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まさかの出来事連発?
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遊園地の窓口に並ぶ列に4人は最後尾に並んだ。日曜日ということもあり、混んでいた。
天気も晴れていて、今のシーズンは芋煮会の団体のお客さんで溢れていた。
しばらく並びながら待つとやっと順番が来て、それぞれフリーパスを購入した。
陸斗は財布を取り出し、2人のチケットを購入した。
横で私が出すと財布を広げて、お金を出そうとする紬だったが、陸斗はそれを阻止していた。
「フリーパス大人2枚お願いします。」
「お二人分で8000円です。」
「んじゃ、これで。」
陸斗は紬の手を跳ね除けて、1万円札出し、お釣り2000円を受け取った。
チケットを受け取ると入り口に入っていく。
「お次の方、どうぞ。」
「あ、俺出すから、そこで待ってて。」
洸が財布を取り出して、サッと1万円を受付のトレイに出した。
「フリーパス大人2枚でお願いします。」
「あ、ありがとうございます。」
シンプルに美嘉はお礼を言った。
「うん。いいよ。」
頬の前で指で丸を作った。ふふっと美嘉は笑う。
「1万円のお預かりですね。2000円のお返しです。ごゆっくりお楽しみください。」
「んじゃ、行きますか。」
腕につけたフリーパスチケットを出して、中に入っていく。
「まず、ゆったりした観覧車行こう!」
「あ、あぁ。それなら、いいな。」
「観覧車初めてかも…。」
「高いところからの景色は綺麗だよ。」
美嘉は嬉しいそうに言う。
「並ぼう。」
それぞれに手を繋いで、先に洸と美嘉、陸斗の紬の順番に列に並んだ。
列は出来ていたが、流れが早く待ち時間は少なかった。てっきり、順番通りに観覧車に乗るもんだと思っていた4人は、スタッフの案内でどさくさ紛れになぜか洸と紬、陸斗と美嘉のペアで乗ることになってしまった。
ゆっくり移動なのに、スタッフの背中に押され、バラバラに引き離された。
元に戻ろうとした時には遅くて、外側から鍵を閉められた。
「マジか…。出られない。」
「…なんで、こうなったのかな。」
洸と紬は、気まずそうに言う。
「てか、あいつおかしくない?あのスタッフ目が尋常じゃなかったよ?」
「ほんと、なんで引き離されるの?」
美嘉と陸斗もイライラが募る。スタッフを睨みつける。
洸はあることに気づく。
「あ…。あいつ。大学の後輩かも…。俺に恨みあんのかな。狙ってた彼女に振られた腹いせか。」
窓からスタッフの顔を凝視した。見たことある顔だった。
「ごめん。何か関係ないのに巻き込まれて…。」
「う、うん。まぁ、仕方ないですよね。」
外を眺めて諦めた紬。洸は、ため息をついた。
「せっかく2人になったから、言うんだけどさ。この間、無理矢理嫌がることしてごめんな。謝りたくてきっかけ探してた。」
「あ…。まぁ、許すわけじゃないですけど、過去のことですから。ほら、景色綺麗ですよ。」
気持ちをごまかすように外に視線をやった。
「……そうだな。」
洸は座席に手をついて、外を眺める。
紬は窓に手をついて外をじっと見た。
その頃、陸斗と美嘉は窓にべったりと手を顔をつけて洸と紬の様子を見ながら、イライラしてた。
「あー見えない。2人何してるの?」
「うーー。何で俺は紬と乗れないんだよ。」
「陸斗先輩、洸さんと紬ちゃんの関係ってどうなんですか。」
「どうって言われてもなぁ。今、洸は紬のお店でバイトしてるから、一緒に働いてることもあるって言ってたかな。」
座席に座って話し出す。
「バイトの同僚って感じですか。…何だか複雑だなぁ~。…もう、観覧車ジンクスというか定番あったのにできないよぉ。」
「あー…。もしかして、てっぺん言ったらチューするってやつ?乙女やなぁ、森本さんは。…って、今日会ってもう、それ?早くない?警戒心持とうよ。俺と紬なら分かるけどさ。」
「別に…いいじゃないですか。雰囲気とかあるし、そうなってもいいって思ってますよ。隆介と別れたばかりで心寂しいし、早く彼氏欲しいんですから。」
「そんな安売りするなよ。洸は、結構遊んだりする男だよ。傷つくのは森本さんだから…俺が言うのもあれだけど、慎重にいった方よくない?」
「何か、陸斗先輩、めっちゃお節介ですね。私のことは放っておいてください。ちゃんと見ておかないと、紬ちゃん離れちゃいますよ、ほら。」
観覧車というものは案外狭い。
大人2人は膝と膝がぶつかりそうになる。
離れようにも離れにくい。
「紬ちゃん……泣きたくなったら、いつでも言って。陸斗が泣かしたら、俺がしごくから。」
「…大丈夫ですよ。お気持ちだけ受け取ります。」
「……今は元気そうだから、大丈夫か。でも、本当、かけつけるから。何かあったらいつでもウェルカムだから。」
