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自分で自分が分からない
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いつも通りに学校の授業は行われていて、クラスメイト達は相変わらずに真面目に勉強している。
変わり映えのない日常が訪れていたかに思われた。
紬は1限目の世界史の授業が終わり、トイレに行こうとバックからハンカチを取り出して、教室の前側ドアからトイレに向かった。
休み時間ということもあって、生徒たちはみなざわついていた。
ふと用を足して、トイレから教室に戻ろうと廊下を歩いていると、隣のクラスの窓際で輝久と名前の分からない女子が談笑していた。
今まで、輝久が他の女子と笑顔で会話するところを見たことが無かった紬は、何だか胸の辺りがキューと苦しくなった。
本当は見たことはあったんだろうけど、気になるようになったのだ。
一緒に過ごすことが無くなったから、これはきっと嫉妬だ。
もう、あんな風には話すことができないんだろうなと落ち込んだ。
陸斗がいるはずなのに、いつもバスで通学していた輝久とは会話することができないと思うと、心寂しかった。
何も言わずとも、近くにいてくれた。
何でもない会話も落ち込んだり笑ったりお互いにいろんなこと話してきた。
それが何年も続いて、高校になった今、プツンと途切れてしまった。
彼氏がいるのにこんな考えをするのはズルいと分かってるはずなのに、何とも言えない気持ちが頭の中でいっぱいになる。
自分で自分がどうしたいのか分からなくなってきた。
見て見ぬふりをして、教室に戻った。
窓際で話していた輝久は、紬が教室に入っていくのを気づいた。特に何も行動せずに見逃した。
「ねぇ。聞いてる?」
「あぁ、ごめん。何だっけ?」
「だからさ、この間の話。カラオケ行くって声かけられてたけど、他校のかっこいい人紹介してくれないと行かないからって言っといて。」
「あ、あー、はいはい。分かった。言っておくわ。杉本も大変だな。隆介のお世話で。」
「わかる?幼馴染だからって雑に扱いすぎなのよ。輝久くんも幼馴染いるからわかるでしょ?友達でも無ければ恋人でもない扱われ方で、本当困るわ。んじゃ、よろしく言っておいて。」
「わかった。んじゃ。」
杉本美沙は、里中隆介の幼馴染だった。
今回、輝久と交えて合コンすると誘われていたが、今日は、体調不良で休んでいた。
たまたま輝久から話かけたら、幼馴染あるあるエピソードで盛り上がっていた。
その様子を紬が目撃していた。
隆介は、体調不良で休んだと言ってるが、自分から振ろうとしていたら美嘉から別れ話をされてショックで学校にも来れなかったというオチだった。
失恋のショックで体が動かなかった。
ーーー
今日の昼休みは、はい喜んでと陸斗と一緒にランチっと言う気持ちにはならなかった。
久しぶりに1人で落ち着いて食べようと美嘉に説明したが、納得してもらえなかった。結局は、諦めて、1人で屋上に行くと言って行ってしまった。
そう言う日もあることをきっと陸斗は分かってる。
美嘉は隆介にさっぱり別れ話をして、肩の荷がおりた。
屋上の扉を開けて静かに陸斗と康範のそばに近寄る。
「わあ!?」
「あれ? 美嘉ちゃん。今日ひとり?」
「はいー。私、1人です。」
お化けが出たかと言うくらい、心臓に悪かった。
お弁当の卵焼きを口に頬張っていた。
「紬、調子悪いって?」
「特に具合悪くはないみたいですけど、1人で食べたいって言ってましたよ。陸斗先輩、紬ちゃん何かあったんですか?」
「俺に言っても解決できないことなんだろうな、きっと。まあ、放っておこう。」
「陸斗、随分、薄情だなあ…。」
「えぇー、放っておくんですか?彼女なのに?」
「彼女だから、大事にしてんの。そう言う時間も大事でしょ。様子見るわ。」
彼氏彼女でもそれぞれに事情がある。
陸斗は何となく紬の心情を感じ取っていたため、寄り添うよりも相手からの行動が出るまで待つ手法を考えた。
恋も押すより引くことも大事だと誰かが言っていたような気がする。
「あ、先輩!お願いがあるんですけど…。」
「へ? なに?」
突然美嘉は話の流れを変えた。
