13 / 241
学校編
女のカケル
しおりを挟む2016. 6. 26
********************************************
学園の東。そこには学園が所有する広い闘技場がある。
「ティア様ぁっ。そろそろお時間ですよぉぉっ」
そう声を張り上げて叫ぶシルは、観覧席にいた。
闘技場では十数人の黒装束を纏った十代後半から二十代前半の男女が荒い息をしながらティアを囲んでいる。
十二歳を目前に控え、大人へと成長を始めたすらりと伸びた手足。今は動きやすいように制服の上衣を脱いでシンプルな上衣一枚になっているティア。
学園では下ろしている長い少々癖のある髪は一つに束ねられ、好戦的な瞳と、不敵に笑う口元が魅力的だった。
シルの言葉を受けて、ティアは戦闘態勢を取り、前屈みになっていた体を起こす。
「もう一時間も経ったの? あと三十分追加しようかな」
この後、一時間後に高学部の卒業式がある。小学部の代表メンバーであるティアはこれに出席し、更に小学部の代表として祝辞を述べなくてはならないのだ。
「ダメですよ。ギリギリになってしまいますからっ」
「どうにかしてよ」
「どうにかって……どっちをどうする意味で言っていますかっ⁉︎」
午前中と、一時間前にあった中学部の卒業式でも壇上に上がったティアは、いいかげんストレスが溜まっていた。
ヒュースリー伯爵令嬢のティアラールとして振る舞うのは、やはりティアにとっては窮屈なのだ。
「当然、式をどうにかするんだよ」
その時、キルシュとアデルの気配を感じた。
「ティアっ! 打ち合わせの時間だぞっ」
「シルさんに無茶言っちゃダメだよ~」
観覧席から顔を覗かせたキルシュとアデルがそんな注意をする。
これにティアは顔を歪ませ、肩を落とす。
「ちぇっ、お迎えまで来ちゃったか……仕方ない。今日はこれで解散」
「「「はっ。ご指導、ありがとうございましたっ!」」」
一斉にティアを取り囲んでいた黒装束の者達が深く頭を下げた。
ティアは一つ頷いてキルシュ達のいる観覧席の方へと歩み寄っていく。そして、飛び上がると同時に風を纏うと、二メール程ある観覧席と闘技場を隔てる壁を飛び越えた。
「この忙しい時に、何をしてるんだ」
「あの人達って、クィーグの?」
「うん。修練生の人達。卒業式で人もいないから、今日はここで訓練らしくて。非常時に直ぐに呼べるしって事みたい」
クィーグの学園担当は今日の卒業式の為に特別な警備体制を取っている。
貴族の子息が殆どという事で、当然、卒業生達の保護者は貴族だ。
そんな貴族達が多く出入りする今日は、学園の警備を任せられているクィーグの一族としては力が入る。
保護者達が連れている護衛達に仕事をさせる機会など作るものかと万全の体制を敷いていた。
そして、万が一人手が必要となれば、いつでも呼び出せる場所として、闘技場で修練生達を待機させているのだ。
「だからって、なんでティアが訓練つけてんの?」
「そうだ。こんな時になに本気出しているんだ」
「ええ~っと……」
二人に責められ、ティアは目をそらす。その視線の先にシルが駆けてきていた。
「ティア様。お召し物を」
「ありがと」
シルはティアが脱いだ制服を持って来たのだ。
「ちょっとティアっ、ここで脱いだの?」
「うん? そうだけど?」
ティアはシルやキルシュを気にする事なくズボンも変えようとしている。恥じらいもなにもあったものではない。
しかし、そこは抜かりないようだ。
「ご心配は無用です」
そう言ってシルは、どこから取り出したのか大きな薄い布をティアの頭から被せる。
その布は広がって、ティアの体に触れる前にふわりと浮き上がり、まるで四角く長い箱でもそこにあるように形どる。これによってティアの着替えは人目に晒される事はない。
「どうやってるの?」
あまりにも不思議な光景に、アデルが問いかける。
「これも魔術なのですが……我ら一族の秘術ですのでお教えできません」
「へぇ……便利だね」
「秘術……こういうことを想定してのか?」
「どのような主の要望にも応えられるよう精進しておりますので」
「もう、ティアの思うがままだな……」
「……お疲れ様です……」
有能な一族のお陰で、ティアの自由度が増しているという事実には目を瞑る事にするアデルとキルシュだ。
************************************************
舞台裏のお話。
ウル「見つかりましたか?」
サクヤ「ううん……アデルちゃんとキルシュくんに任せて来たわ……」
ウル「間に合わせるんでしょうけど、心配ですからね」
サクヤ「そうなのよね……イマイチ信用できないっていうのか……」
ウル「授業もサボりませんけどね」
サクヤ「あれでまだ模範生だもの……」
ウル「要領が良いんでしょう」
サクヤ「それはあるわね。それに、あの子は最後の締め方を知ってるわ」
ウル「さすがは、元王女です……」
サクヤ「あら。ようやく認めたの?」
ウル「はぁ……ただ、女神である事は認めたくありません」
サクヤ「うん……それは分かる」
ウル「この世に救いなどないのでしょうか……」
サクヤ「……ウルって、断罪の女神の話、小ちゃい時から好きだったものね……」
ウル「はいっ。ですから、例え天使が認めても、私は認めませんっ」
サクヤ「まぁ、がんばってイメージを守ってやってよ……」
ウル「清く、正しく、そして慈悲深い。それが女神サティア様ですっ」
サクヤ「あぁ~……それはティアとは違うわね……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
憧れは大切に。
大きくなったティアちゃん。
奔放に育っています。
周りがティアちゃんの要望に応えてしまうのは良くない傾向かもしれません。
ストッパー役は常につけておく必要があるでしょう。
アデルとキルシュに期待です。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
********************************************
学園の東。そこには学園が所有する広い闘技場がある。
「ティア様ぁっ。そろそろお時間ですよぉぉっ」
そう声を張り上げて叫ぶシルは、観覧席にいた。
闘技場では十数人の黒装束を纏った十代後半から二十代前半の男女が荒い息をしながらティアを囲んでいる。
十二歳を目前に控え、大人へと成長を始めたすらりと伸びた手足。今は動きやすいように制服の上衣を脱いでシンプルな上衣一枚になっているティア。
学園では下ろしている長い少々癖のある髪は一つに束ねられ、好戦的な瞳と、不敵に笑う口元が魅力的だった。
シルの言葉を受けて、ティアは戦闘態勢を取り、前屈みになっていた体を起こす。
「もう一時間も経ったの? あと三十分追加しようかな」
この後、一時間後に高学部の卒業式がある。小学部の代表メンバーであるティアはこれに出席し、更に小学部の代表として祝辞を述べなくてはならないのだ。
「ダメですよ。ギリギリになってしまいますからっ」
「どうにかしてよ」
「どうにかって……どっちをどうする意味で言っていますかっ⁉︎」
午前中と、一時間前にあった中学部の卒業式でも壇上に上がったティアは、いいかげんストレスが溜まっていた。
ヒュースリー伯爵令嬢のティアラールとして振る舞うのは、やはりティアにとっては窮屈なのだ。
「当然、式をどうにかするんだよ」
その時、キルシュとアデルの気配を感じた。
「ティアっ! 打ち合わせの時間だぞっ」
「シルさんに無茶言っちゃダメだよ~」
観覧席から顔を覗かせたキルシュとアデルがそんな注意をする。
これにティアは顔を歪ませ、肩を落とす。
「ちぇっ、お迎えまで来ちゃったか……仕方ない。今日はこれで解散」
「「「はっ。ご指導、ありがとうございましたっ!」」」
一斉にティアを取り囲んでいた黒装束の者達が深く頭を下げた。
ティアは一つ頷いてキルシュ達のいる観覧席の方へと歩み寄っていく。そして、飛び上がると同時に風を纏うと、二メール程ある観覧席と闘技場を隔てる壁を飛び越えた。
「この忙しい時に、何をしてるんだ」
「あの人達って、クィーグの?」
「うん。修練生の人達。卒業式で人もいないから、今日はここで訓練らしくて。非常時に直ぐに呼べるしって事みたい」
クィーグの学園担当は今日の卒業式の為に特別な警備体制を取っている。
貴族の子息が殆どという事で、当然、卒業生達の保護者は貴族だ。
そんな貴族達が多く出入りする今日は、学園の警備を任せられているクィーグの一族としては力が入る。
保護者達が連れている護衛達に仕事をさせる機会など作るものかと万全の体制を敷いていた。
そして、万が一人手が必要となれば、いつでも呼び出せる場所として、闘技場で修練生達を待機させているのだ。
「だからって、なんでティアが訓練つけてんの?」
「そうだ。こんな時になに本気出しているんだ」
「ええ~っと……」
二人に責められ、ティアは目をそらす。その視線の先にシルが駆けてきていた。
「ティア様。お召し物を」
「ありがと」
シルはティアが脱いだ制服を持って来たのだ。
「ちょっとティアっ、ここで脱いだの?」
「うん? そうだけど?」
ティアはシルやキルシュを気にする事なくズボンも変えようとしている。恥じらいもなにもあったものではない。
しかし、そこは抜かりないようだ。
「ご心配は無用です」
そう言ってシルは、どこから取り出したのか大きな薄い布をティアの頭から被せる。
その布は広がって、ティアの体に触れる前にふわりと浮き上がり、まるで四角く長い箱でもそこにあるように形どる。これによってティアの着替えは人目に晒される事はない。
「どうやってるの?」
あまりにも不思議な光景に、アデルが問いかける。
「これも魔術なのですが……我ら一族の秘術ですのでお教えできません」
「へぇ……便利だね」
「秘術……こういうことを想定してのか?」
「どのような主の要望にも応えられるよう精進しておりますので」
「もう、ティアの思うがままだな……」
「……お疲れ様です……」
有能な一族のお陰で、ティアの自由度が増しているという事実には目を瞑る事にするアデルとキルシュだ。
************************************************
舞台裏のお話。
ウル「見つかりましたか?」
サクヤ「ううん……アデルちゃんとキルシュくんに任せて来たわ……」
ウル「間に合わせるんでしょうけど、心配ですからね」
サクヤ「そうなのよね……イマイチ信用できないっていうのか……」
ウル「授業もサボりませんけどね」
サクヤ「あれでまだ模範生だもの……」
ウル「要領が良いんでしょう」
サクヤ「それはあるわね。それに、あの子は最後の締め方を知ってるわ」
ウル「さすがは、元王女です……」
サクヤ「あら。ようやく認めたの?」
ウル「はぁ……ただ、女神である事は認めたくありません」
サクヤ「うん……それは分かる」
ウル「この世に救いなどないのでしょうか……」
サクヤ「……ウルって、断罪の女神の話、小ちゃい時から好きだったものね……」
ウル「はいっ。ですから、例え天使が認めても、私は認めませんっ」
サクヤ「まぁ、がんばってイメージを守ってやってよ……」
ウル「清く、正しく、そして慈悲深い。それが女神サティア様ですっ」
サクヤ「あぁ~……それはティアとは違うわね……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
憧れは大切に。
大きくなったティアちゃん。
奔放に育っています。
周りがティアちゃんの要望に応えてしまうのは良くない傾向かもしれません。
ストッパー役は常につけておく必要があるでしょう。
アデルとキルシュに期待です。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる