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城人編

好き勝手な恋バナ

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「王からのご指名なんて凄いじゃない!ヨール王まだ結婚していないから、上手くいけばシズ玉の輿乗れるわよ!シズ王女!やだ、もっと仲良くしとかなくちゃ! 」
「アホか」
 インデッセに行く事に選ばれた夜、バリミアとアシスがジャモンの部屋に夕飯を食べに来た。今夜の夕飯はトマトソースをベースにミンチの牛肉と色んな野菜を煮込んだジャモン特製ソースをパスタのようにフーメンに絡めた一品だ。ジャモンはフーメンも作れて、少しもちもちする太い麺がソースとよく合ってウマい。
「バリミアが選ばれてないの結構意外だった」
 アシスが口周りをトマトソースで汚している。今回インデッセ行きに選ばれたのはシズ、アザムとラリマだった。
「一局はねそういうのはだいたい免除されるの。常に王族の方達の傍にいてサポートしなきゃいけないから、仕事柄ね。私はメト様の付き人だから特にね」
 バリミアは入局早々、アンドラ王子の妹、メト姫の付き人になった。
「あ、メト様と言えば十月後半から一月ぐらいまでここ帰ってこられないの、私」
「え、なんで? 」
約三カ月の長期間。
「メト様がオードに短期留学なされるの。それに私もお供するのよ」
「留学っていう名目のお見合いでしょう? 」
 アシスがジャモン特製フーメンを食べ終えると口を拭いた。
「お見合いって? 」
 シズが聞く。
「あら、知らないのシズ。結構噂たってるわよ」
「私も知っているくらいだしね」
 アシスがシズのフーメンにフォークを伸ばしてきたが手で追い払う。
「メト様、オードの王子との婚約の話が持ち上がっているの。オードの方が話持ってきたんだけど。そしたらメト様が、少し考えたいって言ったら、オードが少しこちらに住んでみませんか、って。断りにくい事をメト様も分かっているから、行くことになったの」
「大変だな、国のお姫様も」
「そうね。あと私の勘なんだけど、メト様好きな人いるみたい」
「誰? 」
 アシスが聞いたが、そこまでは知らないとバリミアは首を振った。
「じゃあその好きな人に告白して玉砕したら、オードの王子と結婚したらいいじゃんか。失恋後物理的に離れることができるし」
 シズが好き勝手なデリカシーのない提案をする。
「それ、好きな人と両想いだったらどうするの? 」
 バリミアが呆れた顔で聞いた。シズは考える。
「……駆け落ち? 」
「もしそんなことになったら私の首が飛ぶわよ、シズ」
 シズは自分の浅はかさを謝った。
「あ、そういえばアシスとリョークが追っている窃盗事件どうなったの? 解決したの? 」
 してないよ、とアシスが言った。
「この間ついに六件目が起きた。オドー先輩もピリピリしてきてる」
「犯人の目星付いてるってこの間話してなかったか? 」
  シズはそう小耳に挟んだ。
「主犯がね、そこそこ力のある資産家の娘だろうってとこまでいってるんだけどこれといった証拠がないのよ。万が一違ったら新聞社使って面倒なことしそうだしね」
「みんな仕事大変だね。デザートにアイスクリーム作ったんだけど食べない」
 女共三人声を揃えて食べると叫んだ。


「カンダがインデッセに行く時とカザンの長期休暇かぶるね!」
 昼休み前、カラミンさんが配られた勤務表を眺めて言った。
「まずいですか?僕休暇ずらしましょうか?」
 カザンが気を遣えば、そんなことしなくていいとカラミンは首を振った。
「ちょうどいいよ。先輩業もたまには休まないとね」
 あんたいつも九割先輩業休んでるよ、とシズは思うが、言えない。
 外回りからリョークとアシスが帰ってきた。
「今日も超あちぃ。あ、カンダ。お前辛いの好きか? 」
 リョークが尋ねた。
「好きだけどどうした? 」
「さっき外回りで見つけたんだけど、辛口フーメンを出してる新しいお店できてたんだよ。一緒に行かない? 」
「行きたい! けど、今日昼用事あるから無理だ」
 シズはポケットの中に手を入れると鍵を触った。
「カザンは? 」
 アシスが声をかける。
「遠慮します。辛いの苦手なんで」
「俺も行く。奢ってやるよ」
「まじっすか! オドーさん! 」
 リョークが喜ぶ。
「ええー。でも俺辛いの苦手だよ、オドー」
 カラミンが言った。
「お前に奢るなんて言ってねぇぞ」
「わあ! 気が付いたらもう昼だ! 急がないと混むよ! 」
 カラミンがスキップでフロアを出て行く。オドーは頬を引き攣らせながら仕方ない、というように立ち上がった。
「シズ美味しかったらまた一緒に行こう」
 アシスがシズの肩を叩く。
「おー」
 アシスとリョークが出て行き、カザンも昼にでると、シズもフロアに出た。エレベータは混んでいる。シズは階段を使った。


「アザム。昼いかないか? 」
 九局のカルカ副局長は書類整理をするアザムを昼に誘った。
「あ、はい」
「俺も一緒に行きたい!! 」
 局長席で書類に囲まれたバライトが叫んだ。
「お弁当買ってきますから。行こう、アザム」
「カルカの薄情者! 」
バライトはさらに叫んだ。
「今までサボってたツケですよ、局長」
「そうですよ。あと三日は昼休みあると思わないでください」
「すぐ、どっか逃げるんですから。カルカさんが帰ってくるまで僕らがしっかりみはりますからね。逃がしませんよ」
 厳しい九局員達を見張りに残し、カルカとアザムはエレベータに乗った。
「もう慣れた? 」
「いや、よく分かりません」
 アザムが正直に言えば、カルカは笑った。
「うちは曲者揃いだからね」
「それは分かります」
「言うね、新人」
 エレベータは六階で停まる。扉が開いた瞬間、先頭を立っていたカラミンがあっと言った。
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