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学校編

アベンチュレ王都ペタ

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「僕と普通に会話ができるってことは言葉の方に問題はないってことだね」
 カーネスと名乗った男は、静の混乱を放置して話を続けた。カーネスの180センチある身長はカケルと同じぐらいだった。闇に近い深く濃いネイビーの髪色。変な前髪と同じぐらい後ろ髪もある。カーネスは壊れた本棚から一冊本を取ると表紙を静に見せた。
「これ読めるかい? 」
 その表紙に書かれていた題名は日本語でも英語でもなく、文字なのかどうかも判断つかない見たこともないものだった。読めるわけない、静はそう思った。
「アベンチュレ伝統パン作り」
 読めた。なぜだ。静はカーネスから本をひったくった。本を開いて中を読む。訳が分からない文字列なのに静はちゃんと読める。理解ができる。
「なんで……」
 静は自分で自分が気味悪かった。
「あいつと口付けを交わしたんだろう? 」
 静は本から顔を上げてカーネスの顔を見た。カーネスも三白眼を私に向けた。
「その時に言語の知識を交換しただけだ」
「はあ? 」
 意味不明なことが重なり過ぎて恐怖とか怒りとか混乱で、静は感情がはちゃめちゃだった。
「そういう仕組みなんだ」
「仕組みつったってよ、」
「それで、ここはどこだって質問だっけ? 」
 カーネスは手早く話を進める。
「ここはアベンチュレ」
「あべんちゅれ? 」
 静は手に持っている本の表紙の題名を見る。こいつこの本見て適当なこと言ってんじゃねぇのか。静は心の中で悪態を吐く。
「そう。アベンチュレの王都ペタだ」
 オート? ペタペタ?静は足音を想像する。
「おい、意味ふめ、」
 静はからわれていると腹が立ち、本をベッドに投げ捨てカーネスに掴みかかろうとすると、外からパンッと音が鳴り響いた。音につられて窓のある後ろを静は振り返る。また、音は何度も鳴り響いた。静は窓を開ける。カーネスは止めなかった。
「なっ! 」
 静は絶句した。窓の外は見たこともない景色だった。
 窓を開けてすぐに見えた前の建物の壁はオレンジだった。見下ろせば自分がいるこの建物の壁は鮮やかな黄緑色だった。そしてその間を見ると激しく人が行き来していた。その人の顔を見れば外国人が多かった。注意してみれば日本人ぽい人も何人かいた。けれどとても日本と思えない空気感が漂っている。青空にまたパンッと花火が打ち上がる。とりあえず家の近所ではないことは確かだ。
「ここどこだよっ!! 」
 静はカーネスに今度こそ掴みかかり問いただした。
「だからアベンチュレの王都ペタだって」
 さっき言ったじゃないかお前は馬鹿か、とカーネスの顔は言っていた。
「日本じゃねぇのか! 」
「ニホンじゃないよ」
「そんな訳ねぇだろっ! 家に帰せよ、誘拐犯! 」
「誘拐犯じゃないけど帰せないよ」
 カーネスはきっぱりと言い切った。
「君はもうここじゃないと生きられない」
「なに訳わかんねぇこと言ってんだよ! あいつどこだよ! 」
「あいつって君と同じ顔した彼のこと?」
「そうだ!あの軍服コスプレしたドッペルゲンガー!あいつが私に薬でも飲ませてここに連れて来たんだろうが!お前の仲間だろうが!」
 カーネスは鼻で笑った。
「彼と僕は仲間などではないよ。彼は客だ」
「客?」
「彼は君をここに連れてくるよう僕に依頼してきたんだよ。だから、君をここに連れてきたのは僕だ」
「じゃあお前が帰せよ! 」
「残念、君は僕の客じゃない」
 かっとなった静は拳を振り上げる。カーネスは静の手首を掴んだ。骨と皮だけの壊れそうな腕とは思えない力で静の腕を握りしめた。静は痛みに顔をゆがめ、今度は片足を蹴り上げたがそれも腕で抱え込まれるように捕まれベッドの上にひっくり返された。
「っ! 」
「悪いねー。これでも一応追われてる人間だからね。見くびったかな?人を見かけで判断しちゃいけないよ」
 カーネスはにたりと腹が立つ笑顔で静を見下ろす。
「大人しく聞きな」
 カーネスの声色が低くなる。
「仕事だからこんだけ優しくしてるんだ。金を十分貰ったからね。仕事じゃなかったら腕三本ぐらい折っているよ」
 腕は二本しかねぇよ、と静はカーネスを睨んだ。
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