。陰気くさそうな人に見えるが気さくで少しおっちょこちょい優しい人だ。
去年まで他国訪問は王と一局局長(王の秘書)と城人一年目を三名と決まっていたが、今年からベテランにも勉強をする機会をと役職付き(局長・副局長)、五年以上の城人それぞれ一名を他国訪問に参加することになったと事前説明会で説明された。前者がセドニで後者がシラーだ。
「おはようございます、シラーさん」
「おはよう、カンダ。これからちょうど食堂でコーヒーを飲みに行こうとしていたんだ。よかったら君達も」
「ありがとうございます! 」
ラリマが直角に頭を下げる。ラリマ人を選んで態度変えるのをシズは知っている。
「私もありがとうございます。けど、トイレ行ってからでいいですか? 」
「もちろんいいよ、じゃあ私達は先に食堂車に行っておくよ」
シラーがそう背を向けた時、何か銀色の物が落ちた。
「シラーさん、何か落ちましたよ」
「え? 」
「銀色の。制服の装飾がとれたんじゃないっすか? 」
床を指さす。シラーは銀色?と首を傾げた。どうやら見つけられないらしい。シズは拾ってシラーの掌に置いた。
「ああ、これか。ありがとう」
シラーはそれをジャケットのポケットにしまった。
「お前目おかしいんじゃないか? 今の青色だろう」
「え、嘘」
シズには銀色にしか見えなかった。
「お守りなんだ。光の加減で色の見え方が違うんだ。カンダ、早くトイレいかないと漏れちゃうぞ。あ、これってセクハラかな、ラリマ」
「大丈夫です。こいつさっき俺にもっと酷いセクハラしましたから」
「そうだ。お前の苗字、マッシュじゃなくてラリマだったな。思い出した」
「ほら、こんなに酷い奴です」
シラーが仲いいねと笑えば、ラリマが全力で否定をしていた。
食堂車でお茶を奢ってもらっているとあっという間に昼になった。アザムとセドニが食堂に現れて、シズ達はカウンターから自分の席に移動した。アザムとラリマとシズが同じテーブルだ。セドニとシラーと一局長が同じテーブル。そして王はひとり優雅に召し上がる。と、一局長のアンブリがエンス王と共に現れる。全員で席を立つ。
「毎回毎回立たせて悪いね。ささっと座って美味しい昼食にしよう」
エンス王はそうにこやか言えば皆を座らせた。入学式で見た時は迫力がある人だとシズは思ったが、普段は穏やかな人なのかもしれないと思った。エンス王が座ると前菜が出てきた。それを食べながら、シズは窓の外を眺める。
「まだアベンチュレ出てないのか。遠いな」
「特急に乗れているだけ贅沢だと思いなよ」
アザムに冷たく言われ、シズはよく分からない菜っ葉をゆっくりと咀嚼した。沈黙が流れる。このメンツでご飯を食べるのは昨日の昼から数えて四回目だ。元々仲は良くない(むしろ悪い)。話すことなんかもうないのだ。それなのに毎回コース料理。さっと食べてさっと退場ができない。もう沈黙フルコースだった。
「あ、このあたりに親戚がいて夏に小さい頃遊びに来たな」
メイディッシュの魚が来た頃、沈黙フルコースは耐えられなかった、ラリマが口を開いた。
「カンダは小さい頃なにしていたんだ? 」
そして雑にシズに話を振ってきた。
「それ俺も気になる」
アザムものってきた。
「病弱だったって聞いたけど本当か? 」
「なんでアザムがそんなこと知ってるんだよ」
「僕だって知っているよ。学生時代にリョーク・クドが大声で話していたのを聞いたよ」
アザムはナイスフォローと心の中で、ラリマを褒めた。顔は真顔だ。
「じゃあ、みんな知ってんのかよ。うん。ただの引きこもりだった」
「引きこもりだって言ってもなんかあっただろう? 」
「あー、そうだな。あんなこともこんなこともあったな」
シズは適当にごまかす。
「お前の思い出雑過ぎる」
ラリマがつまらなそうにした。シズはこれ以上聞かれたら、めんどくさいと矛先を変える。
「アザム、お前はどうだったんだよ」
「忘れた」
アザムはその一言で話を終わらした。そして沈黙フルコースに戻る。アルマに着くまで食事はあと五回。シズはジャモンのご飯が恋しかった。
ベッドにシズは両足を置き、腕立て伏せをしている。ここは特急列車の二等車の一室で、インデッセの王都アルマへ向けて走っている。
「九十七、九十八、九十九、百!」
ベッドから足をおろして仰向けに寝っ転がった。
「ヒマダ」
ペタからアルマまで特急でも三日半かかる。ただいま二日目でまだ一日半残っている。じっとしているのはシズにとって拷問だった。走り回りたかった。
「トイレいこ」
シズは起き上がり部屋を出る。女だからと一人部屋が貰えた。二等車ってこともあって綺麗で、快適だった。トイレに行くと扉に使用中の札がかかっていた。部屋に戻るのもな、と思い壁にもたれかかり走る景色を眺めながら、シズはトイレが空くのを待った。バンドで歌ったビートルズの歌を無意識のうちに口ずさんでいた。気持ちがのってきた時に乱暴にトイレの扉が開いた。
