31 / 241
学校編
二人
しおりを挟む
「ああ。いいよ。借りて帰りたいから少しなら」
アザムは本を取るとシズの前の席に座った。それからシズはまた本を読みだしたが、目の前に親しくない知り合いがいるのは気が散る。二冊あればどうにかなるだろうと本をアザムに譲ることにした。本を閉じて席を立つ。
「それやっぱ譲る。借りていいよ」
シズは鞄に本とノートをしまう。ペンをケースにしまうとアザムが本を私の鞄の上に置いた。
「だからお前が借りていいって」
「もう読みたいところは読んだ」
「え?」
「速読」
シズは速読できる人を初めて見た。苦笑いして返された本も鞄にしまう。
「けど君ならレポートの評価が不可になっても身体能力凄いから大丈夫じゃない?無理して慣れない勉強して風邪ひかないようにね」
シズはムカついた。せっかく本見せたのに、おんどりゃあ。
「そんなことねぇだろ。私、セドニ教官に嫌われてんからな。あんたと違って」
嫌味で返してやればアザムは眉間に皺を寄せた。ふとアザムの左手を見る。左手の中指には大きなペンだこができていた。
「お前左利きなんだな」
「それがなんだ? 」
「左利きっていかにも頭良いってイメージだから。じゃあな」
アザムを置いて。シズは図書館を出る。才能があるだけではトップになれない。やれることはやっているんだ。あんな嫌な奴でも。シズは早歩きで帰る。
城の門の所でカザン出くわした。
「うわっ」
嫌な奴二連発とシズは心の中で言った。
「こっちこそ最悪なんですけど」
カザンがシズの後ろを付いてくる。
「ついてくんなよ」
「僕も寮に帰るんです。馬鹿ですか?」
「けっ」
それから縦に並んで無言で歩く。こんな風にカザンと話すのはこの先あまりないかもしれないと、シズは情報を引き出してみることにした。
「カザン、アレのことあれからなんか分かったか?」
「アレ?」
「図書館で邪魔すんなって私に言ったことだよ」
「ああ」
九十七期生の悲劇のことと分かったようで、カザンは黙った。シズは遅く歩いてカザンに並んだ。
「お前のことだから私に言いたくねぇのかもしれねぇけどよ。私の話、聞けよ。私な、あの事件には生き残りがいるかもって思うんだけどよ」
カザンが目を見開く。そして焦った様子を見せた。カザンもシズと同じ考えを持っていたようだ。
「……邪魔だって言ったのに動いたんですか?」
カザンはぶしつけに言った。
「お前が思う邪魔なことはしてねぇよ。ほら、この間、私のそっくりな奴が城人の制服着てたのを見たことあるって話しただろ?長期休暇の時に考えてたら、生き残っていたこともありえるかなって」
「その可能性なら、あの時あなたの話を聞いた瞬間に考え付きましたよ。あなた本当に脳みそ鈍いですね」
すげー遠回しに馬鹿とシズは言われた。
「でもそれなら何故この城であなたの顔みて誰も反応を示さないのですか?」
「それは私も思ったよ。けどひとりだけいたんだよ、私の顔を見て反応した奴が」
カザンが立ち止まり礼をした。なんだと前方を見れば、カル・セドニがいた。嫌な奴三連発だ、とシズも礼をした。
「珍しい組み合わせだな」
「たまたまそこで会っただけです」
カザンが間髪入れずに早口で答えた。シズは呆れる。セドニの隣を見ると、シズの見慣れない城人がいた。セドニより年上で暗めのオリーヴ色の髪をしていた。
「セドニの生徒だな。どうだ、こいつはなかなかいい先生だろう?」
がはははっと笑いながらその城人は、セドニの背中を叩いた。セドニの困ったような態度からシズは上司かと思った。
「はい。とても素晴らしい教官です」
カザンは爽やかスマイル付きで模範解答を答えた。シズはあやふやに頷いた。
「私は七局長のコッパー・プライトだ。いやあ、優秀な部下を学校にとられてこっちはてんやわんやだよ」
また、がはははっと笑う。この二人、百八十度違うな、とシズは思った。
「早く帰れ。夕食に間に合わなくなる」
セドニに急かされ、シズたちは失礼しますとまた礼をしてその場を去った。寮に着き、二階の部屋に戻ろうとすればカザンは待ってください、とシズを呼び止めた。
「なんだよ」
「さっきの話途中ですよ」
「え? 」
「あなたの顔を見て反応した人は誰なんですか? 」
シズはすこし黙ってにたり笑った。
「お前もなんか情報寄越せよ」
「はあ!? 」
「すぐじゃなくてもいいからよ。お前が言う邪魔もしない。まあ考えといて」
まだ呼び止めようとするカザンを無視してシズは部屋に戻った。シズが見えなくなって、カザンはこぼした。
「……生き残りが二人、か」
