シリウスをさがして…

もちっぱち

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友達は大切?

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校舎と校舎の間から見える外は
よく晴れていた。

空は雲ひとつなく、風もない。
ポカポカとあたたかい。

学校の中庭には、ベンチとクヌギの木が植えられていた。その周りにはパンジーの花壇が綺麗な弧を描いて咲いている。

 この学校の用務員さんの仕事は大変そうだと感じる。


 テーブルもあるベンチは、2組のうち、1組に美嘉と、隆介、輝久が座っていた。

 相変わらずぼっち飯をすることの多い紬にとって、その中に入るにはハードルが高かった。

 3人は談笑して、お弁当を食べていた。

静かにジリジリと近づいてはいたが、声をかける勇気がなかった。

 変な様子に気づいたのは、輝久だった。

「紬! ほら、こっちにおいで!」

 ハッと気づいたつ紬は、静かに近づいて、輝久の横に座った。

 隆介も昨日の様子の紬を見ているし、輝久の気持ちも知っている。

そんな事情を知っての2人を見ていると、何だか悲しくなってきた。

「待ってたよ、紬ちゃん。ほら、一緒にごはん食べよう。さっき購買で何買ってたの?」

 おもむろにうぐいすぱんをテーブルに出す紬。隆介も美嘉も驚いた。

「へぇ。このパン食べられるんだね。私、豆パン苦手なの。紬ちゃん、何でも食べられそうだね。」

「俺も、それ苦手。」

「そうなん? 俺もふつうに食べられるけど…。」

 輝久は紬と同様、何でも食べられる方だった。

「……。」
 
 何とも言えない紬。

「まぁまあ、食べよう。」

 それぞれ自前のお弁当を食べた。
 紬はパンの袋を開けて、小さくちぎりながら、陸斗にもらったいちご牛乳にストローをさした。

「んじゃ、本題に入るんだけど、紬ちゃん、私のために応援してくれるんだよね。」

「え…。」

「だから、陸斗先輩のこと。」

「て、おい。美嘉、俺はどうなるんだよ。」

 横から、隆介が話の中に入り込む。

「は?隆介は陸斗先輩と繋がりないでしょ?」

「いや、そういう事じゃなくて、俺は美嘉と付き合ってるんじゃないの?」

「え~前にも言ったじゃん。自分の胸に手を当てて、考えてみてって言ったでしょう。それが分からないなら、話に入ってこないで。」

「…胸に手を当てるって…。」

 隆介は、真剣に胸に手を当てて目をつぶり考えてみた。一向に答えは出なそうだった。

 そうこうしているうちに美嘉は紬に陸斗のことをいろいろ聞き出そうとしている。

「って、美嘉!! なぁ、輝久。俺、どうしたらいいのかな。」

 話を聞いてないことに、諦めた隆介は輝久の横に行く。


「うーん。本人に聞かないとこればっかりは・・・。」


「ねぇねぇ。私、陸斗先輩に話に行きたいんだけど、どうしたらいいと思う?」

「え…。でも……。」

 小さい声で受け答えする。

「んじゃさ、私が陸斗先輩に話に行くから一緒に来てくれない? 1人で行くのはちょっと…。」

「え、あ……うん。」

 虫の鳴き声のように小さな声で答える。美嘉はぐいぐいとせまる勢いだった。

「ちょっと、隆介。考えたの?!」

「え、あ、え。胸に手を当てましたが、わかりません。教えてください!!」

 素直に分からないことを伝えた。美嘉は怒り心頭のようで

「仕方ないな!これが最後のチャンスだよ。この間の手を出したっていう同級生のエリカちゃんは私の中学一緒でよく知ってる子なの。その子からラインきて、宣戦布告されたんだけど、私の事どうする気なんですか?! 別れるの?何なの?」

「え?!他のクラスだけど、嘘、知り合い? あのエリカちゃんと? あちゃー。まじか。手を出したつもりはなくて、ただ、ライン交換しようって話になって…。俺、何も美嘉がどうとか言ってないし。誤解だよ。」

「……。」

 涙を滲ませている美嘉は隆介に言葉にならずに何かを訴えた。

「俺は別れたくない!」

「そんなこと言われても、信じられない。」

「んじゃ、これでどーだ!」

 ラインの友達リストを女性と言われるのを今この場で全部消した。 

 印籠とごとく、突き出した。

 スマホをよく確認して、隆介のスマホ画面を見た。
 
 それを見た美嘉はホッと胸を撫で下ろして、安心した。
 
 恥ずかしそうに後ろを向いて


「許す!」


「ほんと、良かった。んじゃ、別れなくて済むんだよね? 今度から気をつけるから。」

 握手をして仲直りをしたかと思うと、また紬の横に行く美嘉。

「結局、隆介の話と陸斗先輩は別なのよ。紬ちゃん、今日の放課後、陸斗先輩と話したいから協力して!私じゃなくて、友達から頼まれてたから。お願い。」

 美嘉は陸斗の話をだしに使い、隆介の気持ちを確かめたのは事実だが、別件でどうしても確認しなくちゃいけないことがあるらしい。

 その熱意に負け、紬はしぶしぶ協力することに。

 輝久は紬の申し訳なさそうな返事に少々、心配した。

 うぐいすぱんといちご牛乳を完食した紬はビニール袋にゴミを全てまとめ上げた。

 本音を言えば、あまり協力したくない紬。

 美嘉の友達だか、本人の希望だかは分からないが、陸斗に関わらなくてはいけないらしい。

 一応はクラスメイトの美嘉との関係を崩したらよろしくないと悟った紬は承諾した。


ーーー

 授業終了のチャイムが鳴る。

 今日はいろいろありすぎて、濃密な1日だったと感じながら、帰りの支度をした紬は、バックを肩にかけて、いつも通りに帰ろうとした。

 その様子を見ていた美嘉は大慌てで帰りの準備をして、紬を追いかけた。

「紬ちゃん、待って~。」

「あ……。」


 美嘉の声を聞いて、紬は廊下で立ち止まった。


「そうそう。陸斗先輩のところ行くって言ったでしょ? えっと、教室って3年2組だったよね。」

 横に並んで、美嘉と紬は隣の校舎へ行ける渡り廊下へ行った。


(本当は、今日図書室で待ち合わせだったはずだけど…授業終わったばかり教室の前なら、大丈夫かな。)

 少し心配そうに紬は、トイレに行くふりして、個室で陸斗にラインメッセージ
を送っておいた。


『友達の事情で、今から陸斗先輩のクラスに行きます。私のことは知らないふりでお願いします。』

『??? よく分からないけど、了解。』

 いつも返事が遅い陸斗も察したのか、すぐに既読になり、返事が来た。


 何だか紬は複雑な気持ちで美嘉と一緒に3年2組の教室の前の廊下で待ち構えた。まだホームルームが終わってなかったようだ。


「何か、ここで待つのってドキドキするね。」

 紬は黙って何度も頷く。


 ガタガタと椅子の音がして、先生が教室から出てきた。職員室へと向かっている。他の3年の生徒が次々と中から出てきた。

 廊下で待っていた2人をジロジロと見る3年の女子生徒が通りすがっていく。

 
 圧力的な視線に冷や汗をかく2人。


 一方、他の男子生徒が通ると可愛いねと言いながら、好意的な視線を向ける人が何人かいて、背筋がゾッとした。

 陸斗が肩に荷物を乗せて、中から康範と仲良く出てきた。


「お?1年じゃないの?誰か待ってるの? まさか、俺だったりしないよね?」

 康範は調子良く話しかけてきたが、断固拒否した美嘉。
 寂しそうに小さくなった康範。

「すいません。違います! そちらの横にいる陸斗先輩に用事があって来ました。」

「お…ああ。君、昼間、購買にいた…。何?何か用事?」

 教室目の前の廊下で美嘉は問いただす。紬は、後ろで小さくなって見守っていた。

「ええ。本当に真面目に聞きたいんですが、陸斗先輩は好きな人いないんですか? 彼女は本当にいないんですか?」

「…その話?昼間もしたはずだけど。」

 美嘉は後ろをチラ見して、また陸斗を見た。

「はっきり聞いて良いですか?紬ちゃん、振り回さないでもらっていいですか?」

「え?は?どういうこと?」

 突然の紬の話題が上がり、動揺する陸斗。


「紬ちゃんは輝久くんが好きなのに、陸斗先輩が紬ちゃんをバイク乗せたり、思わせぶりな行動してることに腹が立つんです。うまく話せない症状を知ってるかわからないんですけど、傷つけないでください!」

