34 / 241
学校編
ベグテクタで密会
しおりを挟む
シズは息を飲んだ。カザンは淡々と話を進める。
「そして城人に身元確認が済んでいない遺体はこのふたつだけだ、どちらかがルバだと言い切られたそうです。髪の色で判断したそうですけど、どこか釈然としなかったそうです。そしてもうひとつの遺体はもしかしたら、」
カザンがシズを見下ろす。そのもうひとつがシズとそっくりな男のダミーだとしたら。
「生き残りは二人いるってことか」
「そうですね。けれどまだ確証がありません。ですが、ルバはまだ生きていると思います」
「……そのルバって奴と仲良かったのか、お前」
カザンが呼ぶその名前には明らかな親しみがあった。カザンは隠すことなく頷いた。
「兄の友人で僕を可愛がってくれました。けれど、ルバがアルガー塾をやめてから兄とルバの仲は険悪になりました。兄もだんだんですがおかしくなっていきました。表面的にはいい息子でいい兄でした。けどどこか狂気を感じるようになりました」
「それはアルガー塾のせいか? 」
「だと思います。アルガーは九十七期生の悲劇にショックを受けて塾を閉めてどこかに消えたとなっていますが、もしかしたら逃げたのかもしれません」
「逃げたって何から? 」
シズが聞く。
「さあ。手がかりはありません。これで僕の情報は以上です。あなたの顔を見て反応した人はいったい誰なんです」
フルーツジュースを一気に吸い込むと、シズは言った。
「カル・セドニ」
カザンはさすがに目を見開いた。
「前の長期休暇の時もあいつ私のこと家までつけてきやがった。それにあいつ私が城人になるのをすこぶる嫌がってやがる」
「それはあなたが馬鹿だからではなく? 」
「ちゃうわっ! 」
シズはジュースのカップを握りしめる。
「私が学校受験するって知ったらあいつ家まで来たんだ。受けても私のこと落とすって。そんなのわざわざ言いに来ずに落とせばいいだろ?おかしくないか?」
「おかしいって言ったら、そうかもしれないですね」
「私に城に来て欲しくなかったって考えるとしっくりくる」
「そういうことなら、城にはあなたとそっくりだという男を知っている人が必ずいるってことですね」
「すでに知っている奴はいるかもな。知らないふりをしているだけで。きっとろくでもないことしてたんだよ」
自分をこっちの世界に飛ばして逃げるくらい男だ。やばいことをしていたんだろうとシズは決めつけている。
「城人になれば、今よりずっと調べやすくなる」
シズが言った。
「下手に動かないでくださいよ。あなたの脳内回路は常に工事中で渋滞じゃないですか」
すげぇ遠回しに馬鹿とシズに言った。
「邪魔するなってか」
「まあそうですね。けどまた確信に近づけました。九十七期生の悲劇にはやはり裏があります。その裏を作った人間が城にはいるってことが」
カザンが憐れむような目線を私にやった。夜風にカザンのキャメル色の髪が靡く。
「あなたやっぱり城人なるのやめた方がいいんじゃないですか? 」
「なんでだよ」
シズがつっかかる。
「なんでか自分でもわかるでしょう?仮定に基づけばあなたは隠された存在の片割れということになります。九十七期生の悲劇の裏も大きな力によってつくられたと考えた方が釈然とします。双子の片割れを捜しだせたとしてももう、表の世界には戻ってこれない人かもしれませんよ」
裏と表。コイン。あの男にとってはここが表だ。表から裏に逃げた。シズは表から裏に連れて来られた。
「戻るんだよ」
シズは思った。あいつをこっちに戻ってこさせる。そして私はあっちに戻るんだ。必ず。
「どういうことですか?」
「誰が邪魔してこようと城人になるってことだよ」
シズは言った。シズ達は時間をずらして屋上を出た。
