【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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学校編

ベグテクタで密会

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 シズは息を飲んだ。カザンは淡々と話を進める。
「そして城人に身元確認が済んでいない遺体はこのふたつだけだ、どちらかがルバだと言い切られたそうです。髪の色で判断したそうですけど、どこか釈然としなかったそうです。そしてもうひとつの遺体はもしかしたら、」
 カザンがシズを見下ろす。そのもうひとつがシズとそっくりな男のダミーだとしたら。
「生き残りは二人いるってことか」
「そうですね。けれどまだ確証がありません。ですが、ルバはまだ生きていると思います」
「……そのルバって奴と仲良かったのか、お前」
 カザンが呼ぶその名前には明らかな親しみがあった。カザンは隠すことなく頷いた。
「兄の友人で僕を可愛がってくれました。けれど、ルバがアルガー塾をやめてから兄とルバの仲は険悪になりました。兄もだんだんですがおかしくなっていきました。表面的にはいい息子でいい兄でした。けどどこか狂気を感じるようになりました」
「それはアルガー塾のせいか? 」
「だと思います。アルガーは九十七期生の悲劇にショックを受けて塾を閉めてどこかに消えたとなっていますが、もしかしたら逃げたのかもしれません」
「逃げたって何から? 」
 シズが聞く。
「さあ。手がかりはありません。これで僕の情報は以上です。あなたの顔を見て反応した人はいったい誰なんです」
 フルーツジュースを一気に吸い込むと、シズは言った。
「カル・セドニ」
 カザンはさすがに目を見開いた。
「前の長期休暇の時もあいつ私のこと家までつけてきやがった。それにあいつ私が城人になるのをすこぶる嫌がってやがる」
「それはあなたが馬鹿だからではなく? 」
「ちゃうわっ! 」
 シズはジュースのカップを握りしめる。
「私が学校受験するって知ったらあいつ家まで来たんだ。受けても私のこと落とすって。そんなのわざわざ言いに来ずに落とせばいいだろ?おかしくないか?」
「おかしいって言ったら、そうかもしれないですね」
「私に城に来て欲しくなかったって考えるとしっくりくる」
「そういうことなら、城にはあなたとそっくりだという男を知っている人が必ずいるってことですね」
「すでに知っている奴はいるかもな。知らないふりをしているだけで。きっとろくでもないことしてたんだよ」
 自分をこっちの世界に飛ばして逃げるくらい男だ。やばいことをしていたんだろうとシズは決めつけている。
「城人になれば、今よりずっと調べやすくなる」
 シズが言った。
「下手に動かないでくださいよ。あなたの脳内回路は常に工事中で渋滞じゃないですか」
 すげぇ遠回しに馬鹿とシズに言った。
「邪魔するなってか」
「まあそうですね。けどまた確信に近づけました。九十七期生の悲劇にはやはり裏があります。その裏を作った人間が城にはいるってことが」
 カザンが憐れむような目線を私にやった。夜風にカザンのキャメル色の髪が靡く。
「あなたやっぱり城人なるのやめた方がいいんじゃないですか? 」
「なんでだよ」
  シズがつっかかる。
「なんでか自分でもわかるでしょう?仮定に基づけばあなたは隠された存在の片割れということになります。九十七期生の悲劇の裏も大きな力によってつくられたと考えた方が釈然とします。双子の片割れを捜しだせたとしてももう、表の世界には戻ってこれない人かもしれませんよ」
 裏と表。コイン。あの男にとってはここが表だ。表から裏に逃げた。シズは表から裏に連れて来られた。
「戻るんだよ」
 シズは思った。あいつをこっちに戻ってこさせる。そして私はあっちに戻るんだ。必ず。
「どういうことですか?」
「誰が邪魔してこようと城人になるってことだよ」
 シズは言った。シズ達は時間をずらして屋上を出た。

 次の日、シズ達は城へと向かった。城の門で迎えてくれた城人の制服は目が冴えるようなブルーのダブルのブレザーで腰に細めの黒ベルトをしていた。ネクタイと革靴も黒であった。城人の制服は国によって違うようだ。城に着くとベグテクタの王から挨拶を頂いた。ベグテクタの王、オーツはアベンチュレの王より若く、四十手前だった。胡桃色の髪を靡かせ登場すると穏やかな口調で歓迎の意を述べた。それから城内の見学を終え、城の食堂で昼食をとることになった。バイキング形式でアカクラスの奴らは馬鹿みたいに皿に盛った。
「うおっ! 」
 盛った皿をテーブルまで運んでいると、リョークがぶつかってきた。リョークの皿から肉が一舞い落ち、ブレザーを脱いでいたシズのシャツに肉のソースがべったりついた。
「俺の肉が落ちた! 」
「先に私に謝れよ」
「悪い」
 シズに謝るとリョークは落ちた肉を皿に戻した。シズは皿をテーブルに置くとシャツを洗いにトイレに向かった。裾の方だからまだマシだった。石鹸を使うとそれなりにとれた。
「王子! お戯れも大概になさってくださいっ!」
トイレの外がやかましい。裾をズボンの中にしまうと、シズはトイレのドアを開けた。瞬間、何かが飛び込んできた。振り返ると胡桃色の髪の子どもがいた。男の子だった。目元が誰かに似ている。
「ここ女子トイレだよ」
 シズが教える。
「ドアを閉めろ! 」
「え? 」
「早くしろ! 」
 言われた通りにシズはドアを閉めた。するとドアのすりガラスの窓から数人の影通り過ぎて行く。
「サファ王子! どこですか! 」
「かくれんぼはもう結構ですよ! 」
「歴史の先生がお待ちでございますよ、王子! 出てきてください! 」
 シズは再び振り返る。
「おま、あなたは、もしかして王子様? 」
 きちんとした服装をした男の子は腰に手をあてて胸を張った。
「そうだ。私はこのベグテクタの王子、サファだ。口を慎め」
 シズが出会う年下は生意気ばかりだ。
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