上 下
51 / 67

第51話

しおりを挟む
風邪を引いて体調が落ち着いた1週間後…
星矢は久しぶりに出勤した。

「おはようございます。
しばらくお休み頂きましてすいませんでした。
おかげさまで体調よくなりました。
こちら、少しばかりですが、
みなさんでぜひどうぞ。」

 星矢は、出勤してすぐに隣の席にいた田中に
従業員分の菓子折りを渡した。

「おはようございます。
工藤くん体調良くなってよかったですね。
お菓子ごちそうさまです。
シャトレーゼ!
私もこれ好きです。梨恵夢リエム
安いですけど、美味しくて
見た目高級ですもんね。
このさつまいも入りが1番好きなんですよ。」

田中はお菓子のパッケージを開いて、
商品をおすすめした。
田中は、全国展開している
無添加のお菓子で有名なシャトレーゼの
お菓子の袋をジロジロと見る。

「そうですよね。
僕も気に入っているんです。
安いのに高級感。
おもたせにちょうどいいなって思ってて。
気に入っていただけてよかったです。
この仕事の量ですもんね…。」

星矢は、自分のデスクの上に
重なったファイルの山をトントンと叩く。
無駄に背中に冷や汗をかいた。
田中はニヤニヤとして、不敵な笑みを浮かべる。

「そうねえ。工藤くんたくさん
仕事溜めておいたからね。
私が今度風邪ひこうかしら。」

「…そんな、いじわるな。
それって何かで訴え…。」

「嘘、嘘。来たくても来れなかったんだもんね。
溜まった仕事は私も手伝うから。ね。
お菓子だけでは埋まらないから、
飲みに行こうねえ。」

田中に肩をがっちりつかまれる。

「ははは…まさか僕のおごりですかね。」

「ははははは。」

田中はじーっと星矢の顔を笑いながら見る。

「あ、仕事、これは仕事しないと
残業になっちゃうな。早くしないと。」

田中の視線をごまかすように書類ファイルに触れて溜まった書類整理の仕事に取り掛かった。

「工藤くん…ごまかしたねぇ!」

「な、何のことですか?
あ、ごめんなさい。
コーヒー入れてなかったですね。
今入れまーす。」

給湯室へ駆け込む星矢は田中を避けた。
まさしく戦々恐々だ。
あまりにも仕事の休みの代償は
大きかったかもしれない。
残業と飲み会は免れないようだ。

大きくため息をついてコーヒーを入れる。

ポケットに入れていたスマホのバイブが鳴る。

合間を見て、ラインを確認すると
翔太からと颯人からのラインが
たくさん溜まっていた。


ラインの返事に追われて、
仕事もプライベートも忙しくなる星矢だった。


「あーーー、猫の手も借りたい!!!」


天を仰いだ。
休んだことにより、次々とやらなければいけないミッションが増える。


頭を掻きむしった。


仕事は必死にパタパタと動くし、
居酒屋で同僚田中の愚痴を聞くのに
延々と頷いてお酒を飲んで過ごした。

やることが多すぎて、あっという間に夜になる。

いろんな意味で充実した日になっていた。


家に着いた頃にはクタクタになって
体が鉛のようだった。


風呂にも入らず、リビングにある
ソファでぐったりだった。


スマホに着信履歴がたくさんあるのを
あまりにも疲れすぎて気づくのは翌朝に
なってからだった。


「え?もう朝?」


頭のてっぺんにチョンと寝癖が立った。
しばらくぼんやりと体が動かなかった。


外ではたくさんのすずめが飛び交っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒木くんと白崎くん

ハル*
BL
黒木くんは、男子にしてはちょっとだけ身長低めで、甘いもの好きなのに隠したがりなちょっと口が悪いのに面倒見がいい先輩。 白崎くんは、黒木くんより身長高めでキレー系の顔がコンプレックスの後輩。 中学1年の時に、委員会の先輩だった黒木くんが卒業する前に、白崎くんに残した言葉からうつむきがちだった生活が変わっていって…。 「先輩は何気ないつもりだったんでしょうけど、僕にとってはそれはまるで神様からの言葉みたいだったんです」 ノンケの先輩を好きになった、初恋が黒木先輩という白崎くん。 自分を意識してほしいけど、まるで子どもみたいなやり方でしか先輩の前に出られない。 …でも、男の僕が先輩を好きになってと望んでも、先輩を困らせたりしないかな。 女の子から意識されている先輩を見ていると、「僕の方が好きなのに!」とか、「僕の方が先に!」とか思う裏側で、「手をつなぎたいって言っても気持ち悪がられちゃうよね? だって、僕…男だし」って凹んでしまう。 それでもどんな形でもそばにいたい、黒木先輩のそばに…。 黒木くんのことを意識してから、追うように入学した高校で、ゆっくりと好きになってもらうための日々。 2歳差男子高校生二人の、卒業までの一年間のお話。 ※コンテストの関係で、なろうでも同作を連載開始しました。  こちらよりは更新ゆっくりめです。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...