アザムは本を取るとシズの前の席に座った。それからシズはまた本を読みだしたが、目の前に親しくない知り合いがいるのは気が散る。二冊あればどうにかなるだろうと本をアザムに譲ることにした。本を閉じて席を立つ。
「それやっぱ譲る。借りていいよ」
シズは鞄に本とノートをしまう。ペンをケースにしまうとアザムが本を私の鞄の上に置いた。
「だからお前が借りていいって」
「もう読みたいところは読んだ」
「え?」
「速読」
シズは速読できる人を初めて見た。苦笑いして返された本も鞄にしまう。
「けど君ならレポートの評価が不可になっても身体能力凄いから大丈夫じゃない?無理して慣れない勉強して風邪ひかないようにね」
シズはムカついた。せっかく本見せたのに、おんどりゃあ。
「そんなことねぇだろ。私、セドニ教官に嫌われてんからな。あんたと違って」
嫌味で返してやればアザムは眉間に皺を寄せた。ふとアザムの左手を見る。左手の中指には大きなペンだこができていた。
「お前左利きなんだな」
「それがなんだ? 」
「左利きっていかにも頭良いってイメージだから。じゃあな」
アザムを置いて。シズは図書館を出る。才能があるだけではトップになれない。やれることはやっているんだ。あんな嫌な奴でも。シズは早歩きで帰る。
城の門の所でカザン出くわした。
「うわっ」
嫌な奴二連発とシズは心の中で言った。
「こっちこそ最悪なんですけど」
カザンがシズの後ろを付いてくる。
「ついてくんなよ」
「僕も寮に帰るんです。馬鹿ですか?」
「けっ」
それから縦に並んで無言で歩く。こんな風にカザンと話すのはこの先あまりないかもしれないと、シズは情報を引き出してみることにした。
「カザン、アレのことあれからなんか分かったか?」
「アレ?」
「図書館で邪魔すんなって私に言ったことだよ」
「ああ」
九十七期生の悲劇のことと分かったようで、カザンは黙った。シズは遅く歩いてカザンに並んだ。
「お前のことだから私に言いたくねぇのかもしれねぇけどよ。私の話、聞けよ。私な、あの事件には生き残りがいるかもって思うんだけどよ」
カザンが目を見開く。そして焦った様子を見せた。カザンもシズと同じ考えを持っていたようだ。
「……邪魔だって言ったのに動いたんですか?」
カザンはぶしつけに言った。
「お前が思う邪魔なことはしてねぇよ。ほら、この間、私のそっくりな奴が城人の制服着てたのを見たことあるって話しただろ?長期休暇の時に考えてたら、生き残っていたこともありえるかなって」
「その可能性なら、あの時あなたの話を聞いた瞬間に考え付きましたよ。あなた本当に脳みそ鈍いですね」
すげー遠回しに馬鹿とシズは言われた。
「でもそれなら何故この城であなたの顔みて誰も反応を示さないのですか?」
「それは私も思ったよ。けどひとりだけいたんだよ、私の顔を見て反応した奴が」
カザンが立ち止まり礼をした。なんだと前方を見れば、カル・セドニがいた。嫌な奴三連発だ、とシズも礼をした。
「珍しい組み合わせだな」
「たまたまそこで会っただけです」
カザンが間髪入れずに早口で答えた。シズは呆れる。セドニの隣を見ると、シズの見慣れない城人がいた。セドニより年上で暗めのオリーヴ色の髪をしていた。
「セドニの生徒だな。どうだ、こいつはなかなかいい先生だろう?」
がはははっと笑いながらその城人は、セドニの背中を叩いた。セドニの困ったような態度からシズは上司かと思った。
「はい。とても素晴らしい教官です」
カザンは爽やかスマイル付きで模範解答を答えた。シズはあやふやに頷いた。
「私は七局長のコッパー・プライトだ。いやあ、優秀な部下を学校にとられてこっちはてんやわんやだよ」
また、がはははっと笑う。この二人、百八十度違うな、とシズは思った。
「早く帰れ。夕食に間に合わなくなる」
セドニに急かされ、シズたちは失礼しますとまた礼をしてその場を去った。寮に着き、二階の部屋に戻ろうとすればカザンは待ってください、とシズを呼び止めた。
「なんだよ」
「さっきの話途中ですよ」
「え? 」
「あなたの顔を見て反応した人は誰なんですか? 」
シズはすこし黙ってにたり笑った。
「お前もなんか情報寄越せよ」
「はあ!? 」
「すぐじゃなくてもいいからよ。お前が言う邪魔もしない。まあ考えといて」
まだ呼び止めようとするカザンを無視してシズは部屋に戻った。シズが見えなくなって、カザンはこぼした。
「……生き残りが二人、か」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる