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学校編

女のカケル

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「静バンドやろうぜ」
  高校一年の秋、カケルからシズは誘いを受けた。カケルの手には高校の近所でやる秋祭のチラシがあった。
「俺ギターやるからお前歌えよ。ドラムとベースはあてがあるからよ」
「やだよ。てめぇが歌え。私は観客席で見ててやるよ」
「やだよ。俺英語できねぇもん」
「英語?」
「どうせやるなら本格派だ俺は!優勝したいんだ!」
 シズがチラシをれ、ば優勝商品は五万円分の商品券だった。万年金欠野郎には眩しいものだ。
「私だって英語できねぇよ!」
「ビートルズじゃなきゃ親父と叔父が出てくれないって」
「ドラムとベース身内かよ」
「とにかくやれよ。はいこれCDと歌詞。困ったらハローハロー繰り返しとけばなんとかなる曲だからよ」
 カケルはそれ以上、シズに文句を言わせず押し付けると逃げた。とりあえずシズは曲を聞いて、和訳を読んだ。相手にさようならと言われてるのにこんにちはと言い続ける哀しい歌だった。
 そして人間やればできるもんで、シズは英語で全部歌えるようになって秋祭の大会で優勝した。五万も貰えたのにカケルはシズに親子丼を奢ってくれただけだった。

 懐かしい夢から目が覚めた朝、シズは願書や必要書類をまとめた封筒片手に城へ向かった。国民局の三局の受付に提出する。
 城前広場までくると城の敷地の大きさにシズは驚いた。高い壁がどこまであるか見えないぐらいに伸びている。広場正面の大きな門は開かれ門番がふたり立っていた。ボルドーのブレザーに帽子。ヨンキョクだとシズはすぐに分かった。門を抜けると矢印の看板があった。

 アベンチュレ城
 アベンチュレ青少年学校
 アベンチュレ青少年寮
 国民局

 国民局はアベンチュレ城とは逆方向を指していた。そっちに行く人は多く、シズは後をついていくように歩き出す。
 五分歩くと大きな真っ白い建物についた。階数が十階以上ありそうだった。中に入り、シズは案内マップで三局の場所を確かめる。二階だった。
 二階に行くとそこにはまるで市役所みたいな光景が広がっていた。長いカウンターの向こうで黒い制服を着た人が忙しなく動いている。
「こんにちは」
 どこのカウンターに行けばいいか、シズが悩んでいると声をかけられた。三局の人だった。
「何か困ってますか?」
 優しく女性にシズは尋ねられた。
「青少年学校の願書持ってきたんですけど」
「ああ。案内します。着いてきて」
 女性は颯爽と歩き出す。姿勢も綺麗でかっこよかった。
「ここです」
「あ、ありがとうございます」
 シズは頭を下げた。
「いいえ。頑張ってね」
 女性の局員は微笑をひとつくれ、去っていった。シズがカウンターに行くと隣でもひとり願書を提出している様子の同い年ぐらいの女の子がいた。
「それでは不備がないかチェックしますね」
「あ、お願いします」
 局員が書類をチェックしている間、シズはあたりを見渡した。
「確認終了です。確かに受理しました」
 隣の女の子の相手をしていた局員がそう言ったのが耳に入り、シズはふと女の子を見た。そして息を飲んだ。衝動的に彼女の腕を掴んで、こっちを向かせた。
「カケル!? 」
 栗色の見るからに柔らかそうな髪。若干のつり目。顔がカケルと全く同じだった。
「あ、あの……」
 カケルと同じ顔が訝しむ。そこでシズは、はっとして慌てて手を離した。
「す、すいません。人違いでした。あまりにも知り合いにそっくりだったんで」
 苦笑いでごまかした。そうだカケルなわけがない。どう見ても女の子だ。同じ栗色でも肩までのセミロング。目の色も髪と同じ色だ。それにここにカケルがいるわけがない。シズは冷静になった。
「カンダさん、不備がひとつ」
「あ、はい」
 局員がグッドタイミングでシズ呼んでくれた。
「ここ。あなた性別女にマルしてますよ」
「……」
 シズは局員の男を見る。
「私、女です」
「え? 」
「女です」
「え」
「戸籍の写し確認してもらえれば」
 局員が戸籍の写しを見る。
「あ、すいませんでした」
 局員が顔を真っ赤にしてシズに謝ってきた。すると横から笑い声が聞こえた。
「私も男の人だと思ったわ」
 カケルのそっくりさんが笑いで出た涙を指先で拭いた。
「ナンパされたかとおもちゃったの。ごめんなさい」
「気にしてないです。よく間違われるんで。私こそさっき乱暴に掴んですいません」
「大丈夫よ。あなたこの後暇? 」
 特に予定もなくまあ暇かなと、シズは答えた。
「じゃあお昼一緒にどう?私、バリミア・コイズっていうの。よろしくね」
 バリミアの笑い方もやっぱりカケルと全く同じだった。
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