シリウスをさがして…

もちっぱち

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最終話

記憶をたどるとよみがえる

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約20年前の自分自身に手紙を書いて渡せるとしたら、伝わるだろうか。


『今の君にものすごく感謝したい。』


 そもそものきっかけは真っ暗な道を歩く紬をバイクの後ろに乗せたことから2人の仲は急速に縮まった。
 

 その時に乗せないでスルーして帰っていたら、赤の他人のまま先輩後輩であったことも知らずに高校生活をやり過ごしていたかと思うと、過去の自分に褒めてやりたかった。

あの時、あの行動を起こさなければ、何もなかったかもしれない。嫌だなぁと思ったことも、本当は将来につながる小さな行動になるかもしれない。


 星を観察していなければ、交通事故で記憶が飛んだときに紬を思い出せなかったかもしれない。


 真摯に向き合うことをしなければ、結婚なんてたどりつかなかったかもしれない。



今ある自分に感謝しかない。



****


時刻は夜8時。
外は真っ暗にキラキラと星が
光っている。

銀行から35年 固定金利ローンで
購入した3階建て。
バリバリこれから働くぞと気持ちが入った。

狭小住宅だが、
一戸建ての1番上には屋上がある。

会社の同僚に建築士の知り合いがいると
ということで紹介してもらい、通常よりも安くデザインしてくれた。

 大手のハウスメーカーではなく、
土地の広さや部屋の設計も自由にできた。収納は少ない方だが、
狭くてもきっちり3LDKはある。

  屋上は絶対に作りたいとそこは譲らなかった。
 街中の住宅地のため、庭を作るのは諦めた。
 屋上が庭の代わりになる。


 陸斗は、天体観測しようと倉庫から天体顕微鏡を出して登った。

いつでもゴロンと寝れるようにモンゴルの遊牧民のようなテントを張っていた。即席キャンプだ。

 人工芝生の上に
 天体望遠鏡をセットした。


「お父さん、どこ?どこにあるの?」


「待って待って。今セットしてあげるから。」


大越心結おおごえ ゆい

 紬と陸斗の長女の名前だ。

 人と人の心通わす優しい子に育って欲しいと願いが込められている。


 紬は3人分の飲み物をトレイに乗せてテーブルに置く。陸斗と心結の様子を座って温かく見守っている。


「ほら、できた。これが土星。」


 陸斗は望遠鏡を土星の方角にセットしてのぞき込み、心結に見せた。

4歳になったばかりの心結はなんでも興味津々で好奇心旺盛。

 父の陸斗の話は聞いていて飽きないらしい。


「うわぁ、綺麗。本物は小さいね。図鑑とは違うや。」


「本当は小さいんじゃないよ?すごくすごく遠いところにあるんだよ。間近に行けないけど、地球と同じで実際はすごく大きいんだぞ?何百光年って言って、すごい昔の光が今見てるものなんだ。」



「なんだかお父さん難しいこと言ってる。心結、わからない。」


「そうだね。難しいね。んじゃこれなら分かりやすいよ。」


陸斗は望遠鏡を東の空に向けた。


「え、なになに。うわあ、すごい。これは青白く光ってる。星かな?」


「そう、これは全天体でいちばん輝いているシリウスって星ね。お星さま。」


「へー、そうなんだ。1番光ってるんだね、すごいねー。キラキラしてる。」

 おもちゃのネックレスも星の形をしている。心結は喜んで、空にネックレスを当ててみた。

「これもお星さま!お空に飛んでいけー。」

 なんでかわからないからプラスチックでできたネックレスをポイっと投げた。

「あれー。お空に行かないなぁ。これも星なのに…。どうして、お星さまはここに落ちてこないの?あそこにある星もこうやって飾りにしたいよ。」

 心結の落としたネックレスを陸斗はそっと拾って手渡した。

「そうだね。お星さまは黒いお空がお家なんだよ。だからこっちには来れないんだ。手は届かないけど、ずっと見ててくれるよ。心結のことを変わらないで見ててくれるんだ。お友達になれたらいいね。」


「お星さまとお友達になるのはどうしたらいいの?」


「そうだなぁ。お星さまのことをどんなものかなぁって調べるといいんじゃないかな。図鑑とか絵本とかお星のこと書いてるものたくさんあるでしょう。そしたら、だんだんに友達になれるかもしれないね。3回唱えると、願い事も叶うんだよ?」

「えー!?願い事?そうなんだ。よし、お願い事しよう。プリンセスになりたい!プリンセスになりたい!プリンセスになりたい。!」


 手を重ねて目をつぶりながら、心結は願い事を3回唱えた。

「お父さん、3回唱えたけど、プリンセスになれるかなぁ?」

「そうだね。ずっと思っていたらきっとなれるから。心結はプリンセスになりたいのか~。」

 こうやって、子どもと話す何気ない瞬間も、陸斗は幸せだった。その様子をお腹を大きくさせた紬が見つめている。
 
 今年、心結はお姉ちゃんになる。近い未来の心結の弟になる子だ。
 妊婦健診では、性別が男の子と言われていた。

 まだ名前は決まっていない。

 その男の子に伝えたい結婚したい女の人があらわれたら、星を見に誘ってみてと。きっといつまでも大切な思い出になると。


「心結!一緒にジュース飲もう~。好きなオレンジジュース持ってきたよ。」

「はーい。ほら、お父さんも。」

「わかったよ。」

 陸斗は心結に小さな手で引っ張られ、紬が座るテーブルに向かった。


 上を見上げると満点の星たちが雲ひとつない夜空で瞬いている。

「あ、名前決めた。お腹の子は『大越 流星 おおこえ りゅうせい』にしよう。」

「良いね。かっこいい。あ、お腹で足蹴ったよ。」


「気に入ったのかな。」


「喜んでいると良いよね。」

 陸斗は紬をハグして、額を頭にくっつけた。それを見た心結も仲間に入りたかった。

「あー、私も私も。」

 心結は、仕方ないなぁと言う陸斗に抱っこされて大満足のようだった。
 
 それにかぶさるように紬もぎゅーと2人を抱きしめた。

 少し肌寒かった外はくっついて暖かくなった。



 夜空を見上げて、シリアスをさがしていた。

 すごく電気と同じくらいの眩しい星を見つけた。

 星を見つけるだけで人と人とのつながりを紡ぐことができる。
 
 たった一つの行動で決まるとは思わない。

 人生何が起きるかわからない。

   まだまだ終わることのない

 2人の物語は

 ぶつかって、くっついてを繰り返し、

 どこにいても 同じ空の下で、

 これからも子どもたちとともに

 描かれていく。





【  完  】
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