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学校編

蹴りのカンダ

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十七歳最後の日、神田 シズはとても眠かった。五時間目を机に伏して過ごしたがどうしてもベッドが恋しくなり教室を出た。
「静! 」
静が呼ばれ振り返るとカケルが廊下を走って来た。いつもの軽い調子ではなく少し焦っているように見えた。
「なに?カケル」
「友井が東高のやつらにやられた! 」
その言葉に静の眠気が吹っ飛ぶ。
「喧嘩かっ!! 」
押え切れてないワクワクに静の声が躍った。
「おうよっ! これから東高に乗り込む! 」
「合点承知の助! 」
静は教室へと踵を返す。ロッカーからジャージを出すとその場で着替えた。教室に男がいようが構わない。周りも慣れっこだ。
「神田、喧嘩か?」
クラスメイトの男子が静に尋ねてきた。
「東高に御礼参り。てめぇも来るか?」
「蹴りのカンダが行くなら俺いらないっしょ。明日土産話楽しみにしてる」
「けっ、ノリ悪い奴」
 制服のブレザーとスカートをロッカーの中に押し込むと教室を飛び出した。

 蹴りのカンダ。
 この界隈で不良をやっていてこの神田静の異名知らない奴はもぐりだ。静は小さいころからやんちゃだった。女の子に生まれたのが間違いとよく言われた。両親も生まれた時確かに静の股にはアレがついていたと、ふざけたことをしょっちゅう話している。そしてこの子はとんでもない暴れん坊になるかもしれないと危惧し、名前だけでも女らしく落ち着いたものに「静」と名付けた。両親の危惧は的中し、静は小学生の頃から男子並みに足が速く、男子達と専ら相撲やプロレスごっこをするようなやんちゃに育った。いつも腕や足のどこかに怪我をしていた。そして相撲もプロレスも一番強かったので静のあだ名はゴリラだった。そのあだ名は女子からは可哀想と言われたが、静は結構気に入っていた。

 中学にあがり静は町村カケルに出会う。この男は入学当時からあきらかな不良であった。静は勝負事は好きであったが、喧嘩というのにさほど興味はなかった。ところが二年に上がったある日、不幸な偶然に遭遇してしまった。夜、コンビニにアイスを買いに行った帰り、町村カケルが喧嘩をしているところに静は出くわしてしまった。しかも町村の仲間はみな倒れ、立っているのは町村だけだった。それに反し敵は七人いた。それでも町村カケルはふらつく足でしっかり敵を見据え立っていた。敵は笑いながら殴りかかる。たったひとりを数人で何回も殴った。静は気が付くとアイスの入ったコンビニ袋を七人のひとりに投げつけて飛び蹴りを食らわした。
 そのことがきっかけでカケルはよく静に絡んでくるようになった。そしてよく喧嘩に連れ出した。静はだんだん喧嘩にはまっていった。やたらめったらに喧嘩を売っていたわけじゃない。売られたものをだいたい買っていた。やばそうな奴からは速攻で逃げた。短い黒髪に女にしてはあるタッパ。カケルとつるんでいる時は黒いジャージを着ていたため、絡んでくる不良達は皆、静を男だと勘違いし、容赦なくしかけてきた。そのたびに静は強くなっていた。そして高校生になると「蹴りのカンダ」なんて通り名がつくようになってしまった。静はとても脚力があることを喧嘩をするようになって知った。ちなみにカケルは「タラシのマチムラ」と呼ばれている。
 と、いうことで十八歳になろうとしている静は、勉強も色恋沙汰も放り投げて生傷を絶やすことなく喧嘩にあけくれている。


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