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城人編

頼りない先輩

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「サルファーって名前いいよな」
 ブランコを立って漕ぎながらオレンジ色の髪を揺らしてルバは笑った。
「そうかな? 」
 サルファーは少し照れたように笑った。サルファーはルバに褒められるのがとても好きだった。
「俺と名前交換しようぜ」
「無理だよ、そんなの」
「またルバが馬鹿なこと言ってるぜ」
「兄さん」
 サルファーは兄スフェンの声が聞こえ漕いでいたブランコを止めた。
「遅かったな、スフェン」
 ルバは立ち漕ぎをやめて座った。スフェンは手に持っていた紙をはためかせた。
「なんか塾ができるらしい。さっきチラシ貰った」
「塾? 」
 サルファーは首を傾けた。
「アベンチュレ青少年学校合格を目指す塾」
「それ院長様から聞いた」
 ルバは空を見上げたまま、言った。
「あれだろ? アルガー塾」



「おい、カザン! 」
 ぼうっとしているカザンをシズが呼びかければ肩を揺らした。
「なんですか? 」
「なんですかって、ぼけっとしてるから声かけたんだろうが。立ったまま昼寝って器用だなお前」
「昼寝って時間じゃないでしょう」
 午前六時過ぎ。シズはカザンと城の門番をしている。
「朝だからまだ涼しくてマシだな」
 シズがヨンキョクになって一か月の八月。夏真っ盛りだ。あれからシズがしていることといえば門番と見回り。それと雑務だ。忍耐的な毎日である。どっかでばったりカーネスと鉢合わせたりしないかとシズは思うが。希望は薄い。
「朝早くからお疲れさま」
「サンス教官じゃなくて副局長」
 サンス副局長の後ろにはリゴもいた。
「こんな早くからどこ行くんだ、リゴ」
「視察。ペタの北の方に」
「北ってチャロの方か? 」
 シズが言った。
「そうだよ。土砂崩れの恐れがある所があってね、近いうちに整備する予定なんだよ。現状がどんなのかを確かめに行くんだ」
 サンスが教えた。
「車で行かないんですか?」
 カザンが尋ねる。
「最近、経費節約って厳しくてね。鉄道で行くよ」
「お気をつけて。あ、リゴ、今日ジャモンがご飯食べに来いってさ。来れるか? 」
「夜までには帰って来られるから。行くよ。楽しみにしとく」
「おお。リゴも気を付けて」
 二人を見送ると、シズはまたカーネスが出てこないかと十回ぐらい考えていた。

「門番お疲れ」
 シズとカザンが門番から帰ってくるとアシスが冷たいお茶を入れてくれた。
「おお、サンキュ! 」
「気に食わないけどカザンも」
「……どうも」
 シズはエンジのジャケットを脱ぐと椅子の背にかけて座った。シズの左隣がアシスで右隣がカザン。シズの後ろがカラミンだが、不在。隣のオドーが何かの書類を読んでいる。
「おい、お前ら今日機密手配書を確認する日だろ? 時間あるなら今いけよ」
 オドーがくるりとシズ達を向いてそんなことを言ったが、何のことか分からず、シズもカザンも黙ったままでいた。
「カラミンから聞いてるだろう? 」
 シズはカザンを見る。カザンは首を横に振った。シズも右にならえだった。
「あの、アホンダラ! 」
 オドーは乱暴に席を立つとフロアを出て行った。そして数分後、カラミンを連れて帰って来た。オドーは黙って席に座った。カラミンは頭を撫でながらへらへらシズとカザンの所へ来る。オドーに頭を叩かれたんだな、とシズは察した。。
「君達、暇なら機密手配書を見に連れていってあげよう」
「……お願いしまーす」
 カラミンは自分に否があることをどんな時でも認めない男だった。今も忘れていたのにそれを誤魔化している。この一か月でシズが分かったことはこの先輩、軽い・適当・チャラいの三拍子そろった男だということだ。
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