「美嘉ちゃんに怒られますよ。本当、気持ちだけでいいですから。」
ちょうど、観覧車が真下に到着してゆっくりとおりた。
洸はスタッフを無言で睨みつけて立ち去った。
状況を知ってかスタッフは何度もお辞儀して、謝っていた。
後から来た陸斗と美嘉もおりてきた。
「洸、今のどういうこと?」
「悪い。あいつ、大学の後輩。告白して振られた腹いせに嫌がらせされた。多分、元彼女のことが俺のこと言ったのかも…。ここでバイトしてるんだね、あいつは。名前は知らないけど。」
「恨み買われたのね。敵作るなよー。紬、観覧車一緒乗れなかったけどいい?次行って大丈夫?」
「うん。何回も乗らないくても良いかな。」
「えー、私、洸さんと乗りたかったぁ。」
「ごめんごめん。別なところはしっかり離さないから、違うところ行こう。悪いけど、あいつに会いたくないから。」
洸は、ぎゅっと美嘉の手を握った。
「んじゃぁ、仕方ない。次行きましょう。洸さん、私あれ乗りたい。絶対行きたい。これは譲れません!」
「え…。」
美嘉は洸の手を握り、ジェットコースターを指差して、引っ張って進んでいく。有無も言えない状況で、陸斗はパタパタと手を振った。
「行ってらっしゃい!」
「もしかして、洸さん。絶叫系苦手?」
「うん、そだね。高いところは平気らしいけど、コースターがダメだって。紬は?乗ったことある?」
「私は遊園地自体が初めてだから、乗ったことが全然無いんだけど…ブランコとかシーソーは平気だから多分大丈夫だと思うけど…。やってみようかな。」
「お?挑戦するんだね。挑戦する気持ち大事よ。俺らもあのコースター行こう。今度こそ、一緒ね。」
左手で手を握ってアピールした。小走りで美嘉たちに着いていく。
列に並ぶと案外早く乗り込めた。
「洸さん、早く~。」
「う、うん。」
嫌そうに返事をして着いていく。
洸は美嘉に引っ張られて、手が先で体が後ろの方になっている。
「ほら、もう諦めて乗りな。」
陸斗は洸の背中を押す。静かに安全ベルトを装着した。
紬を奥へ誘導して手前に乗った。
「発車しまーす。」
スタッフの声と共にサイレンが鳴る。じわじわとコースターの車体が動き出す。
ゆっくりと上へ上へとのぼる。
洸はおしゃべりだったのに急に静かになり,顔が固まった。
初めて乗る紬はワクワクしていた。だか、車体が一気に坂を滑り落ちていく瞬間は体の臓器がフワっと宙に浮きそうになり、気持ち悪くなった。声が出なくなる。
前にいた美嘉と陸斗は、きゃー、わー、というような声を出したり,手を広げて喜んでいた。
キャラクターが分かれたようで、洸と紬は表情を変えずにただただ、事がすぎるのを待っていた。顔がひきつっている。
「お疲れさまでした。お足元にご注意ください。棚のお荷物のお忘れ物のないようにお願いします。」
車体から順番に降りていく。
紬と洸はフラフラになりながら、進んでいく。
洸は昔からこう言う類の乗り物は苦手だった。
今回は美嘉の誘いを断るのも気が引けて乗ってしまった。
紬は初めてのことでどうなるか分からず、やってみたら苦手なものだと気づいた。
陸斗と美嘉は全然平気だったため、2人の近くに駆け寄って歩くのを手伝っていた。
「あそこにベンチがあるから、あそこで休もう。」
陸斗が指を差して座る場所を見つけた。隣同士に洸と紬は座った。
「ここで待ってて、飲み物買ってくる。」
「私も行ってきます!」
まだまだ元気な陸斗と美嘉は、2人のために自動販売機の飲み物を買いに行った。
「2人とも元気だな。なんで、あんな乗り物に乗らなくちゃいけないかが分からない。気持ち悪いよ~。」
話しながら洸はぐったりしていた。
紬も、話す言葉を少なめにぼんやりしていた。
(あれ、俺、今、何してるんだろ。誰かのために何かをしてあげるって、ずっと前からやっている行動だけど、紬が初めてかもしれない。今まで尽くされすぎてたし、男の俺が相手に何かをしてあげることは恥ずかしいとさえ思っていたけど、これじゃまるで父さんと同じ。無意識に動いてる…。)
陸斗は自販機に小銭を入れて、紬が好きそうなレモンティーのボタンを押した。ついでに自分用のコーラも買っておいた。
美嘉も陸斗とは離れた場所の自動販売機で洸のためにミネラルウォーターのペットボトルと自分用ミルクティーを買った。
(今、私。洸さんのために買ってる。いつも私のために誰かが買うこと多いのに、無意識に体が動いてる。尽くしてる?今までやったことないのにやってる。なんでかな。)
それぞれに疑問を持ちながら、相手のために飲み物を買った。
その頃の紬と洸は、具合悪さがひどく、ベンチに座っていた洸は特に意識せず、紬の膝を枕にしてふらっと横になっていた。
紬も何か起きているか分からず、意気消沈でぼんやりしていた。洸が膝枕しているなんて、気づく頃には陸斗たちが目撃していた。
「ん?! 洸さん、何しているんですか?」
