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学校編

カザンの兄

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 シズは事務室に飛び込んだ。
「すいません! 」
 シズが大きい声を出せば、事務員のひとりがこっちに来てくれた。
「どうかしたかい? 」
「入学者名簿見たいんですけど!」
「今年のかい? 」
「九十七期生の! 」
 事務員のおじさんは顔を顰めた。
「悪いが規則で見せられないことになっているんだよ」
「そこをなんとか!」
 シズは事務員に詰め寄る。
「あの、あれ! あれなんですよ! 」
 シズは焦る。
「あ、そうだ! 生き別れの双子の兄が写ってるんですよ! 九十七期生のアオクラスの集合写真に! 」
「君今思いきりそうだって言ったよね。明らかに今思い付いたよね」
 シズはここで引き下がるわけにはいかない。
「頼むよ! 見せろよ! 」
 シズはおっさんの服にしがみ付き縋り付く。
「金なら払うから! 」
「いや、そういうことじゃなくてね」
「じゃあもうこっそりでいいから! こっそり見せて」
「この状況でこっそりはもう無理だと思うよ」
「なんの騒ぎだ」
「セドニさん! 」
シズは忌々しく天敵の顔を睨む。シズは舌打ちをしておっさんから手を離した。
「またお前か。問題ばかり起こして」
「問題ばかりってなんだよ。真面目に生きてるだけですー」
「橋からダイブしたのはどこのどいつだ」
「入学前のことカウントすんなよ」
「シズ! 」
 バリシアが現れ、シズの頭を思い切り下に押さえつけ、無理矢理頭を下げさせた。
「でっ! 」
「すいません。この子反射神経が良過ぎて思考って行為をすっ飛ばしてしまうんです」
 バリシアはナチュラルにシズを貶す。
「ちょっと早とちりしてしまってすいません」
 何も悪くないのにバリシアが謝る。
「……来週の月曜日はインデッセ国王が訪問なされる。授業の見学もなされる。恥をかかせるな」
 恥、恥うるせぇな、とシズはふてる。
「シズ・カンダ」
 やべ、心の声聞こえたか、とシズは焦る。
「教官への言葉遣いには気を付けろ」
 立ち去るセドニの背中にシズは舌を出す。バリシアが怒る。
「あなた、ただでさえセドニ教官に目付けられてるんだから問題起こしちゃ駄目よ」
「へーい」
 事務室を出るとリョークとリゴが寄ってきた。
「お前何やってんだよ。なんだよ双子って。マジな話か? 」
「……違うけど」
「けどまあ九十七期生のカンダが十五歳で入学したっていうなら辻褄は合うよね」
 リゴがそう言った。そうだ辻褄は合うとシズは納得する。自分にそっくりさん二人目現れましたというのよりしっくりくる。
「けど、九十七期生は全員死んでるだろ?」
「そうね。死体もちゃんと人数分見つかってるって当時の新聞で読んだわ」
 バリシアの顔をじっと見る。
「なに? 」
「いや。私、寮戻るわ」
「写真見ねーのかよ」
「今度にする」
 手を上げて、シズは寮へとひとり帰った。


 シズは部屋の入り口に暖簾のようにかかったベージュの布をくぐる。アシスがドアを壊した応急措置だ。いつ直るかは分からない。冬までには直して欲しいとシズは思っている。
「お帰り」
 アシスはベッドの上でラジオを聞きながら腹筋をしていた。
「ただいま。アシス写真見なかったんだな」
「今日ラジオで私が好きなバンド流れるから。あ、始まった」
 ラジオから音楽が流れ始めるとアシスは腹筋をやめた。シズは右側の自分のベッドに転がる。
 九十七期生のアオクラスの集合写真に写っていたシズと同じ顔。シズはあれが自分をこっちに連れてきたドッペルゲンガーである確信があった。けどそれなら、ドッペルゲンガーは三年前に死んでいることになる。死体の数も合っていたとバリシアが言っていた。こっちとあっちは三年の時差があるということか。けどそれならバリシアとカケルのことはどうなる。同い年の男女で同じ顔。コインというのにしっくりくる。今まで考えていたコイン説を覆すはまだ違うとシズは思う。
 曲が終わるとアシスはまた腹筋を始めた。
「アシス」
「何?」
「九十七期生の悲劇って知ってるか? 」
「まあ、有名だしね。山籠もりで火事になって全滅でしょ。当時はラジオでも新聞でもずっとそればっかだったから」
「当時の新聞って読めるかな?」
「学校の図書館はないかもしれないけど、すぐ近くに国営のでかい図書館あるからそこにあるかもね」
「へえ」

