【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

文字の大きさ
上 下
19 / 241
学校編

奇跡

しおりを挟む

奇跡だ。封書を破いて中身を見た瞬間、シズはそう思った。
「ジャモン! ジャモンジャモンジャモン! ジャモン! 」
 キミドリアパートの入り口にあるポストから叫びながら、シズは階段を駆け上がる。そしてミズイロドアを開け放ち台所で洗い物をしていたジャモンに合格通知を見せた。
「合格だ! 合格した! 」
 ジャモンはきょとんとし、合格通知をじっと見ると理解できたのか泡だらけの手を上にあげた。
「やったじゃないかシズ! 」
 泡だらけのままでジャモンを抱きしめた。泡で服が汚れることもジャモンの贅肉で締め付けられることも、シズは全然気にならなかった。実技は手ごたえがあったが筆記はもう無意味なんじゃないかっていうぐらい何もできなかったので、シズは不合格を覚悟していた。そのことをジャモンにも話していた。落ちたら探偵事務所でもなんでも屋でもやってカーネスを捜そうという案も出していた。金ならあるからそれで、がたいのいい従業員を雇えはどうにかなるんじゃないかと話していた。それも面白そうだったとシズは思った。
「バリミアに電話しないと」
 先々週ひいたばかりの電話でシズはバリミアに連絡をした。合格したと言えば、嘘でしょと言われた。シズもそう思った。けどよかった、とバリミア喜んだ。バリミアは勿論合格だった。しかも次席だ。
「じゃあ今度一緒に買い物にいきましょう」
「買い物?」
「九月から寮生活でしょ? 色々買いそろえなきゃ。教科書もペタの本屋に予約しておかなくちゃ」
「え、教科書自分で買いに行くの? 」
「シズちゃんと合格通知と一緒に入ってた書類読んだ?」
「まだ」
 床に放り投げられた封書をシズは見下ろした。合格通知にしか意識がいってなかった。
「一日じゃ買い物終わらないわね。ホテルとらなきゃ」
「それならうち泊まれば?」
「いいの? 」
 シズがジャモンに聞くと快く承諾した。バリミアはキミドリアパートに二泊することになった。八月の上旬にと約束をして電話を切った。
「このアパートここ以外の部屋使ってないしね。隣の部屋でも使って貰おう」
「掃除しないとな」
ジャモンと隣の部屋を見に行く。やはり中身は荒れ放題でふたりで部屋を綺麗にした。掃除をしながらジャモンがアパートの部屋全部綺麗にして、アパート経営しようかと言い出した。どうやらこのアパート自体がジャモンの持ち物になっているらしい。大家になっているということだった。
「お金があるから働かなくてもいいんだけど、暇なんだよね。一年ぐらいかけてリフォームするのもいいかもね。キッチンとかバス周り僕らの部屋のもだけど大分傷んでるし」
「ジャモン、大工とかできるのか? 」
「親父は大工だったよ。若いころ手伝っていたこともある。手先は器用なんだ。器用貧乏って奴だよ」
 ジャモンは照れたように笑った。それからふたりでどうにかバリミアが泊まれる部屋にして、シズは教材の予約や買うものリストなどを作ったり、身体を鍛えたりと慌ただしい毎日を過ごした。そうすればあっという間にバリミアがペタに来る日がやってきた。


 鉄道でくるバリミアをシズは改札前でオレンジのアイスキャンディーを食べながら待っていた。
「シズ! 」
 改札からの人ごみを抜けてバリミアがトランクを抱えて走ってきた。
「迎えにきてくれてありがとう」
「いいえ。けど今日本当に暑いな」
 じっとしているだけで額や腕から汗が流れてくる。
「本当にね。蒸発しそう」
 バリミアはかぶっていた帽子をとるとそれで顔を仰いだ。そしてアシスは受かったのかと聞かれたが分からないと首を振った。アシスとは連絡先を交換しなかった。けれどあの怪力で落ちるとはシズは思えなかった。入学式できっと会えるだろうとシズトバリミアは話した。とりあえず一度キミドリアパートにバリミアの荷物を置きに戻った。
「アパート経営してるんだ。てっきりシズの部屋で寝ると思ってたから。バスルームもここの使っていいの?」
「いいよ。水道も電気もガスも出るようになってる。けどご飯はジャモンが作ってくれるからうちに来て」
 雑貨屋で買ってきていたポットとコップも使うようにシズは言った。
「ジャモンさんってシズの親戚とか? 」
「いや、赤の他人。保護者になってくれてる。私、親いないから」
「あ、ごめん」
 バリミアが申し訳なさそうな顔をした。
「いや、気にすんな」
 本当はいる。今頃母さんと父さんなにしてるうだろう。心配はきっとしてくれてる。ちゃんと寝れているんだろうか。そんなことを考え、シズは自然にため息が出た。
「今日は教材とか買いにいきましょう。生活に必要なのは明日」
 バリミアが空気を変えるためか明るい声で話を切り替えた。シズは親のことはそこで考えるのをやめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...