「ふへ? ああ、ごめん。何だかフラフラして、横になったら落ち着くかなって思って…悪い、起きるから。」
あまりにもジェットコースターに乗って気持ち悪くなったらしく、正気ではいられなかったらしく、紬だと気づいてなかったようだ。
慌てて起きた洸は、トイレに行ってくると立ち上がった。
美嘉は買ってきた飲み物を背中の方に見えないように引っ込めた。
陸斗は買ってきた飲み物を紬にそっと渡した。
「はい、飲み物買ってきたから飲みな。」
「あ、ありがとう。」
ベンチの紬の隣に座り、陸斗も買ってきたコーラのキャップを開けて飲んだ。
陸斗の方は全然気にしてなかったが、美嘉は洸が紬の膝枕を自然にしていることに心のモヤモヤが溢れ出てきた。
遠くから陸斗たちの中に入るには気が引けて、洸の近くで待っておこうと男子トイレの出入り口近くのベンチに移動して座って待っていた。
「彼女ー、1人? 俺らと一緒にまわらない?」
「ほら、あっち行こうよ。」
20代前後の男性2人に声をかけられた。不機嫌そうな顔をして
「いえ、結構です。」
はっきり断ったはずなのに、腕をつかまれた。
「良いじゃん。暇でしょ。一緒に来なよー。」
「や、やめてください!」
困っている美嘉を洸は見逃さずに、相手男性の腕を背中側にひねった。
「は?何すんだよ。」
「お前こそ、俺の彼女に何すんだよ。勝手に連れて行こうとすんなよ!」
殺気だった目で睨みつけた。
かなりの痛さだったらしく、さっさっと逃げた。
「あ、彼氏さんがいらっしゃったんですねぇ。いやぁ、1人だったと思ったのでー、どうもすいませんでしたぁ…。」
背の高い洸は上から下へ見下ろすようにナンパ男2人はおどおどしながら、その場を恐れるように立ち去った。
「…美嘉ちゃん、1人は危ないよ。なんで、陸斗たちと一緒にいないの?」
後ろをふり向くと両腕を抱えてしゃがみこむ。
「こわかった…。」
「あ、ごめん。俺? あいつら、そんくらいしないとっと思って…。」
どんっと、洸の胸に飛び込んだ。
「洸さんはこわくない。あの人たちがこわかった。」
こわさから、体の震えが止まらなかった。
美嘉の頭をそっと撫でた。
「ヨシヨシ。こわかったね。」
「…私は犬じゃない…。」
「うーん。犬種で言うとポメラニアンかなぁ。ふわふわしてるもんね。…あれ? そこにペットボトル落ちてるけど、美嘉ちゃんの?」
美嘉が買っていたミネラルウォーターとミルクティーがさっきの衝撃で乱雑に転がっていた。
「あ…。」
「もしかして、俺に?」
黙って頷いた。
「んじゃ、さっそく頂こうかな。はい、これは美嘉ちゃんのでしょう。」
ミネラルウォーターのキャップを外してゴクゴク飲んだ。
自分が買った飲み物を飲んでくれていることに感動を覚えた。
いつも買ってもらう側で、渡される方。
渡されたミルクティーのペットボトルをバックの中に忍ばせた。
「ちょうど、気持ち悪かったから飲みやすい。ありがとう。」
「あ、あの。何か、無理やり誘っちゃってごめんなさい。」
「ああ…あまり絶叫系が苦手なこと言いたくなかったからね。でも、無理しないで言えばよかったかな。陸斗は知ってたと思うけど、悔しいからね。あいつに負けた感じがして。」
「昔から苦手だったんですか?」
「うーん、まぁ、そんなこところ。観覧車とか高いところは平気なのよ。東京タワーとか。でもこの揺さぶりとか宙返りとか無理なんだよね。臓器が引っ張れそうになるじゃん。」
「…それが楽しいんですよ!」
「そう言うけど、美嘉ちゃんは苦手なの無いの?」
「…お化け屋敷はちょっと。」
「苦手なのあるじゃない。んじゃ、許すから、お化け屋敷行こう。」
「え…。そ、それは…。」
「ちゃんと手、繋ぐから。」
「それでも怖いのには変わりないですぅ。」
洸はさっきと逆の立場で美嘉の手を繋いで、お化け屋敷の方へ向かった。
「あれ、これって、フリーパス使えないのね。でもいいや。俺が奢るから。」
「あ…絶対、手、離さないでくださいよ!!」
「え、それはどうしようかな。」
2人は和風のお化け屋敷の中へ入っていった。
美嘉は終始、洸の手どころかこわすぎて、腕をガッチリ掴んで離さなかった。
パーソナルスペースがかなり近い。
当たってはいけないところが当たってる気がすると、洸は変にこわさよりそっちの方でドキドキした。
前に進むと美嘉はちょっとした物音にすぐに反応して、悲鳴をあげた。
涙が出るくらい怖いみたいだ。
洸はわざと歩くスピードをあげると焦ってぎゅーと腕を掴んで、行く手を阻む。
「ちょっ…美嘉ちゃん、腕痛いんだけど。ほら、大丈夫だよ。落武者とか、山姥がいるくらいだから。」
「それが怖いんですぅ!!」
「想像力豊かなんだね、きっと。」
全然、怖くない洸は、次々と先に進む。こわすぎて、目を開けるのも嫌がっていた美嘉に洸は肩をたたく。
「目、開けないと面白くないよ?」
「い、いじわる言わないでくださいよ。」
ガン!!