次の日、シズ達は城へと向かった。城の門で迎えてくれた城人の制服は目が冴えるようなブルーのダブルのブレザーで腰に細めの黒ベルトをしていた。ネクタイと革靴も黒であった。城人の制服は国によって違うようだ。城に着くとベグテクタの王から挨拶を頂いた。ベグテクタの王、オーツはアベンチュレの王より若く、四十手前だった。胡桃色の髪を靡かせ登場すると穏やかな口調で歓迎の意を述べた。それから城内の見学を終え、城の食堂で昼食をとることになった。バイキング形式でアカクラスの奴らは馬鹿みたいに皿に盛った。
「うおっ! 」
盛った皿をテーブルまで運んでいると、リョークがぶつかってきた。リョークの皿から肉が一舞い落ち、ブレザーを脱いでいたシズのシャツに肉のソースがべったりついた。
「俺の肉が落ちた! 」
「先に私に謝れよ」
「悪い」
シズに謝るとリョークは落ちた肉を皿に戻した。シズは皿をテーブルに置くとシャツを洗いにトイレに向かった。裾の方だからまだマシだった。石鹸を使うとそれなりにとれた。
「王子! お戯れも大概になさってくださいっ!」
トイレの外がやかましい。裾をズボンの中にしまうと、シズはトイレのドアを開けた。瞬間、何かが飛び込んできた。振り返ると胡桃色の髪の子どもがいた。男の子だった。目元が誰かに似ている。
「ここ女子トイレだよ」
シズが教える。
「ドアを閉めろ! 」
「え? 」
「早くしろ! 」
言われた通りにシズはドアを閉めた。するとドアのすりガラスの窓から数人の影通り過ぎて行く。
「サファ王子! どこですか! 」
「かくれんぼはもう結構ですよ! 」
「歴史の先生がお待ちでございますよ、王子! 出てきてください! 」
シズは再び振り返る。
「おま、あなたは、もしかして王子様? 」
きちんとした服装をした男の子は腰に手をあてて胸を張った。
「そうだ。私はこのベグテクタの王子、サファだ。口を慎め」
シズが出会う年下は生意気ばかりだ。
「そして城人に身元確認が済んでいない遺体はこのふたつだけだ、どちらかがルバだと言い切られたそうです。髪の色で判断したそうですけど、どこか釈然としなかったそうです。そしてもうひとつの遺体はもしかしたら、」
カザンがシズを見下ろす。そのもうひとつがシズとそっくりな男のダミーだとしたら。
「生き残りは二人いるってことか」
「そうですね。けれどまだ確証がありません。ですが、ルバはまだ生きていると思います」
「……そのルバって奴と仲良かったのか、お前」
カザンが呼ぶその名前には明らかな親しみがあった。カザンは隠すことなく頷いた。
「兄の友人で僕を可愛がってくれました。けれど、ルバがアルガー塾をやめてから兄とルバの仲は険悪になりました。兄もだんだんですがおかしくなっていきました。表面的にはいい息子でいい兄でした。けどどこか狂気を感じるようになりました」
「それはアルガー塾のせいか? 」
「だと思います。アルガーは九十七期生の悲劇にショックを受けて塾を閉めてどこかに消えたとなっていますが、もしかしたら逃げたのかもしれません」
「逃げたって何から? 」
シズが聞く。
「さあ。手がかりはありません。これで僕の情報は以上です。あなたの顔を見て反応した人はいったい誰なんです」
フルーツジュースを一気に吸い込むと、シズは言った。
「カル・セドニ」
カザンはさすがに目を見開いた。
「前の長期休暇の時もあいつ私のこと家までつけてきやがった。それにあいつ私が城人になるのをすこぶる嫌がってやがる」
「それはあなたが馬鹿だからではなく? 」
「ちゃうわっ! 」
シズはジュースのカップを握りしめる。
「私が学校受験するって知ったらあいつ家まで来たんだ。受けても私のこと落とすって。そんなのわざわざ言いに来ずに落とせばいいだろ?おかしくないか?」
「おかしいって言ったら、そうかもしれないですね」