「洸さん、いるじゃないですか。話聞いたんですけど、陸斗先輩の従兄なんですよね。紹介してもらえます??」
美嘉はを体クネクネと動かしながら聞いていた。
康範はその話を聞いてガッカリしていた。
「えー、美嘉ちゃん。まさか、洸さん狙いなの?洸さんの話は聞いたことあるけど、会ったことはないんだよね。」
「康範先輩、聞いてくださいよぉ。陸斗先輩の家族って美形が多いんですかね。めっちゃかっこいいんですよ。今、現役大学生で~…。」
陸斗は美嘉の肩をおさえて、それ以上話すなと止めた。
「森本さん、それは美化しすぎ。あいつはそこまでじゃない。見た目だけで騙されるな。女ったらしだよ。良いの?」
「そんな、隆介も同じ感じですもん。慣れてますよ。まあ、私も見た目で判断するから良くないって分かってますけど、でも洸さんは違う気がします!むしろ、女運がないだけなのかも!」
「凄い自信だね。その自信、紬にも分けたいものだ…まあ、どうなっても責任は取れないけどそれでも良いなら紹介するよ。」
(洸は紬狙いだからむしろ、ちょうどいいかな。相手してもらって好都合だな。)
「あ、ついでに陸斗先輩の連絡先交換よろしくお願いします。」
「はいはい。俺にラインされても返事は来ないと思って…そう言うの苦手だから。」
美嘉と陸斗はスマホでIDを送り合った。
横で見ていた康範はご不満のようだ。
「えー、ズルい~。俺もライン交換しようよー。混ぜてよー。」
「んー、そしたらグループライン作りましょ。紬ちゃんを応援する会みたいな。」
「お、いいね。返事しないかもだけど、康範も参加できるね。」
「どう応援すれば良いか分からないけど、仲間に入れるならばなんでもOK。」
「あとで、紬ちゃんも紹介しておきますね。」
「そしたら、森本さんの個人ラインに洸のライン送るから見といて。」
「ありがとうございます。早速送っておきまーす。」
美嘉はご機嫌にラインメッセージを作成して送信した。
陸斗は大丈夫かなと多少の不安を感じながらスマホをタップした。
一応、自分から洸へ連絡しておこうとメッセージを送っておいた。
『ゴリ押しの森本美嘉さんからのアプローチ受けてあげてね~。紬の友達だから優しくしてよ?ラインの連絡先教えといたから。』
よろしくスタンプを込みで送った。想像以上にすぐに既読がついた。
向こうもちょうど昼休みだったらしい。
『りょ。』
※りょ…了解の省略した言葉。
洸から素っ気ない言葉だけ送られてきた。
陸斗には簡単だったが、美嘉にはかなり丁寧な返事をしていたようだ。
ファーストメッセージにも関わらず、喜びを隠しきれない美嘉だった。
『ライン登録ありがとう。改めて、宮島洸です。美嘉ちゃんのこと覚えているよぉー。バイト先でずんだソフトクリーム買ってくれたよね?! 会えることを楽しみにしています♡』
「…森本さんてポーカーフェイスができない人だよね。」
「…え?! 顔に出てました?」
康範と陸斗は一緒になって頷いていた。
陸斗は康範に小声で話し出す。
「康範、森本さんには手を出さないでね。康範、不器用そうだから。周りまわって俺にトラブルが来そう…。まあ、洸も怪しいけどさ。」
「えー、なんで? 洸さんがズルい~。俺も彼女欲しいよ、陸斗、紹介してよぉ。」
「うんうん。今度な。」
顔がニヤニヤとして、平常に戻らない美嘉は、2人の会話も聞こえなかった。
「そろそろ時間だ。森本さん、紬に明日はここ来るように言っておいてね。」
「あ、はい。洸さんの連絡先、ありがとうございます。しばらくは元気に過ごせそうです。」
失恋したばかりの美嘉にとっては元気の源だった。
新しい恋で過去は忘れようという作戦だったようだ。
「…そう。それはよかった。ほら、康範教室、戻るぞ。」
「はいはーい。」
3人は屋上からそれぞれの教室へ戻った。
紬は音楽を聴きながら、1人の時間を満喫していた。
美嘉がご機嫌で教室に戻ってくるのを見ていた。何かあったんだろうかと疑問符を浮かべていたが、その時は気にしていなかった。
結局、次の日の昼休みも教室で1人で過ごす紬だった。
多少の友達の交流はあったが、結局は会話をすることが減り、1人で過ごす時間が長くなっていた。
元々は1人で過ごすことの方が多く、そのほうが楽だと思っていた紬。
