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第25話

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いつもと変わらない音楽室。
部員たちは個人練習に熱心になっていた。
窓際の席に1人ポツンと座る星矢に
翔子先輩が話しかけてきた。

「星矢くん、どうした?
 手が止まってるよ?」

 クラリネット担当の翔子先輩は、
 星矢の隣に座って、吹き始めた。


「翔子先輩。
 何だか意気消沈してました。 
 引っ越し作業に追われてて、
 疲れているというものもあるんですが、
 せっかく練習してるこのフルートも
 演奏会で披露できないですし…。」
 
 ふーっとため息をつきながら、 
 フルートをじっと見つめる。
 初心者から始めたフルート。
 半年でだいぶ上達した。
 ピアノはもともと弾けていたが、
 フルートまで吹けるようになるとは
 思っていなかった。

「そっか。誰かに聴かせたいのね。
 そしたら、今日演奏会ね。
 観客はいつも通りの人とプラス私。」

 翔子先輩は自分の顔に指差して
 笑顔で言った。

『いつも通りの人』とは、
 野球部キャプテンである
 翔太先輩のことだ。
 
「今日、演奏会?
 でもどこで?」

「いつも通りそのままの
 星矢くんでいいのよ。
 リラックスして
 吹いたほうがいい気がするわ。
 今、練習してるのは全部吹ける?」

「そうですね。
 全部は吹けるようになってますが、
 まだ自分のものにはなってません。
 宙ぶらりんというか…
 引っ越すってなってからこんな感じです」

「気持ちの置き場に困ってるのね。
 そしたら、翔太にラインしておくわ。」

「え?なんで、連絡するんですか。
 そんな、前もっていろいろ言ってたら
 いつものペースで吹けないですよ。
 緊張しちゃいます。」

「何を今更。
 ほとんど毎日聞いてもらってて?
 緊張するって無いでしょう。
 初めて会った人じゃないよ。」

「いや、その。
 翔子先輩ありきの演奏は
 初めてですよ。」

「いつも聴いてるよ?
 ここで。」

「あ、確かに…。」

「演奏会のつもりで吹いてみてね。
 翔太に連絡しておくから。
 DMで送られてきた案内みたいに。」

「あ、はい。
 んじゃ、頑張ってみます。」

「うん。頑張って。」

 翔子先輩はニヤニヤしながら、
 翔太先輩にラインしていた。

 まるでチラシで宣伝しているような
 文面だった。

 星矢は内心いつもより緊張していた。
 構えられると完璧にしないといけないと
 いう気持ちになる。
 
 自分にリラックスだと言い聞かせた。

 音楽室は楽器演奏で騒がしくなっていた。



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