【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す

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学校編

城人

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 漆黒の軍服。真っ黒のブーツ。詰襟で銀ボタンのダブル。シズのそっくりさんが着ていた服と同じだった。唯一違うのは銀の装飾が入った黒い帽子をかぶっているところぐらいだ。
「城人さん!この子どうにかしてくだせぇ! 」
 じいさんが軍服の男のことをそう呼んだ。
「ジョーニン? 」
シズが名前か何かと聞き返す。シズは忌まわしき軍服を着た男を睨んだ。するとジョーニンと呼ばれた男は一瞬驚いたように目を見開いた。シズはその反応が気になった。
「ジョーニンさん」
 シズはじいさんの真似をして男を呼んだ。
「お前、私の顔知ってんのか? 」
 男は見開いた目を細めた。男の目は若干つり目だった。
「お前なんか知らんな」
 男は冷静に返した。シズは欄干から元の場所に飛び下りた。すると横でじいさんが肩を下ろした。それをスルーしてシズは男に詰め寄った。
「私だってお前知らねぇよ」
 男が冷めた目をシズにやった。周りがまた騒ぎだす。
「あの子 城人じょうにんに喧嘩売ってるわよ」
「馬鹿ね」
「ヨンキョク呼んでくる?」
 ジョーニンが何か、ヨンキョクが何か、なんでこんなとこにいるか、どうやって帰るか、シズは全部わからない。この現状をどう打破すればいいか、わからない。シスは目の前の男は手がかりのひとつに見えた。ナコイが消え、忌まわしきその軍服は希望にも見えた。離すもんかと軍服を乱暴に掴んだ。
「私と同じ顔をした男を知らねぇか?」
 男はシズの手を払うことはしなかった。シズから目も離さなかった。
「なぜそんなことを俺に聞く? 」
「あんたと同じ格好してたんだよ」
「ということはそいつは城人か」
 そんなことは知らん、とシズは思う。
「そうなんじゃねぇか」
 話の流れからして漆黒の軍服はジョーニンが着るものらしいことをシズは察した。
「そうだとしても知らんな。城人は何千といる。ひとりひとりの顔なんざ覚えていない」
「じゃあお前、なんで私の顔見ておどろいた? 」
 男は何も言わない。
「知らなくても見覚えぐらいあったんじゃねぇか? 」
「何かありました? 」
 男が口を開かずにいれば誰かがやってきた。シズが見ればさっきのボルドージャケットを着た二人組の男だった。野次馬が彼らを「ヨンキョク」と呼んだ。
「君、何をしている」
 二人組のひとりが威圧を込めてシズを見下ろした。シズも負けじと男を見上げれば気がついた。ヨンキョクのかぶっている帽子と軍服がかぶっている帽子には同じ銀の刺繍がしてあった。シズは二人組と軍服の男を交互に何度も見た。
「お前らグルか?」
 三人とも変な顔をした。
「グル? 」
 軍服の言い方は少し小馬鹿にした感じだった。
「仲間かってことだよ」
「仲間!」
 ヨンキョクの片割れが声をあげて笑った。
「まあ、仲間だろう。同じ城人だからな」
 もうひとりのヨンキョクがそう言って片割れと同じように笑った。ヨンキョクも城人なのか。シズのわけわからないことが増える。
「君名前は? 変わった服着てるね。どこで売ってるのそれ」
 ヨンキョクが笑い続ける。
「しまむら」
「シマムラ? 」
 もしここでこのヨンキョクがしまむらを知っていたらシズはどんなに嬉しかったか。シズは軍服から手を離すと諦め、やけくそで欄干に向かって走った。
「おい! 君! 」
 ヨンキョクが呼びとめるより先に、シズは欄干の手前で踏み切った。そして飛んだ。こんなところにいられない。欄干をこえる。落ちる。そして着水した。


 シズは喧嘩だったら蹴るのが得意だが、運動の中で一番走ることが得意だった。その次に得意なのが水泳だった。中学一年の時、県大会で優勝したことがあった。高校にはなぜか飛込み台があり、シズはトオルと仲間達とよく飛び込んで遊んだ。シズの飛び込みは十点だった。だから、橋から飛び込むのにびびったがためらいはあまりなかった。そして想像以上にシズは美しく、川に着水できた。そして、浮上した。橋を見上げれば、人々がシズを見ていた。シズが見る風景は変わらない。そんなこと心のどこかでわかっていた。そんなことだけ、シズはわかっていた。シズは川岸までクロールで泳いだ。
「あんたすげえな!あんな美しい飛び込みはじめて見たよ」
 川岸の船に乗っていたおじさんがシズを褒めてくれた。
「どーも」
 シズは上のジャージを脱いで絞った。下に着ていた黒のTシャツも裾だけ絞り、ズボンの裾をあげた。シューズの中に入った水も捨てる。
「死ぬ気か、お前」
 シューズを履きながら軍服の男を見た。男はここまでわざわざおりてきた。
「死にたいのか? 」
 言葉を変えてもう一度、シズに言った。
死にたくないか
 夕暮れの橋でドッペルゲンガーはシズに聞いた。
「死にたくねぇよ」
 どっちの質問にも、シズの答えは一緒だった。
「ただ、家に帰って寝たいだけ」
 疲れた。やっぱり疲れた。そう思い、シズがその場を去ろうとすると軍服が私の腕を掴んだ。
「なに? 」
「お前、女か」
 軍服の目線はシズの胸にあった。濡れたTシャツが体に密着し、ささやかな胸を現していた。
「やーん、エッチ」
 シズが真顔で言ってやれば、軍服も真顔だった。シズは軍服の腕を振り払う。
「べつにいーよ。よく間違われるから」
 シズは川岸から道へ続く階段をのぼる。
「そのままで帰るのか」
 軍服はシズに付いてきた。
「ああ」
 シズは立ち止まり軍服を見据えた。軍服も合せて立ち止まる。
「お前、本当に私と同じ顔した男知らないんだよな?」
 遠くでラッパがたかだかと鳴った。ひときわ大きな歓声が上がる。式典が始まった。
「知らないな」
 騒がしい中でも男の声はよく聞こえた。
「じゃあいいわ。帰る」
 シズはすぐに引いた。この男はヨンキョクと仲間らしい。シズはカーネスの忠告を守ることにした。これ以上不利にはなりたくない。不利って言葉は少しおかしいかもしれないがそんな気持ちだった。
「家は近いのか」
「近い」
 シズは適当なことを言った。
「場所は?」
「あ?」
「家の場所だ。また奇行を犯されちゃ困る」
 確かに死ぬ気もないのに橋から落ちるのは奇行だな、とシズは思う。シズは黙ったままでいたが軍服が引き下がる様子はなかった。
「……キミドリアパートのミズイロ」
「東地区のか?」
 東地区?
「三十分ぐらい歩いたところ」
 シズが違う答えで返事をすると男は東地区だなと言った。
「お前、」
「お前じゃない」
 軍服はなぜか上着を脱いだ。下は黒のベストに白いワイシャツだった。
「カル・セドニだ」
 カル・セドニは軍服を私に突き出した。
「なんだ?」
「そんな格好の女と歩けん」
 シズの胸が透けてるせいだった。シズは軍服を受け取らず絞ったジャージを広げて着ると首まで前を閉めた。
「いらねぇ。別にひとりで戻れる」
 カドニに舌を出してアパートへと歩き出す。少し歩いて振り向けばカドニは軍服を着ながら、シズについてきた。シズは無視して歩き出す。
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