上 下
42 / 67

第42話

しおりを挟む
星矢はいつの間にか颯人の流れに乗っかって、
上から下までのトータルコーディネートをすることになり、ファッションショーのごとく、楽しんでいた。

颯人は、星矢が自分色に染まることに優越感を味わっている。


すべて揃えると紙袋いっぱいに荷物が入った。
両手が塞がった颯人。星矢は申し訳ないと荷物を受け取ろうとするが、いいからと遠慮する。

「荷物は俺に任せなさい!
星矢の家まで持って行くから。」

「いや、もう。自分で持てるし。」

「細い体でもやしくんなんだから。
それに俺が無理やり買ったみたいだし。
俺のおごりだけど。」

「いやいやいや、尚更だよ。
買ってもらって、手ぶらっておかしいし。
颯人、僕持つから。」

そんなやりとりを、星矢の家の前外階段で
やっていると、翔太がこちらを見ていた。
玄関の前でずっと待っていたようだった。

「あ……翔太先輩。」

「星矢、知り合い?」

颯人が翔太を見て気になった。
ガッチリした体型の男性だった。
グレーのパーカーにデニムジーンズを
着ていた。
じゃれ合っていたノリが一瞬にして
冷めてしまった。
楽しくしていたのは颯人だけだったが。

星矢はそっと翔太に近づいた。

「先輩、ずっとここで待っていたんですか?」

「あ、ああ。ごめん。
突然に来たのは俺だから。
邪魔したよな…。」

立ち去ろうとする翔太を追いかける星矢。
砂利の音がやけに響く。

「あ、星矢。これ、忘れ物。」

ふと、振り返る翔太が星矢に渡す。
ブランド物のネクタイピンだった。
受け取った星矢はそれを見て、一瞬固まった。

「あ……。」

「んじゃぁ。また。」

「……。」

星矢は立ち去る翔太を追いかけられなかった。
隣に颯人がいることもある。
状況説明を長くしなくてはいけないことと、
翔太に彼女がいたことを聞きたくても聞けない。

「追いかけなくていいの?」

「……う、うん。大丈夫。」

 アパートの鍵を開けて、
 颯人を中に誘導した。
 たくさんのお店の紙袋を床に置いた。

 星矢は、翔太が近くに来てくれて
 嬉しいはずのなのに素直に対応できないと
 悔やんだ。
 颯人と一緒にいる時間を
 今は1番に考えないとという思いを
 優先した。

「コーヒー淹れるね。」

「あ、いいよ。
もう少ししたら、実家に行かなくちゃ
いけないから。」

「あ、そう?
ごめん、何もおもてなしできなくて…。」

「気にしないで。
突然の母親からの呼び出しでさ。
逆にごめん、さっき電話入ってたんだよ。」

「そっか。今日はありがとう。
買い物、楽しかった。
大事に着るね。」

「そっか。それはよかった。
それじゃぁ、また。」

颯人は、そう言って、
アパートを去って行った。


ふと、1人になって考える。
ものすごく、孤独感が大きくなった気がした。
星矢は一体どうしたいのかわからなくなる。
颯人と一緒にいたのに、翔太と一瞬会って、
翔太のことも気になった。

まだ遠くに行ってないだろうか。
スマホで確認しようか迷った。
でも、今更遅いのか。
彼女のいる翔太に連絡をとって、
自分の出る幕なんてないだろうと
マイナスに考えてしまう。

メッセージを送ろうとして
すぐに画面を消した。

ベッドに仰向けになり、腕で目を隠す。
こんなもやもやした自分が嫌いになる。

優柔不断な自分なんてどこかに行って
欲しいと願ってしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒木くんと白崎くん

ハル*
BL
黒木くんは、男子にしてはちょっとだけ身長低めで、甘いもの好きなのに隠したがりなちょっと口が悪いのに面倒見がいい先輩。 白崎くんは、黒木くんより身長高めでキレー系の顔がコンプレックスの後輩。 中学1年の時に、委員会の先輩だった黒木くんが卒業する前に、白崎くんに残した言葉からうつむきがちだった生活が変わっていって…。 「先輩は何気ないつもりだったんでしょうけど、僕にとってはそれはまるで神様からの言葉みたいだったんです」 ノンケの先輩を好きになった、初恋が黒木先輩という白崎くん。 自分を意識してほしいけど、まるで子どもみたいなやり方でしか先輩の前に出られない。 …でも、男の僕が先輩を好きになってと望んでも、先輩を困らせたりしないかな。 女の子から意識されている先輩を見ていると、「僕の方が好きなのに!」とか、「僕の方が先に!」とか思う裏側で、「手をつなぎたいって言っても気持ち悪がられちゃうよね? だって、僕…男だし」って凹んでしまう。 それでもどんな形でもそばにいたい、黒木先輩のそばに…。 黒木くんのことを意識してから、追うように入学した高校で、ゆっくりと好きになってもらうための日々。 2歳差男子高校生二人の、卒業までの一年間のお話。 ※コンテストの関係で、なろうでも同作を連載開始しました。  こちらよりは更新ゆっくりめです。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...