 次の日の土曜日、午前中で授業は終わり、シズは国営図書館に出かけた。司書に聞けば過去五年分の新聞は戸棚にあると言われた。
「三年前の九月……。あった」

【新鋭達、全員死亡】

 でかでかと一面にそう書いてあった。その場の床に座り、シズは記事を読む。

【九月二十五日夜、原因不明の大火事が起こりアベンチュレ青少年学校九十七期生と引率の教員三名が死亡した。四局員達は総出で原因究明を急いでいる。】

 記事は九十七期生が「アルガー塾」の卒業生が多くいたこと、そこの卒業生は前代未聞の天才ばかりだったとあった。その天才達が亡くなったのを嘆いていた。死亡者の名前も顔も公表されていない。他のページをめくれば交通事故の記事があった。そこには死亡者の顔写真と名前があった。
「なんで、こっちは顔写真ないんだ」
「国が圧力をかけたからでしょう」
 独り言に返事が返ってきて反射的にシズは顔を上げた。
「カザン」
「机で読んだらどうですか。行儀悪いですよ」
 シズは立ち上がり新聞を畳んだ。
「なんでお前ここに」
「昨日のあなたの言動が気にかかりまして。本当に双子の片割れなのですか?あの写真に写っていたのは?」
 どう説明するかとシズは思考を巡らす。カザンは何か知ってそうだった。それをシズはうまい事引き出したかった。
「私、養子なんだよ」
 嘘じゃない。ジャモンの養子だと、シズは言い聞かせる。
「前に私にそっくりな男を見かけて、そいつが城人の制服着てたんだよ」
 カザンの顔を見れば眉間に皺を寄せていた。
「城人の?」
「ああ。もしかしたら自分の親族かもなって思ってたんだけど、三年前に死んでたんだな。城人になる前に。私の勘違いだろうけど少し気になって調べに来たんだよ」
 シズは少し嘘を混ぜた。カザンは顎に手を添え、何かを考えているようだった。
「お前は何で?昨日も九十七期生の写真見てただろ?」
「……兄が九十七期生でした」
「へぇ。まさかアルガー塾生? 」
 カザンは頷いた。天才の兄も天才か、とシズは感心する。
「僕はあの火事には何か大きな原因があると思っています」
「大きな原因?」
「それを突き止めようとしているんです。それでカンダさんに忠告にきました」
 カザンは詰め寄ってくると威圧的にシズ見下ろしてきた。
「九十七期生の事件は国も絡んでいると僕は思っています。国じゃなくても何か大きな力が関わっていると思います。それなのに昨日のあなたのように感情的な行動をすれば、上はまた圧力をかけて僕が動きにくくなります。ただでさえ情報が少ないのにあなたが動くことで僕の邪魔になります」
「邪魔って」
「邪魔です」
 カザンは二回言った。シズはクソ野郎と思う。
「あなたの親族らしき人のことが分かれば僕が教えてあげます。なので九十七期生のことについて大きな揉め事は起こさないでください。大人しくしておいてください。あと分かっていると思いますけど今日ここで話したことはご内密に。それでは」
 カザンは颯爽と立ち去る。新聞を床に叩きつけようとしたが確かに昨日の自分の行動は早まったなと反省し、シズは新聞を棚に返した。
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