輝久と会うことも無くなったため、なおさら会話する人も1日を通して、友達、先生と挨拶程度で終わっている。
陸斗には受験勉強するからと言われていたため、真面目に会わないようにと気を使い、輝久に避けられてることに何日も経った今でも受け入れられていない。
どんな人にも好かれたい要求が強まっているのかもしれない。八方美人。
万人に好かれることなんて不可能だと分かっているはずなのに。
また殻のように閉じこもってしまっている。
教室に昼休み戻ってくる美嘉をよく見た。陸斗先輩と何だか話してきたとか、他の友達に言っているのを聞き耳を立てて聞いている。
本人に直接確かめれば良いのをその勇気が出ない。
まさか、美嘉は陸斗とそういう関係になってしまったのかとあらぬ想像をしてしまう。
美嘉に限ってそんなことはと首を振る。
教室内で、美嘉は宮島洸との話を瑞季や美由紀に話しているのに、紬は勘違いして、陸斗とデートするんだと思い込んでいた。
本当にそうだったらと、両腕の中に顔を埋めた。
受験勉強するって言っていたのに、どうして美嘉と出かけるんだと悲しみが込み上げてきた。
確かめもしないで、頭の中で妄想が広がる。
無駄にネガティブに考えていた。
誰とも会話をしない代償がここに表れていた。
***
「紬、ご近所の庄司さんのお宅でおばあちゃん亡くなったんだって。お線香あげに行くよ。」
紬が学校から帰り、家に着くとすぐに、声をかけられた。
母のくるみは慌てて、黒っぽい服を探していた。庄司というのは輝久のお家だった。輝久の祖母が亡くなったらしい。
「俺はあとで、お線香あげに行くから。2人で行っておいで。」
父の遼平が言う。
「うん。」
紬は制服のまま、くるみと一緒に輝久の自宅に歩いてむかった。
葬式の準備に追われていた。
葬儀屋さんが訪れていた。
「こんばんは。この度はご愁傷さまでございます。お線香を上げさせていただきたく伺いました。」
紬は横に立ち、ぺこりと頭を下げた。
「あ、谷口さん。いつもお世話になってます。こちらこそ、ご足労いただきまして、ありがとうございます。どうぞ、中の方へ。」
輝久の父が対応していた。
「いえ、お邪魔いたします。」
昔ながらのお家でお座敷に上がらせてもらった。
2人は祭壇と棺の前に置かれた座布団に並んで座り、お線香にろうそくで火をつけて静かに手を合わせた。
お茶をテーブルの上に出された。
「ありがとうございます。おばあちゃんも喜びます。」
「ご病気だったんですか?」
「そうですね。少し肺炎を患わせてまして、病院で息をひきとったんです。それまではずっと元気だったんですが、あっという間でしたね。でも、まぁ、82歳でしたから長生きしましたよ。」
「そうだったんですか。」
輝久の母が丁寧に説明してくれた。横に座っていた輝久は何も言わずに静かに座っていた。
「あら、輝久。紬ちゃん来てるのに何も話さないの?」
「え、別に。学校でも会っているし、なぁ。」
何事もなかったようにいつも通りな態度で言ってくる。
「…うん…。」
「小さい時、おばあちゃんと3人で一緒に遊んでたから、将来結婚しちゃうんじゃないのぉって言いながら2人相手してたものね。おばあちゃん期待してたから。残念ね。見られなくて…。」
「いつの話だよ、それ。」
「えっと、幼稚園の時かなぁ。久しぶりに2人が会っているところ見て喜んでるかもね。」
「いや、幼稚園の話で、今は違うし。」
「えーーー、違うの?私もそのつもりだったけど。紬ちゃん、こんなので良いなら我が家はいつでも大歓迎だからね。嫁に来てくれたら嬉しいわねぇ。でも長女さんだからお婿さんかしら。」
「母さん! もう良いからその話。」
「……。」
紬は何も言えなくなった。
「すいません、長居してしまって、そろそろ失礼します。」
くるみと紬は正座でお辞儀して立ち去ろうとした。
「いえいえ、こちらこそ、お話長くしてすいません。足元、お気をつけてくださいね。」
輝久の母は、誤魔化すように話すぎないようにと口を閉じた。
輝久は母に代わり、外に出て、2人をお見送りした。深々とお辞儀した。
しばらく、相手にされてなかった紬にとってお辞儀一つで少し救われたように思えた。
おばあちゃんの話で幼少期のことを思い出す。
