【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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学校編

王と王子の疑い

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 反省室は左棟の最上階にある。普段は使用されることは少なく掃除もあまりされていないせいか埃ぽい。青少年学校の生徒はみんな優等生なのだ。シズは自分が真面目だと思っている。遅れちゃだめだと思ってやったことを反省しなければならない。世の中難しいとシズはつくづく思った。
 セッシサン教官はシズとリョークに窓を全開にさせた。そして最前列に座らせるとレポート用紙を机の上に置いた。
「反省文だ。手を抜くなよ」
 セッシサン教官は教卓の古い椅子に座るとまた煙草に火を付けた。こいつも結構な不良教官だとシズは思った。シズはレポート用紙の枚数を数える。五枚。
「三枚もかよ。うげ」
 リョークが横でそんなことを言ったので、シズはすぐさま手を上げた。
「教官! 」
「なんだ、カンダ」
「私、五枚あります。クド君より二枚多いんですけど」
「お前はあれ、現行犯だから。クドはまだ隠れていただろう。カンダは表だってインデッセの王様に失態見せたから。まあ、頑張れよ」
「そんなぁ」
 シズは机に額を付ける。
「頑張れー」
「てめぇが言うな、リョーク。ってか、なんでインデッセの王様来るんだよ。来なくていいよ」
「カンダ、もう二枚増やすぞ」
「頑張ります。すいません」
 シズはペンを持ち「反省文」と一行目に書いた。
「けど、本当に何しに王様来られたんですか?」
 シズの素朴な疑問だった。セッシサン教官も暇なのか無駄口叩くなとかは言わず、煙草を吹かしながら教えてくれた。
「毎年恒例だよ。この時期になると他国の王様がそれぞれの国の青少年学校を見学なされる。去年はオードの王様が来た。うちの王様も今、ベグテクタの方に行っている。あと、一緒に城人を三人連れてきてる」
「その城人達はどこに?」
「街に見学だ。お前らも優等生になれば来年行けるかもしれないぞ。連れて来るのは城人一年目の奴らだからな」
 絶対行けないなとシズは思った。行くような奴はこんな埃臭い反省室なんて来ない。大きなため息を零すと、シズは思ってもいない反省をつらつらと書き始めた。

 昼前にシズ達は解放され、リョークはトイレに、シズは食堂に行った。労ってくれる友より先にラリマが現れた。
「本当に恥ずかしいよ。君、ヨール王の前で恥さらしたんだって?」
 シズは舌打ちをして無視を決め込み、空いている席を探す。
「ちょっと君、話しかけているのに無視はよくないな」
「なんだよ、マッシュ」
「僕の名前はマーシー・ラリマだ! まったく君は人の名前もきちんと憶えられないのかい? 」
 ワザとだよ、とわざわざシズは言わない。
「それより僕は怒っているんだよ!」
「なんでだよ」
 サンドイッチが乗ったトレーを持ったまま、シズは立ち止まった。
「僕は前にインデッセに留学していたことがあったんだよ。いんでっせはとてもいいところだ。人は穏やかで礼儀正しい。君みたいな人間はひとりもいないよ」
「ソウデスカ」
 無視を決め込めばよかったと、シズは後悔した。
「ヨール王がまだ王子の頃にパーティーで挨拶した事がある。彼は本当に素敵で僕の憧れだ。そんなヨール王の前で君が、アベンチュレの恥をさらしたことが、僕は許せない! 」
「それは悪かった。じゃあ」
 素早く謝りシズはラリマに背を向けた。後ろでラリマがぎゃあぎゃあ喚いていたが無視して、アシズを見つけたシズはサンドイッチを頬張った。



「ヨール様、紅茶がはいりました」
 インデッセ国王側近のプネ・カバンサは、アベンチュレ城の特別客室の椅子でくつろぐヨールに声をかける。
「ありがとう。レモンを添えてくれ」
「かしこまりました」
 カバンサは後ろに上品に束ねたシメント色の髪を揺らし頭を下げると、カップに紅茶を注ぎレモンを添えた。ヨールは出された紅茶に角砂糖を二つ落とすと銀スプーンでかき混ぜ、一口飲んだ。
「晩餐会は七時からだったかな?」
「はい。まだ少しごゆっくりできます」
 ヨールはカップをソーサーに置くと肘掛けに肘を置き頬杖をついた。そして朝、出会った窓から現れた女のことを思い出していた。
「シズ・カンダ」
 ヨールが女の名前を呟くと、カバンサは所作を止め、王を見る。
「お前、どう思う」
「どう、とは?」
「似てないか?」
「似ているというよりも、あれは『同じ』という方がよろしいかと」
 ヨールは微笑む。
「私にもそう見えた。けれど顔だけだ。彼女とは大違いだ。可憐さが皆無になっている。嘘を付いているにしても、私のことを知っているという隙を見せなかった」
「もしかしたら名女優なのかもしれませんよ」
 ヨールは高らかな笑い声を上げた。
「それはいい。ではこの舞台での私らは脇役かな?」
「そんなつもりさらさらないでしょう?」
 ヨールはカバンサに視線を投げ、再び紅茶に手を伸ばす。
「調べておけ。あれが『本物』かもしれない」
「承知致しました」



「王子、晩餐会の準備は滞りなく進んでいるようです」
 執務室で書類に目を通すアンドラ王子に一局副局長のクバン・パイローは伝えた。アンドラは書類から目を離さないまま、返事をした。
「先ほど廊下でメト様とお会いしました。ドレスのプレゼントありがとうと伝えてくださいということです。今夜おめしになるそうですよ」
「気に入って貰えたならよかった」
パイローは空になったカップを下げる。
「お代わりをお持ち致します。珈琲でよろしいでしょうか?」
「ああ。あと、あいつと電話がしたい」
 パイローは丸眼鏡のレンズを通して王子を見た。
「今すぐに、でしょうか? 」
「珈琲よりもすぐだ」
「承知致しました」
 パイローが執務室を後にした数分後、アンドラのデスクの電話が鳴った。書類から手を離すと受話器を取る。
「お前俺に知っていて隠していたのか?」
「シズ・カンダと言ったな。男ではなかった。けれどミトスとそっくりだ」
「無関係とはいえない。血縁者か。しかし、インデッセの王に見られたのは失態だ。これからは注意しておけ」
 受話器を置くと、アンドラは窓の向こうを眺め、ひとり呟いた。
「死んだか、はたまた逃げたか。幽霊よ」
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