【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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城人編

苦いご指名

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「おい、カザン危ねぇぞ! 」
「っわ! 」
 子ども達が走ってきてカザンが慌てて避けようとしたが間に合わず、足元をすくわれ尻餅を付いた。
「こら、お前ら謝れ! 」
 シズは走っていく子ども達に叫んだが聞こえてないようで、楽しそうに去っていた。カザンは立ち上がると制服に付いた土を払った。
「……お前最近心ここにあらずって感じだぞ。なんだ、失恋か? 」
「ふざけた会話をするつもりはありません」
 失恋じゃない事ぐらいシズも分かっている。カザンの様子がおかしくなったのはカルセドニー工場の件の後だ。あの件にさすがのカザンも心を痛めているのかと思った。けれど、カザンはどんなに理不尽でも自分の人生自分でしか責任がとれないとしっかり言った。そうきっぱりと言ったのにこんな風に引きずるだろうかとシズは考える。
 ふと商店がシズの目に入った。瓶のソーダ水が売られている。それをシズは二本買う。
「カザン。今日クソ暑いから、ちょっと休憩しようぜ」
「しません。見回り中ですよ」
 冷たく言い捨てられ、カザンは先を歩く。シズはソーダ水をジャケットの左右のポケットそれぞれに入れると、カザンの右手を掴んだ。カザンはぎょっとした顔で私を見る。
「な、なんですか!? 」
「お前、私になんか隠してないか? 」
「それは隠し事ぐらいありますよ」
 シズは掴んだ右手を引っ張ると、カザンの耳元で囁いた。
「カルセドニー工場の事件で何かあっただろ? 」
 カザンの表情は変わらなかった。けれどシズから目をそらした。
「別に何も、って、いったぁ! 」
 シズはカザンの右手を強い力で握った。
「最近アシスに、新しい握力の筋トレグッズ貰ってさ」
 シズはさらに強く握る。
「痛い痛い痛い痛いです! 」
「結構握力ついたんだよな。私の本気体験してみるか?」
「嫌です! しません! 」
「じゃあ喋る? 」
 カザンは眉間に皺を寄せて黙る。シズはまた少し力を強めた。
「いいっ! もう無理! 本気で無理です! 」
「じゃあ言うか? 」
「言います言います! 言うから離してくださいっ! 」


 公園行くと木陰の下にあるベンチに座った。エンジジャケットを脱いで、シャツを腕まくりするとシズはソーダ水の蓋を開けた。辺りを見渡し、例の視線がないのを確かめる。公園なら子ども達のはしゃぎ声で会話を聞かれることはないだろう。カザンはさっきシズが握りしめた右手をソーダ水で冷やしている。
「大げさだな、お前。言っとくけど利き手じゃねぇぞ」
「いや、右手もげると思いましたからね。馬鹿って本当に容赦ないですよね」
「左手もやっとくか? 」
「遠慮シマス」
 カザンはソーダ水を握りしめたまま、ブランコで遊ぶ子どもを見ていた。子どもは明るいオレンジ色の髪を跳ねさせてはしゃいでいた。
「……ロドさんが用心棒兼何でも屋の話をしていたの覚えていますか?」
「ああ。確か、オレンジの髪色でサルファーって名前の男だろ?その時も思ったけど、サルファーってカザンと名前一緒だよな」
 カザンは子どもからソーダ水に目線を落とした。
「まだ憶測です」
「ああ」
 シズは瓶に口を付けた。
「その用心棒のサルファー、もしかしたらルバかもしれません」
 シズは飲んでいたソーダ水を吐き出しそうになった。慌てて飲み込み咳き込む。
「マジかよ」
「ルバの髪色はオレンジです。そしてカンダさんと同い年です。あと昔、サルファーって名前を羨ましがってくれたことがあったんです。根拠はこの三つだけです」
「……それで、どうするんだよ」
 シズが聞く。
「来月の長期休暇にルバを捜しに行ってみようと思います。もし、もし僕の憶測があたって見つけることが出来たなら、あなたにそっくりさんの城人の事聞いておきます」
「……頼んだ」
 カザンはやっとソーダ水の蓋を開けて、飲んだ。


「遅かったね。まさかサボってたの? 」
 戻るとカラミンが絡んできた。カザンはさりげなく無視をして自分の席に座った。
「してませんよ」
 シズはエンジジャケットを脱いで、シャツを捲り上げて、さらにネクタイも緩めた。
「おお、お前ら帰ったか」
 セッシサン副局長がやってきた。
「どうかしたんっすか? 」
「毎年恒例。カンダには苦い思い出だろうな」
 シズは何の事だと首を傾ける。
「一年目の城人三人連れて王が他国訪問。去年、インデッセの王が来ただろう?」
「げ」
 シズとトニオとハモる。
「俺行ったな、昔。ベグテクタだったけど」
 カラミンが懐かしそうに呟いた。
「え、カラミンさん選ばれてたんですか?」
 シズは信じられなかった。
「えってなに。カンダ。失礼だよ!」
「こいつ卒業した時同期で成績トップ2だったからよ」
 オドーが言えばカラミンは鼻高々の様子で自慢げに鼻を鳴らした。
「タンサのことは一回も抜けなかったけどな」
「あいつはアオクラスでしょ!アカクラスなのに同期で二番目に凄いっていうのが凄いの!」
 実際凄いのだけれど、カラミンは喋れば喋るほどその凄さを自ら薄めている。
「で、今年はうちがメヨを訪問する。うちの局からも一人選ばれた」
 ああ、カザンだなと皆が思った。
「カンダ。お前だ」
 シズはセッシサンを信じられないという目で見返した。
「しかも、ヨール王から直々の指名だそうだ。良かったな、去年窓から現れて。相当気に入られているぞ、お前」
「え、何それ! どういうこと! 」
 カラミンがめっちゃ食いついてきたが、それを無視する。
「来月だから。色々準備して置けよ」
 そう言い残してセッシサンは仕事に戻った。
「よかったですね」
 カザンが胡散臭い微笑みをくれた。
「もしかしてお前行きたかった? 」
「まさか。僕基本的に旅行とか嫌いなんですよね。逆に助かりました」
「あっそ」
 王様とか、シズもすこぶるめんどくさかった。

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