と物音がすると何もなかった場所から長い髪の女の人がボンと起き上がってきた。
「きゃーーーー!!」
怖くなった美嘉は洸を差し置いて、先に走り去っていってしまった。
「美嘉ちゃん、置いてかないで!」
洸はお化けよりも置いて行かれた方が悲しかった。
出口付近で、美嘉は壁に寄りかかって泣いていた。
後から、洸は出てきて,美嘉を見つける。
「わぁ!!」
と、びっくりさせた。
「きゃーーーっ!!なんで、追い討ちをかけるようにびっくりさせるんですかー。もう無理ー。」
洸は美嘉の後ろに立ち、頭をヨシヨシと撫でた。
「洸さぁん、さっきからナデナデしかしてない~。」
泣きながら言う。
「だって、俺はどうしたらいいのよ。」
後ろを振り向いて、不意打ちにハグした美嘉。
「おっと。」
「もう、お化け屋敷行きません。」
「行かないって。」
洸は美嘉の頭を撫で続ける。
何だか撫でられてだんだんと気持ちが落ち着いてきた。
「……大丈夫になってきた。」
「だろ?撫でるって行為は癒し効果あるってきっと、個人的な意見だけど。」
「美嘉ちゃん! 大丈夫?」
お化け屋敷で騒いでたのが聞こえたのか,陸斗と紬も近くに来た。
「何、2人ともお化け屋敷入ってきたの?勇気あるね。」
「あぁ。俺は全然平気だけど、美嘉ちゃんはダメらしいよ。」
「洸、美嘉ちゃんに近づきすぎじゃないの?」
「俺じゃないよ。」
キリッと陸斗を睨む美嘉。後ずさりをした。
「これは、2人の邪魔をしてはいけなさそうだね。そしたら、ここからほぼ別行動にしようか。帰りとかも良いよね。それぞれにする?」
「俺は、構わないけど。2人が良いのであれば。」
「私は、別行動賛成です!!」
元気よく美嘉が言う。
「私はどちらでも…、お任せします。」
紬は流れにそう形だ。
「んじゃ、ここからそれぞれってことでいいよね。2人とも気をつけて帰るんだよ。」
「はーい。」
美嘉は手を挙げて返事をした。
「美嘉ちゃん。また明日学校でね。」
紬はそう言うと,後ろを振り返って陸斗の横に駆け寄って手を繋いでアトラクションの方へ消えて行った。
美嘉はこの状況が急に緊張し始めた。陸斗たちがいないと言うことは逃げ場がない。
洸も、2人きりのデートとなると話は別になることを思い出し,後ろ頭をぽりぽりとかいた。
「それじゃぁ、俺らは俺らで楽しみますか。美嘉ちゃん、観覧車乗る?」
「ぜひ。乗りたいです。」
さっきは並んだのに4人でいることで、メンバーが入れ替わって一緒に乗れなかった。やっと乗れることに心が浮き足立った。
「次は邪魔が入らないように警戒するから。」
洸は、観覧車の列やスタッフを確認した。さっき邪魔をした後輩バイトはいつの間にかいなくなっていた。
これはバッチリOKと心半ば安心して、手を繋いでレディーファーストで乗り込んだ。
いざ、2人で乗り込むとかなり緊張することが分かる。
手から汗がどんどん出てくる。
「ご、ごめん、一回手、離してもいい?」
洸はズボンで手を何度も拭いた。
「洸さん、名前、呼び捨てでも良いですよ。」
向かい合わせに座って、膝と膝が着きそうになる。
美嘉はさりげなく、洸の隣に移動した。少し車体が揺れた。
「……美嘉…ちゃん?」
至近距離になるため、洸はドキマギした。
「私、洸さんが好きです。本当は、初めて会った時から気になってました。さっき、変な人から声掛けられたとき、彼女って言ってくれましたけど、あれはごまかすためですよね。」
「あー、あれは…そうなっても良いなって思って、俺の希望でもあったけど…。俺で良ければ、よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げて、はにかんだ。
嬉しすぎて、美嘉は洸の首の後ろに手を回して、ハグをした。
ヨシヨシとこたえるように、背中を撫でた。
「あの……。」
まもなく、観覧車がてっぺんに差し掛かろうとした瞬間、美嘉が話そうと思った矢先に洸は頭を傾けて、美嘉の頬に軽くキスをした。
嬉しかったが何だか不機嫌になった美嘉は、真正面から顔を近づけて自分からキスしに行った。
もういいの?と驚いた様子で、洸は口づけを交わした。
一応は段階を踏んで行こうと考えていた洸は美嘉に合わせるかと雰囲気に乗った。
念願の観覧車の中でのキスが出来て、美嘉は有頂天だった。
帰る時までずっと鼻歌が止まらなかった。
天気も晴れていて、今のシーズンは芋煮会の団体のお客さんで溢れていた。
しばらく並びながら待つとやっと順番が来て、それぞれフリーパスを購入した。
陸斗は財布を取り出し、2人のチケットを購入した。
横で私が出すと財布を広げて、お金を出そうとする紬だったが、陸斗はそれを阻止していた。
