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第11話
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2日後の朝、
ほんの少し肌寒かった。
春になって2週間、
だんだんと駅前の街路樹の桜が
散り始めた。
季節はずれの雪は
もう降ることはなかった。
桜祭りが開催された公園も
出店がキッチンカーが2台あるくらいで
さほど混まなかった。
満開の時は寒くて、花見どころではない。
今年はそういう年なのだろう。
袖を通したばかりの
ブレザータイプの制服も
長袖でしっかりしたつくりだというのに
寒かった。
さらにセーターの他に上にジャケットを
羽織らないといけなかった。
異様な光景だった。
サラリーマンの男性が行き交う駅前で
クラリネットの入ったケースを持って、
綾瀬 桜は、佐藤佳穂を待っていた。
耳にワイヤレスイヤホンをつけて
好きな音楽を聴いていたが、
なかなか現れなかった。
ラインのメッセージを送っても
既読にならない。
何度もスマホを確認する。
この駅前じゃなかったのか。
目的地って
次の駅のコンサートホールでやるはずだ。
通話モードでかけてみた。
何コールしても出ない。
駅のホームで発車ベルが鳴り響く。
乗る予定だった電車が発車していく。
「あー…。
遅刻かなぁ。」
桜は、
スマホを何度も見て、
がっかりする。
既読にもならない。
電話にも出ない。
今日の演奏会出席できないかもしれないと
気持ちが焦ってきた。
どうしようとその場でしゃがみこんだ。
「綾瀬…さん?」
私服姿で現れたのは、漆島 雪だった。
グレーパーカーに黒っぽいセーター
黒いジーンズで、ラフな姿だった。
「あれ、漆島くん。
私服だね。」
「相方さんはいないの?」
「相方って…。」
「妹さん。」
「ああ、瑞希のこと?
双子でもいつでも一緒に
いるわけじゃないよ。
今日は、部活で演奏会の
予定だったんだけど、
待ち合わせ場所に友達来なくて…。
漆島くんは?」
「…そうなんだ。
え?俺?」
次々来る質問に
ドキドキする。
内心、いつもより
長く話せて喜んでいた。
「もしかして、デート?」
「え、違うよ。
ただの買い物。」
(本当は、金城と会う約束してたけど。)
「ええ、そう?
漆島くん、モテそうだもんね。
肌白いし。」
「肌白いのってモテんの?
関係なくない?」
「個人的な意見よ。
あ、ごめん、電話。」
桜は、スマホの着信に気づいた。
何となく、話をしたかった雪は、
桜のそばの自動販売機の近くで
ポケットに手を入れながら待っていた。
電話を終えた桜は、何も言えなくなって
頬に涙を流していた。
突然のことで信じられなかった。
雪は、顔を覗き込んだ。
顔を見られたくなかった桜は、
涙を拭って反対の方向を見た。
「どうした?」
「……ごめん。
目にゴミが。」
「いや、違うだろ。
明らかに泣いていたって。」
「……。」
「無理すんなって。
泣きたい時は泣くんだよ。」
雪は、自動販売機側に桜を寄せて、
自分の体で桜の顔を隠した。
通行人に泣いている姿を見せないように
必死で隠した。
桜は雪の言葉が響いて、
感動してさらに涙が止まらなくなった。
なるべく声に出さないよう、
雪のグレーパーカーに
顔を寄せて泣き続けた。
状況をなんとなく、察した雪は、
そのまま桜の顔を隠し続けた。
自分のスマホに着信が
ずっと鳴っていることを
絶対に桜には教えなかった。
ホームで発車ベルが鳴り続ける。
カラスが静かに空高く飛んで行く。
雲行きが怪しくなってきていた。
ほんの少し肌寒かった。
春になって2週間、
だんだんと駅前の街路樹の桜が
散り始めた。
季節はずれの雪は
もう降ることはなかった。
桜祭りが開催された公園も
出店がキッチンカーが2台あるくらいで
さほど混まなかった。
満開の時は寒くて、花見どころではない。
今年はそういう年なのだろう。
袖を通したばかりの
ブレザータイプの制服も
長袖でしっかりしたつくりだというのに
寒かった。
さらにセーターの他に上にジャケットを
羽織らないといけなかった。
異様な光景だった。
サラリーマンの男性が行き交う駅前で
クラリネットの入ったケースを持って、
綾瀬 桜は、佐藤佳穂を待っていた。
耳にワイヤレスイヤホンをつけて
好きな音楽を聴いていたが、
なかなか現れなかった。
ラインのメッセージを送っても
既読にならない。
何度もスマホを確認する。
この駅前じゃなかったのか。
目的地って
次の駅のコンサートホールでやるはずだ。
通話モードでかけてみた。
何コールしても出ない。
駅のホームで発車ベルが鳴り響く。
乗る予定だった電車が発車していく。
「あー…。
遅刻かなぁ。」
桜は、
スマホを何度も見て、
がっかりする。
既読にもならない。
電話にも出ない。
今日の演奏会出席できないかもしれないと
気持ちが焦ってきた。
どうしようとその場でしゃがみこんだ。
「綾瀬…さん?」
私服姿で現れたのは、漆島 雪だった。
グレーパーカーに黒っぽいセーター
黒いジーンズで、ラフな姿だった。
「あれ、漆島くん。
私服だね。」
「相方さんはいないの?」
「相方って…。」
「妹さん。」
「ああ、瑞希のこと?
双子でもいつでも一緒に
いるわけじゃないよ。
今日は、部活で演奏会の
予定だったんだけど、
待ち合わせ場所に友達来なくて…。
漆島くんは?」
「…そうなんだ。
え?俺?」
次々来る質問に
ドキドキする。
内心、いつもより
長く話せて喜んでいた。
「もしかして、デート?」
「え、違うよ。
ただの買い物。」
(本当は、金城と会う約束してたけど。)
「ええ、そう?
漆島くん、モテそうだもんね。
肌白いし。」
「肌白いのってモテんの?
関係なくない?」
「個人的な意見よ。
あ、ごめん、電話。」
桜は、スマホの着信に気づいた。
何となく、話をしたかった雪は、
桜のそばの自動販売機の近くで
ポケットに手を入れながら待っていた。
電話を終えた桜は、何も言えなくなって
頬に涙を流していた。
突然のことで信じられなかった。
雪は、顔を覗き込んだ。
顔を見られたくなかった桜は、
涙を拭って反対の方向を見た。
「どうした?」
「……ごめん。
目にゴミが。」
「いや、違うだろ。
明らかに泣いていたって。」
「……。」
「無理すんなって。
泣きたい時は泣くんだよ。」
雪は、自動販売機側に桜を寄せて、
自分の体で桜の顔を隠した。
通行人に泣いている姿を見せないように
必死で隠した。
桜は雪の言葉が響いて、
感動してさらに涙が止まらなくなった。
なるべく声に出さないよう、
雪のグレーパーカーに
顔を寄せて泣き続けた。
状況をなんとなく、察した雪は、
そのまま桜の顔を隠し続けた。
自分のスマホに着信が
ずっと鳴っていることを
絶対に桜には教えなかった。
ホームで発車ベルが鳴り続ける。
カラスが静かに空高く飛んで行く。
雲行きが怪しくなってきていた。
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