【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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学校編

卒業

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「シズ・カンダ、卒業試験の点数良かっただろう? 中間は可だったが、今回は良だった」
 ペタの個室の居酒屋で酒を舐めながらセッシサンはセドニの肩に手を置いた。百期生の卒業試験の採点を終えて、お疲れさま会(セッシサン主催)を三人で開いていた。
「カンダさん図書館で勉強しているのを何度か見かけましたよ。入学試験の三点はよっぽどのことがあったのでしょう」
 サンスは眼鏡をかけ直しながら微笑んだ。
「いざって時に失敗するのは現場で心配物ですよ」
「大丈夫だって! あいつは度胸がある。まあ、警棒はちょっと危なっかしいところはあるが体術はトップだ。めちゃくちゃだけどな」
 焼き鳥を齧りながらセッシサンは豪快に笑う。
「けど、アオクラスのトップの三人が誰も二局にも七局にも行かないとは少し驚きましたね。ラリマ君は八局。コイズさんは一局。特にアザム君。まさか九局に行くとは」
 サンスがセドニに目をやる。
「本人が決めたなら仕方ありません。それにアザムは九局で良かったと俺は思っています」
「そうか?お前可愛がってだろう、アザムのこと。少し寂しいだろう?」
 セッシサンはセドニをつつきながら煙草を咥えて火を付けた。吐き出した煙が淡い照明の明りと交わり合う。セドニはささやかな微笑みを浮かべた。
「少しは残念ですね。けど、今は彼が九局行って貰って嬉しいと思いますよ」
「今は? 」
 サンスが首を捻る。セドニは微笑んだだけで何も答えなかった。
「あいつら城人になっても当分俺らのこと『教官! 』って呼ぶんだろうな」
「一年間もうそれで染みついていますからね。仕方ないですよ。けどすぐ慣れますよね、セドニ副局長」
 セドニはグラスを揺らして氷を鳴らした。
「すぐに慣れて欲しいです。先生はやっぱり俺には向いてない」
 セッシサンは煙をセドニに吹きかけた。セドニは咳こむ。
「何言ってんだよ! 俺なんて二年に一回やらなきゃいけねぇんだぞ。アオクラスになるお前は四年に一回じゃねぇかよ! 俺は四年に二回だぞ! 倍だ倍! 」
「僕も三年に一回ですから。まあ三年なんてすぐですよね」
「そうだ! 二年なんて毎年と同じだよ! ったくよ!あとさ、」
 セッシサンは酔いが回ってきたのか、口がベラベラと動き始めた。セドニそれをめんどくさそうにし、サンスはデザートのアイスクリームを頼んでいた。



 無事卒業が決まると寮の部屋を片付け始める。卒業式は来週、六月十二日。奇しくもシズの誕生日だ。この時期学生は新しい家を捜しに忙しくなる。まあ、私はジャモンの元へと帰るだけだ。窓ガラスを拭いているとアシスが家捜しから帰ってきた。
「おかえり。いいところあった?」
 アシスは微妙な顔をしてベッドに座った。
「完全に出遅れた。皆卒業試験前から決めてたみたい。良い所は全部埋まってた。ペタ家賃高いんだよ」
 そのままどすんとアシスはベッドにうつ伏せになった。
「そっか。大変だな」
シズは雑巾をバケツの中に放り込む。窓ガラスはピカピカになった。それを満足そうに眺めるとバケツを抱え廊下に出ようとするとアシスが後ろから小さな声で言った。
「シズの所居候させてー」
 シズは立ち止まる。そうだ、うちアパートじゃんか。アシスを振り返る。
「たぶんいいよ」
「えっ!? 」
 アシスが起き上がる。本人は冗談のつもりだったようだ。
「ジャモンに一応聞いてみないと分からないけど。たぶんいいよ。アパート経営したいって言ってたし。聞いてみる」
 アシスは私からバケツをひったくる。
「なんだよ! 」
「あと片付けとくから今すぐ聞いて! すぐ! 」
「へ? 」
「早く! 」
 シズはアシスに半分脅され寮の一階にある電話からジャモンに電話をかけるとちょうどリフォームが終わった所だから大歓迎と言ってくれた。家賃も相場の半値にしてくれると言った。
「そんなに安くしてくれていいのか?」
「金儲けするつもりはないからね」
 シズとジャモンは皮肉ながら金はあるのだ。けど、もしカーネスとドッペルゲンガーを捕まえることができたら「金使ったくせに! 」って言われるだろうか。まあ勝手に連れて来られたんだ。慰謝料だ。ばんばん使ってやろうとシズは開き直った。
「あ、空き部屋あと五部屋、あ、アシスちゃんを除いてあと四部屋あるからいい人いたら入居して貰っていいからねー」
「おお。サンキュ」
 アシスに報告するとバリミアが部屋に来ており、バリミアも住むと言った。夜、寮の食堂でその話をリョークとリゴにすれば二人も住むと言った。再びジャモンに電話をすれば残りの一部屋はシズが住めばいいと言った。
「シズも大人の女性だからひとりの方がいいだろう。あ、ご飯はできるだけ食べに来てね。ひとりじゃ寂しいからさ。オヤコドン作るからね! 」
 そう笑う受話器の向こうのジャモンにちょっとだけ、シズは泣きそうになった。

 六月十二日。
 一葉館での卒業式を終えて卒業証書を片手に、シズはひとり外に出た。卒業生代表は入学から変わらず首席のアザムがした。バリミアは一回も学年トップを奪えなかったと舌打ちしていた。
「あなた本当に城人になるんですか?」
 いつの間にかシズの横にカザンがいた。
「しつこいねー、お前も」
「親切心ですよ。他の城人よりも嫌な思いするんじゃないですか ?それに、」
「それに? 」
「ただでさえ女で四局なんだから嫁に行きそこないますよ」
「いらぬ心配胸に染みますー」
 カザンを見れば呆れた様子だった。結婚なんて話この世界じゃ到底考えられない。
「やっとここまで来たんだよ」
 シズは十九歳になった。ここに来て一年。分かったことは、ドッペルゲンガーが九十七期生だったかもしれないことと、その生き残りだったかもしれないということだけだ。しかもどちらも決定的な確証ではない。
「二十代のうちには帰りたいな」
 浦島太郎はごめんだ。
「帰る? 」
 カザンが訝し気な顔をしたが、シズは話を変えて誤魔化した。 
「お前なんで監察蹴ったんだよ? 」
「ああ。別に蹴ってはないですよ。選ばれなかっただけで」
「九局長に指名されたのに? 」
「詳しいことは知りません。けどまあ四局で頑張りますよ。来月からもよろしくお願いします」
 カザンは立ち去った。シズは寮に置いているトランクを取りに戻る途中、セドニに会った。セドニはシズの目の前に立ち止まる。どうせ「お前みたいなのが卒業するとはな」「いい気になるなよ」「城人なったらそのうちクビにしてやる」とかろくでもない事を言うんだろうとシズは思っていた。セドニは一言だけ言って立ち去った。シズはその場で固まり瞬きを繰り返した。そして振り返る。セドニの背中はいつものようにまっすぐだった。

「気をつけろよ」
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