「フリーパス大人2枚お願いします。」
「お二人分で8000円です。」
「んじゃ、これで。」
陸斗は紬の手を跳ね除けて、1万円札出し、お釣り2000円を受け取った。
チケットを受け取ると入り口に入っていく。
「お次の方、どうぞ。」
「あ、俺出すから、そこで待ってて。」
洸が財布を取り出して、サッと1万円を受付のトレイに出した。
「フリーパス大人2枚でお願いします。」
「あ、ありがとうございます。」
シンプルに美嘉はお礼を言った。
「うん。いいよ。」
頬の前で指で丸を作った。ふふっと美嘉は笑う。
「1万円のお預かりですね。2000円のお返しです。ごゆっくりお楽しみください。」
「んじゃ、行きますか。」
腕につけたフリーパスチケットを出して、中に入っていく。
「まず、ゆったりした観覧車行こう!」
「あ、あぁ。それなら、いいな。」
「観覧車初めてかも…。」
「高いところからの景色は綺麗だよ。」
美嘉は嬉しいそうに言う。
「並ぼう。」
それぞれに手を繋いで、先に洸と美嘉、陸斗の紬の順番に列に並んだ。
列は出来ていたが、流れが早く待ち時間は少なかった。てっきり、順番通りに観覧車に乗るもんだと思っていた4人は、スタッフの案内でどさくさ紛れになぜか洸と紬、陸斗と美嘉のペアで乗ることになってしまった。
ゆっくり移動なのに、スタッフの背中に押され、バラバラに引き離された。
元に戻ろうとした時には遅くて、外側から鍵を閉められた。
「マジか…。出られない。」
「…なんで、こうなったのかな。」
洸と紬は、気まずそうに言う。
「てか、あいつおかしくない?あのスタッフ目が尋常じゃなかったよ?」
「ほんと、なんで引き離されるの?」
美嘉と陸斗もイライラが募る。スタッフを睨みつける。
洸はあることに気づく。
「あ…。あいつ。大学の後輩かも…。俺に恨みあんのかな。狙ってた彼女に振られた腹いせか。」
窓からスタッフの顔を凝視した。見たことある顔だった。
「ごめん。何か関係ないのに巻き込まれて…。」
「う、うん。まぁ、仕方ないですよね。」
外を眺めて諦めた紬。洸は、ため息をついた。
「せっかく2人になったから、言うんだけどさ。この間、無理矢理嫌がることしてごめんな。謝りたくてきっかけ探してた。」
「あ…。まぁ、許すわけじゃないですけど、過去のことですから。ほら、景色綺麗ですよ。」
気持ちをごまかすように外に視線をやった。
「……そうだな。」
洸は座席に手をついて、外を眺める。
紬は窓に手をついて外をじっと見た。
その頃、陸斗と美嘉は窓にべったりと手を顔をつけて洸と紬の様子を見ながら、イライラしてた。
「あー見えない。2人何してるの?」
「うーー。何で俺は紬と乗れないんだよ。」
「陸斗先輩、洸さんと紬ちゃんの関係ってどうなんですか。」
「どうって言われてもなぁ。今、洸は紬のお店でバイトしてるから、一緒に働いてることもあるって言ってたかな。」
座席に座って話し出す。
「バイトの同僚って感じですか。…何だか複雑だなぁ~。…もう、観覧車ジンクスというか定番あったのにできないよぉ。」
「あー…。もしかして、てっぺん言ったらチューするってやつ?乙女やなぁ、森本さんは。…って、今日会ってもう、それ?早くない?警戒心持とうよ。俺と紬なら分かるけどさ。」
「別に…いいじゃないですか。雰囲気とかあるし、そうなってもいいって思ってますよ。隆介と別れたばかりで心寂しいし、早く彼氏欲しいんですから。」
「そんな安売りするなよ。洸は、結構遊んだりする男だよ。傷つくのは森本さんだから…俺が言うのもあれだけど、慎重にいった方よくない?」
「何か、陸斗先輩、めっちゃお節介ですね。私のことは放っておいてください。ちゃんと見ておかないと、紬ちゃん離れちゃいますよ、ほら。」
観覧車というものは案外狭い。
大人2人は膝と膝がぶつかりそうになる。
離れようにも離れにくい。
「紬ちゃん……泣きたくなったら、いつでも言って。陸斗が泣かしたら、俺がしごくから。」
「…大丈夫ですよ。お気持ちだけ受け取ります。」
「……今は元気そうだから、大丈夫か。でも、本当、かけつけるから。何かあったらいつでもウェルカムだから。」
「美嘉ちゃんに怒られますよ。本当、気持ちだけでいいですから。」
ちょうど、観覧車が真下に到着してゆっくりとおりた。
洸はスタッフを無言で睨みつけて立ち去った。
状況を知ってかスタッフは何度もお辞儀して、謝っていた。
後から来た陸斗と美嘉もおりてきた。
「洸、今のどういうこと?」
「悪い。あいつ、大学の後輩。告白して振られた腹いせに嫌がらせされた。多分、元彼女のことが俺のこと言ったのかも…。ここでバイトしてるんだね、あいつは。名前は知らないけど。」