「私に城に来て欲しくなかったって考えるとしっくりくる」
「そういうことなら、城にはあなたとそっくりだという男を知っている人が必ずいるってことですね」
「すでに知っている奴はいるかもな。知らないふりをしているだけで。きっとろくでもないことしてたんだよ」
自分をこっちの世界に飛ばして逃げるくらい男だ。やばいことをしていたんだろうとシズは決めつけている。
「城人になれば、今よりずっと調べやすくなる」
シズが言った。
「下手に動かないでくださいよ。あなたの脳内回路は常に工事中で渋滞じゃないですか」
すげぇ遠回しに馬鹿とシズに言った。
「邪魔するなってか」
「まあそうですね。けどまた確信に近づけました。九十七期生の悲劇にはやはり裏があります。その裏を作った人間が城にはいるってことが」
カザンが憐れむような目線を私にやった。夜風にカザンのキャメル色の髪が靡く。
「あなたやっぱり城人なるのやめた方がいいんじゃないですか? 」
「なんでだよ」
シズがつっかかる。
「なんでか自分でもわかるでしょう?仮定に基づけばあなたは隠された存在の片割れということになります。九十七期生の悲劇の裏も大きな力によってつくられたと考えた方が釈然とします。双子の片割れを捜しだせたとしてももう、表の世界には戻ってこれない人かもしれませんよ」
裏と表。コイン。あの男にとってはここが表だ。表から裏に逃げた。シズは表から裏に連れて来られた。
「戻るんだよ」
シズは思った。あいつをこっちに戻ってこさせる。そして私はあっちに戻るんだ。必ず。
「どういうことですか?」
「誰が邪魔してこようと城人になるってことだよ」
シズは言った。シズ達は時間をずらして屋上を出た。
次の日、シズ達は城へと向かった。城の門で迎えてくれた城人の制服は目が冴えるようなブルーのダブルのブレザーで腰に細めの黒ベルトをしていた。ネクタイと革靴も黒であった。城人の制服は国によって違うようだ。城に着くとベグテクタの王から挨拶を頂いた。ベグテクタの王、オーツはアベンチュレの王より若く、四十手前だった。胡桃色の髪を靡かせ登場すると穏やかな口調で歓迎の意を述べた。それから城内の見学を終え、城の食堂で昼食をとることになった。バイキング形式でアカクラスの奴らは馬鹿みたいに皿に盛った。
「うおっ! 」
盛った皿をテーブルまで運んでいると、リョークがぶつかってきた。リョークの皿から肉が一舞い落ち、ブレザーを脱いでいたシズのシャツに肉のソースがべったりついた。
「俺の肉が落ちた! 」
「先に私に謝れよ」
「悪い」
シズに謝るとリョークは落ちた肉を皿に戻した。シズは皿をテーブルに置くとシャツを洗いにトイレに向かった。裾の方だからまだマシだった。石鹸を使うとそれなりにとれた。
「王子! お戯れも大概になさってくださいっ!」
トイレの外がやかましい。裾をズボンの中にしまうと、シズはトイレのドアを開けた。瞬間、何かが飛び込んできた。振り返ると胡桃色の髪の子どもがいた。男の子だった。目元が誰かに似ている。
「ここ女子トイレだよ」
シズが教える。
「ドアを閉めろ! 」
「え? 」
「早くしろ! 」
言われた通りにシズはドアを閉めた。するとドアのすりガラスの窓から数人の影通り過ぎて行く。
「サファ王子! どこですか! 」
「かくれんぼはもう結構ですよ! 」
「歴史の先生がお待ちでございますよ、王子! 出てきてください! 」
シズは再び振り返る。
「おま、あなたは、もしかして王子様? 」
きちんとした服装をした男の子は腰に手をあてて胸を張った。
「そうだ。私はこのベグテクタの王子、サファだ。口を慎め」
シズが出会う年下は生意気ばかりだ。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる