上 下
16 / 241
学校編

入学試験(遅すぎる間違い)

しおりを挟む


 この世界も一年は十二か月だ。うるう年もきちんとある。月は七月に移り、ついに試験の日になった。最後の追い込みで、シズはテキストを読み込みながら朝御飯を食べる。慣れない勉強に、シズ何度か死にかけた。
「シズ、おいしい?」
「超うまいよ!」
 ご飯をかきこみながら、シズはテキストの文字を追う。
「けど朝から豚肉を揚げたご飯は胃がもたれないかい?」
「全然。私のとこじゃ勝負時に食べる縁起物なんだ」
 シズは昨日、ジャモンにカツドンを作ってくれと頼んだ。願掛けはしておくにこしたことはない。レシピをなんとなくいえばさすがのジャモン、それっぽいものを作ってくれた。味はやっぱり少し違うがおいしかった。シズは空っぽになった丼を置く。
「ごちそうさん。ありがとうな」
「料理人だからね。お安い御用だ。それよりシズ」
 ジャモンが優しく微笑む。
「受かるように願ってる」
 シズは微笑み返す。
「ああ。助かる。じゃあいってくるよ」
 シズは鞄を肩からかけ、テキストを持ち出かけた。

「シズ!」
 城前広場でシズはバリミアに会った。
「バリミア。おはよう」
「おはよう。自信はどう?」
 バリミアがにたり顔で聞いてきた。シズは手に持っていたテキストをバリミアに見せた。
「ばっちりだよ」
 やればできる子。シズはそう自信満々の笑みを見せれば、バリミアは眉間に皺を寄せテキストを私から取るとじっと見つめた。
「シズ」
「なんだ?」
「あなたこれ、テキスト違うわよ」
 シズはフリーズする。
「これ城人でも奉公さんになるための方の本よ」
 シズは混乱した。
「同じ城人でも試験の内容全然違うわよ」
 シズはバリミアからテキストを奪い返すと中を見る。分からない。そう言われても、これが違うテキストだとシズは分からない。
「ベッドメイキングの方法がやたら細かく書いてあるとは思ったけど」
「そこで気づこうよ」
 そうだ、技術的な説明の内容が多かった。だから読みやすかったし、覚えやすかった。そうかそうか。シズは納得した。したけど、
「どうしよ、バリミア」
「どうしようもないわよ。あなたって本当に馬鹿だったのね」
 頭がいい人にそれを言われるとシズは胸がすごく痛い。どうしようと思うがここまできたらもうバリミアの言う通りどうしようもない。シズは鞄を地面におろすと中身を漁った。
「どうしたの?」
 バリミアの声に応えず、シズは筆箱を取り出した。そこからペンの黒インクを出した。そして蓋を開け着ていた白シャツにぶっかけた。
「なにやってるの!やけになって頭おかしくなったの!?」
「やけになってない。頭は悪いけどおかしくなってはない」
「そんなことしたら服もうダメになっちゃうじゃない」
「ダメになってない」
 シズは筆箱をしまう。テキストは奥にしまい込む。そして立ち上がった。
「願掛け」
「え?」
「落ちないように」
 落ちるわけにはいかない。気持ちを強く持て。シズは言い聞かせる。
「そんなんで受かったら受験者全員服にインクぶっかけるわよ」
 バリミアの正論に、シズは思わず謝罪した。
しおりを挟む

処理中です...