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学校編
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三か月の厳しい基礎体力と身体能力向上訓練が終わり十二月になって実践の訓練がはじまった。四局も使う訓練棟で警棒、警杖の実践がはじまった。警棒は特別な木材で作られている。鉄並みに硬い炭のような黒さで 夜樹と呼ぶだ。
セッシサン教官が警棒をつく。シズはそれをかわすと右手に持った警棒を振り落したが、なにやら分からないうちに手から警棒が落ちた。
「おいカンダ! 何度言ったら分かる! 振り回すだけじゃ駄目だ。力の向きを意識しろと武術論で阿保みたいに教えただろうが !」
「すいません」
何度も聞いたが、頭で考え過ぎるとシズは身体が動きにくくなって結局自分のやりやすいように動いてしまう。
「カンダは体術の方はトップクラスなんだけどな。無茶苦茶だがな」
「すいません」
「下がれ。見本見ておけ。カザン入れ」
「はい」
一礼して戻ると、シズはカザンとすれ違う。ちらりとシズはカザンを見上げたが見向きもしなかった。アシスの隣に座り、カザンを見る。シズの時と同じようにセッシサン教官はカザンに向かって警棒をついた。警棒は五十センチ程だ。カザンはそれを避けると警棒を持っていない方のセッシサン教官の手を掴んだ。そしてすかさず脇から警棒を通し、先を首の後ろに当てるとセッシサン教官が前のめりになり、背負い投げされたように背を床に付けた。カザンは手を離す。セッシサン教官は起き上がる。
「力加減もうまいな、お前」
「ありがとうございます」
カザンは浮かれる事なく頭を下げた。
「分かったか?カンダ」
シズは分かるような分からないような。けれど元気な声で「はい。分かりました」と言っておいた。
「さみぃな、おい」
シズとアシスが訓練棟を出ると後ろからリョークがやってきた。冷たい風が肌を刺す。
「来週雪らしいよ」
アシスが言えばリョークがげぇっと嫌な顔をした。
「地元帰る時に列車止まるのは勘弁だぜ」
暮れになると長期休みに入る。ここでも年始は祝うという。
「それは私も。それにしてもいつ見てもカザンの警棒さばきは綺麗だね。まさに教科書」
「確かにそうだな」
くやしいがそれをシズも認めるしかない。
「武術論の授業受けて頭では分かってるんだけどよ、それ考えながら動くと身体が頭に追いつかないというか、頭が身体に追いつかないというかちぐはぐになるんだよな」
「それめっちゃ分かる」
アシスがシズに同意する。シズも喧嘩をしていた時も何も考えずにしていたわけではないが、なんちゃら理論的なことには一切思考は回らなかった。けどそういうことができないとカーネスは出し抜けない。苦手だけどそんなこと言っていたらここに入った意味がない。
「寮戻ったら少し復習するかー」
シズは言った。
「カザンに聞いたら?」
「絶対無理。あいつ私のこと嫌ってるだろ? 」
「まあそうよね」
アシスは自分から提案したくせにあっさり言った。
「女を小馬鹿にしてるところあるよね」
「あるな」
「けど武術と勉強もできて文句が付けようがない」
「ムカつくな」
隣で私達の愚痴を聞いていたリョークは愉快そうに笑った。
「けどさ、あいつなんでアカクラスなんだろうな。アオクラスでも入れる頭あるらしいし。偏見だけど、アオクラスぽいじゃん、あいつ」
「武術に自信があったからじゃない? 」
リョークとアシスの会話を片耳で聞きながら、前に図書館でカザンと話したことをシズは思い出した。九十七期生の悲劇。自分の兄が死ぬ理由になったあの事件を調べるために四局になりたいんだ、きっと。そうシズは思った。四局を目指す理由は自分と似ているかもしれないとも、シズは思った。
「どうしたカンダ?ぼうっとしてよ」
「別に」
冬の風がいっそう寒く吹いた。
寮に戻り武術論の本を片手に警棒を使う練習をしていると、壁がノックされる音が聞こえ、バリミアが部屋ののれんをくぐって現れた。
「まだドア直して貰ってないの? もう十二月よ」
「一回直してもらったけど先週またアシスが壊した」
シズが言えば、ベッドの上で音楽雑誌を読んでいたアシスが黙って微笑んだ。
「……じゃあこのままの方がいいかもね」
「ジャモンに話したら厚めの布で良い感じに作ってくれるって」
「へえ。来年寮に戻ってきたら見にこよう。それにしてもシズのベッドメイキング完璧ね」
「せっかく覚えたから活用してんだ」
間違って奉公さんの勉強をしたことは、地味にシズの生活に生きている。テーブルマナーも結構完璧だった。
「それで?どうかしたか?」
シズがバリシアに尋ねる。
「あ、本棚に置かせて貰っているのものとりにきた」
