【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
57 / 241
城人編

特急列車アルマ行き

しおりを挟む
「九十四、九十五、九十六」
 ベッドにシズは両足を置き、腕立て伏せをしている。ここは特急列車の二等車の一室で、インデッセの王都アルマへ向けて走っている。
「九十七、九十八、九十九、百!」
 ベッドから足をおろして仰向けに寝っ転がった。
「ヒマダ」
 ペタからアルマまで特急でも三日半かかる。ただいま二日目でまだ一日半残っている。じっとしているのはシズにとって拷問だった。走り回りたかった。
「トイレいこ」
 シズは起き上がり部屋を出る。女だからと一人部屋が貰えた。二等車ってこともあって綺麗で、快適だった。トイレに行くと扉に使用中の札がかかっていた。部屋に戻るのもな、と思い壁にもたれかかり走る景色を眺めながら、シズはトイレが空くのを待った。バンドで歌ったビートルズの歌を無意識のうちに口ずさんでいた。気持ちがのってきた時に乱暴にトイレの扉が開いた。
「トイレの前で歌うなよ! 」
 出て来たのはラリマだった。
「あ、悪い。気が散ってふんぎり悪かったか? 」
「お前そういうこと言うなよ! 人間としてデリカシーがないぞ! 」
 が顔を真っ赤にして怒る。
「はははっ!元気いいなぁ、君達」
「シラーさん!」
 ラリマが背筋を伸ばす。七局員のラブラド・シラーが片手を上げた。ラリマの直属の上司だ。鈍色の髪で前髪は少し長め。陰気くさそうな人に見えるが気さくで少しおっちょこちょい優しい人だ。
 去年まで他国訪問は王と一局局長(王の秘書)と城人一年目を三名と決まっていたが、今年からベテランにも勉強をする機会をと役職付き(局長・副局長)、五年以上の城人それぞれ一名を他国訪問に参加することになったと事前説明会で説明された。前者がセドニで後者がシラーだ。
「おはようございます、シラーさん」
「おはよう、カンダ。これからちょうど食堂でコーヒーを飲みに行こうとしていたんだ。よかったら君達も」
「ありがとうございます! 」
 ラリマが直角に頭を下げる。ラリマ人を選んで態度変えるのをシズは知っている。
「私もありがとうございます。けど、トイレ行ってからでいいですか? 」
「もちろんいいよ、じゃあ私達は先に食堂車に行っておくよ」
 シラーがそう背を向けた時、何か銀色の物が落ちた。
「シラーさん、何か落ちましたよ」
「え? 」
「銀色の。制服の装飾がとれたんじゃないっすか? 」
 床を指さす。シラーは銀色?と首を傾げた。どうやら見つけられないらしい。シズは拾ってシラーの掌に置いた。
「ああ、これか。ありがとう」
 シラーはそれをジャケットのポケットにしまった。
「お前目おかしいんじゃないか? 今の青色だろう」
「え、嘘」
 シズには銀色にしか見えなかった。
「お守りなんだ。光の加減で色の見え方が違うんだ。カンダ、早くトイレいかないと漏れちゃうぞ。あ、これってセクハラかな、ラリマ」
「大丈夫です。こいつさっき俺にもっと酷いセクハラしましたから」
「そうだ。お前の苗字、マッシュじゃなくてラリマだったな。思い出した」
「ほら、こんなに酷い奴です」 
 シラーが仲いいねと笑えば、ラリマが全力で否定をしていた。

 食堂車でお茶を奢ってもらっているとあっという間に昼になった。アザムとセドニが食堂に現れて、シズ達はカウンターから自分の席に移動した。アザムとラリマとシズが同じテーブルだ。セドニとシラーと一局長が同じテーブル。そして王はひとり優雅に召し上がる。と、一局長のアンブリがエンス王と共に現れる。全員で席を立つ。
「毎回毎回立たせて悪いね。ささっと座って美味しい昼食にしよう」
 エンス王はそうにこやか言えば皆を座らせた。入学式で見た時は迫力がある人だとシズは思ったが、普段は穏やかな人なのかもしれないと思った。エンス王が座ると前菜が出てきた。それを食べながら、シズは窓の外を眺める。
「まだアベンチュレ出てないのか。遠いな」
「特急に乗れているだけ贅沢だと思いなよ」
 アザムに冷たく言われ、シズはよく分からない菜っ葉をゆっくりと咀嚼した。沈黙が流れる。このメンツでご飯を食べるのは昨日の昼から数えて四回目だ。元々仲は良くない(むしろ悪い)。話すことなんかもうないのだ。それなのに毎回コース料理。さっと食べてさっと退場ができない。もう沈黙フルコースだった。
「あ、このあたりに親戚がいて夏に小さい頃遊びに来たな」
 メイディッシュの魚が来た頃、沈黙フルコースは耐えられなかった、ラリマが口を開いた。
「カンダは小さい頃なにしていたんだ? 」
 そして雑にシズに話を振ってきた。
「それ俺も気になる」
 アザムものってきた。
「病弱だったって聞いたけど本当か? 」
「なんでアザムがそんなこと知ってるんだよ」
「僕だって知っているよ。学生時代にリョーク・クドが大声で話していたのを聞いたよ」
 アザムはナイスフォローと心の中で、ラリマを褒めた。顔は真顔だ。
「じゃあ、みんな知ってんのかよ。うん。ただの引きこもりだった」
「引きこもりだって言ってもなんかあっただろう? 」
「あー、そうだな。あんなこともこんなこともあったな」
  シズは適当にごまかす。
「お前の思い出雑過ぎる」
 ラリマがつまらなそうにした。シズはこれ以上聞かれたら、めんどくさいと矛先を変える。
「アザム、お前はどうだったんだよ」
「忘れた」
 アザムはその一言で話を終わらした。そして沈黙フルコースに戻る。アルマに着くまで食事はあと五回。シズはジャモンのご飯が恋しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...