純粋にそう思ったこともあったなとしみじみ感じた。
素直になってもいいんじゃないかと心が洗われた。
変わり映えのない日常が訪れていたかに思われた。
紬は1限目の世界史の授業が終わり、トイレに行こうとバックからハンカチを取り出して、教室の前側ドアからトイレに向かった。
休み時間ということもあって、生徒たちはみなざわついていた。
ふと用を足して、トイレから教室に戻ろうと廊下を歩いていると、隣のクラスの窓際で輝久と名前の分からない女子が談笑していた。
今まで、輝久が他の女子と笑顔で会話するところを見たことが無かった紬は、何だか胸の辺りがキューと苦しくなった。
本当は見たことはあったんだろうけど、気になるようになったのだ。
一緒に過ごすことが無くなったから、これはきっと嫉妬だ。
もう、あんな風には話すことができないんだろうなと落ち込んだ。
陸斗がいるはずなのに、いつもバスで通学していた輝久とは会話することができないと思うと、心寂しかった。
何も言わずとも、近くにいてくれた。
何でもない会話も落ち込んだり笑ったりお互いにいろんなこと話してきた。
それが何年も続いて、高校になった今、プツンと途切れてしまった。
彼氏がいるのにこんな考えをするのはズルいと分かってるはずなのに、何とも言えない気持ちが頭の中でいっぱいになる。
自分で自分がどうしたいのか分からなくなってきた。
見て見ぬふりをして、教室に戻った。
窓際で話していた輝久は、紬が教室に入っていくのを気づいた。特に何も行動せずに見逃した。
「ねぇ。聞いてる?」
「あぁ、ごめん。何だっけ?」
「だからさ、この間の話。カラオケ行くって声かけられてたけど、他校のかっこいい人紹介してくれないと行かないからって言っといて。」
「あ、あー、はいはい。分かった。言っておくわ。杉本も大変だな。隆介のお世話で。」
「わかる?幼馴染だからって雑に扱いすぎなのよ。輝久くんも幼馴染いるからわかるでしょ?友達でも無ければ恋人でもない扱われ方で、本当困るわ。んじゃ、よろしく言っておいて。」
「わかった。んじゃ。」
杉本美沙は、里中隆介の幼馴染だった。
今回、輝久と交えて合コンすると誘われていたが、今日は、体調不良で休んでいた。
たまたま輝久から話かけたら、幼馴染あるあるエピソードで盛り上がっていた。
その様子を紬が目撃していた。
隆介は、体調不良で休んだと言ってるが、自分から振ろうとしていたら美嘉から別れ話をされてショックで学校にも来れなかったというオチだった。
失恋のショックで体が動かなかった。
ーーー
今日の昼休みは、はい喜んでと陸斗と一緒にランチっと言う気持ちにはならなかった。
久しぶりに1人で落ち着いて食べようと美嘉に説明したが、納得してもらえなかった。結局は、諦めて、1人で屋上に行くと言って行ってしまった。
そう言う日もあることをきっと陸斗は分かってる。
美嘉は隆介にさっぱり別れ話をして、肩の荷がおりた。
屋上の扉を開けて静かに陸斗と康範のそばに近寄る。
「わあ!?」
「あれ? 美嘉ちゃん。今日ひとり?」
「はいー。私、1人です。」
お化けが出たかと言うくらい、心臓に悪かった。
お弁当の卵焼きを口に頬張っていた。
「紬、調子悪いって?」
「特に具合悪くはないみたいですけど、1人で食べたいって言ってましたよ。陸斗先輩、紬ちゃん何かあったんですか?」
「俺に言っても解決できないことなんだろうな、きっと。まあ、放っておこう。」
「陸斗、随分、薄情だなあ…。」
「えぇー、放っておくんですか?彼女なのに?」
「彼女だから、大事にしてんの。そう言う時間も大事でしょ。様子見るわ。」
彼氏彼女でもそれぞれに事情がある。
陸斗は何となく紬の心情を感じ取っていたため、寄り添うよりも相手からの行動が出るまで待つ手法を考えた。
恋も押すより引くことも大事だと誰かが言っていたような気がする。
「あ、先輩!お願いがあるんですけど…。」
「へ? なに?」
突然美嘉は話の流れを変えた。
「洸さん、いるじゃないですか。話聞いたんですけど、陸斗先輩の従兄なんですよね。紹介してもらえます??」
美嘉はを体クネクネと動かしながら聞いていた。
康範はその話を聞いてガッカリしていた。
