【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
32 / 241
学校編

完璧

しおりを挟む
バリシアがレポートを書くのに助かればと言って、シズに持っている本を貸した。図書館でアザムに会ったことをシズが話せば、アザムが読んだ本はなんだとバリシアは食いついてきた。教えれば明日買いにいこうとぼやきながら、バリシア部屋を出て行った。
 試験があと一週間とせまり、ランニングと柔軟体操は欠かさないが、シズは机にかじりつく時間が多くなった。実技の試験もあるからもちろんアシスを連れて訓練棟に行き、自主練をしている。リュークにも相手をしてもらっているが、カザンとやっていることが多いため、シズとはそんなにはしてくれない。カザンはあれからシズに話しかけてこない。迷っているのかシズのことを切ったのか。シズはとりあえず今は引いている。
「シズ、ホットレモン作るけど飲む?」
 シズが勉強をしていると、簡易キッチンからアシスがホットレモンを作りだした。部屋のストーブの上でヤカンが湯気を吹き出している。
「飲む」
 アシスはキッチンの上にマグカップを二つ置き、右左それぞれにレモンをそのまま持つ。そして絞ると、素手でそこまで果汁が出るかというぐらいにマグカップに零れる。もちろん彼女は綺麗に手を洗っている。そしてヤカンのお湯をそそぐとスプーンを添えて、シズのデスクまでアシス特製豪快ホットレモンを持って来た。ちなみに夏は豪快レモンスカッシュだった。
「蜂蜜使うなら」
 渡された蜂蜜を少しだけ入れ、スプーンでかき混ぜる。シズは一休みする。
「あー、うまい」
「ありがとう。シズ入学当時では考えられないぐらい最近勉強してるよね」
「まあな。城人なれなかったらここ来た意味ねぇから」
 ホットレモンを飲みながら、シズは書きかけのレポートを眺める。デスクの端にはそこそこ分厚い本が五冊。授業のノートも広げている。ベッドの上には教科書が散らばっている。
「不思議だな」
「何が?」
 シズは独り言のつもりだったが、アシスに聞こえてしまった。
「私がこんなに勉強してるのが。一年前の自分じゃ到底想像できねぇわ」
 シズは学校ではノートなんてとらなかった。テスト勉強なんて高校入って三分もしてない。寝るか食べるか喧嘩だった。まあ、異世界に飛ばされるなんてふざけたことになるとは思うわけない。
「私も少し不思議。最近、自分が城人になるのに少し必死になってるの」
 アシスも頷く。
「え? 」
「私さ、そんなに大きな志があってここ受けたわけじゃないから。ただ人より優れたものがあるからそれを活かしてみようって」
 アシスは自分の手を開いたり閉じたりした。
「私、兄弟多いの。しかも長女。城人って安定してるし月賦もいい。退職して田舎に戻っても仕事のあてはある。両親の自慢にはなる、とかそんなくだらないことでなろうって思ったの」
「くだらなくなんかないよ」
「だって見栄ばっかだよ」
 アシスは自虐する。
「でも、家族を理由に将来決められるのは凄いことだよ」
 シズは高校卒業したら遊べる程度にバイトしようぐらいのことしか考えていなかった。アシスは照れたように微笑んだ。
「けど最近それだけじゃないの。シズが苦手な勉強をやったり、バリシアが毎日寝不足になっても本を読んでたり、リョークが朝走っている姿を窓から見たりするとこうしちゃいられないって思う。シズ達と一緒に城人になりたいって思う。だから、」
 アシスがシズをしっかり見た。
「今度の試験は三点とらないでね」
「やかましいわ」
 それからホットレモンが冷めきった夜更けに、シズはレポートを書き上げた。

 レポート提出が無事終わるとあとは二日後の中間試験だ。アカクラスは筆記の範囲は少ないが実技がある。実技は自信があるが警棒がちょっと不安だからリョークを掴めると、少し相手をしてくれるという。リョークはカッコイイが理由九十センチの警棒を使っている。正直やりにくいがいい相手だ。ちなみにアシスは一番短い三十センチだ。
 訓練棟に行くのに渡り廊下をシズが走っていると、写真が目に入る。そういえばあれから百期生の写真は見に行っていないと思い出す。立ち止まりアカクラスの写真から自分を捜す。仏頂面で写っていた。九十七期生のアオクラスの写真を見る。自分にしか見えない顔がいる。相違しない仏頂面で写っている。ふと人の気配がした。
「カンダ、なにのんびりしてるんだ」
「セッシサン教官」
セッシサンが不精髭を撫ぜながら歩いてくると、九十七期生の写真を覗くように見た。
「お前の双子の片割れ見てたのか?」
「え? 
「事務室行った時に話を聞いた。あまり問題を起こすなよ」
 シズは苦笑いでごまかした。セッシサンは本当にそっくりだな、と呟いた。
「双子ってのは本当なのか? 」
「いや、適当です。けどここまでそっくりって気持ち悪いじゃないですか。名前知りたくて」
「その気持ちも分からんこともないな」
「ファンニウス教官は九十七期生の時はもう副局長だったんですか?」
「いや、俺は九十七期生の悲劇があった後になった。あれで一人副局長が死んだからな」
 四局のみ副局長が二人いる。それはこの学校が理由だ。アカクラスの担当教官は必ず四局の副局長だ。一人なら毎年クラスを持つことになってしまうから特例として二人いる。
「ラス・トイサキレウっていう人でな。俺の上司だった。飲みにもよく行っていたよ。九十七期生を受け持ってすぐに飲み行った時に言ってたよ。あいつらは完璧すぎるって」
「超優秀だったんですよね」
「そうだ」
 セッシサンは歯切れが悪かった。
「優秀なら分かる。あいつらは完璧過ぎた。アルガー塾生は。勉強、学校生活すべてが完璧。仲間への思いやりはあり、お互い励まし合うこともあった。それさえも完璧だった。ただの堅物じゃない。ジョークも完璧。トイサキレウ副局長はまるで脚本があるみたいだったって言っていた」
「脚本?」
「演じているみたいだってことだ。アルガー塾生は役者だと思えばしっくりくるってな」
 アルガー塾生。ドッペルゲンガーもそこの塾生だったのだろうかとシズは考える。
「その、アルガー塾ってまだあるんですか?」
「いや。九十七期生のことがショックで塾やめてどっかにいっちまったってよ」
 もしまだあったなら私と同じ顔の塾生いましたか?って聞けたのに。うまくいかないとシズは肩を落とす。
 それから二日間、最後の追い込みをして、シズは中間試験に挑んだ。分からないところもあったが入学試験とは手ごたえが雲泥の差だった。あとは祈るだけだ。
 軽くなった気持ちで廊下を歩いていると後ろからシズは声をかけられた。セドニだ。
「なんですか?」
 低い声で睨むようにシズはセドニと向き合った。
「お前はなんでそう喧嘩腰なんだ」
 セドニは呆れたような馬鹿にしているような腹立つ口調で言った。お前が尾行してくるからだとかは、シズはまだ言わない。証拠がない。この男には何度もカマをかけたがうまい事かからなかった。次に問い詰めるなら徹底的にしてやるとシズは計画する。
「今のところあんたは私の敵だからだ」
 シズはそう言い捨てて顔を背けると歩き出した。それからもシズから監視の気配が消えることはなかった。
 一週間後中間試験の結果発表が出た。結果はレポート良、筆記可、実技優。不可はなく、シズは無事にベグテクタに行ける。そして三点を返上した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...