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第19話
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朝の風が冷たかった。
なんとなく、今日は肌寂しい。
寒いだけじゃない。
この感覚はなんだろう。
翔太は、スマホをチェックをするが、
何の通知がないことにがっかりする。
バックを背負い直し、学校の昇降口に
入っていく。
生徒たちでごった返していた。
「おっす!
翔太、今日の調子はどうよ。」
野球部でバッテリーを組む
キャッチャーの八重城 豪が声をかけた。
「よ、豪。
ま、まぁまぁってところだな。
来週は試合だもんな。
気合い入れないと。」
「3年も、部活もうすぐ引退だろ。
何か野球ができなくなると思うと
寂しくなるよな。
あとは、恐怖の受験勉強か…。
塾通いが待ってるぜ。」
「豪、進学だったのか。
知らなかった。」
「おう、進学さ。
就職しても割に合わない仕事しか
ないだろう。
まぁ、俺の頭じゃ、あまり良い大学には
行けないだろうけどな。」
「そんなことないじゃないの?」
「いやいや、俺の英語力なめるなよ。
『This is the pen』
これだけが得意だからさ。」
「マジか。
というか、その例文もおかしいけどな。
普段使いで『これはペンです』って言う
機会なんて全然無いからな。
見ればわかるだろって話だけど…。」
「確かにな。」
「というか、それっておじさん英語じゃね?
今はそんな例文ないだろ。
いつの時代だよ。」
「俺のじいちゃんが言ってたんだよ。
受け売り。
面白いだろ。」
「笑いのためか。
いいなぁ、気楽で。」
「いいだろ、面白い方が。」
「まぁな。」
「んじゃ、放課後、部活でな。」
「おう。」
クラスが別だった豪は、手を振って、
突き当たりの廊下で別れた。
そこに翔子が声をかけてきた。
「あれ、おはよう。
翔太、今来たの。
珍しいね、こんなギリギリに。」
「ああ、まぁ、ちょっとね。
お前こそ、遅いだろ。
ギリギリじゃねぇの?」
「そうよ。
だから、小走りじゃないのよ。」
「俺も走ってるけどな。」
「それはそうと、
星矢くんから連絡あった?」
「え? あー、全然連絡してなかったな。
ラインしても既読してなくて…。
何かあったのか?」
「翔太には、何も言ってなかったんだね。」
「え?何の話?」
「連絡全然無いのって1週間経つ?」
「え、あ、ああ。まぁそんなとこだな。」
翔子は足をとめて、
翔太の目を見て言う。
「星矢くん、翔太に迷惑かけたくないって
思ってるのかも。
試合も近いし。」
「おい、もったいぶるなよ。
教えろって。」
「星矢くんのお母さんが倒れたの。
だから、
しばらく学校来れないんだって。」
「え?」
翔太は体が固まった。
全然そんな話一つも聞いてない。
心配させないようにという気持ちも
わからなくないが、メッセージを
無視することは無い気がする。
チャイムが鳴り響く。
「翔子には言えて、
俺には一言も話さないんだな。」
翔太は、星矢の行動にがっかりした。
悲しかった。
翔子の横を何も言わずに通り過ぎて、
教室に入っていく。
翔子は翔太に言わない方が良かったかなと
心中穏やかではなかった。
****
「母さんは本当に無理しすぎなんだよ。」
入院している母の病室にて、
星矢はベッドの横の椅子に
座りながら言う。
病院と家の行き来をして、
1週間は経っていた。
単身赴任の父になり代わり、
洗濯物の管理、家事全般、
病院との連絡を父に電話連絡していた。
遠くにいるため、
すぐには帰って来れないらしい。
まだ中学生の妹のことも気にかけないと
いけない。
今の星矢にとって、
日常がハードになっていた。
学校に行く余裕さえない。
「何か、ごめんね。
私が体が弱いばかりに。
また、お父さんに怒られちゃう。」
「無理な時は頼らないと。
家のことなら、俺と亜弥がやるって
いつも言ってるじゃんか。」
「うーん、そうだけどね。
あまり2人に頼りすぎるのもって
考えちゃうのよ。
私はいつもおばあちゃんに
助けられてたからさ。」
頬の痩せ方が尋常じゃなかった。
倒れてすぐは全然話すことも
できなかったが今は血色がいい。
弁当屋のパートで勤めている母は、
朝から晩まで忙しくしていた。
父は、単身赴任でほぼ兄妹を
1人で育てているようなものだった。
帰ってくるのは2ヶ月に1度くらいで、
今は、連絡してもすぐに
無理と断れている。
母が倒れているんだから
すぐにかけつければいいのにと
不満が募る。
「あ、そろそろ、
亜弥が帰ってくる時間だ。
行かないと。」
「そう?
ごめんね。ありがとう。
頼りにしてるよ、お兄ちゃん。」
急に肩にずっしりと重いものが
乗った気がした。
兄として、妹を母の代わりにしっかりと
見なれけばと思った。
星矢は病院を後にした。
息つく暇もなく、
スマホの画面を見ることもなく、
自転車で家まで必死で移動した。
病院から家までは、30分ほどかかる。
洗濯物の荷物を載せている。
家に着いて、真っ暗な近所に
ぼんやりと電灯が光っていた。
自転車を家のガレージにとめようとすると
誰かの声がした。
「星矢!」
塀の電柱のそばにいたのは、
翔太先輩だった。
「翔太先輩?!」
学校のことを忘れていた星矢にとって、
自宅と病院の行き来の世界から
解き放たれた気分だった。
空には雲からよけて月が光っていた。
なんとなく、今日は肌寂しい。
寒いだけじゃない。
この感覚はなんだろう。
翔太は、スマホをチェックをするが、
何の通知がないことにがっかりする。
バックを背負い直し、学校の昇降口に
入っていく。
生徒たちでごった返していた。
「おっす!
