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学校編
新年
しおりを挟む新年祭にシズとジャモンは出かけた。年が明けると同時に夜空に花火が舞った。儚い火花に、シズは故郷を思う。何度覚悟を決めても「帰る」ということが途方もないことにしか、シズには思えない。親身になってくれる保護者もいて、気さくな仲間もできた。けれど、ふとした瞬間とても不安になったり堪らなく寂しくなる。嫌な想像ばかりして、それがこの世界と自分のずれを突きつける。私の生命は本当に今存在しているのか?そんなもともこもないことをぐるぐるシズは考えては、しっかりしろと鼓舞する。
新年祭の次の日、カーネスが置いていた書類をキッチンのテーブルに広げもう一度読み直した。だが、前読んだ時以上の情報は出てこない。
「せめてこのアタカマって奴のことがもう少し分かればな……」
こっちの設定ではシズの養父だという設定のアタカマ。そのアタカマがジャモンの店の常連で。
「ジャモン」
「なんだい? 」
夕食の下ごしらえをするジャモンが顔を上げた。鶏肉を特製のタレに漬けている。
「ジャモンが店をやってた所でどこ?」
「フェナっていうベグテクタとの国境の街さ。活気があっていい街だったよ」
シズは地図を広げる。ベグテクタとアベンチュレの国境付近に、フェナという名前を見つけた。
「ジャモンはずっと、フェナに住んでいたのか? 」
「そうだね。国境の街だったし仕事には困らなかった。フェナがどうかしたかい?」
「いや、なんで保護者がジャモンだったんだろうって」
「運が良かったのかな」
ジャモンは呑気に笑った。
「カーネスに口説かれたのもフェナってことだよな?」
「そうだね」
王都ペタではなく、国境付近の遠いフェナ。借金まみれの人なんて結構いるだろう。それなのになぜジャモンだったのだろう。人柄か。確かにジャモンはお人好しで性格が良い。シズは色々考える。
「フェナは広くてね。関所がある街は凄い人だけれど、北の方の山を越えれば小麦畑があるのどかな田舎街だ」
山。シズは思い付く。
「その山行ったらアタカマって人いねぇかな? 」
「アタカマって人はもう死んでるよ。そういう設定だろう? 」
「そうだけど存在したかもしれない。戸籍があったんだから」
「それもあるかもね。けどもしいたとしてもそのアタカマさんも俺と同じ利用された立場の可能性が高いよね」
「……そうだよなー」
捜しに行って無駄骨ってこともある。とりあえず明後日から学校が始まるから無理だとシズは諦める。学校でできることに方向転換した。
学校が始まり、アシス達の土産話を聞きながら、シズは土産を貰った。アシスに貰ったスルメみたいな奴をシズは気に入った。あとリグが飴の詰め合わせをくれた。かなり可愛い。乙女心が分かる男、リゴ。シズとアシスの部屋の暖簾がジャモン特製ロールカーテンになった。見た目もよくなり、とてもいい。そしてあっという間にそれぞれのクラスでレポートのテーマの発表と試験範囲がきまり、学校は一気に試験モードになった。バリシアがレポートの予想が当たったと喜んでいた。シズはレポートについて昼食の時にバリシアに相談すれば、昔それに関する本を読んだことあると、シズが読みやすい本のタイトルを数冊メモに書いた。犯罪心理についての本だった。
「こういうの読むってことはバリシア、八局いきたいのか?」
「司法の本読んだりするけど、まだ決めかねてる。だからいろんな情報知っておきたいなと思って色々読んでるの」
「そうなんだ」
バリシアに八局は結構似合っているとシズは思った。その日午後の授業を終えると学校の図書館は混んでいて目当ての本はなく、シズは国営の図書館に行った。バリシアが教えてくれた本は三冊あった。席に座り本を読む。喧嘩をせずに真面目に勉強するようになると、シズは本を読むことに慣れてきた。あっちの世界にいた時は漫画しか読めなかったのに、人間成長すると自分を褒める。本を読み使えそうな文をノートに書き写す。
「それ読んでないなら一冊貸してくれないか」
顔を上げるとスファレ・アザムが立っていた。どれのことかと思えば黙っていればテーブルに置いていた本を指先で叩いた。
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