上 下
6 / 59
#002

セーラー服の彼女2

しおりを挟む
 私が間接的にそう呼ばれ始めたのは、はてさていつの頃からだったかしら。

 無論、私が俗世間的に言う「頭のおかしい」という意味でそう呼ばれていたわけでは断じてないということを大前提として話をするのだけれど、どうやら頭がおかしくなくとも私がした当然であるはずの行動は社会の風潮的なものから少し逸れていたらしい。

 常識がどうであるとかを語るつもりはないのだけれど、普通に、普通ではなかったそうなの。

 よくよく考えれば、なるほど確かに、私は私以外にそんな人を見たことがなかったわ。私の行動は社会的に見れば間違ってなくとも、そうね、やはり「変わっている」に分類されていたようだった。

 当時、その事に気が付いていなかった中学生の私は幼なじみでなんだかんだいつも私の世話を焼いてくれる唯一の友達にその具体的な理由を聞いてみた事がある。

「少なくとも、ほかちゃん以外でそんな人を私は見た事ないなぁ」

 そんな事ないでしょう。私くらいの平凡な人なんてそこら中に、それこそ配り歩いても星の数余るくらいにいるでしょうに。

「だとしたら、私は今頃国民から金を巻き上げて何もしない政治家みたいにあらゆる方面から糾弾されてるかもしれないね」

 要領を得ないわ。

「別に悪い意味じゃないんだから気にしないでいいと思うよ?好かれはしないかもしれないけど、嫌われるようなことはないからね」

 どうしてそう断言出来るの?

「漫画やアニメなんかにほかちゃんが出てくればそれはもう主要キャラに入ると思うもん。オマケにほかちゃんは顔が良いから主人公にだってなれるかもしれないね。でもって、そういう人達はだいたい嫌われたりはしないものなんだよ。むしろ好感が持てるね」

 私はその人達とは違うわ。

「分かってるよ。だからこそほかちゃんはこの社会ではそう呼ばれるんだと思うよ?まぁ、私はほかちゃんのそういう所大好きだけどね」

 告白するならもう少しまともなセリフを考えてきて欲しいわね。

「そう言わないでよ。私も最初は『変わってるなぁ』とは思ったけど、ほかちゃんのしてきた行動は確かに正しいことなんだからさ」

 私だってそう思う。

「だって、捨て猫を拾ったり、迷子の親を探したり、ポイ捨てされたゴミを見つける度にゴミ箱に持っていくのなんて、そうそうできることじゃないよ?クラスのいじめっ子に殴りかかっていったときなんか私、口から心臓が出るかと思ったもん」

 何かの小説で見たことがあったのよ。「全てを救うのは難しいが、目の前の人を救えずして全ては救えやしない」っていうセリフをね。だから、日頃からどんな事でも助けたいと思ってるのよ。

 というより、誰かを助けるのは当たり前だと思っていたから。

 だからこそ不本意だった。

 私が―――「変わり者」だなんて呼ばれるのは。

 ちなみにだけれど、この「ほかちゃん」っていうのは私のことよ。苗字の「星ヶ丘」の最初と最後の文字にくっつけただけの彼女からつけてもらった私の初めてのあだ名だった。何をするにも「ほかちゃん、ほかちゃん」とよく呼んでくれたから私もそれなりに気に入っていたわ。



 それも、今は誰からも呼ばれることはなくなったけれど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
ミステリー
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

亡くなった妻からのラブレター

毛蟹葵葉
ミステリー
亡くなった妻からの手紙が届いた 私は、最後に遺された彼女からのメッセージを読むことにした

赭坂-akasaka-

暖鬼暖
ミステリー
あの坂は炎に包まれ、美しく、燃えるように赤い。 赭坂の村についてを知るべく、男は村に降り立った。 しかし、赭坂の事実を探路するが、男に次々と奇妙なことが起こる…。 ミステリーホラー! 書きながらの連載になるので、危うい部分があります。 ご容赦ください。

処理中です...