翔太、今日の調子はどうよ。」
野球部でバッテリーを組む
キャッチャーの八重城 豪が声をかけた。
「よ、豪。
ま、まぁまぁってところだな。
来週は試合だもんな。
気合い入れないと。」
「3年も、部活もうすぐ引退だろ。
何か野球ができなくなると思うと
寂しくなるよな。
あとは、恐怖の受験勉強か…。
塾通いが待ってるぜ。」
「豪、進学だったのか。
知らなかった。」
「おう、進学さ。
就職しても割に合わない仕事しか
ないだろう。
まぁ、俺の頭じゃ、あまり良い大学には
行けないだろうけどな。」
「そんなことないじゃないの?」
「いやいや、俺の英語力なめるなよ。
『This is the pen』
これだけが得意だからさ。」
「マジか。
というか、その例文もおかしいけどな。
普段使いで『これはペンです』って言う
機会なんて全然無いからな。
見ればわかるだろって話だけど…。」
「確かにな。」
「というか、それっておじさん英語じゃね?
今はそんな例文ないだろ。
いつの時代だよ。」
「俺のじいちゃんが言ってたんだよ。
受け売り。
面白いだろ。」
「笑いのためか。
いいなぁ、気楽で。」
「いいだろ、面白い方が。」
「まぁな。」
「んじゃ、放課後、部活でな。」
「おう。」
クラスが別だった豪は、手を振って、
突き当たりの廊下で別れた。
そこに翔子が声をかけてきた。
「あれ、おはよう。
翔太、今来たの。
珍しいね、こんなギリギリに。」
「ああ、まぁ、ちょっとね。
お前こそ、遅いだろ。
ギリギリじゃねぇの?」
「そうよ。
だから、小走りじゃないのよ。」
「俺も走ってるけどな。」
「それはそうと、
星矢くんから連絡あった?」
「え? あー、全然連絡してなかったな。
ラインしても既読してなくて…。
何かあったのか?」
「翔太には、何も言ってなかったんだね。」
「え?何の話?」
「連絡全然無いのって1週間経つ?」
「え、あ、ああ。まぁそんなとこだな。」
翔子は足をとめて、
翔太の目を見て言う。
「星矢くん、翔太に迷惑かけたくないって
思ってるのかも。
試合も近いし。」
「おい、もったいぶるなよ。
教えろって。」
「星矢くんのお母さんが倒れたの。
だから、
しばらく学校来れないんだって。」
「え?」
翔太は体が固まった。
全然そんな話一つも聞いてない。
心配させないようにという気持ちも
わからなくないが、メッセージを
無視することは無い気がする。
チャイムが鳴り響く。
「翔子には言えて、
俺には一言も話さないんだな。」
翔太は、星矢の行動にがっかりした。
悲しかった。
翔子の横を何も言わずに通り過ぎて、
教室に入っていく。
翔子は翔太に言わない方が良かったかなと
心中穏やかではなかった。
****
「母さんは本当に無理しすぎなんだよ。」
入院している母の病室にて、
星矢はベッドの横の椅子に
座りながら言う。
病院と家の行き来をして、
1週間は経っていた。
単身赴任の父になり代わり、
洗濯物の管理、家事全般、
病院との連絡を父に電話連絡していた。
遠くにいるため、
すぐには帰って来れないらしい。
まだ中学生の妹のことも気にかけないと
いけない。
今の星矢にとって、
日常がハードになっていた。
学校に行く余裕さえない。
「何か、ごめんね。
私が体が弱いばかりに。
また、お父さんに怒られちゃう。」
「無理な時は頼らないと。
家のことなら、俺と亜弥がやるって
いつも言ってるじゃんか。」
「うーん、そうだけどね。
あまり2人に頼りすぎるのもって
考えちゃうのよ。
私はいつもおばあちゃんに
助けられてたからさ。」
頬の痩せ方が尋常じゃなかった。
倒れてすぐは全然話すことも
できなかったが今は血色がいい。
弁当屋のパートで勤めている母は、
朝から晩まで忙しくしていた。
父は、単身赴任でほぼ兄妹を
1人で育てているようなものだった。
帰ってくるのは2ヶ月に1度くらいで、
今は、連絡してもすぐに
無理と断れている。
母が倒れているんだから
すぐにかけつければいいのにと
不満が募る。
「あ、そろそろ、
亜弥が帰ってくる時間だ。
行かないと。」
「そう?
ごめんね。ありがとう。
頼りにしてるよ、お兄ちゃん。」
急に肩にずっしりと重いものが
乗った気がした。
兄として、妹を母の代わりにしっかりと
見なれけばと思った。
星矢は病院を後にした。
息つく暇もなく、
スマホの画面を見ることもなく、
自転車で家まで必死で移動した。
病院から家までは、30分ほどかかる。
洗濯物の荷物を載せている。
家に着いて、真っ暗な近所に
ぼんやりと電灯が光っていた。
自転車を家のガレージにとめようとすると
誰かの声がした。
「星矢!」
塀の電柱のそばにいたのは、
翔太先輩だった。
「翔太先輩?!」
学校のことを忘れていた星矢にとって、
自宅と病院の行き来の世界から
解き放たれた気分だった。
空には雲からよけて月が光っていた。
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