「恨み買われたのね。敵作るなよー。紬、観覧車一緒乗れなかったけどいい?次行って大丈夫?」
「うん。何回も乗らないくても良いかな。」
「えー、私、洸さんと乗りたかったぁ。」
「ごめんごめん。別なところはしっかり離さないから、違うところ行こう。悪いけど、あいつに会いたくないから。」
洸は、ぎゅっと美嘉の手を握った。
「んじゃぁ、仕方ない。次行きましょう。洸さん、私あれ乗りたい。絶対行きたい。これは譲れません!」
「え…。」
美嘉は洸の手を握り、ジェットコースターを指差して、引っ張って進んでいく。有無も言えない状況で、陸斗はパタパタと手を振った。
「行ってらっしゃい!」
「もしかして、洸さん。絶叫系苦手?」
「うん、そだね。高いところは平気らしいけど、コースターがダメだって。紬は?乗ったことある?」
「私は遊園地自体が初めてだから、乗ったことが全然無いんだけど…ブランコとかシーソーは平気だから多分大丈夫だと思うけど…。やってみようかな。」
「お?挑戦するんだね。挑戦する気持ち大事よ。俺らもあのコースター行こう。今度こそ、一緒ね。」
左手で手を握ってアピールした。小走りで美嘉たちに着いていく。
列に並ぶと案外早く乗り込めた。
「洸さん、早く~。」
「う、うん。」
嫌そうに返事をして着いていく。
洸は美嘉に引っ張られて、手が先で体が後ろの方になっている。
「ほら、もう諦めて乗りな。」
陸斗は洸の背中を押す。静かに安全ベルトを装着した。
紬を奥へ誘導して手前に乗った。
「発車しまーす。」
スタッフの声と共にサイレンが鳴る。じわじわとコースターの車体が動き出す。
ゆっくりと上へ上へとのぼる。
洸はおしゃべりだったのに急に静かになり,顔が固まった。
初めて乗る紬はワクワクしていた。だか、車体が一気に坂を滑り落ちていく瞬間は体の臓器がフワっと宙に浮きそうになり、気持ち悪くなった。声が出なくなる。
前にいた美嘉と陸斗は、きゃー、わー、というような声を出したり,手を広げて喜んでいた。
キャラクターが分かれたようで、洸と紬は表情を変えずにただただ、事がすぎるのを待っていた。顔がひきつっている。
「お疲れさまでした。お足元にご注意ください。棚のお荷物のお忘れ物のないようにお願いします。」
車体から順番に降りていく。
紬と洸はフラフラになりながら、進んでいく。
洸は昔からこう言う類の乗り物は苦手だった。
今回は美嘉の誘いを断るのも気が引けて乗ってしまった。
紬は初めてのことでどうなるか分からず、やってみたら苦手なものだと気づいた。
陸斗と美嘉は全然平気だったため、2人の近くに駆け寄って歩くのを手伝っていた。
「あそこにベンチがあるから、あそこで休もう。」
陸斗が指を差して座る場所を見つけた。隣同士に洸と紬は座った。
「ここで待ってて、飲み物買ってくる。」
「私も行ってきます!」
まだまだ元気な陸斗と美嘉は、2人のために自動販売機の飲み物を買いに行った。
「2人とも元気だな。なんで、あんな乗り物に乗らなくちゃいけないかが分からない。気持ち悪いよ~。」
話しながら洸はぐったりしていた。
紬も、話す言葉を少なめにぼんやりしていた。
(あれ、俺、今、何してるんだろ。誰かのために何かをしてあげるって、ずっと前からやっている行動だけど、紬が初めてかもしれない。今まで尽くされすぎてたし、男の俺が相手に何かをしてあげることは恥ずかしいとさえ思っていたけど、これじゃまるで父さんと同じ。無意識に動いてる…。)
陸斗は自販機に小銭を入れて、紬が好きそうなレモンティーのボタンを押した。ついでに自分用のコーラも買っておいた。
美嘉も陸斗とは離れた場所の自動販売機で洸のためにミネラルウォーターのペットボトルと自分用ミルクティーを買った。
(今、私。洸さんのために買ってる。いつも私のために誰かが買うこと多いのに、無意識に体が動いてる。尽くしてる?今までやったことないのにやってる。なんでかな。)
それぞれに疑問を持ちながら、相手のために飲み物を買った。
その頃の紬と洸は、具合悪さがひどく、ベンチに座っていた洸は特に意識せず、紬の膝を枕にしてふらっと横になっていた。
紬も何か起きているか分からず、意気消沈でぼんやりしていた。洸が膝枕しているなんて、気づく頃には陸斗たちが目撃していた。
「ん?! 洸さん、何しているんですか?」
「ふへ? ああ、ごめん。何だかフラフラして、横になったら落ち着くかなって思って…悪い、起きるから。」
あまりにもジェットコースターに乗って気持ち悪くなったらしく、正気ではいられなかったらしく、紬だと気づいてなかったようだ。