「えー、美嘉ちゃん。まさか、洸さん狙いなの?洸さんの話は聞いたことあるけど、会ったことはないんだよね。」
「康範先輩、聞いてくださいよぉ。陸斗先輩の家族って美形が多いんですかね。めっちゃかっこいいんですよ。今、現役大学生で~…。」
陸斗は美嘉の肩をおさえて、それ以上話すなと止めた。
「森本さん、それは美化しすぎ。あいつはそこまでじゃない。見た目だけで騙されるな。女ったらしだよ。良いの?」
「そんな、隆介も同じ感じですもん。慣れてますよ。まあ、私も見た目で判断するから良くないって分かってますけど、でも洸さんは違う気がします!むしろ、女運がないだけなのかも!」
「凄い自信だね。その自信、紬にも分けたいものだ…まあ、どうなっても責任は取れないけどそれでも良いなら紹介するよ。」
(洸は紬狙いだからむしろ、ちょうどいいかな。相手してもらって好都合だな。)
「あ、ついでに陸斗先輩の連絡先交換よろしくお願いします。」
「はいはい。俺にラインされても返事は来ないと思って…そう言うの苦手だから。」
美嘉と陸斗はスマホでIDを送り合った。
横で見ていた康範はご不満のようだ。
「えー、ズルい~。俺もライン交換しようよー。混ぜてよー。」
「んー、そしたらグループライン作りましょ。紬ちゃんを応援する会みたいな。」
「お、いいね。返事しないかもだけど、康範も参加できるね。」
「どう応援すれば良いか分からないけど、仲間に入れるならばなんでもOK。」
「あとで、紬ちゃんも紹介しておきますね。」
「そしたら、森本さんの個人ラインに洸のライン送るから見といて。」
「ありがとうございます。早速送っておきまーす。」
美嘉はご機嫌にラインメッセージを作成して送信した。
陸斗は大丈夫かなと多少の不安を感じながらスマホをタップした。
一応、自分から洸へ連絡しておこうとメッセージを送っておいた。
『ゴリ押しの森本美嘉さんからのアプローチ受けてあげてね~。紬の友達だから優しくしてよ?ラインの連絡先教えといたから。』
よろしくスタンプを込みで送った。想像以上にすぐに既読がついた。
向こうもちょうど昼休みだったらしい。
『りょ。』
※りょ…了解の省略した言葉。
洸から素っ気ない言葉だけ送られてきた。
陸斗には簡単だったが、美嘉にはかなり丁寧な返事をしていたようだ。
ファーストメッセージにも関わらず、喜びを隠しきれない美嘉だった。
『ライン登録ありがとう。改めて、宮島洸です。美嘉ちゃんのこと覚えているよぉー。バイト先でずんだソフトクリーム買ってくれたよね?! 会えることを楽しみにしています♡』
「…森本さんてポーカーフェイスができない人だよね。」
「…え?! 顔に出てました?」
康範と陸斗は一緒になって頷いていた。
陸斗は康範に小声で話し出す。
「康範、森本さんには手を出さないでね。康範、不器用そうだから。周りまわって俺にトラブルが来そう…。まあ、洸も怪しいけどさ。」
「えー、なんで? 洸さんがズルい~。俺も彼女欲しいよ、陸斗、紹介してよぉ。」
「うんうん。今度な。」
顔がニヤニヤとして、平常に戻らない美嘉は、2人の会話も聞こえなかった。
「そろそろ時間だ。森本さん、紬に明日はここ来るように言っておいてね。」
「あ、はい。洸さんの連絡先、ありがとうございます。しばらくは元気に過ごせそうです。」
失恋したばかりの美嘉にとっては元気の源だった。
新しい恋で過去は忘れようという作戦だったようだ。
「…そう。それはよかった。ほら、康範教室、戻るぞ。」
「はいはーい。」
3人は屋上からそれぞれの教室へ戻った。
紬は音楽を聴きながら、1人の時間を満喫していた。
美嘉がご機嫌で教室に戻ってくるのを見ていた。何かあったんだろうかと疑問符を浮かべていたが、その時は気にしていなかった。
結局、次の日の昼休みも教室で1人で過ごす紬だった。
多少の友達の交流はあったが、結局は会話をすることが減り、1人で過ごす時間が長くなっていた。
元々は1人で過ごすことの方が多く、そのほうが楽だと思っていた紬。
輝久と会うことも無くなったため、なおさら会話する人も1日を通して、友達、先生と挨拶程度で終わっている。
陸斗には受験勉強するからと言われていたため、真面目に会わないようにと気を使い、輝久に避けられてることに何日も経った今でも受け入れられていない。
