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学校編
入学試験(巻き返し)
しおりを挟むシズは運動着に着替え指定のグラウンドにいくとまだ誰もいなかった。ひとり黙々と柔軟体操をはじめる。中学の時に一年かけてできるようになった股割りをする。
「めっちゃ柔らかいね」
シズが顔を上げると、アシスがいた。
「一緒にしていい? 」
「いいよ」
アシスは屈伸をはじめた。シズは股割りをやめて、右足を伸ばした左足の外側にもっていき身体を右側へとねじる。
「捜してる人がいるんだって? 」
「え? 」
「シズがヨンキョクになる理由」
バリミアが話したんだと、シズは察した。
「うん。なんていうか逮捕したい」
そうシズが笑って言えば、アシスは無表情でへぇと呟いた。
「アシスは?」
シズは流れで聞き返してみた。反対側もねじる。
「私、周りの女はもちろん、男よりもずば抜けてるものがあって。どうせなら世間のために役立てようと思って」
「そうなんだ」
クールそうな見た目では想像できない志だった。
「そのずば抜けてるものってなに?」
アシスは微笑を浮かべた。
「あとでのお楽しみ」
実技試験が始まった。例の男は相変わらずシズを睨んでくる。シズは睨み返してやろうかと思ったが筆記ができなかった分、ここで問題を起こすわけにはいかないと知らないふりをした。
「実技の教官長を務める、四局副局長のグレン・セッシサンだ。よろしく」
190センチはあるだろうセッシサン教官はぼさぼさの髪を掻きむしりながら怠そうに言った。
「これから三つの班に分ける。呼ばれたら言われた所に並べ」
班分けが行われシズは三班になった。アシスとあと飽きず睨んでくる男と同じ班になった。実技まず、握力からはじまった。
「なんか灰色の頭の奴がめっちゃ睨んでくるんだけど気のせい?」
シズはアシスに耳打ちする。
「気のせいじゃないよ」
「やっぱり?」
「シズのこと男だと思って嫉妬してるんじゃないの?」
「は?」
「バリミア美人じゃない。お昼の時もはたから見れば女二人連れた色男に見えたんでしょ」
「色男って」
シズは苦笑する。アシスの名前が呼ばれる。
「それより、ずば抜けたもの見せてあげる」
アシスはそう言っていくと受け取った測定器を握った。途端、尋常じゃない音が聞こえた。出所はアシスからで、測定器の握る部分がバキバキに割れていた。アシスはシズを振り返る。
「ずば抜けてるでしょ?」
シズは乾いた笑い声を零した。シズは可もなく不可もない数値を出した。すると後ろで鼻で笑われた音が聞こえた。見れば案の定睨み男だった。
「なよい奴だな」
シズはカチンときた。睨み男はアシスの次にいい数値を出していた。勘違いするなら勝手にすればいい。だが理不尽は腹が立つ。女にモテないからって私に嫉妬しやがって。八つ当たりしやがって。なよいなんてシズは生まれて初めて言われた。ぎゃふんと言わせてやるとシズは拳を握りしめる。
次は垂直跳びだった。睨み男はシズより先に跳んでいた。睨み男は高く跳び暫定一位だった。そのあとも睨み男を超える人はいなかった。
「次、シズ・カンダ」
呼ばれ、手にチョークの粉を付け立ち位置にいく。
「踵つけて」
シズは深呼吸をする。シズは膝を曲げる。腕を振る。測定板に手を伸ばす。着地すると、どよめきが聞こえ測定板を見上げる。シズの付けた印はずば抜けて上にあった。手を払い戻ると睨み男とシズは目が合ったから微笑んでやった。男の額には青筋ができていた。その後の幅跳びもシズはトップだった。上体起こしの時睨み男はわざわざシズの隣にきた。睨みあい負けるもんかと、シズはやったが二回差で負けた。懸垂でも負けた。体前屈はシズが勝った。そして実技テストは最後の200メートル走になった。二人ずつ走っていく。
「おい」
睨み男がシズに声をかけてきた。
「隣走れよ」
「いいけど」
シズは軽く足首を回し、跳ねたりするとスタート位置についた。「位置について、ようい」
パンっと乾いた音が耳に届くと同時に走り出す。青い空が見えた。馬鹿みたいに必死だ、今。シズは思った。知らない世界で私は本気で走っている。実技でいい点獲れなきゃ合格できない、城人になれない。カーネスを捕まえられない。元の世界に帰れない。それら全部、シズは今だけはどうでもよかった。滴る汗が飛ぶ。負けたくない。ただそれだけ。この感情はどこにいっても同じだった。
すぐ近くで人が迫ってくる熱をシズは感じた。息が聞こえる。視界の端にちらつく。こんなとこで負けたらカーネスなんて掴めることもできない。身体の中から力を押し出すようにシズは前へと急ぐ。ゴールまであと少し。走れ。走れ。白線を抜けると潰れるように、シズは倒れた。整わない息をそのまま身体を起こす。
「一着、シズ・カンダ」
自分の名前が呼ばれシズは思わず笑みが零れる。勝利を噛み締める。
静、お手柄だ。
なぜかカケルの声がシズの頭の中で聞こえた。
「お前すげぇな」
シズの目の前に手があった。その先を見れば睨み男だった。
「走りで負けたの初めてだ。女連れたすかした優男だと思ったけど誤解だった。俺、リョーク・クド」
リョークの手を掴むと立ち上がらせて貰った。
「私、シズ・カンダ。一応言っとくけど、私は女だから」
リョークは素っ頓狂な声を上げた。
「俺は欲しいよ、シズ・カンダ」
入学試験から三日後、試験官たちは合格者を決めるため会議を開いていた。グレン・セッシサンはシズの書類片手に言えば、セドニは嫌な顔をした。
「いくら身体能力が高いとはいえ筆記の方があまりに悲惨すぎる。この点数はどうやっても目をつぶれない」
シズ・カンダ。筆記の点数、三点。
「一問目しかあっていないとはね」
六局副局長ニッチ・サンスは笑いを零す。
「けれどセドニ。実技は身体に自信がある男どもを押さえて二位だ。落とすのはもったいない」
「城人の質を落とすつもりですか?」
「質は入学してからしっかり良くするよ。俺のクラスだろ?そこまで反対するなよ、セドニ」
セドニは口を閉じた。板挟み的なサンスは気まずい表情をセドニに向けた。
「僕もどちらかと言えば、セッシサンに賛成かな。これだけの身体能力があってもし他に、僕らの敵になりそうな犯罪者になったら大変だよ」
「そうだな」
セッシサンは煙草を吹かしながら喉を鳴らした。セドニは腕を組んだまま険しい顔をした。
「やっかいなことになっても知りませんから」
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