慌てて起きた洸は、トイレに行ってくると立ち上がった。
美嘉は買ってきた飲み物を背中の方に見えないように引っ込めた。
陸斗は買ってきた飲み物を紬にそっと渡した。
「はい、飲み物買ってきたから飲みな。」
「あ、ありがとう。」
ベンチの紬の隣に座り、陸斗も買ってきたコーラのキャップを開けて飲んだ。
陸斗の方は全然気にしてなかったが、美嘉は洸が紬の膝枕を自然にしていることに心のモヤモヤが溢れ出てきた。
遠くから陸斗たちの中に入るには気が引けて、洸の近くで待っておこうと男子トイレの出入り口近くのベンチに移動して座って待っていた。
「彼女ー、1人? 俺らと一緒にまわらない?」
「ほら、あっち行こうよ。」
20代前後の男性2人に声をかけられた。不機嫌そうな顔をして
「いえ、結構です。」
はっきり断ったはずなのに、腕をつかまれた。
「良いじゃん。暇でしょ。一緒に来なよー。」
「や、やめてください!」
困っている美嘉を洸は見逃さずに、相手男性の腕を背中側にひねった。
「は?何すんだよ。」
「お前こそ、俺の彼女に何すんだよ。勝手に連れて行こうとすんなよ!」
殺気だった目で睨みつけた。
かなりの痛さだったらしく、さっさっと逃げた。
「あ、彼氏さんがいらっしゃったんですねぇ。いやぁ、1人だったと思ったのでー、どうもすいませんでしたぁ…。」
背の高い洸は上から下へ見下ろすようにナンパ男2人はおどおどしながら、その場を恐れるように立ち去った。
「…美嘉ちゃん、1人は危ないよ。なんで、陸斗たちと一緒にいないの?」
後ろをふり向くと両腕を抱えてしゃがみこむ。
「こわかった…。」
「あ、ごめん。俺? あいつら、そんくらいしないとっと思って…。」
どんっと、洸の胸に飛び込んだ。
「洸さんはこわくない。あの人たちがこわかった。」
こわさから、体の震えが止まらなかった。
美嘉の頭をそっと撫でた。
「ヨシヨシ。こわかったね。」
「…私は犬じゃない…。」
「うーん。犬種で言うとポメラニアンかなぁ。ふわふわしてるもんね。…あれ? そこにペットボトル落ちてるけど、美嘉ちゃんの?」
美嘉が買っていたミネラルウォーターとミルクティーがさっきの衝撃で乱雑に転がっていた。
「あ…。」
「もしかして、俺に?」
黙って頷いた。
「んじゃ、さっそく頂こうかな。はい、これは美嘉ちゃんのでしょう。」
ミネラルウォーターのキャップを外してゴクゴク飲んだ。
自分が買った飲み物を飲んでくれていることに感動を覚えた。
いつも買ってもらう側で、渡される方。
渡されたミルクティーのペットボトルをバックの中に忍ばせた。
「ちょうど、気持ち悪かったから飲みやすい。ありがとう。」
「あ、あの。何か、無理やり誘っちゃってごめんなさい。」
「ああ…あまり絶叫系が苦手なこと言いたくなかったからね。でも、無理しないで言えばよかったかな。陸斗は知ってたと思うけど、悔しいからね。あいつに負けた感じがして。」
「昔から苦手だったんですか?」
「うーん、まぁ、そんなこところ。観覧車とか高いところは平気なのよ。東京タワーとか。でもこの揺さぶりとか宙返りとか無理なんだよね。臓器が引っ張れそうになるじゃん。」
「…それが楽しいんですよ!」
「そう言うけど、美嘉ちゃんは苦手なの無いの?」
「…お化け屋敷はちょっと。」
「苦手なのあるじゃない。んじゃ、許すから、お化け屋敷行こう。」
「え…。そ、それは…。」
「ちゃんと手、繋ぐから。」
「それでも怖いのには変わりないですぅ。」
洸はさっきと逆の立場で美嘉の手を繋いで、お化け屋敷の方へ向かった。
「あれ、これって、フリーパス使えないのね。でもいいや。俺が奢るから。」
「あ…絶対、手、離さないでくださいよ!!」
「え、それはどうしようかな。」
2人は和風のお化け屋敷の中へ入っていった。
美嘉は終始、洸の手どころかこわすぎて、腕をガッチリ掴んで離さなかった。
パーソナルスペースがかなり近い。
当たってはいけないところが当たってる気がすると、洸は変にこわさよりそっちの方でドキドキした。
前に進むと美嘉はちょっとした物音にすぐに反応して、悲鳴をあげた。
涙が出るくらい怖いみたいだ。
洸はわざと歩くスピードをあげると焦ってぎゅーと腕を掴んで、行く手を阻む。
「ちょっ…美嘉ちゃん、腕痛いんだけど。ほら、大丈夫だよ。落武者とか、山姥がいるくらいだから。」
「それが怖いんですぅ!!」
「想像力豊かなんだね、きっと。」
全然、怖くない洸は、次々と先に進む。こわすぎて、目を開けるのも嫌がっていた美嘉に洸は肩をたたく。
「目、開けないと面白くないよ?」
「い、いじわる言わないでくださいよ。」
ガン!!