「トイレの前で歌うなよ! 」
出て来たのはラリマだった。
「あ、悪い。気が散ってふんぎり悪かったか? 」
「お前そういうこと言うなよ! 人間としてデリカシーがないぞ! 」
が顔を真っ赤にして怒る。
「はははっ!元気いいなぁ、君達」
「シラーさん!」
ラリマが背筋を伸ばす。七局員のラブラド・シラーが片手を上げた。ラリマの直属の上司だ。鈍色の髪で前髪は少し長め。陰気くさそうな人に見えるが気さくで少しおっちょこちょい優しい人だ。
去年まで他国訪問は王と一局局長(王の秘書)と城人一年目を三名と決まっていたが、今年からベテランにも勉強をする機会をと役職付き(局長・副局長)、五年以上の城人それぞれ一名を他国訪問に参加することになったと事前説明会で説明された。前者がセドニで後者がシラーだ。
「おはようございます、シラーさん」
「おはよう、カンダ。これからちょうど食堂でコーヒーを飲みに行こうとしていたんだ。よかったら君達も」
「ありがとうございます! 」
ラリマが直角に頭を下げる。ラリマ人を選んで態度変えるのをシズは知っている。
「私もありがとうございます。けど、トイレ行ってからでいいですか? 」
「もちろんいいよ、じゃあ私達は先に食堂車に行っておくよ」
シラーがそう背を向けた時、何か銀色の物が落ちた。
「シラーさん、何か落ちましたよ」
「え? 」
「銀色の。制服の装飾がとれたんじゃないっすか? 」
床を指さす。シラーは銀色?と首を傾げた。どうやら見つけられないらしい。シズは拾ってシラーの掌に置いた。
「ああ、これか。ありがとう」
シラーはそれをジャケットのポケットにしまった。
「お前目おかしいんじゃないか? 今の青色だろう」
「え、嘘」
シズには銀色にしか見えなかった。
「お守りなんだ。光の加減で色の見え方が違うんだ。カンダ、早くトイレいかないと漏れちゃうぞ。あ、これってセクハラかな、ラリマ」
「大丈夫です。こいつさっき俺にもっと酷いセクハラしましたから」
「そうだ。お前の苗字、マッシュじゃなくてラリマだったな。思い出した」
「ほら、こんなに酷い奴です」
シラーが仲いいねと笑えば、ラリマが全力で否定をしていた。
食堂車でお茶を奢ってもらっているとあっという間に昼になった。アザムとセドニが食堂に現れて、シズ達はカウンターから自分の席に移動した。アザムとラリマとシズが同じテーブルだ。セドニとシラーと一局長が同じテーブル。そして王はひとり優雅に召し上がる。と、一局長のアンブリがエンス王と共に現れる。全員で席を立つ。
「毎回毎回立たせて悪いね。ささっと座って美味しい昼食にしよう」
エンス王はそうにこやか言えば皆を座らせた。入学式で見た時は迫力がある人だとシズは思ったが、普段は穏やかな人なのかもしれないと思った。エンス王が座ると前菜が出てきた。それを食べながら、シズは窓の外を眺める。
「まだアベンチュレ出てないのか。遠いな」
「特急に乗れているだけ贅沢だと思いなよ」
アザムに冷たく言われ、シズはよく分からない菜っ葉をゆっくりと咀嚼した。沈黙が流れる。このメンツでご飯を食べるのは昨日の昼から数えて四回目だ。元々仲は良くない(むしろ悪い)。話すことなんかもうないのだ。それなのに毎回コース料理。さっと食べてさっと退場ができない。もう沈黙フルコースだった。
「あ、このあたりに親戚がいて夏に小さい頃遊びに来たな」
メイディッシュの魚が来た頃、沈黙フルコースは耐えられなかった、ラリマが口を開いた。
「カンダは小さい頃なにしていたんだ? 」
そして雑にシズに話を振ってきた。
「それ俺も気になる」
アザムものってきた。
「病弱だったって聞いたけど本当か? 」
「なんでアザムがそんなこと知ってるんだよ」
「僕だって知っているよ。学生時代にリョーク・クドが大声で話していたのを聞いたよ」
アザムはナイスフォローと心の中で、ラリマを褒めた。顔は真顔だ。
「じゃあ、みんな知ってんのかよ。うん。ただの引きこもりだった」
「引きこもりだって言ってもなんかあっただろう? 」
「あー、そうだな。あんなこともこんなこともあったな」
シズは適当にごまかす。
「お前の思い出雑過ぎる」
ラリマがつまらなそうにした。シズはこれ以上聞かれたら、めんどくさいと矛先を変える。
「アザム、お前はどうだったんだよ」
「忘れた」
アザムはその一言で話を終わらした。そして沈黙フルコースに戻る。アルマに着くまで食事はあと五回。シズはジャモンのご飯が恋しかった。
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