シリウスをさがして…

もちっぱち

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夜のドライブ

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 窓を開けて車を走らせると暑さが少し和らいだ。何故かエアコンの調子がおかしいようで、全然涼しくならなかった。
 フィルターが汚れているのかもしれない。
 こもった匂いが漂ってくる。
 
 バックに入れていた初心者マークを付けて走っていた。

 夜道を走るのは初めてだった。

 バイクを走らせるより慎重だった。

「なぁ、陸斗。どこ行くの? 勝手について来ちゃったけどさ。」

 助手席に座っていた洸が言う。

「えっと…どう行けばいいんだっけかな。」

「こっちの道行くってことは…仕方ねぇな。」

 洸は気を利かせてスマホを出し、マップを開いて、ナビを起動した。
 目的地に名称を入力した。

 ちょうど、車のエアコンに着いていたスマホスタンドに立てかけた。

「ほら、ここだろ? 陸斗の行きたいところ。」

 陸斗は画面とナビの声を聞いて、反応した。

「なんで、分かるんだよ。お前、エスパーか?」

「そぉだな。エスパー宮島と言ってくれ。」

 顎にY字を作った指を置いた洸。こういう時に役に立つ。
 示していたのは、洸の元バイト先でもあるカフェのシュナイザーの紬の自宅だった。

「ちぇ、俺、紬ちゃん、狙ってたのにさ。ラインしても返事来なくなったから興味ないんだろうなって思って…。」

「は? 何、紬とライン交換してんだよ!?」

「ん?? そういうってことは全部思い出したの?紬ちゃん、結構ショック受けていたんだよ、陸斗が紬ちゃんのこと忘れてたこと…。俺がフォローしてたんだってば! でも、今はもう俺にも手に負えないくらいになっているって店長言ってたよ…。」

 急に陸斗は静かになった。想像以上の罪悪感を感じた。少し考えてから。

「思い出したよ。何もかも。他人みたいな話し方してる自分も覚えているから、複雑な気持ちだわ。なんであんなに一緒にいたのに紬だけ抜けてたのかがわからない。凄い嫌な思いさせたって思ってる。」

「でも、紬ちゃん、前みたいに元に戻れるかな…。」

 腕を組んで考える洸。今の状況を全く知らない陸斗は何とも思っていなかった。

そうこうしているうちに紬の家に着いた。しばらく店としての機能はしていなかったため、住居スペースの灯りがぼんやり光っていた。

「んで?着いたけど、どうするの?まさか、正面から行くわけじゃないよね。」

 陸斗は車から出て、紬の部屋がある家の裏側の方へ歩いてみた。灯りがぼんやりついている。

 カーテンは開いたままで少しシルエット姿が見えた。

 足元に落ちていた小さい石を1つ窓ガラスに投げてみた。

 コツンと当たる。

 中にいた紬は、音のした方を見ると、カーテンを閉めるのを忘れていたことに気づいて、窓際に行く。外に見たことのある青いセダンの車がとまっていた。

 車の近くに2人の人影が見えた。夜だったため、怖くなってカーテンを閉じた。

「あ、カーテン閉まった。無理じゃない?警戒されてるよ?」

「ラインしてみるかな…。」

 陸斗はスマホをポケットから取り出して、紬にライン通話をしてみた。

 紬は、部屋の中で音楽を聴きながら、パズルをつなぎ合わせていた。突然、音楽を聴いていたスマホからライン通話の音に切り替わった。

ずっと連絡をとっていなかった陸斗からだった。

 自分のことを覚えていない陸斗から電話が来ても何を話せばいいか分からないし、声出ないしといろんなことを考えながら、出ることができなかった。

 音楽は消えたままだったが、パズルに没頭した。

 気持ちは揺れ動かなかった。

 近くにいるのに会えないもどかしさにイライラしてきた。

 陸斗は思い切って正面切って、玄関から入っていこうと決めた。

でも、先頭はもちろん洸の方からと気弱に行動した。

「こんばんはー。夜分遅くに失礼します。」

「ん?おう、洸くん。どうした?こんな夜に、何か忘れ物?」

 ちょうど、店スペースでくつろいでいた遼平が声をかけた。洸の後ろに陸斗がいることも気づく。

「あ、あー陸斗くんも一緒だったのね。…なんか、何も言えてなかったけど、いろいろごめんね。色々迷惑かけたみたいで、嫁も娘の方でも…。申し訳なかった。」

 遼平は、入ってきた陸斗に深々と謝った。当事者ではないのに遼平の優しさに感動した。

「いえ、そんな…頭あげてください。むしろ、父さんにも誤解を招くような行動していたので、息子ですけど、すいませんでした。」

 陸斗も頭を下げた。

「…紬に用事? 何だか、ここ数ヶ月学校にも行かずにずっと部屋にこもって食事もろくにとってないからさ、陸斗くんなら治せるのかな。」

 中ば期待しつつ、遼平は部屋に案内した。

 自然の流れで洸は遼平と一緒に椅子に座ってお茶を飲むことにした。

 奥の部屋にいたくるみが出てきた。

「あれ、洸くん。どうしたの? あれ、陸斗くんも? …紬のこと、何とかしてくれるのかな。」

 2階にのぼる陸斗はそのままにくるみは3人でのんびり過ごすことにした。

 紬の部屋の前に立つ陸斗は、そっと4回ノックをした。

 紬は、持っていたパズルを置いて、ドアの前に行き、そっと開けた。

 誰が立っていたか分かるとすぐにまた閉めた。

 陸斗がいることが信じられなかった。

 ラインの通話着信があったことを思い出すが、なんでここにいるのか、少々パニックだった。

「紬?ごめん、突然でびっくりしたよね。俺、事故で全部忘れてたんだけどさ。今日、星見てたら、紬と一緒に星見に行くこと思い出して…それで全部思い出したんだよ。知らないとか他人みたいな態度とって本当、ごめん!!」