と物音がすると何もなかった場所から長い髪の女の人がボンと起き上がってきた。
「きゃーーーー!!」
怖くなった美嘉は洸を差し置いて、先に走り去っていってしまった。
「美嘉ちゃん、置いてかないで!」
洸はお化けよりも置いて行かれた方が悲しかった。
出口付近で、美嘉は壁に寄りかかって泣いていた。
後から、洸は出てきて,美嘉を見つける。
「わぁ!!」
と、びっくりさせた。
「きゃーーーっ!!なんで、追い討ちをかけるようにびっくりさせるんですかー。もう無理ー。」
洸は美嘉の後ろに立ち、頭をヨシヨシと撫でた。
「洸さぁん、さっきからナデナデしかしてない~。」
泣きながら言う。
「だって、俺はどうしたらいいのよ。」
後ろを振り向いて、不意打ちにハグした美嘉。
「おっと。」
「もう、お化け屋敷行きません。」
「行かないって。」
洸は美嘉の頭を撫で続ける。
何だか撫でられてだんだんと気持ちが落ち着いてきた。
「……大丈夫になってきた。」
「だろ?撫でるって行為は癒し効果あるってきっと、個人的な意見だけど。」
「美嘉ちゃん! 大丈夫?」
お化け屋敷で騒いでたのが聞こえたのか,陸斗と紬も近くに来た。
「何、2人ともお化け屋敷入ってきたの?勇気あるね。」
「あぁ。俺は全然平気だけど、美嘉ちゃんはダメらしいよ。」
「洸、美嘉ちゃんに近づきすぎじゃないの?」
「俺じゃないよ。」
キリッと陸斗を睨む美嘉。後ずさりをした。
「これは、2人の邪魔をしてはいけなさそうだね。そしたら、ここからほぼ別行動にしようか。帰りとかも良いよね。それぞれにする?」
「俺は、構わないけど。2人が良いのであれば。」
「私は、別行動賛成です!!」
元気よく美嘉が言う。
「私はどちらでも…、お任せします。」
紬は流れにそう形だ。
「んじゃ、ここからそれぞれってことでいいよね。2人とも気をつけて帰るんだよ。」
「はーい。」
美嘉は手を挙げて返事をした。
「美嘉ちゃん。また明日学校でね。」
紬はそう言うと,後ろを振り返って陸斗の横に駆け寄って手を繋いでアトラクションの方へ消えて行った。
美嘉はこの状況が急に緊張し始めた。陸斗たちがいないと言うことは逃げ場がない。
洸も、2人きりのデートとなると話は別になることを思い出し,後ろ頭をぽりぽりとかいた。
「それじゃぁ、俺らは俺らで楽しみますか。美嘉ちゃん、観覧車乗る?」
「ぜひ。乗りたいです。」
さっきは並んだのに4人でいることで、メンバーが入れ替わって一緒に乗れなかった。やっと乗れることに心が浮き足立った。
「次は邪魔が入らないように警戒するから。」
洸は、観覧車の列やスタッフを確認した。さっき邪魔をした後輩バイトはいつの間にかいなくなっていた。
これはバッチリOKと心半ば安心して、手を繋いでレディーファーストで乗り込んだ。
いざ、2人で乗り込むとかなり緊張することが分かる。
手から汗がどんどん出てくる。
「ご、ごめん、一回手、離してもいい?」
洸はズボンで手を何度も拭いた。
「洸さん、名前、呼び捨てでも良いですよ。」
向かい合わせに座って、膝と膝が着きそうになる。
美嘉はさりげなく、洸の隣に移動した。少し車体が揺れた。
「……美嘉…ちゃん?」
至近距離になるため、洸はドキマギした。
「私、洸さんが好きです。本当は、初めて会った時から気になってました。さっき、変な人から声掛けられたとき、彼女って言ってくれましたけど、あれはごまかすためですよね。」
「あー、あれは…そうなっても良いなって思って、俺の希望でもあったけど…。俺で良ければ、よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げて、はにかんだ。
嬉しすぎて、美嘉は洸の首の後ろに手を回して、ハグをした。
ヨシヨシとこたえるように、背中を撫でた。
「あの……。」
まもなく、観覧車がてっぺんに差し掛かろうとした瞬間、美嘉が話そうと思った矢先に洸は頭を傾けて、美嘉の頬に軽くキスをした。
嬉しかったが何だか不機嫌になった美嘉は、真正面から顔を近づけて自分からキスしに行った。
もういいの?と驚いた様子で、洸は口づけを交わした。
一応は段階を踏んで行こうと考えていた洸は美嘉に合わせるかと雰囲気に乗った。
念願の観覧車の中でのキスが出来て、美嘉は有頂天だった。
帰る時までずっと鼻歌が止まらなかった。
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