「おお」
シズは武術論の本をデスクの机に置いて椅子に座る。本棚の一番下の棚をバリミアに貸しているが、それでもすかすかだ。バリミアは三冊本をとった。ベッドに座っていいよと言えばそこに座った。
「また勉強か?」
「二月に提出するレポートの準備まとめておこうと思って」
「それってまだテーマ決まってなくない?年明け発表だよね」
アシスが会話に入ってきた。
「そうなんだけど、何個かテーマを予想つけといてやっとこうかなって」
アオクラスはやっぱり違う。シズは尊敬のため息を零した。
「私ね、地元じゃ敵知らずだったけどやっぱりここは凄いわ」
私も喧嘩じゃ地元で負け知らずだったな、とシズは土俵違いの共感をする。
「まあ、アオクラスはね。トップは相変わらず?」
アシスが聞くと、バリシアは悔しそうにトップの前を口にした。
「スファレ・アザム」
シズは入学の時に食堂で嫌味を言われたきりまともに顔を合わせたことがない。
「小テストも毎回満点。授業でストム教官にあてられても求められているもの以上の答えを出すし。セドニ教官のお気に入りよ。シズと一緒で」
「嫌味か」
にやにやするバリミアをシズは睨む。
「そういえば知ってた?アザムって養子らしいわよ」
バリミアが言った。
「養子?」
シズが聞き返すと、バリミアは頷く。
「私は最近知ったんだけど結構有名なことみたい。アザムの養父、奥さんも数年前に亡くなって子どももいなかったみたいだから」
「まああんだけ優秀だったら金出してまで欲しいよな」
「モテるしね」
バリミアはそう悪戯ぽくいうと、私はタイプじゃないけどねと聞いてもないことを言って立ち上がった。
「長休暇の間、シズしっかり勉強でなさいよ。二月の試験は年明けてすぐよ。前のヨール王の前の粗相のことがあったし挽回しないと」
「古傷えぐらないで」
あの後、セドニ教官は、シズに対して一層厳しくなり、それが周りの笑い話になっている。さらにシズのあだ名が「三点」から「三点反省室」になった。
「中間を突破するとベグテクタに研修旅行なんだから!ベグテクタって芸術の国でしょ?それにスイーツが美味しいって!一回は行ってみたかったのよね」
バリミアはガッツポーズをして目を光らせている。それなりに楽しみらしい。ちなみに研修旅行先は毎年変わるという。去年はオードだった。
「中間試験で落第すると研修行けないからね。分かってる?」
バリミアはシズに念を押す。
「分かってるよ。心配しなくても行けますから」
バリミアとアシスは心配な眼差しを向けてきた。正直 シズ自身も心配していた。
セッシサン教官が警棒をつく。シズはそれをかわすと右手に持った警棒を振り落したが、なにやら分からないうちに手から警棒が落ちた。
「おいカンダ! 何度言ったら分かる! 振り回すだけじゃ駄目だ。力の向きを意識しろと武術論で阿保みたいに教えただろうが !」
「すいません」
何度も聞いたが、頭で考え過ぎるとシズは身体が動きにくくなって結局自分のやりやすいように動いてしまう。
「カンダは体術の方はトップクラスなんだけどな。無茶苦茶だがな」
「すいません」
「下がれ。見本見ておけ。カザン入れ」
「はい」
一礼して戻ると、シズはカザンとすれ違う。ちらりとシズはカザンを見上げたが見向きもしなかった。アシスの隣に座り、カザンを見る。シズの時と同じようにセッシサン教官はカザンに向かって警棒をついた。警棒は五十センチ程だ。カザンはそれを避けると警棒を持っていない方のセッシサン教官の手を掴んだ。そしてすかさず脇から警棒を通し、先を首の後ろに当てるとセッシサン教官が前のめりになり、背負い投げされたように背を床に付けた。カザンは手を離す。セッシサン教官は起き上がる。
「力加減もうまいな、お前」
「ありがとうございます」
カザンは浮かれる事なく頭を下げた。
「分かったか?カンダ」
シズは分かるような分からないような。けれど元気な声で「はい。分かりました」と言っておいた。
「さみぃな、おい」
シズとアシスが訓練棟を出ると後ろからリョークがやってきた。冷たい風が肌を刺す。
「来週雪らしいよ」
アシスが言えばリョークがげぇっと嫌な顔をした。
「地元帰る時に列車止まるのは勘弁だぜ」
暮れになると長期休みに入る。ここでも年始は祝うという。
「それは私も。それにしてもいつ見てもカザンの警棒さばきは綺麗だね。まさに教科書」
「確かにそうだな」
くやしいがそれをシズも認めるしかない。
「武術論の授業受けて頭では分かってるんだけどよ、それ考えながら動くと身体が頭に追いつかないというか、頭が身体に追いつかないというかちぐはぐになるんだよな」
「それめっちゃ分かる」
