上 下
19 / 67

第19話

しおりを挟む
朝の風が冷たかった。
なんとなく、今日は肌寂しい。
寒いだけじゃない。

この感覚はなんだろう。

翔太は、スマホをチェックをするが、
何の通知がないことにがっかりする。

バックを背負い直し、学校の昇降口に
入っていく。

生徒たちでごった返していた。

「おっす!
 翔太、今日の調子はどうよ。」

 野球部でバッテリーを組む
 キャッチャーの八重城 豪やえしろつよしが声をかけた。

「よ、豪。
 ま、まぁまぁってところだな。
 来週は試合だもんな。
 気合い入れないと。」

「3年も、部活もうすぐ引退だろ。
 何か野球ができなくなると思うと
 寂しくなるよな。
 あとは、恐怖の受験勉強か…。
 塾通いが待ってるぜ。」

「豪、進学だったのか。
 知らなかった。」

「おう、進学さ。
 就職しても割に合わない仕事しか
 ないだろう。
 まぁ、俺の頭じゃ、あまり良い大学には
 行けないだろうけどな。」

「そんなことないじゃないの?」

「いやいや、俺の英語力なめるなよ。
 『This is the pen』 
 これだけが得意だからさ。」

「マジか。
 というか、その例文もおかしいけどな。
 普段使いで『これはペンです』って言う
 機会なんて全然無いからな。
 見ればわかるだろって話だけど…。」

「確かにな。」

「というか、それっておじさん英語じゃね?
 今はそんな例文ないだろ。
 いつの時代だよ。」

「俺のじいちゃんが言ってたんだよ。
 受け売り。
 面白いだろ。」

「笑いのためか。
 いいなぁ、気楽で。」

「いいだろ、面白い方が。」

「まぁな。」

「んじゃ、放課後、部活でな。」

「おう。」

 クラスが別だった豪は、手を振って、
 突き当たりの廊下で別れた。

 そこに翔子が声をかけてきた。

「あれ、おはよう。
 翔太、今来たの。
 珍しいね、こんなギリギリに。」

「ああ、まぁ、ちょっとね。
 お前こそ、遅いだろ。
 ギリギリじゃねぇの?」

「そうよ。
 だから、小走りじゃないのよ。」

「俺も走ってるけどな。」

「それはそうと、
 星矢くんから連絡あった?」

「え? あー、全然連絡してなかったな。
 ラインしても既読してなくて…。
 何かあったのか?」

「翔太には、何も言ってなかったんだね。」

「え?何の話?」

「連絡全然無いのって1週間経つ?」

「え、あ、ああ。まぁそんなとこだな。」

 翔子は足をとめて、
 翔太の目を見て言う。

「星矢くん、翔太に迷惑かけたくないって
 思ってるのかも。
 試合も近いし。」

「おい、もったいぶるなよ。
 教えろって。」

「星矢くんのお母さんが倒れたの。
 だから、
 しばらく学校来れないんだって。」

「え?」

 翔太は体が固まった。
 全然そんな話一つも聞いてない。
 心配させないようにという気持ちも
 わからなくないが、メッセージを
 無視することは無い気がする。

 チャイムが鳴り響く。

「翔子には言えて、
 俺には一言も話さないんだな。」

 翔太は、星矢の行動にがっかりした。
 悲しかった。

 翔子の横を何も言わずに通り過ぎて、
 教室に入っていく。

 翔子は翔太に言わない方が良かったかなと
 心中穏やかではなかった。



****

 「母さんは本当に無理しすぎなんだよ。」

 入院している母の病室にて、
 星矢はベッドの横の椅子に
 座りながら言う。

 病院と家の行き来をして、
 1週間は経っていた。
 単身赴任の父になり代わり、
 洗濯物の管理、家事全般、
 病院との連絡を父に電話連絡していた。
 遠くにいるため、
 すぐには帰って来れないらしい。
 まだ中学生の妹のことも気にかけないと
 いけない。

 今の星矢にとって、
 日常がハードになっていた。
 学校に行く余裕さえない。

「何か、ごめんね。 
 私が体が弱いばかりに。
 また、お父さんに怒られちゃう。」

「無理な時は頼らないと。
 家のことなら、俺と亜弥がやるって
 いつも言ってるじゃんか。」

「うーん、そうだけどね。
 あまり2人に頼りすぎるのもって
 考えちゃうのよ。
 私はいつもおばあちゃんに
 助けられてたからさ。」

 頬の痩せ方が尋常じゃなかった。
 倒れてすぐは全然話すことも
 できなかったが今は血色がいい。

 弁当屋のパートで勤めている母は、
 朝から晩まで忙しくしていた。
 父は、単身赴任でほぼ兄妹を
 1人で育てているようなものだった。
 帰ってくるのは2ヶ月に1度くらいで、
 今は、連絡してもすぐに
 無理と断れている。
 母が倒れているんだから
 すぐにかけつければいいのにと
 不満が募る。

「あ、そろそろ、
 亜弥が帰ってくる時間だ。
 行かないと。」

「そう?
 ごめんね。ありがとう。
 頼りにしてるよ、お兄ちゃん。」

 急に肩にずっしりと重いものが
 乗った気がした。

 兄として、妹を母の代わりにしっかりと
 見なれけばと思った。

 星矢は病院を後にした。

 息つく暇もなく、
 スマホの画面を見ることもなく、 
 自転車で家まで必死で移動した。
 病院から家までは、30分ほどかかる。
 洗濯物の荷物を載せている。

 

 家に着いて、真っ暗な近所に
 ぼんやりと電灯が光っていた。

 自転車を家のガレージにとめようとすると
 誰かの声がした。


「星矢!」


 塀の電柱のそばにいたのは、
 翔太先輩だった。

「翔太先輩?!」


 学校のことを忘れていた星矢にとって、
 自宅と病院の行き来の世界から
 解き放たれた気分だった。


 空には雲からよけて月が光っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒木くんと白崎くん

ハル*
BL
黒木くんは、男子にしてはちょっとだけ身長低めで、甘いもの好きなのに隠したがりなちょっと口が悪いのに面倒見がいい先輩。 白崎くんは、黒木くんより身長高めでキレー系の顔がコンプレックスの後輩。 中学1年の時に、委員会の先輩だった黒木くんが卒業する前に、白崎くんに残した言葉からうつむきがちだった生活が変わっていって…。 「先輩は何気ないつもりだったんでしょうけど、僕にとってはそれはまるで神様からの言葉みたいだったんです」 ノンケの先輩を好きになった、初恋が黒木先輩という白崎くん。 自分を意識してほしいけど、まるで子どもみたいなやり方でしか先輩の前に出られない。 …でも、男の僕が先輩を好きになってと望んでも、先輩を困らせたりしないかな。 女の子から意識されている先輩を見ていると、「僕の方が好きなのに!」とか、「僕の方が先に!」とか思う裏側で、「手をつなぎたいって言っても気持ち悪がられちゃうよね? だって、僕…男だし」って凹んでしまう。 それでもどんな形でもそばにいたい、黒木先輩のそばに…。 黒木くんのことを意識してから、追うように入学した高校で、ゆっくりと好きになってもらうための日々。 2歳差男子高校生二人の、卒業までの一年間のお話。 ※コンテストの関係で、なろうでも同作を連載開始しました。  こちらよりは更新ゆっくりめです。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

処理中です...