 ドア越しに言う陸斗。
 何でか話してるうちに涙が出て来た。訴えて何か気づくことあるかな、無駄だったかなと自信を無くしてる。

 ドアの隙間から紬はプラネタリウムで買ったお土産の惑星キャンディだけを上下に振って見せつけた。

 キラキラ青く光って見えた。

 少し出ていた紬の腕を引っ張って、陸斗は体を引き寄せた。

 ぐっと抱きしめた。

 突然、体が動いて驚いた紬は目を見開いた。

 まだ、違和感を感じて、体から離れようと手ではねのけようとしたが、陸斗がそれを許さなかった。

 もう離さないとさらにきつくぎゅーと動かせなかった。

「く、苦しいー。」

  やっと話してくれたことが嬉しかった陸斗は続けた。

「やだ。離さない。」

「やめて。」

「やーだ。」

 そう言うとお姫様抱っこして、紬の部屋に戻してまた中に入る。ドアを閉めて、ドアの前に立たせた。

「うひゃ!」

「うわ、めっちゃ軽い!痩せた?」

「…うん。食べてない。」

「んじゃ、もう食べられるっしょ。」

「なんで?」

「俺が戻って来たから。」

 調子に乗る陸斗に紬は久しぶりに笑顔になった。

 本当の想いは変わっていなかったようだ。

 笑った顔を安心して見れた陸斗は、そっと紬の頬をおさえて、キスをした。

 陸斗が記憶を取り戻して安心した2人はすごく幸せを感じていた。

 恥ずかしすぎて、紬の両親の前に出るのがすごく嫌だった。

 なおさら、洸もいることに緊張もひとしお。

 階段を仲良く手を繋いで、おりていく。

 それを見た洸は口笛をふいた。

 2人とも両耳が赤かった。

 遼平とくるみは涙が出るほど嬉しかった。数ヶ月、ずっと部屋にこもって会話も食事もできなかった紬がやっと出て来てくれた。遼平は陸斗に近寄ってハグをした。

「陸斗くん。ありがとう。ずっと紬は部屋の中だと思ってたよ。本当、ありがとう。」

 陸斗の 背中をバシバシ叩いた。
 予想外にハグされて驚いた。


「紬、やっと出てきてくれた。よかった。」

 くるみも泣いて喜んだ。

「え、みんな何しているの!? え!!!!姉ちゃん、なんで部屋から出てきてるし。は?洸と陸斗さん!?いるし。なんで???どうなっての?」

 自分の部屋にいた拓人が2階から降りてきた。見た光景が信じられなかったようだ。


「拓人~、姉ちゃん復活したな。よかったな。」

 もらい泣きで洸は拓人の背中をたたいた。


「え?そうなん。陸斗さんとの関係大丈夫なん?本当のことみんな知らないでしょう。」

 突然、みんな正気にもどる。

「多分、そのことだと思うけど、学校から封書届いてたよ。」

 遼平は茶封筒を引き出しから取り出した。学校から紬宛だった。

 来週の月曜日に学校集会を行うため、必ず出席しろとのことだった。

「あ、それ、俺にも来てた。」

「何か言われるね、それ。必ず行かないとだね。」

 洸が言う。

「紬、行けそう?」

 陸斗はそっと問いかける。
 黙って頷いた。

「校門近くのバス停で朝待っているから。来て。」

 さらに頷く。

 事件が起きて、両親は2人の仲を離そうとしていたが、離そうとすればするほど、紬にとってよくなかったようで、体に変化が訪れていた。

 元の関係に戻るには、両親からも認められないとと思っていた。

陸斗の記憶だけじゃなかったかもしれない。

 頬を赤くして凄く嬉しいそうに笑っている紬を見て、これでいいんだと理解した遼平とくるみだった。

すると、突然、陸斗のスマホが鳴り響いた。

 電話の向こうから

「陸斗ーーーー!!今どこにいる!?」

「やばーーー。父さんに怒られる! 
そろそろおいとまします。ほら、洸、行くぞ。」

 黙って車を借りてきた2人。慌てて、谷口家を出る。
 
 紬はお見送りしようと外にサンダルを履いて出た。

 ずっとパジャマだったことを思い出して、急いで、パーカーを羽織った。

「んじゃ、また来週ね。今度、紬も車に乗せるから!」

 運転席側から手をのばして、握手する。

「あ、ありが、とう。」

  恥ずかしさもあってうまく言えなかった。

 陸斗は手を振って別れを告げた。

「バイバイ!」

 陸斗と洸は、元の道を辿って戻っていく。

 紬は見えなくなるまで、青い車を目で追いかけた。

 バイクとは違う静かな排気音。

 ライトが眩しく光っていた。

 もちろんのこと、勝手に車を借りた陸斗たちはこっ酷くさとしと裕樹に怒られた。

 どこに行っていたかは今は黙っておこうと心に決めた。

 半月の光は真上で煌々と光っていた。 明日の天気は晴れになりそうだった。
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