どんな人にも好かれたい要求が強まっているのかもしれない。八方美人。
万人に好かれることなんて不可能だと分かっているはずなのに。
また殻のように閉じこもってしまっている。
教室に昼休み戻ってくる美嘉をよく見た。陸斗先輩と何だか話してきたとか、他の友達に言っているのを聞き耳を立てて聞いている。
本人に直接確かめれば良いのをその勇気が出ない。
まさか、美嘉は陸斗とそういう関係になってしまったのかとあらぬ想像をしてしまう。
美嘉に限ってそんなことはと首を振る。
教室内で、美嘉は宮島洸との話を瑞季や美由紀に話しているのに、紬は勘違いして、陸斗とデートするんだと思い込んでいた。
本当にそうだったらと、両腕の中に顔を埋めた。
受験勉強するって言っていたのに、どうして美嘉と出かけるんだと悲しみが込み上げてきた。
確かめもしないで、頭の中で妄想が広がる。
無駄にネガティブに考えていた。
誰とも会話をしない代償がここに表れていた。
***
「紬、ご近所の庄司さんのお宅でおばあちゃん亡くなったんだって。お線香あげに行くよ。」
紬が学校から帰り、家に着くとすぐに、声をかけられた。
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「俺はあとで、お線香あげに行くから。2人で行っておいで。」
父の遼平が言う。
「うん。」
紬は制服のまま、くるみと一緒に輝久の自宅に歩いてむかった。
葬式の準備に追われていた。
葬儀屋さんが訪れていた。
「こんばんは。この度はご愁傷さまでございます。お線香を上げさせていただきたく伺いました。」
紬は横に立ち、ぺこりと頭を下げた。
「あ、谷口さん。いつもお世話になってます。こちらこそ、ご足労いただきまして、ありがとうございます。どうぞ、中の方へ。」
輝久の父が対応していた。
「いえ、お邪魔いたします。」
昔ながらのお家でお座敷に上がらせてもらった。
2人は祭壇と棺の前に置かれた座布団に並んで座り、お線香にろうそくで火をつけて静かに手を合わせた。
お茶をテーブルの上に出された。
「ありがとうございます。おばあちゃんも喜びます。」
「ご病気だったんですか?」
「そうですね。少し肺炎を患わせてまして、病院で息をひきとったんです。それまではずっと元気だったんですが、あっという間でしたね。でも、まぁ、82歳でしたから長生きしましたよ。」
「そうだったんですか。」
輝久の母が丁寧に説明してくれた。横に座っていた輝久は何も言わずに静かに座っていた。
「あら、輝久。紬ちゃん来てるのに何も話さないの?」
「え、別に。学校でも会っているし、なぁ。」
何事もなかったようにいつも通りな態度で言ってくる。
「…うん…。」
「小さい時、おばあちゃんと3人で一緒に遊んでたから、将来結婚しちゃうんじゃないのぉって言いながら2人相手してたものね。おばあちゃん期待してたから。残念ね。見られなくて…。」
「いつの話だよ、それ。」
「えっと、幼稚園の時かなぁ。久しぶりに2人が会っているところ見て喜んでるかもね。」
「いや、幼稚園の話で、今は違うし。」
「えーーー、違うの?私もそのつもりだったけど。紬ちゃん、こんなので良いなら我が家はいつでも大歓迎だからね。嫁に来てくれたら嬉しいわねぇ。でも長女さんだからお婿さんかしら。」
「母さん! もう良いからその話。」
「……。」
紬は何も言えなくなった。
「すいません、長居してしまって、そろそろ失礼します。」
くるみと紬は正座でお辞儀して立ち去ろうとした。
「いえいえ、こちらこそ、お話長くしてすいません。足元、お気をつけてくださいね。」
輝久の母は、誤魔化すように話すぎないようにと口を閉じた。
輝久は母に代わり、外に出て、2人をお見送りした。深々とお辞儀した。
しばらく、相手にされてなかった紬にとってお辞儀一つで少し救われたように思えた。
おばあちゃんの話で幼少期のことを思い出す。
純粋にそう思ったこともあったなとしみじみ感じた。
素直になってもいいんじゃないかと心が洗われた。
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