「え、俺は、別に傷つけるも何も、その子と会うのは今初めてだけど?」


 演技だと分かっていても紬の心にグサと何かが刺さった。
 迫真の演技にドキドキする。

「え? 嘘? 幸子の言ってること違う。いや、だって、この間、バイクに紬ちゃんを乗せた噂が…。違う人?」

「ああ。何、この子、紬って名前なの? 今知ったよ。」

「あ、そうなんですか。ごめんなさい。んじゃ、私の勘違いですね。そしたら、今、陸斗先輩に好きな人とか彼女とかは…。」

「だからさ、あまり親しくない君に色々話したくないから。その好きな人いるとかいないとか、告白なのかはっきりしてもらえるかな。」

「いえ…友達に依頼されて聞きに来たので、大丈夫です! すいません、失礼しました~。」

 陸斗を怒らせてしまったことを後悔したのか、美嘉はその場に紬を置き去りに足早に立ち去っていった。




「なんだ、あの子。何したかったんだろね。な? 陸斗。」


 陸斗は、目を瞑って、紬にごめんなさいのポーズを何回もした。

 それを紛れもなく目撃したのは康範だった。


「え?あ? 何、君ら一体、どういう関係よ。さっきの話、めっちゃ嘘やん。」

「ここは、康範には話しておいた方がいいな。ちょっと屋上来て。」

 陸斗は隠せないと思ったため、康範と紬を連れて屋上に行った。

 ドアを開けた瞬間、風が頬を打つ。
 
 放課後の校庭は部活動をする生徒たちの声で溢れかえっていた。

「は?んじゃ、2人は何、本当は付き合ってるってこと?」

 ベランダの柵に手をおいて話した。

「康範は、多分口外することは…いやあるかもしれないが、絶対言うなよ? 友達やめるぞ?」

「いやぁ、私は口が軽い方ですが、なるべく言わないよう、努力したいところです。いや、言いません!!」

「それでよろしい!」

「でも、なんで、さっきの子にあんなこと言ったの?紬ちゃん、傷つくじゃん。」

「そうしてって紬の希望なの。俺との仲を友達に知られたくなかったんだって! あと、こうやって、話せないから、学校では大袈裟にしたくないんだって。」

 紬は黙って何度も頷いた。
 不思議そうに康範は思った。

「え、でも、陸斗とどうやって話すの?
ラインで?意思疎通は?」

「紬、俺には普通に話せるよ。康範いるから今は、何も言えないんだよ。」

「え、ひどい。俺と話してくれないの?」

 冷や汗をかく紬は何とも言えない。

「俺だから話せるの。良いから、康範は話さなくて。」

 手を出して、紬の前に立ちはばかる。嫉妬心が芽生える陸斗。自分にしか話してくれないという特別感。
 康範はニヤニヤと口をおさえて笑う。

「おやおや、やきもちですか。陸斗くん。」

「何かもっと腹立って来た。」

 拳を手のひらにバシバシ叩き始めた。

「ごめん、ごめん。もう言いません。けど、本当モテるのも大変だね。普通の交際ができなくて…さっきのあの子も誰かに頼まれたって言ってたし。マジで2人のことは黙ってた方がいいな!バレたら、紬ちゃんいじめられたりしそうだもの。」

 そんなことも想像したことがなかった陸斗は、改めて、周りに公表しないように細心の注意を払わないといけないと決めた。

「確かにそうかもな。気をつけよう。学校内では知らない人のままでいないと…。」

 陸斗は紬にそう言って、帰りは別々で帰ることに決めた。

 あまり会話を交わすことはできなかった。陸斗に会えてもどこか寂しい気持ちのまま、屋上を後にした。


バスに乗っている間に

『いちご牛乳ごちそうさま』
 と一言ラインを送って満足させた。

『どういたしまして』のコメントと
陸斗は良いねスタンプを押した。

陸斗は学校の駐輪場で自転車に乗るところだった。


 学校内に広めないように決めたはずだったが、体育館側からをたまたま見ていた美嘉の友人磯村幸子いそむらさちこが屋上での仲良さげの3人の様子をしっかりと見ていて、会話の内容もほぼ聞こえていたらしい。


 その日のうちにラインで美嘉の元に情報が知れ渡っていた。



 明日の教室では何が起こるのか知る由もなかった。

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