【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
43 / 241
城人編

頼りない先輩

しおりを挟む

「サルファーって名前いいよな」
 ブランコを立って漕ぎながらオレンジ色の髪を揺らしてルバは笑った。
「そうかな? 」
 サルファーは少し照れたように笑った。サルファーはルバに褒められるのがとても好きだった。
「俺と名前交換しようぜ」
「無理だよ、そんなの」
「またルバが馬鹿なこと言ってるぜ」
「兄さん」
 サルファーは兄スフェンの声が聞こえ漕いでいたブランコを止めた。
「遅かったな、スフェン」
 ルバは立ち漕ぎをやめて座った。スフェンは手に持っていた紙をはためかせた。
「なんか塾ができるらしい。さっきチラシ貰った」
「塾? 」
 サルファーは首を傾けた。
「アベンチュレ青少年学校合格を目指す塾」
「それ院長様から聞いた」
 ルバは空を見上げたまま、言った。
「あれだろ? アルガー塾」



「おい、カザン! 」
 ぼうっとしているカザンをシズが呼びかければ肩を揺らした。
「なんですか? 」
「なんですかって、ぼけっとしてるから声かけたんだろうが。立ったまま昼寝って器用だなお前」
「昼寝って時間じゃないでしょう」
 午前六時過ぎ。シズはカザンと城の門番をしている。
「朝だからまだ涼しくてマシだな」
 シズがヨンキョクになって一か月の八月。夏真っ盛りだ。あれからシズがしていることといえば門番と見回り。それと雑務だ。忍耐的な毎日である。どっかでばったりカーネスと鉢合わせたりしないかとシズは思うが。希望は薄い。
「朝早くからお疲れさま」
「サンス教官じゃなくて副局長」
 サンス副局長の後ろにはリゴもいた。
「こんな早くからどこ行くんだ、リゴ」
「視察。ペタの北の方に」
「北ってチャロの方か? 」
 シズが言った。
「そうだよ。土砂崩れの恐れがある所があってね、近いうちに整備する予定なんだよ。現状がどんなのかを確かめに行くんだ」
 サンスが教えた。
「車で行かないんですか?」
 カザンが尋ねる。
「最近、経費節約って厳しくてね。鉄道で行くよ」
「お気をつけて。あ、リゴ、今日ジャモンがご飯食べに来いってさ。来れるか? 」
「夜までには帰って来られるから。行くよ。楽しみにしとく」
「おお。リゴも気を付けて」
 二人を見送ると、シズはまたカーネスが出てこないかと十回ぐらい考えていた。

「門番お疲れ」
 シズとカザンが門番から帰ってくるとアシスが冷たいお茶を入れてくれた。
「おお、サンキュ! 」
「気に食わないけどカザンも」
「……どうも」
 シズはエンジのジャケットを脱ぐと椅子の背にかけて座った。シズの左隣がアシスで右隣がカザン。シズの後ろがカラミンだが、不在。隣のオドーが何かの書類を読んでいる。
「おい、お前ら今日機密手配書を確認する日だろ? 時間あるなら今いけよ」
 オドーがくるりとシズ達を向いてそんなことを言ったが、何のことか分からず、シズもカザンも黙ったままでいた。
「カラミンから聞いてるだろう? 」
 シズはカザンを見る。カザンは首を横に振った。シズも右にならえだった。
「あの、アホンダラ! 」
 オドーは乱暴に席を立つとフロアを出て行った。そして数分後、カラミンを連れて帰って来た。オドーは黙って席に座った。カラミンは頭を撫でながらへらへらシズとカザンの所へ来る。オドーに頭を叩かれたんだな、とシズは察した。。
「君達、暇なら機密手配書を見に連れていってあげよう」
「……お願いしまーす」
 カラミンは自分に否があることをどんな時でも認めない男だった。今も忘れていたのにそれを誤魔化している。この一か月でシズが分かったことはこの先輩、軽い・適当・チャラいの三拍子そろった男だということだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...