アシスがシズに同意する。シズも喧嘩をしていた時も何も考えずにしていたわけではないが、なんちゃら理論的なことには一切思考は回らなかった。けどそういうことができないとカーネスは出し抜けない。苦手だけどそんなこと言っていたらここに入った意味がない。
「寮戻ったら少し復習するかー」
シズは言った。
「カザンに聞いたら?」
「絶対無理。あいつ私のこと嫌ってるだろ? 」
「まあそうよね」
アシスは自分から提案したくせにあっさり言った。
「女を小馬鹿にしてるところあるよね」
「あるな」
「けど武術と勉強もできて文句が付けようがない」
「ムカつくな」
隣で私達の愚痴を聞いていたリョークは愉快そうに笑った。
「けどさ、あいつなんでアカクラスなんだろうな。アオクラスでも入れる頭あるらしいし。偏見だけど、アオクラスぽいじゃん、あいつ」
「武術に自信があったからじゃない? 」
リョークとアシスの会話を片耳で聞きながら、前に図書館でカザンと話したことをシズは思い出した。九十七期生の悲劇。自分の兄が死ぬ理由になったあの事件を調べるために四局になりたいんだ、きっと。そうシズは思った。四局を目指す理由は自分と似ているかもしれないとも、シズは思った。
「どうしたカンダ?ぼうっとしてよ」
「別に」
冬の風がいっそう寒く吹いた。
寮に戻り武術論の本を片手に警棒を使う練習をしていると、壁がノックされる音が聞こえ、バリミアが部屋ののれんをくぐって現れた。
「まだドア直して貰ってないの? もう十二月よ」
「一回直してもらったけど先週またアシスが壊した」
シズが言えば、ベッドの上で音楽雑誌を読んでいたアシスが黙って微笑んだ。
「……じゃあこのままの方がいいかもね」
「ジャモンに話したら厚めの布で良い感じに作ってくれるって」
「へえ。来年寮に戻ってきたら見にこよう。それにしてもシズのベッドメイキング完璧ね」
「せっかく覚えたから活用してんだ」
間違って奉公さんの勉強をしたことは、地味にシズの生活に生きている。テーブルマナーも結構完璧だった。
「それで?どうかしたか?」
シズがバリシアに尋ねる。
「あ、本棚に置かせて貰っているのものとりにきた」
「おお」
シズは武術論の本をデスクの机に置いて椅子に座る。本棚の一番下の棚をバリミアに貸しているが、それでもすかすかだ。バリミアは三冊本をとった。ベッドに座っていいよと言えばそこに座った。
「また勉強か?」
「二月に提出するレポートの準備まとめておこうと思って」
「それってまだテーマ決まってなくない?年明け発表だよね」
アシスが会話に入ってきた。
「そうなんだけど、何個かテーマを予想つけといてやっとこうかなって」
アオクラスはやっぱり違う。シズは尊敬のため息を零した。
「私ね、地元じゃ敵知らずだったけどやっぱりここは凄いわ」
私も喧嘩じゃ地元で負け知らずだったな、とシズは土俵違いの共感をする。
「まあ、アオクラスはね。トップは相変わらず?」
アシスが聞くと、バリシアは悔しそうにトップの前を口にした。
「スファレ・アザム」
シズは入学の時に食堂で嫌味を言われたきりまともに顔を合わせたことがない。
「小テストも毎回満点。授業でストム教官にあてられても求められているもの以上の答えを出すし。セドニ教官のお気に入りよ。シズと一緒で」
「嫌味か」
にやにやするバリミアをシズは睨む。
「そういえば知ってた?アザムって養子らしいわよ」
バリミアが言った。
「養子?」
シズが聞き返すと、バリミアは頷く。
「私は最近知ったんだけど結構有名なことみたい。アザムの養父、奥さんも数年前に亡くなって子どももいなかったみたいだから」
「まああんだけ優秀だったら金出してまで欲しいよな」
「モテるしね」
バリミアはそう悪戯ぽくいうと、私はタイプじゃないけどねと聞いてもないことを言って立ち上がった。
「長休暇の間、シズしっかり勉強でなさいよ。二月の試験は年明けてすぐよ。前のヨール王の前の粗相のことがあったし挽回しないと」
「古傷えぐらないで」
あの後、セドニ教官は、シズに対して一層厳しくなり、それが周りの笑い話になっている。さらにシズのあだ名が「三点」から「三点反省室」になった。
「中間を突破するとベグテクタに研修旅行なんだから!ベグテクタって芸術の国でしょ?それにスイーツが美味しいって!一回は行ってみたかったのよね」
バリミアはガッツポーズをして目を光らせている。それなりに楽しみらしい。ちなみに研修旅行先は毎年変わるという。去年はオードだった。
「中間試験で落第すると研修行けないからね。分かってる?」
バリミアはシズに念を押す。
「分かってるよ。心配しなくても行けますから」
バリミアとアシスは心配な眼差しを向けてきた。正直 シズ自身も心配していた。
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